住友商事EXIT 中村壮秀「専門性がなければ、30代は迎えられない」
「閉塞感から解放されたことが無性に嬉しかった」と語る中村氏→アライドアーキテクツ中村壮秀のITベンチャー起業ブログ |
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- 自分のスペシャリティを考える
- 趣味でも仕事になる
- 商社のメインストリームを避けた訳
- 泥臭い現場に身を投じる
- 会社に理解してもらえない
- 大企業の名刺が武器になる
- 尊敬できる人物と出会う
- スピード上場でキャピタルゲインを得る
- 二度目の起業にチャレンジ
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自分のスペシャリティを考える
せっかく入社した総合商社・住友商事を辞めて起業しようと思うようになったきっかけは、自分のスペシャリティ(専門性)を真剣に考えるようになったからだった。
「住商にこのまま在籍していれば、『ロケットからウナギまで』と言われるほどに、さまざまな仕事を経験できるだろう。しかしそんなふうにしてあちこちをつまみ食いして仕事を続けているだけでは、30代、40代で自分が枯渇してしまうのでは? 自分のスペシャリティを育てなければ、より良い30代は迎えられないのではないだろうか」
では、自分のスペシャリティとは何だろうか? それはどうすれば確立できるのだろうか? 中村は自問自答した。自分は理系出身で、技術にはかなり詳しい。加えて、新しい世界を作りつつあるインターネットにもたまらない魅力を感じている--そうやって彼はまず、自分のフィールドをインターネットに求めようと考えた。時は1999年。インターネットバブルが最高潮に達していた時期である。
慶應義塾大学理工学部計測工学科(現物理情報学科)を卒業した中村は、1997年に住友商事に入社した。この年は日本のインターネット勃興期で、2月には楽天が設立され、さらに前年4月にはライブドアの前身である有限会社オン・ザ・エッヂが設立されている。サイバーエージェントが設立されるのはこの翌年の98年3月だ。
そして中村がルーキー商社マンとして働いていた98年から99年は巨額のマネーがネット業界に流れ込み、後に「ネットバブル」と呼ばれる熱狂を巻き起こした時代でもあった。商社のリテール(小売り)部門にいた中村が、この影響を受けないはずはない。同じ世代の若者たちが次々に起業し、成功していくのを横目で見ていて、「自分でも何かおもしろいビジネスを起こさなければ」という衝動に突き動かされるようになったのだ。
趣味でも仕事になる
「自分は技術が好きで、インターネット関連のビジネスを始めたい」と結論づけた中村は、次にこう考えた。「しかしインターネットビジネスなんて、いまや誰でも手がけている。ネット企業は雨後の竹の子のように生まれてきている。だからネットのビジネスを手がけるというだけでは、自分は決してオンリーワンにはなれないだろう」
ではどうするか。オンリーワンになれる要素を、もうひとつ確立させなければならない。彼はそこまで考えて、「そうだ、ゴルフがあるじゃないか」と考えた。住友商事に入社するころから始めたゴルフは趣味が高じ、いまや人生の中でも最重要なものにまでなっている。とはいえ、ゴルフなんて単なる趣味に過ぎない。それが自分の仕事になるのだろうか?
「しかし」と、中村は考えた。「ゴルフは単なる趣味かもしれないけれど、しかしインターネットの時代は、自分の好きなことをしていれば、それを仕事にできてしまう時代になるはずだ。自分の個性や趣味がオンリーワンの持ち味になって、それが仕事に結びつくようなやり方は絶対にうまくいくようになるはずだ」
そうしてゴルフとインターネットを結びつけるビジネスをやろうと考えるようになったのである。さっそく調べてみると、ゴルフとインターネットをつなぐようなビジネスは99年当時にはまったく存在していなかった。勝機はある。
商社のメインストリームを避けた訳
渋谷区の閑静な住宅街にあるアライドアーキテクツの本社。一戸建ての快適な住宅を丸ごと借りて、オフィスにしている |
振り返ってみれば、住友商事に入ったころは「将来起業する」と明確なビジョンを考えていたわけではなかった。しかし、自分を優れたビジネスマンに育て上げたいという気持ちは非常に強かった。うっすらと起業を意識していたのかもしれない。だから「企業人」にどっぷりと浸ることはあえて避けた。
リテール部門に配属されたのも、その個人戦略の一環である。通常、総合商社といえば鉄鋼や石油など、海外でのいわゆるビッグビジネスがメインストリームだ。
たいていの新入社員は、そうしたスケールの大きな仕事場への配属を希望する。だが中村はそうしたビッグビジネスではなく、売上げ規模で言えばはるかに小さいメディア部門とリテール部門に配属希望を出し、そしてリテール部門に配属されたのだった。
なぜメディアやリテールを希望したのか。まず第1に、すでに存在するビジネスではなく、自分で新しいビジネスを開拓してみたかったということがある。
第2に、ビッグビジネスのような巨大戦艦での仕事は、社員個人の業務があまりにも細分化されてしまい、埋没してしまいかねない。それも企業人としては必要な役割だが、しかしそうした仕事のやり方をしていればつぶしが利かなくなる恐れがあった。
第3に、ビッグビジネスはしょせんは法人相手の仕事であり、対人的な営業力が最も求められる素質である。しかしそうした対人営業力よりも、論理をみずから組み立てて、その論理の正しさで勝負するマスマーケティングの世界で自分の力を試してみたかった。リテールのような消費者向けビジネスの分野は、それにうってつけのフィールドだった。
泥臭い現場に身を投じる
中村が配属されたのは、リテールの新規事業の立ち上げを行う部署である。当時住商は、スーパーマーケットを立ち上げたり、あるいはインターネット通販に乗り出したりと、少しずつリテール部門への進出を図っていたところだった。そして入社2年目、上司と2人で外資系コンサルティング会社に出向し、消費者向けビジネスの現状を実地で学ぶことになる。
出向先の社長は「サービスは現場だ。現場で積極的にサービスを学びなさい」と、中村をオフィス街にあるファミリーレストランにフロア係として送り込んだ。つい昨日までは都心の高層ビルでバリっとスーツを着て仕事をしていたのが、まるで学生アルバイトのような仕事に逆戻りである。
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