判決後、「不当判決」と訴える烏賀陽弘道氏。
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オリコンが、雑誌「サイゾー」の取材に応じたジャーナリスト烏賀陽弘道氏のコメント内容が名誉毀損だとして訴えた民事裁判の一審判決が4月22日、東京地裁で下された。判決は、烏賀陽弘道氏の全面敗訴。オリコンに対して100万円の損害賠償額を支払えと命じた。名誉毀損訴訟そのものが違法であると反訴していたが、東京地裁(綿引譲裁判長)はこの反訴も棄却。烏賀陽氏は「この判決が覆るまで戦い続ける」と控訴する意向を表明した。(東京地裁の判決全文付き)
【Digest】
◇敗訴?と当惑した支援者たち
◇烏賀陽氏は全面的に負けた
◇取材源にも責任がある
◇1個人に対して高額訴訟をしてもよいと判断
◇言論には言論で対応する必要はなし
◇烏賀陽氏「判決が覆るまで戦い続ける」
◇ジャーナリストの価値を裁判所に決めてもらう必要はない
◇オリコンも烏賀陽氏も満身創痍
◇敗訴?と当惑した支援者たち
4月22日、午後1時10分。東京地裁709号法廷。ジャーナリスト烏賀陽弘道氏と、弁護団(4名)が着席して開廷を待っている。対してオリコン側の弁護士はひとりも着席していない。
裁判長以下3名の裁判官が入廷した。2分間のテレビ取材のあと、綿引譲裁判長は、早口で主文を読み上げた。聞き取れない。メモを採ることができないほどのスピードである。綿引裁判長は読み上げるやいなや退廷していった。その間、約1分。
傍聴席を求めて、この日の判決を聞くために集まった面々からざわめきが起きた。「聞こえた?」「聞き取れなかった」「で、どうなったの?」「烏賀陽さんは勝ったの?」「100万円を支払え、と聞き取れたから、烏賀陽さんが負けたんじゃないのか」「棄却、と言っていたよね」
傍聴席から立ち上がり、法廷外の廊下に出ると、「烏賀陽さんは負けた」という声が聞こえてきた。
◇烏賀陽氏は全面的に負けた
判決の要旨は以下のとおりである。(分かりやすくするために烏賀陽氏、オリコンという固有名詞を付け加えた)
主文
1 烏賀陽弘道氏<本訴被告(反訴原告)>は(株)オリコン<本訴原告(反訴被告>)に対し、100万円を支払え。
2 (株)オリコン<本訴原告(反訴被告)>のその余の請求をいずれも棄却する。
3 烏賀陽弘道氏<本訴被告(反訴原告)>の反訴請求をいずれも棄却する。
損害賠償の金額がオリコンが当初請求した5000万円から100万円に減額されたこと、オリコンが烏賀陽氏に求めていた謝罪広告などは認めなかった点を除けば、全面的な敗訴である。
判決後に、烏賀陽氏と弁護団長の釜井英法弁護士は、弁護士会館1階ロビーで烏賀陽氏を支援してきたメディア関係者を中心に、会見を開いた。
釜井弁護士は、全面敗訴であることを認めた。
判決では、烏賀陽氏が雑誌「サイゾー」に「オリコンは予約をカウントに入れている。オリコンは統計手法の公開が不十分だ」とコメントした事実に真実性を認めなかった。
弁護団は、烏賀陽氏の雑誌コメント内容は真実であることを証明するために、さまざまな証拠を裁判所に提出してきた。しかし、そのことごとくを、裁判所は「真実であると認めることはできない」と退けた。
「オリコンの主張が正確であるという前提で判決が下されている。私たちの主張に対して、ほとんどまともに答えていない。不誠実な判決だ。裁判官は何を考えているのか? 私たちの提出した証拠を検討してもらったとは思えない」と釜井弁護士は地裁判決を批判。裁判所は、烏賀陽氏側の提出した証拠をことごとく否定し、オリコン側の主張についてはそのまま鵜呑みにした。
オリコンの元社員が、ランキングを上げるために、レコードとCDの大量買い取りをする動きがある事実を認めた証言についても、「それは風聞に過ぎない」として退けたのである。
「もし、間違っているならば、(オリコンの元社員が)言うわけがないではないか」
さらに、烏賀陽氏の弁護団がレコード店を対象に、オリコンランキングの信憑性を調査した結果について、「提訴後の調査であるため証拠の価値が認められない」。音楽ジャーナリストの津田大介氏が、オリコンランキングのデータに予約がカウントされているという、音楽業界ではよく知られた事実を記した陳述書についても「いつ、だれと会ったのかわからないので信用できない」とした。
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司法記者クラブにて。
「この訴訟は、たまたま烏賀陽とオリコンの争いになっている。しかし、言論の自由を守る人々と、それをぶち壊そうする勢力との戦い。判決が覆るまで戦う」(
烏賀陽氏)。
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◇取材源にも責任がある
この訴訟の特徴のひとつは、被告になった烏賀陽氏は、「サイゾー」編集部のコメント取材に応じた「取材源」だという点。雑誌記事の文責は、書き手と発行元の出版社にある。この両者が、名誉毀損のターゲットになるのが普通だ。この訴訟では、オリコン側からみれば名誉毀損行為をした当事者は複数存在している。しかし、オリコンは烏賀陽氏だけをねらい打ちした。この点について、判決はこう述べている。
「一般に不法行為責任を負担する者が複数存在する場合に、その被害者がすべての不法行為責任者に対して訴訟を提起する義務を負うことはない。したがって、原告が、本件雑誌(サイゾー)の発行者や本件記事(サイゾー)の編集者に対して訴訟を提起せず、被告に対してのみ訴訟を提起したことをもって本訴の提起を違法と評価することはできない」
つまり、オリコンが烏賀陽氏だけを限定して訴えたことに問題はない、という司法判断である。
この判決には、ジャーナリズム活動に対する敬意が欠けていると言わざるを得ない。
◇1個人に対して高額訴訟をしてもよいと判断
この訴訟では、オリコンは烏賀陽氏個人に対して5000万円の損害賠償請求をした。一個人が支払うことができない金額だ。烏賀陽氏の雑誌コメントによって、オリコンが5000万円相当のダメージを受けたのか、という根拠は示されなかった。判決では100万円の損害賠償を認めた。この理由について判決ではこう述べられている。
「原告が5000万円の損害賠償を求めている点も、一般に、名誉毀損訴訟においては、損害額が比較的高額に設定されるのが通常であって、請求額(5000万円)と認容額(100万円)との間にかなりの差が生じることも稀ではない。したがって、原告が5000万円の損害賠償を求めていることをもって、本訴の提起を違法と評価することはできない」
まとめると、この判決では、名誉毀損訴訟において、(1)誰を対象に訴訟を提起してよい、(2)その損害賠償請求額は高額でもかまわない、と述べている。
◇言論には言論で対応する必要はなし
通常、著作物、著作者に対して名誉毀損訴訟がおこされるとき、事前に当事者同士が話し合い、その交渉が決裂したときに訴訟となる。民事訴訟とはそのようなものである、という認識が、メディアにはある。しかも、オリコンはメディア企業であり、烏賀陽氏のコメントに対して言論で応じることは十分に可能だったのに、それをしないまま提訴した。この点についても判決は以下のように否定した
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オリコン訴訟の問題点まとめ
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烏賀陽弘道氏の弁護を担当した釜井英法弁護士から出された「オリコンがフリージャーナリストを提訴した名誉毀損訴訟の東京地裁判決について」。判決直後、釜井弁護士は「判決には偏見さえ感じる」と語った。
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