産経に架空請求疑惑 販売店から「諸会費」月17万も 新聞社の不正経理を追跡
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産経新聞・東浅草販売店へ送付された請求書。「産経新聞明細」の部分に、産経本紙に関する資金の動きが明記されている |
- Digest
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- 奨励金の大盤振るまいでABC部数アップ
- 販売店に支払うはずの補助金を裏口座にプール
- 会費だけで月に17万円を請求
- 大阪市産経会に問いあわせたはずが…
- 「会費は各会から委託されて…」
- 金額がバラバラで怪しい「日販協会費」
- 読売の現金1000万円も出所不明
新聞社の不透明な経理が明るみに出はじめた。今年の3月には、元毎日新聞社の取締役・吉原勇氏が、『特命転勤 毎日新聞を救え!』(文藝春秋)を出版。その中で毎日新聞・大阪本社の社屋建設用地(西梅田)を国から払い下げてもらうみかえりに、1988年の2月ごろ、秘密裏に、自民党の安部晋太郎氏らに対し5億円の政治献金を行ったことを曝露している。
「……5億円積み上げは、当初の予定の謝礼金にプラスして、それだけの金が必要だったことを示していた。その引き金になったのは、安倍ー山内会談であることはほぼ間違いなかった。しかも、政治家への謝礼金もこうした形にすれば、口うるさい新聞社内部での稟議など手続きの必要がない。5億円という金額自体も、法円坂と西梅田双方の土地合わせて400億円を超える資産の仲介料と考えれば、高いとはいえない。」(126ページから引用。たたし数字はアラビア数字に改めた。)
政治献金は、経理上は土地の購入費として処理されたという。
「まさか新聞社が? 」そんな思いでこの本を読んだ人もいるのではないかと思うが、実は新聞社の経理には極めてグレーゾーンが多い。しかも、それは政治献金が曝露された毎日新聞社だけに限ったことではない。多様な経理上のトリックが半ば慣行化している感がある。東京都内の元新聞販売店主が言う。
「新聞社の経理は不透明です。販売店主であれば、だれでも1度や2度は販売局の担当員から空の領収書を切らされた体験があると思いますよ。補助金の支出にしても、担当員の裁量によるどんぶり勘定で行われています。昔からの慣行が続いているわけです」
このあたりが、ブラックボックスとなっている新聞のカネの流れの核心だ。典型的な新聞社の不正経理、あるいは経理上のトリックをいくつか紹介しよう。
奨励金の大盤振るまいでABC部数アップ
最初に紹介するのは、ABC部数を嵩上げするために採用される手口である。ABC部数は、新聞の公称部数を示すデータ。ABC部数が増えれば、それにともない広告の媒体価値も上がる。そのために大半の新聞社は、ABC部数を嵩上げするための裏工作を行う。
「新聞社から請求書を受け取っても、支払い総額しか確認しない店主が大半です。わたしもその部類で、経理のトリックには気づきませんでした。」
こんなふうに話すのは、東浅草販売店の元店主、近藤忠志さんである。
2000年11月に近藤さんの販売店で配達していた新聞の部数は、430部だった。しかし産経新聞社は、ABC部数の嵩上げをするためか、同店に対し927部を送りつけた。その結果、差異の497部が配達されないまま残紙(押し売りされた新聞、「押し紙」)になっていた。当然、近藤さんは水増し部数の代金も払わなければならない。そこで産経新聞社は近藤さんの負担を軽減するために、多額の奨励金(補助金)を支出した。
右上に示すのは、産経新聞社が東浅草販売店に送付した11月度の請求書である。「産経新聞明細」の欄から主要な数字をピックアップしてみよう。
新聞代合計:2,029,855円本来であれば、近藤さんは新聞の卸代金として約202万円を支払わなくてはならないが、様々な名目の奨励金が合計で約108万円も支給されたので、実際の支払い額は、差し引きした約95万円で済んでいる。
奨励金合計:1,082,717円(控除)
新聞代金請求額の約50%にもなる額の奨励金を支給して、販売店に「押し紙」を買い取らせ、ABC部数を嵩上げしているのだ。他の月についても、同じ手口でABC部数が嵩上げされている。
このように、経理上の操作で奨励金を激増させれば、実際の配達部数は変わらなくともABC部数を操作できてしまうのである。広告主が知りたいのは実売部数であるが、それに影響がある奨励金の額は、広告主など世間一般に公開されないブラックボックスとなっている。
販売店に支払うはずの補助金を裏口座にプール
こうした奨励金などの補助金は、新聞社の裏金として利用されやすい。本来であれば販売店に支給するはずの補助金を、新聞社の販売局が銀行の裏口座にプールしていた事件もある。1986年に発覚した毎日新聞・不正経理事件がその典型的な例だ。『毎日新聞労働組合五十年史』(毎日労組)は、事件についての内部調査結果を次のように紹介している。
「通知不要補助金制度を利用し、架空請求で裏金をつくった。60年度は2億9148円4000円、うち店に支給1億554万4000円、裏金1億8594万円。このうち大半は販売費に使用されている」【『毎日新聞労働組合五十年史』より】
