医薬品にも使えぬ危険成分を6年も食品に分類 ミス認めぬ厚労省
7月10日にはじまった「健康食品」の安全性確保に関する検討会。 |
- Digest
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- 医薬品より危険な有害成分を食品に分類
- 市民団体の指摘に、厚生労働省再三にわたる回答延期
- アリストロキア酸の有害性は漢方薬専門家の間では常識
- 4月、異例の食品成分から医薬品成分への見直し
- また変わった担当者、無責任体制の象徴
しかし、このたび厚労省との一連の対応を経験し、そもそも現在の制度と組織カルチャーには、本気で国民の健康を守ろうという気合がまったく欠けていると思わざるを得ない。責任者である医薬品食品局監視指導・麻薬対策課の村上課長は、人命にかかわる我々の指摘に真摯に対応しないならば、さっさと役人を辞めていただきたい。
本題に入る前に、少しだけ現在の健康食品の安全性に関する制度をおさらいさせてほしい。
健康食品による被害事例で最も深刻なものは、医薬品にしか使えない成分が、違法に使われている場合だ。中国製のダイエットカプセルなどに多く、肥満治療薬や下剤などが入っていた例があり、死亡例も起きている。医薬品にしか使えない成分が使われていることが判明すると、その健康食品は食品ではなく「違法医薬品」という取り扱いになり、即回収、販売禁止などの措置がとられる。
そこで、ある成分が医薬品にしか使えないか、食品成分として使っても良いかについては、厚生労働省が定める「食薬区分」での成分リストで分類されている。有害性の高い成分は医薬品にしかつかえないリスト(医リスト)に分類され、比較的安全性の高いものについては食品に使っても良い成分(効能効果をうたわない限り医薬品とみなさない成分)のリスト(非医リスト)に分類される。
この食薬区分のリストについては、不定期だが数年に1回くらいの割合で見直しが行われており、健康食品業界にとっては死活問題として注目されている。近年サプリメントとして大ヒットしたコエンザイムQ10やα-リポ酸が健康食品として販売できるようになったのも、この食薬区分の見直しで、医薬品成分だったものが食品に使っても良い成分に再分類されたからだ。
医薬品より危険な有害成分を食品に分類
しかし実は、漢方薬に使われる生薬について、危険性が高いため医薬品にすら使えない有害な部位が、食品に分類されている例があった。サイシン(細辛)という生薬の一種で、日本では漢方薬として根の部分が使われてきている。というのも葉や茎の地上に出ている部分には、人の腎臓に障害を起こすアリストロキア酸という成分を含んでいるからだ。
基本的な医薬品の製造方法を定めた日本薬局方でも、サイシンは、根および根茎しか使えないと規定されている。
食薬区分でのサイシンの分類の変化 |
一方、「食薬区分」のリストでは、2007年3月まで、葉・茎などの地上部が食品として分類されていたのである。(図1)
著者がこの問題を知ったのは、2003年に出した「危ない健康食品から身を守る本」の取材のため、東京大学薬学部名誉教授の齋藤洋氏から聞いたのがきっかけだ。
齋藤氏によればサイシンの問題は、食薬区分の審議がいかにいい加減に行われたかのよい例だという。
「生薬の専門家なんか誰も入っていない。アリストロキア酸の危険性は薬学部での教科書にすら載っている常識的な問題。私が気づいた段階で、数年前から指摘しているのに、一向に訂正しようとしない」
齋藤氏は、厚生労働省が2003年に開いた「一般用医薬品としての生薬製剤(西洋ハーブを含む)の審査のあり方に関する検討会」の座長も務められた。この検討会は、ヨーロッパで伝統的に医薬品として使われてきているハーブ成分について、日本でも医薬品として許可することを検討するものだった。
しかし、第一回目の会議で、現在生薬や西洋ハーブが、医薬品ではなく、健康食品に使われて健康被害が多発していることを問題視する発言が続出。厚生労働省の意向に反したためか、会議は二回目以降は開かれず、そのままほったらかしの状態になっている。
市民団体の指摘に、厚生労働省再三にわたる回答延期
著者も理事会のメンバーとして参加している食の安全・監視市民委員会では、代表の神山美智子弁護士らと共に、2006年10月17日に厚生労働省を訪問し、食薬区分を含めた健康食品による被害防止の制度について説明を受けた。
そこでの担当者が、医薬品食品局監視指導・麻薬対策課薬事監視第2係長の笹島さんだった。
話は多岐にわたったが、その中でサイシンについて以下のような議論を交わした。
植田「食薬区分のリストの中で、根や根茎といった部分が専ら医薬品の成分に入っているのは良いんですが、有害性からみたらより危険な葉や茎といった地上部が、なぜか食品にも使える成分リストの方に入っているんですよ。これっておかしくありませんか?」笹島さん「個別の成分については、専門じゃないもので・・・」
植田「個別の成分を、食薬区分でどのように区分するかを評価するときに、どれだけきちんとやっているのかということについて疑惑がでてくるんですけれども」
笹島さん「改めて調べてご回答します」
植田「このケースを含めて、一体どのような人たちがどのような審議を経て、食薬区分を決めているのかということが公開されていないことが問題だと思うのですが」
笹島さん「誤解を受けるかもしれませんが、このリストというのは別に食品のリストを作っているわけではなくて、食品に含まれていても直ちに医薬品とは判断しませんよというものであるわけです。よく誤解されることが多いんですけれど、この非医薬品リストに掲載されているということで、食品として安全と誤解される方が多いんですけれど、けっしてそういうリストではないということはご理解いただきたいのですけれども」
