まずは、営業へのIT導入から。「会ってもいないのに、たくさんの人数に会ったことにした人が表彰されたり、おかしなことが起きたんです。正直者がバカを見る世界になり、現場は混乱しました。セールスフォースは、癌でした」（元社員、以下同）

営業先はドクター中心、師長に嫌われてもいけない

セールスフォースとは、クラウドベースで顧客管理や営業支援（SFA＝Sales Force Automation）を行う、営業支援ツールだ。本来、営業職の仕事がラクにならなければ導入の意味がない。現場では、何が起きたのか。

「真面目すぎる人ほど悩むという、おかしな現象が発生したんです」と振り返る元社員

「7～8年前にセールスフォースが導入されて、マネージャーは、部下を管理しやすくなったと思います。現場のプレイヤーは、『1日20人に会わなきゃダメだ、うち、教授など幹部クラスに1日5人以上会え』と言われ、会った回数がランキング集計されて、上位が表彰されるようになりました。そうなると、みんなノルマを達成するために、作り話をするようになったんです」

まずは、前提となる同社の営業プロセスの実態を解説する。

J＆J営業の舞台は、7～8割が病院内である。医局やオペ室でドクターに会って、手術用の糸や縫合器といった新製品を紹介する。ランチを兼ねて説明会を病院内で開き、デモで新機能を知ってもらい、サンプルを提供する。オペに立ち会って、製品を使ってもらう。その結果、「使うよ」と言われたら、商談成立。価格の話はしないのが普通だ。物流と金流は、間に入っている販売代理店（卸会社）が担う。

その後のプロセスは、ドクターから「師長に言っておいて」と言われたら、看護師長に品番を伝えると、師長が病院の購買部門に発注手続きを指示してくれる。すると、「SPD」にブツが納品される。SPDは、医療系の卸会社（J＆Jと販売代理店契約を結んでいる）が運営している。

「看護師長が手術用品の発注作業を実態として担っていることも多いので、師長に嫌われると仕事がやりにくくなります」

この商談が円滑に進むように、定期的に様々な便宜供与を、合法の範囲内で、ドクターや看護師に対して行い、外堀を埋めておく