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ジョンソン&ジョンソン クレドはどこへ行った?「みんな忘れちゃう」〝ビジョナリー・カンパニー〟営業職の1日

情報提供
2本目の1枚目用
「クレドは最初だけ。途中で、みんな忘れちゃう」(元社員)

J&Jも選定された『ビジョナリー・カンパニー』18社の分析では、その特徴として「カルト的な文化」を挙げている。J&Jの場合、それはどのくらい強烈で、その浸透度合いは、極東の島国にまで至っているのか。昨今のベビーパウダーへのアスベスト混入問題に対する姿勢はずさんで、「製品を使うすべての人々」への責任が第一と宣言した同社の「クレド」(我が信条)は崩壊した。最近まで数十年にわたり勤務した社員に、その企業カルチャーの実情と、それを踏まえた1日の流れや生活面についてじっくり聞いた。

Digest
  • ビジョナリーカンパニーはカルト的な文化を持つ
  • アワードの熱狂と報奨旅行
  • 営業は結局、バリューより数字
  • 「残業年240時間以内、有休消化70%以上」のガイドライン
  • プリウスで直行直帰、無駄のない1日の流れ
  • 『で、どうします?』数字が悪いと何が起きるのか
  • 女尊&女尊

ビジョナリーカンパニーはカルト的な文化を持つ

「ビジョナリー・カンパニーは、比較対象の企業よりも、従業員に基本理念を徹底して教化し、理念を中心に、カルトに近いほど強力な文化を生み出す」。具体的には、「カルトと共通した点が以下の四つあることがわかった。 ・理念への熱狂 ・教化への努力 ・同質性の追求 ・エリート主義」(『ビジョナリー・カンパニー』より)

J&Jの社名は、1886年に創業した3兄弟の姓が由来だ。創業者ロバートWジョンソンは、J&J設立当初から「痛みと病気を軽くする」という目的意識を明確に持っていたとされる。

わが信条(クレド)
優先順位付けを明確に行った点が優れているクレド(我が信条)。第一に製品を使うすべての人々(ユーザー)。第二が労働者。株主は第五にして最後である。このクレドで、逆にヘルスケアの時価総額トップを張って来た点に、資本主義の救いがある。

それを、クレド(我が信条)として1943年に明文化したのが3代目社長のR・W・ジョンソン・ジュニアであった。右記が全文である(同書より)。

クレドが有名になったのは、優先順位を明確にしている点が、高く評価されたからだ。当り前の常識的内容のポエムを並列で羅列しただけの、大半のJTC信条との違いはそこにある。

クレドでは、①顧客②従業員③地域社会④株主の順に責任を果たすことを明記。特に有名な事例は、1982年のタイレノール事件での迅速な製品回収と情報公開で、顧客の安全を最優先する姿勢を示し、信頼とブランド価値を守ったとされる。この事件をめぐるクレドに基づいた対応は、社内研修でもよく言及されているという。

■ベビーパウダーの発がん性訴訟

近年では、J&Jのベビーパウダー原料へのアスベスト混入による発がん性をめぐって、15年前から訴訟が続発。巨額の賠償額が命じられてきた。2025年10月には、単独で最大規模となる、約9億6600万ドル(約1470億円)の支払いがJ&Jに命じられた。これまで30億ドル強を和解金として拠出したが、なお7万件余りの訴訟を抱えているというから、被害者にとってもJ&J株主にとっても社会にとっても、深刻な問題である。

日本でも同様の成分(タルク)が使用されてきたため、全国労働安全衛生センター連絡会議が質問しているが、情報開示はまったく不十分であり、「第一に、製品を使うすべての人々に対して責任を負う」と宣言した同社クレド(我が信条)にもとづく対応が行われているとは、到底いいがたい。

北米では販売中止に追い込まれたが、日本を含むそれ以外の地域では販売を何ごともなかったかのように継続しており、安全性が確認されるまで一時販売を停止、すらしない。情報開示もない。迅速な製品回収と情報公開を行ったとされるタイレノール事件(1982年)への対応とは、天と地ほども異なっている。

筆者も問合せてみたが、コールセンターに上記と同じ対応をされただけで、第三者調査を含め、何ひとつ情報開示する姿勢を見せておらず、人命軽視・目先の利益再優先の姿勢が感じられた。米国で1兆円超の和解金を積むほど深刻な問題に発展していながら、まるで他人ごとなのである。クレドを作った3代目社長は泣いているだろう。

アマゾン等でいまだ日本で販売されているタルク入りベビーパウダー

原料のタルク自体は世界共通の同じ成分なので、北米とは異なるというならば、産地や生成プロセスや生産工場が異なることを示す具体的な情報開示が必須となるわけだが、これらをごまかし続けており、人命軽視の姿勢と、ことなかれ主義の大企業病が姿を現している。北米のみ対応している点からは、人種差別意識すら感じられる。2023年以降、日本で販売されている製品は、原料がコーンスターチに切り替わりつつあるが、いまだにタルク製品も堂々と販売中で、安全とはいいがたい(右記画像は12月8日現在の製品)。

「事業部が異なるというのもありますが、口止めされているわけでもなく、社員も一般消費者以上のことは、何も知りません。本当に情報が来ていないんです」(元社員)

少なくとも、ベビーパウダーアスベスト問題をめぐる対応は、クレドに基づいた行動には見えない。懲罰的罰金が重く課される北米だけ販売停止し、企業に甘いその他の途上国や日本では販売継続。グローバルで販売停止すると株主利益に直結するので、製品利用者の利益よりも、目の前の株主利益を優先する意志決定を行っている。

アワードの熱狂と報奨旅行

「クレドについては、最初に研修で覚えましたが、途中で、みんな忘れちゃう。その程度のものです。定期的に研修をやるとかもない。ただ、ボランティア活動が好きな人には、向いてる会社だと思います。会社が主催するボランティアは社内で募集がかかりますし、希望者が積極的にやっているのは確か」(元社員、以下同)

ボランティア活動への参加促進
J&J日本法人グループの社会貢献レポートより

これは、クレドで「社会への責任」を、「株主への責任」よりも上位に位置付けていることの実践である。同社の社会貢献レポート(右記)には、以下のように記されている。

「我が信条(Our Credo)」に記された第三の責任のもと、より良い社会を目指すとともに、〝良き市民〟として、誰もが健やかな毎日を過ごせる社会の実現を目的に活動を行っています。

J&Jのクレドは、ユニクロやキーエンスのように、理念を一言一句を暗記するまで新人研修で徹底的に叩き込まれるものではない。京セラやニデックのように、教本が1冊あって、毎月のように繰り返し輪読を続けるものでもない。少なくとも日本法人はそうだ。

結局、〝日本支店〟であり、営業所なので、営業数字を追いかけることが最優先。本体とは、運用が異なるのかもしれない。ベストセラー『ビジョナリーカンパニー』の発売は1994年で、30年以上前のことだ。その後の変化もあるだろう。

ただ、結果的に、『クレド』で一番下に位置付けられている「株主」に対しては、しっかり責任を果たして報い続けている点が、実に興味深い。なんと、2024年まで62年連続で増配という輝かしい記録を打ち立てている

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