空自「セクハラ"被害者いじめ"10年」の陰湿に国賠訴訟で猛反撃――もみ消し、加害者支援、悪評ばらまき、昇任遅らせる
毎日のようにセクハラ発言を浴びたことを告発した女性自衛官に対して、昇任を遅らせたり、実名入りの資料を基地中に配布するなどの「報復」がなされた疑いが持たれている航空自衛隊那覇基地。 |
「胸あるのか」「お前チンコついているだろ」。毎日のように職場で年配の男性隊員からセクハラ発言を浴びせられた航空自衛隊の女性隊員が上司に被害を申告したところ、もみ消しをはかられたばかりか、組織ぐるみで報復される。そんな事件が発覚した。▽被害者である女性の実名を書いた資料を配布して噂の餌食にする。▽セクハラを裏付ける上司の調書を民事裁判で証拠提出したことに難癖をつけ、個人情報保護法違反だとして刑事処分を科そうと企てる。▽刑事事件化作戦が不起訴になって失敗すると、内規違反だとして訓戒処分をする。▽成績優秀なのになかなか昇任させない。▽「厄介者」扱いする――。女性は今年2月、加害者だけの問題ではないとして、国を相手どった国賠訴訟を東京地裁に起こした。一連の事件から浮かぶのは、自浄能力を決定的に欠いた文字どおり「絶望の自衛隊」だ。
- Digest
-
- 屈辱の面談
- モノいえぬ職場
- 立ち消えになった調査
- 我慢の限界
- 加害者を提訴すると「反撃」が激化
- 「ちん毛」ではない「ちり毛」と言った?
- 「セクハラ発言」事実認定した判決も軽視
- ひな型「陳述書」の信用性を否定
- 陳述書ひな型問題
- あらぬ犯罪容疑に、不当な処分・・・
陸上自衛隊では女性隊員へのセクハラが複数表面化し、停職処分や懲戒免職となっているが、本件の舞台は航空自衛隊である。体質は同じだ。
屈辱の面談
国を相手に国賠訴訟を起こしている現職空曹のAさん。 |
「判決もセクハラがあったとは書いていないじゃない? 上司はそう言って書類を机に叩きつけました。屈辱的でした」
6月8日、東京地裁の司法記者クラブの記者団を前に現職3等空曹の女性Aさんは声を震わせて言った。職場でのセクハラを訴え出たところ、放置・隠蔽されたばかりか、厄介者扱いされた上に不当な処分を受けるなど、長年にわたる「セクハラ被害者いじめ」によって多大な苦痛を受けたとして、国(防衛省)を相手どり1170万円の損害賠償を求める国家賠償請求訴訟を起こしている(岡田尚弁護団長)。冒頭はその第1回口頭弁論のあとの記者会見での様子である。なおAさんの発言にある「判決」の意味については後述する。
Aさんが一般曹候補生として航空自衛隊に入隊したのは2010年3月のことだった。実家を経済的に支える必要があったのと、得意な英語を活かした仕事がしたかったというのが志望動機だ。
●自衛隊の入隊制度
※〈自衛官の階級と採用枠〉
自衛官の階級は、下から順に、2士、1士、士長、3曹、2曹、1曹、曹長、准尉、3尉、2尉、1尉、3佐、2佐、1佐、将補、将――の16種類ある。士長までが任期制、3曹以上が定年制だ。3尉より上が幹部自衛官。
採用は大きくわけて、①一般隊員(3ヶ月間の自衛官候補生を経て2士任官)、②曹候補、③幹部候補――の3種類ある。
①の一般隊員で採用されると、2士という最も低い階級からはじまり、2〜3年の任期を更新しながら7〜8年で満期となる。満期後も自衛官を続けたい場合は3曹の試験を受けて昇任する必要がある。
②の一般曹候補も2士からはじまるが、一般隊員採用よりも昇任が早く、一般的に4年程度で3曹昇任が予定されている。
③の幹部候補は指揮官専門のコースで、陸海空の各幹部候補生学校(陸=久留米市、海=呉市、空=奈良市)や防衛大学校(横須賀市)を出て3尉からのスタートになる。
