東京エレクトン、半導体バブル&〝黒船〟TSMCで脱JTC 「平均年収1536万円」「駐車場は外車ばかり」…
それでも「外資に給料で追いつくのが精一杯」な実情
東京エレクトロンの入館カード(社員証) |
直近5年間、国内で計1560人も中途採用している半導体製造装置大手の東京エレクトロン。生成AIやEVで需要の伸びが期待される半導体バブルを追い風に、新卒(5年で計1173人採用)の1.3倍にあたる人数となり、もはや採用の入り口は中途中心になった。「たとえば日系ITベンダーや物流会社から転職するとだいたい年収2倍になるそうです。自分も、この会社に転職して年収が約300万円あがり、その点で不満はないのですが、報酬水準以外の面が、まだまだこれから、な会社だと感じています」――。中途入社した現役社員に、内側から見た同社の実情と課題を聞いた。
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- 〝黒船〟が変えた報酬体系
- 賞与の計算式がブラックボックス
- 10年で7割アップ!半導体市況次第な年収
- 総合職は係長クラスでも年収1400万円
- 平均1536万円の総合職年収
- Lv.10からストックオプション付与
- 個人評価8割がた「期待どおり」
- 合併交渉を機に2017年から報酬制度グローバル化
- 採用バブルで50代も年2桁採用
- 弱いトップダウン&ドライな個人主義
- 未整備な仕組み化、自律的キャリア形成に難
- 海外チャンス、異常に低い離職率
- 今どき自社の保養所を竣工してしまう
- 府中の駐車場は外車ばかり
- 管理職の97%超が男性のザ・JTC
- 「ヘンな会社だね」――やりがい、キャリアに課題
- 米中対立、台湾有事、トランプ政権リスク…
〝黒船〟が変えた報酬体系
30年間も上がらない日本人の給与水準を引き上げるモデルケースが、東京エレクトロンだ。平均年収は有報ベースで1272万円(2036人、43.7歳、2024年3月期)と、ソニーグループ(1113万円)よりも高く、総合職のみの平均年収を「1536万円」と開示するなど、高給企業を積極アピール。河合利樹社長は「2029年度まで、グローバルで毎年2千人ずつ採用する」と積極採用を宣言している。
グローバルで2千人採用を続ける宣言(2024年5月10日決算説明会資料) |
連結17,702人(2024年3月)なので1割超の新しい社員を毎年、迎えることになるが、その約半数は、国内からだ。新卒400人採用(2025年入社)を公表し、中途採用を前年度(2023年3月期実績は580人)並みに達成できれば、年間で計1千人規模の大台に乗る。
■給与アップのメカニズム=給料の高い大企業(1st層)が大量採用で優秀な人材を他社から引き抜く→引き抜かれた他社(2nd層)は、穴埋めのため中小企業(3rd層)から高い給与で引き抜く→他社(2nd&3rd)も人材を引き留めるため給与水準を上げざるを得なくなる→溜め込まれた巨額の内部留保が人件費に回り、日本人全体の給与水準が引き上げられる——これは、低賃金のまま人材を囲い込んでおきたい経団連が、もっとも恐れている「賃金アップの好循環」である。経団連を忖度する日本政府は、転職すると損をする昭和の各種制度(退職金や年金における勤続年数による差別)を合法とすることで、賃金アップを阻む政策を続けている。
東証の時価総額トップ10常連となった東京エレクであるが、工場向け機器製造というBtoB業態であることから、知名度は低い。新卒400人採用の武器となるのは、どの大企業と比べても遜色のない賃金水準である。
初任給8万円上げ(2023年12月31日、日経)は事実だが、年収を左右するのは「営利連動ボーナス」のほうである。 |
同社は2024年4月入社の新卒から、グループ全体で、総合職の初任給を約8万円引き上げ、学卒で29万円(地域手当含む)、院卒で30万8千円以上、とした。
「熊本のTSMC (=JASM熊本工場)の採用条件をみて、見た目の初任給を引き上げたんです。現地で、九大卒などの技術者を採れなくなりますから。人件費総額は変えず、これまでボーナス分に充てていた分を固定の月給に移すことで、見た目が高くなるように変えました。基本給は一度増やしたら減らしにくいものですが、十分に、払い続けられるだけの体力がついた、という判断だと思います」(中堅社員、以下同)
100%資本を共有する国内5社は共通の人事制度 |
人事処遇制度自体は7年前から、国内のグループ5社(本体と国内の100%子会社4つ)共通化しており、基本給の額も同じ。そのうちの1社が、TSMCと同じ熊本の地にある、東京エレクトロン九州だった。
確かに、いきなり院卒24歳の時点で、最低保証額から月収8万円も差があったら、九大卒で地元志向の強い技術者は、『とりあえず世界最大手のTSMC行っとくか』となることは、容易に想像がつく。ボーナスが出るという制度上の保証はないからだ。
TSMCという〝黒船〟がなければ、新卒で月収23万円から始まる昔ながらのJTC(Japanese Traditional Company)の基本賃金モデルは、変わらなかった。年収に占める基本給比率が上がったことで、単に年収が高いだけでなく、安定度も増したことになる。(→昨年、三菱商事でも同様に待遇の固定部分引き上げがあった)
2社の初任給(上:TSMC、下:東京エレク) |
東京エレクトロン九州とJASM熊本工場(TSMC)は、車で5分の距離しか離れていない。東京エレクはこの敷地内に、2024年秋の竣工予定で、建設費300億円を投じて開発棟を新設。JASMも、第一工場と同じ菊陽町内に第二工場を増設することを発表。総投資額(第一+第二)は約3兆円にのぼり、うち1兆2千億円を日本政府が助成するというケタ違いの規模となっており、熊本県菊陽町一帯が官製バブルに沸いている。
TSMCの熊本進出:2024年2月、半導体の受託生産で世界最大手、台湾のTSMC子会社が、熊本県菊陽町に第一工場を建設した。このTSMC子会社が、JASM(Japan Advanced Semiconductor Manufacturing)である。JASMには、ソニーセミコンダクタソリューションズとデンソーが少数株主として出資。生成AIに不可欠なデータセンターや、EV(電気自動車)での半導体の需要拡大が見込まれること、米中対立によるデカップリング(経済分断)進行で経済安保の点から国産体制が求められることから、日本政府が第一工場に4760億円、第二工場に7320億円を補助している。
賞与の計算式がブラックボックス
この人事処遇制度の修正後(2023年夏)も、東京エレク社員の年収にインパクトがあるのは、引き続き「連結営業利益」なのだという。旧制度では、業績連動ボーナスの比重が今より高く、2022年3月期と2023年3月期は、連結営業利益が過去最高レベルだった(以下参照)ため、平均年収も過去最高を更新。2023年3月期は1398万円(平均43.6歳)にもなっている。
「新制度には、2023年7月から移行しました。具体的には、半年ごとの連結営業利益に、ボーナスが連動する仕組みです。
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東京エレクトロンのキャリアパスと報酬水準
半導体製造装置で、同じく総合職の平均年収1536万円を開示するディスコの院卒年収分布。フェアな情報開示姿勢が圧倒的に優れており、求職者は入社前後のギャップを少なくすることができる。
制度上は複線型キャリアパスになっている
16BOX評価だが、8割がたSC(サクセスフル)がつくありがちな結果
売上の8割超が海外
国内採用数推移(新卒、中途)
2021年、あえて新設した保養所「松島クラブ」
ニセコリゾートのラウンジ(同社公式サイトより)
東京エレクは、東証時価総額ランキングトップ10の常連(2024年7月時点)
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