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1.規制に守られていない VS 規制業種 ♯【専門能力が身につく】

❐キャリア―仕事軸『いい会社はどこにある?』

情報提供
ゼークト
ドイツ陸軍を再建した立役者として知られる軍人、ハンス・フォン・ゼークトが提唱。詳しくは、「『ポスト戦後』のキャリアモデル」 参照。

日本企業では、「総合職」という、日本独自の“何でも屋”採用が標準的であるため、会社任せにしていると自律的なキャリア設計が難しい。産業の突然死や急速なパラダイムシフト※による“キャリアショック”が発生すると、やり直しがきかなくなる。現在、もっとも危機に直面しているのは、EV化(と少し先に予想される自動運転化)でダウンサイジングが予想される、約546万人(日本自動車工業会による)もの自動車関連の働き手たちである。

Digest
  • 「キャリア・ショック」を想定せよ
  • 「やりがい」は主観、「キャリア」は客観
  • #【専門能力が身につく】
  • 1.規制に守られていない VS 規制業種
  • 規制業種で伸びるのは社内向けスキル
  • “競争忌避組”の会社選びに
  • 人材の市場価値が激減する規制業種

❐キャリア

「キャリア・ショック」を想定せよ

※パラダイム(paradigm)=特定の時代や分野において支配的な「物の見方や捉え方」。車=ガソリンを燃料として内燃機関のエンジンを動かして走らせる、というのが自動車業界誕生以来のパラダイムであった。EV時代にシフトすると、このエンジンが不要となり、電気エネルギーでモーターを回して動かす。同様に、1990年代からのインターネットの登場で、紙に情報を刷ることが前提だった新聞社はパラダイムが崩れ、発行部数は、ほとんどの新聞が、過去20年で半減した。日経新聞は307万部(2002年)→173万部(2022年6月)、公称800万部だった朝日新聞は434万部(2022年2月)で、日経は採用抑制など自然減でダウンサイジングしてきたが、朝日は人員削減が追い付かずに希望退職の募集を繰り返している。

特に、いわゆるトヨタピラミッドの下層で、ガソリンを動力とする内燃機関(エンジン)を開発・生産・販売している人たちなどは、最終的に、まるごと失業する※。

専門能力が身につく
『「いい会社」はどこにある?』元原稿連載一覧

EVは部品点数自体がガソリン車の半数以下になるため、全体としても、ざっくり半分が現在の仕事から別の仕事へのキャリア転換を求められそうだ。日本のメーカーは出遅れているため、テスラなど先行者に勝てない可能性が高い。

少なくとも投資家はそう評価しており、テスラのほうがトヨタよりも時価総額が2倍超も高いのが2022年夏の状況だ。明らかに内燃機関自動車業界は、丸ごと下り坂――がみえている。

※EUは2035年にガソリン・ディーゼル車の販売を禁止する。中国も2035年までに新車販売のすべてをEVなど新エネルギー車やハイブリッド車にする。最も厳しい米国カリフォルニア州は、2035年までにガソリン車だけでなくハイブリッド車の新車販売もすべて禁止する。先進国は2050年カーボンニュートラル目標に向けて規制を強めており、化石燃料まわりでは、それまで築いてきたスキルで食えなくなる「キャリアショック」の続出が予想される。

同様に、21世紀に入ってからの20年余りの間に、半導体、薄型テレビ、太陽光パネル、スマートフォンなど、様々な分野で日本のメーカーは世界シェアを落とし、撤退し、中国・台湾・韓国に追い抜かれた。一時は「亀山モデル」で有名になったシャープは、液晶TVパネル工場への投資競争で韓国企業(サムスン・LG)に競り負け、鴻海に買収されて中華系企業となった。

東芝の白物家電事業は中国・美的集団に売却された。事業売却は、その事業に所属する社員とセットなので、突然、勤務先企業が中華系になった。40代以降は自分のキャリアやスキルを生かした即戦力の転職しかできないため※、転職するにせよ、同業界の外資を回ることが多くなり、覚悟が必要だ。(※のびしろのない中年社員はポテンシャルでは採用されないため、技術力など目に見える実績が必要である)

日立製作所・三菱電機・NECの統合会社であるルネサスエレクトロニクスから韓国サムスン電子の研究開発部門に転職した40歳前後の社員を取材したことがある。勤務先はソウル近郊だ。「転職活動をした結果、『国内に残るならば半導体はやめるしかなく、半導体のキャリアを活かしたいなら日本を出るしかない』ということが分かりました。結局、日本を出ることに決め、社宅つきで、年収は1割アップの1千万円弱。採用面接は、役員クラスと日本のホテルの一室で1回面談しただけで内定でした」

2000年前後から、韓国・台湾の企業は半導体投資の手を緩めておらず、韓国政府も公金でバックアップした。「これは負けるなぁ、と思っていました」(同)※。ルネサスは人員削減を繰り返し、2012年(約7500人)、2013年(約3千人)、2014年(約2500人)、2019年(約1千人)と、年中行事に。この間、従業員数は連結で約5万人→約2万人へとスリム化した。2013年度は夏冬ともボーナスゼロで管理職(課長級以上)の約5割が、組合員(主任・係長級以下)に降格になったという。

無い袖は振れない。そうなったときに、自ら次の転職先を切り拓けるよう、「仕事を通じて汎用性の高い、市場価値を有する専門能力が身に付く」(❐キャリア-1)という基準で、会社や職種を選んでおく必要がある。

※同じ時期、経産省の官僚に話を聞くと「(政府が資金を投入している韓国企業と)フェアな勝負なんかしていないんだから勝てるわけないんです」と言っていて、予算取りしたい役人の発想としてはそうなるのはわかるが、官庁に民間投資のリスクを見通せるはずもなく、このあたりの政策は実に難しい。

「やりがい」は主観、「キャリア」は客観

「❐キャリア」と「❐やりがい」は重なる点が多い。自分の仕事内容を選択できて、若い段階から権限責任を与えられるならば、当然、専門能力も身につきやすいし、キャリアパスの選択肢も増え、自由度も上がっていくからだ。最大の違いは、キャリアのほうに「市場価値」という客観的な視点が入ってくることにある。両者の違いは、やりがいが主観なのに対し、キャリアは客観、という点にある。

必ずしも、「好きこそものの上手なれ」となるほど世の中は甘くない。

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「在籍10年以上社員の比率」と「平均年間賃金」の相関

平均年間賃金過去25年推移(米ドル)

給料の実力と虚飾の分解図

経済的規制度合い。❐やりがい#【年齢に関係なく仕事を任される】4.「所属業界の規制が少ない」より再掲

資格の難易度と社会的ニーズ

新聞・通信社の従業員数と記者数の推移

中学校でICTを活用する割合

市場価値の高い能力が身に付きやすい環境とは

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