神山弁護士「でも、非医薬品リストに掲載された成分については、食品に使っても、直ちに薬事法違反にはならない、と判断され、健康食品に使われているわけでしょ」
笹島さん「そうですね。効能効果を標ぼうしない限りですが」
2007年1月12日に医薬食品局長あてに出した質問状 |
その後、サイシンの取り扱いについて一向に返事がないため、2007年1月12日に下記の様な再質問状をだした。(右記参照)
そこで、なぜ、より危険な部位が食品に使える非医リストに分類されてしまったのかの理由を質問した。
その後、2,3月には食の安全監視委員会の事務局からの、再三の問い合わせを行ったが、笹島さんは「今忙しいので返事は少し待ってほしい」と繰り返すばかりで、らちが明かない状態が続いた。
アリストロキア酸の有害性は漢方薬専門家の間では常識
その間、サイシンなど一部生薬に含まれるアリストロキア酸の危険性について調べてみると、厚生労働省自身が、医薬品としての品質の問題として何度も注意勧告を出していることが分かった。
生薬に含まれるアリストロキア酸による被害事例は、1993年から報告されている。
1993年には、ベルギーで肥満治療のため漢方薬が投与された患者で、腎機能障害が多発し、「中国製ハーブ腎症」と名づけられた。また、日本でも97年に関西地方で、漢方薬が原因とした同様の腎臓障害が多発。学会発表までされている。
読売新聞2004年4月10日付 |
このケースは、医薬品の輸入販売会社を相手取った損害賠償訴訟まで発展し、2004年に名古屋地方裁判所で、メーカーに対して製造物責任法(PL法)上の欠陥が有ったと認め3336万円の支払を命じた。医薬品の製造物責任が認められた全国初のケースだ
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読者コメント
無添加食品が安全だという根拠はありません。誰も無添加食品の安全性検査なんてやってませんから。食品添加物は安全性検査が義務付けられていますので、それを根拠とすることができます。
「経験則と化学的根拠を同列に扱」えます。人体上では同列。化学的安全が安全を意味しないのは人体が証明。危ない混同ですが「食品」と「添加物」とは大違い。食品にわざわざ「添加」される理由とは「食の工業化」=安上がり・手抜きが目的です。添加物食品を食べるのは貧乏人。金持ち達は安全な無添加食品愛好者です。添加物から原発まで、技術史論で言う「技術のイデオロギー性」です。技術は無邪気に発達はしていない。
だから食品添加物は安全?「化学的体系的安全」の根拠がいい加減。食品添加物の承認は、「化学的安全」を前提に認可されていますが、だから安全とは誰も思ってない程度の「安全」。だから最近のコンビニ弁当は添加物を減らす方向なのです。一方、高給食品ほど「無添加」が売りです。「化学」先進国の日本の食品は、添加物先進国。その食品添加物の摂取量は貧乏人ほど高い。行政と企業のダマしの拠り所が「化学的安全」。
食品添加物は人類が食べている別の食品から抽出した物です。したがって未知でも未経験でもありません。「とっくに学習済み」と言いますが、体系的にまとまっていない無根拠の経験則と化学的根拠を同列に扱うことはできません。スギヒラダケだって古くから食べられてきていますが、その安全性に根拠はありませんし、たまに中毒が起きていますが原因は未だ不明です。
食品と食品添加物は大違い。食品は、人類が始まって以来食べ続けて、その中で身体にいいか悪いかを経験してます。「それを言ったら」さんの言うのは、「食べ合わせ」としてとっくに学習済み。一方、食品添加物を人類は食べた事がありません。だから体内での反応は未知な訳です。それでも「食品の工業化」の要請の中で添加され続けてます。まだ体内反応が不明なまま認可してるから「世界のモルモット」と言われる所以です。
>体内での複合作用は未知のままそれは無添加食品でも同じ事でしょう。一つの食品だけ食べ続けるわけではないのですから、添加物の有無にかかわらず食品の複合作用なんてほとんどわかりません。
食品添加物は国民の食生活の向上の為じゃなく、「食の工業化」の為。安く大量生産して、腐らない食品作りの為。添加物食品を食べるのは、どうせ貧乏人だけ。「日本人は世界のモルモット」って言われてるのは、食品添加物を世界で最も多く認可してるから。個々の添加物の安全性もいい加減なら、体内での複合作用は未知のまま、疑わしきは疑わずに認可。貧しい消費者が病気になっても、因果関係は解らない。薬が売れるだけ。
「効能効果を謳わなければ、医薬品とはみなさない成分」が「健康食品に使ってよい成分」として使われているということでしょう。
塩素もナトリウムも有害だから塩化ナトリウムは猛毒だというわけですね(笑)
明らかに単独で有害成分を有するものを区分する事は可能。
そもそも、食品としての安全性を確認すること自体がかなり困難です。古来から食べられている天然食品の安全性なんか誰も確認していない。そういう食品にも未知の成分が無数にあるし、機知の成分でも作用機所の不明なものが無数にある。さらに、単独での安全性と組み合わせたときの安全性は別物。それらを網羅するのは不可能なので、医食区分リストなんかで安全性について評価しようというほうがおかしい。
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