2.希望退職・追い出し部屋 VS PIP解雇 ♯【雇用安定性にギャップがなく納得性が高い】
❐雇用―対価軸『いい会社はどこにある?』
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人員削減実施における日本企業と外資の違い |
求職者が知っておくべきなのは、《雇用維持の代償として何が起きるのか》である。日本の法律では、合法的に解雇できるのは「60歳またはそれ以上の年齢で定めた定年」だけ。定年を59歳以下に定めるのは、違法だ。※ところが、業績が悪化して余剰人員が発生したり、個人のスキル成長が止まって最先端の仕事をこなせない人材も当然、出てくる。それらミスマッチな社員も含め、かつての共産主義国のごとく全員を60歳まで雇って約40年にわたって給料を払い続けるのは、移り変わりの激しい市場経済のなかでは至難の業である。そこで、様々な対応策が生まれた。
- Digest
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- 終わっていない終身雇用
- 倒産、事業売却、会社ごと外資に売却…雇用の不安定化
- 40代後半「手取り3千万円」の希望退職
- 「50歳手取り6500万円」でも大半は辞められない
- ヤクザ研修、追い出し部屋、降格…グレーゾーンでの挑戦
- 「PIP」という制度化された解雇プログラム
- 解雇はしない「説教部屋」方式
- 「生成AI」投資のためのレイオフを断行
- 残っても最低評価で基本給が下がり続ける
(以下2025年追記)
終わっていない終身雇用
※高年齢者雇用安定法第8条により、60歳未満の定年禁止。事業主が定年を定める場合は、その定年年齢は60歳以上としなければならない。同9条により、定年を65歳未満に定めている事業主は、以下のいずれかの措置を講じなければならない。① 65歳までの定年引き上げ ② 定年制の廃止 ③ 65歳までの継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度)の導入。現在、ほとんどの企業は③(再雇用で1年更新の契約社員)を選択しているが、年収は高くても新卒社員程度に下がるのが普通で(6~7割減)、週3勤務などフルタイムではないポジションも多い。
原則としては、終身雇用は終わっていない。この20年あまりで、かつて雇用が安定していた大企業が希望退職者を募集しはじめ、対象者(おおむね40歳以上)全員と面談をして、応募しないと閑職に追いやったり関連会社へ出向に――といった退職促進策は、普通になった。※
だが、応募しなければ定年まで居座れるし、業績が普通以上を維持できる会社や、規制に守られた会社、そしてもちろん官公庁・自治体・特殊法人は、終身雇用のままであり、これは30年前と何ら変わっていない。
※朝日新聞社は2000年代に入ってから定期的に100~200人ほどの希望退職を募集している。対象は40歳以上または45歳以上で、割増条件として、退職前の月収の約4割を10年間、毎月支給し続けるという特殊なプログラムに特徴がある。朝日の40代は年収1200万円台なので、年およそ500万円×10年=計5千万円が、働かずとも支給される。おそらく世界中の新聞社で、業績が悪化するなか、このような支払い方法をとる会社は、不動産収入が安定している朝日だけである。直近では2021年は約110名が早期退職した。2022年9月にも、200人規模を募集。
メガバンクの社員を取材すると、希望退職は募集せず出向・転籍で人件費をカットしていく手法が、20年以上前と何ら変わっていなかった。出世はできないかもしれないが、雇用は今のところ定年まで大丈夫だ――と皆が言う。三菱UFJ銀行は、《40才の時点で病気などせず普通に頑張っていれば8割の人が到達できているレンジ》で言うと、額面年収1100~1400万円で、出世頭が1500万円を超える。
40代半ばから、出世組が支店長や本部の次長になり、“出世競争から降りた組”は、本部の“リストラ待機部門”、たとえばコールセンターや各種事務処理センター、支店サポート業務系へと異動していくという。「それらの部署は、社員の平均年齢が明らかに高くて、職場に20~30代が1人もおらず、オフィスの場所も歴史の古いビルが多いです」(中堅BS職※ビジネススペシャリスト=事務を中心に担当する、いわゆる一般職採用の社員のこと)
そこから、子会社や関係会社へと出向、さらに転籍し、50歳前後に本体から去り始める。これは官僚機構と同じ人事処遇で、雇用は維持される※。
「自分がいる部署の総合職は40代半ば~50代ばかりで、人事に呼び出され、頻繁に異動先の話し合いをしています。合意するまで、何度も何度も人事面接に臨み、なかなか行先が見つからないと、そのまま居座る。
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電通の「特別早期退職制度」(2016年12月退職分)。50~55歳が辞め時ということになる(社内資料より)
第3章対価軸の構成(本稿は単行本『いい会社はどこにある?』の元原稿《一部アップデート最新版》です)
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