補助金制度を利用した裏金づくりは、もっとも普及している手口と言われている。
驚いたことにこの事件で退職に追い込まれた販売局の幹部は、教育者として大学に再就職している。
会費だけで月に17万円を請求
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産経新聞・四条畷販売所に送付された請求書にある「諸会費扱い請求内訳書」の部分![]() |
販売店に支払うべきものを払わないのが補助金プール問題なら、販売店から余計に徴収している疑惑があるのが、「諸会費」問題だ。月に約17万円もの金が「諸会費」の名目で販売店から集金されていた例もある。舞台は産経新聞・大阪本社だ。
新聞販売店が所属している団体の会費は、新聞社が代行して集金する場合が多い。産経新聞社の場合も例外ではない。大阪府の産経新聞・四条畷販売所の元所長・今西龍二さんが言う。
「産経新聞社は販売店に対して、新聞の卸代金と一緒に産経会など販売店関連の団体の会費も請求していました。請求書が複雑なので不正な請求であっても見落とすことがあります」
それが不透明な経理を放置した要因であることを、今西さんは言外にほのめかした。前出の近藤さんと同じように、今西さんも請求書の詳細にはあまり注意を向けていなかったようだ。
わたしが今西さんから入手した1995年1月度の請求書には、諸会費として次のような請求項目がある。「産経会費」や「大阪地区販促会費」など、極端に高額な会費に注意してほしい。
臨時活動費 :10,000円
店主会費 :10,000円
産経会費 :65,130円
日販協会費 : 1,200円
連絡協会費 :15,030円
地区産経会費 :25,050円
大阪地区販促会費 :50 ,100円
【請求計】 176,510円
今西さんは、約17万円もの諸会費を、新聞の卸代金と一緒に請求されていたのである。同年の1月以降の請求書も調べてみたが、ほぼ、同じ額が毎月請求されている。
会費としては桁外れに高い金額というだけではなくて、請求元の会があまりにも多いことにわたしは不信を抱いた。産経会と日販協(日本新聞販売協会)はわたしも知っているが、長年、新聞販売業界を取材していながら、その他の会は聞いたことがなかった。
--これらの会の総会に、今西さんは参加されていましたか?「いいえ。われわれ店主の会合は、新聞社の系統を超えた地区ごとの販売店主の会合が、月に1回あるだけでした」
--親睦会ですね「はい。それ以外の会は、産経会を除いて聞いたことがありません」
--店主の親睦会の会費はいくらでしたか?「3000円です。しかし、この3000円は、会合を開くたびに直接支払っていました」
わたしは産経新聞社が架空の団体を設けて、架空請求した疑いを抱いた。そこでまず、請求書に明記されている会の所在地を確かめるために、産経新聞・大阪本社に問いあわせた。
電話の受付係は、販売店関連の団体は、連合産経会だけだと告げて、電話を連合産経会の事務所へ転送した。連合産経会の職員に、請求書に表示された販売店関係の諸団体が実在するのか、あるいはかつて実在したのかを尋ねた。
「コメントできないので、販売局に問い合わせて下さい」
職員は同じことを繰り返した。そこでわたしは販売局に問い合わせてみたが、販売局は事情を説明しようとはしない。
「お答えできません」と素っ気ない返事だった。
大阪市産経会に問いあわせたはずが…
わたしはインターネットで「産経会」を検索してみた。そして大阪府立青少年会館のホームページにある催し物の日程表に「大阪市産経会」という名称と電話番号が表示されているのを見つけた。「産経洋画Cinema」というイベントで、主催者が大阪市産経会となっている。
おそらく今西さんの請求書にある地区産経会に該当する団体に違いないと見当をつけて、わたしは大阪市産経会に電話をかけてみた。女性が応答した。
結論を先に言えば、電話を受けたのは、産経新聞開発株式会社という産経新聞社の関連会社であった。イベントなどを企画する会社である。
わたしは「産経洋画Cinema」の主催者である大阪市産経会の所在地を尋ねたが、相手は分からないと言い通した。以下、電話での会話である。
「はい、産経新聞開発です」
--産経会ですか?「産経新聞開発ですけども」
--ああそうですか。そこは連合産経会とは別ですか「そうなんですよ。産経新聞開発にかかっていますけども」
--そうなんですか。電話番号が大阪市産経会のものになっていたもので「洋画シネマの件でしょうか」
--いいえ、別件です。大阪市産経会という団体はあるんですか「はい、ございます」
--連絡先は分かりますか「少々お待ち下さい」
(電話保留のオルゴール)
「もしもし、それでは販売局へ電話を回しましょうか」
--販売局ではなくて、大阪市産経会に繋いでください「販売店さんの会ですよね」
--はい(電話が繋がった先は、どういうわけか交換台の女性だった)
「もしもし」
--産経会ですか「いいえこちら交換台ですけど、産経会に御用でしょうか」
--大阪市産経会です「失礼ですが」