半年間の教育隊を経て那覇基地の某部隊の乙班※に配属される。着任直後の2010年9月中旬の某日、Aさんは先輩隊員に伴われて職場周りを挨拶にまわった。隣の甲班※も訪ね、10数人いる班員に向かって先輩が紹介した。
「新しく配属されたAです…」
甲班係長の男性1曹のK(当時40歳半ば)がAさんの姿を見るややおら尋ねた。
「お前、年いくつだ」
「2●※※です」
Aさんが答えると、不躾にK1曹が続けた。
「だろうな。18には見えねえようだから聞いたんだ」
Aさんは乙班、Kは甲班で、直属の上司ではない。だがKの口ぶりや態度は「お前らより上位だ」と言わんばかりだった。そしてAさんは、こういうことなのかと合点がいった。
「多少のセクハラは覚悟しろ」
教育隊でそう忠告を受けていたからだ。
(注)※、※※ 職場で本人が特定され嫌がらせ等の不利益を受けるおそれがあるため、職場名と年齢を伏せた。
モノいえぬ職場
Aさんが乙班で担当した仕事のひとつに、毎日甲班に行って書類の処理をするというものがあった。それほど時間を要するものではなかったが、甲班の部屋に入るたびにK1曹のセクハラ発言を浴びねばならかった。
「ごっつい、でかい。男みたいだ」
K1曹はAさんの体つきのことをしつこく言った。日に、すくないときで2回、多いときは5回を数えた。声は大きく、乙班にいる全員に聞こえた。周りの若い隊員が調子を合わせて笑うこともあった。Aはさんは、不快を我慢しながら適当にやりすごしていた。
やがて、K1曹長Aさんの体の性的な部分について発言するようになった。
「お前、おっぱいねえな」
「尻でっかいな」
「見た目がそのまま。女子プロでもいけるよ」
1回いった言葉を何度も繰り返すのがKのクセだった。
ある夏には、「リバーシブル」というあだ名をつけられ、何度も繰り返された。
「Aさんは、Tシャツ着ているとちゃんとオッパイついてるんだな。でも上着着たら男だよ。お前リバーシブルなんだな」
唐突に「お前、本当はチンコついているんだろう」と言われたこともある。
他の女性隊員もK1曹のセクハラ発言の被害に遭っており、その狼藉ぶりは誰もが知っていた。だが抗議したり注意する者はいない。甲班の係長であるK1曹の機嫌を損ねれば仕事がやりづらくなる。それを恐れている様子だった。
この先は会員限定です。
会員の方は下記よりログインいただくとお読みいただけます。
ログインすると画像が拡大可能です。
- ・本文文字数:残り9,141字/全文11,090字
航空自衛隊那覇基地。営内(基地内の隊舎)で生活している隊員の自由は大きく制限されている。
那覇地裁で争われた民事裁判にK1曹から証拠提出された部下や上司らの陳述書の「ひな型」(訴訟記録をもとに筆者が作成)。「私は、Kさんに近い場所で勤務をしていましたが、KさんがAさんに対して、Aさんの主張するセクハラ発言やそのような行動について、見聞きしたことはありません」と、セクハラ発言の存在を否定する文章があらかじめ記載されている。那覇基地の法務幹部の関与が疑われている。
那覇地裁・福岡高裁那覇支部。AさんがK1曹を訴えた裁判で、セクハラ被害についてはほぼすべて事実認定した。
航空自衛隊那覇基地の施設。
国賠訴訟の状況について報告するAさんの弁護団。
Twitterコメント
はてなブックマークコメント
facebookコメント
読者コメント
※. コメントは会員ユーザのみ受け付けております。記者からの追加情報
本企画趣旨に賛同いただき、取材協力いただけるかたは、こちらよりご連絡下さい(永久会員ID進呈)
新着記事のEメールお知らせはこちらよりご登録ください。