--黒薮と申します
(電話保留のオルゴール)
「詳しいことが分からないので、おつなぎできません」
--大阪産経会と産経新聞開発が同じ連絡先になっていますが「事務局自体がこちらにはないんです」
--どこにありますか?「こちらでは分からないそうです」
--把握していないということですか?「はい、申し訳ありません。詳しいことは分からないということなんです」
--産経新聞開発は産経新聞の関連会社ですよね?「そうです」
--産経新聞開発の電話番号が、大阪市産経会の電話として使われているようですが「でも、こちらには事務局がないので、分からないということなんです」
産経新聞開発の電話番号を大阪市産経会の電話番号として、ネット上に表示しておきならが、大阪市産経会の所在地が分からないというのだ。
わたしは一旦電話を切ってから、もう一度、産経新聞開発に問い合わせてみた。しかし、質問にはいっさい答えられないとのことだった。そこで自分の質問を再確認する意味で、次のようなファクスを産経新聞開発の責任者に送った。
「貴社の電話番号と大阪市産経会の電話番号が同一になっている関係でお尋ねしますが、大阪市産経会の所在地を教えていただけないでしょうか。また、大阪市産経会は、地区産経会と同一組織でしょうか。」
発信して10分もしないうちに、産経新聞開発から次のメールが送られてきた。
「黒薮さまFAX受け取りました。
産経新聞社販売局の管理部へ、お送りいただいた
書面を渡しました。
当社は事業イベントを請け負うなどの仕事をすると
ころで、黒薮さまの件について、お答えする立場に
ありません。ご了解ください。
産経新聞開発株式会社
○○○○」
産経新聞開発が「産経会」まがいのさまざまな名称を使い、企業活動を展開している可能性もある。請求書の「諸会費」に表示されている団体名は同じような事情の下で使われているのかも知れない。所在が不明な団体が請求書に表示されている以上は、架空請求の疑惑が生じる。わたしは調査を続けて、真相に迫ることにした。
翌日、大阪府立青少年会館のホームページを再度開いたところ、「産経洋画Cinema」の主催者として大阪市産経会のほかに、新たに産経新聞開発株式会社の名前が加わっていた。大阪府立青少年会館に問い合わせてみると、産経新聞開発から依頼があって、主催者名を付け加えたという。
大阪市産経会が名前だけで実態がないから、この点を指摘されて、本当の主催者名を名乗らざるを得なくなったのではないだろうか。
「会費は各会から委託されて…」
産経新聞・大阪本社と産経新聞開発が取材に応じないので、わたしは産経新聞・東京本社にも問い合わせてみた。東京本社には面談形式の取材を申し入れたが、書面にしてほしいと言われたので、質問状を送った。この件に関する質問は2点だった。
(1)わたしが大阪府内の販売店から聞き取り調査をしたところ、産経会、店主会、連絡会、地区産経会は同一の組織であるとの証言を得ております。これらの会の所在地と、責任者の名前を教えていただけないでしょうか。また、会費としては異常に高いという印象を受けますが、額に間違いはないでしょうか。(2)大阪地区販促会の所在地を教えていただけないでしょうか。関係者の話によると、「大阪地区販促会費」は新聞拡張団へ支払うものだとのことでしたが、公式にはどのような性質のお金なのでしょうか。
産経新聞社の広報担当者の回答は次のとおりである。
(1)各種会(販売店主会)と当社とは別の人格であ
り、会費は各会から委託されて当社の請求書を
通じて収納代行をしているだけです。従いまして
会費の額の多寡について当社は発言できません。
(2)販促会費は販売店主会が販売促進に使途して
いると聞いていますが、上記(1)の理由で当社が
答えることではないと考えています。大阪地区販
促会は現在は存在していません。
わたしは再度、メールで次のよう質問をした。
○○○○様質問に対する回答ありがとうございます。
回答を読む限りは、集金代行を依頼されて、それに応じたという事のようですが、集金された金額は月額でどの程度になり、それをだれに手渡されたのでしょうか。
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上:朝日新聞・販売店宛の請求書。請求額は800円。下:毎日新聞・販売店宛の請求書。請求額は(1)と(2)で2200円になる。
2002年1月28日付けの読売新聞社・代理人の「答弁書」。読売も1000万円の交付を認めている。
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読者コメント
実売数はぐっと少ないんですよ。しわ寄せは販売店へ…
東京都北区が今年度から区報の新聞折込み分(月1回)を業者配送に切り替えたのは、新聞部数のからくりを知ったからだろうか。
やっぱりと言った感じですね、真実を伝える新聞社が、裏ではゼネコンと同じ方法で裏金を作りをして、特殊団体や政治団体に裏金をばら撒いて有利に仕事をしている。この国には、もはや誠がなくなった。残念
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