内定11社から1社に絞った勘所は「働いている社員に直接会って決める」
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新日鉄ソリューションズ社内資料より。年功序列で「定額給」が確実に上がり続け、下がるのは52歳から。詳しくは本文中の「人事・給与関係規定集」(計10頁,PDF)参照。 |
- Digest
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- 大企業で見た「露骨な」社内の派閥抗争
- 「鉄より硬いプライド!」新日鉄カルチャー
- まるで「プロ野球の外人選手」のような扱い
- 新日鉄Sの特異な組織体
- 入社前の想像と入社後の現実とのギャップ
- 「朝令朝改」で社員を振り回すベンチャー
- 「話が違う」とエージェントにクレーム
- 10社のオファーを断る
- 「現場の社員の方に会わせて」
大企業で見た「露骨な」社内の派閥抗争
私が就活をスタートしたのは「就職氷河期」が流行語大賞をとった94年。ちょうど“氷河期世代”の走りで、富士通もスポーツ推薦など一部例外を除き新規採用を凍結していました。私が入社したのは新規採用を再開した95年。全国採用による営業の同期は60人。その後、更なる業績停滞や成果主義の問題などが重なり、今では当時の3分の1も残っていません。
最初は製造業向けの営業部隊への配属でした。そこで5年ほどキャリアを積んだ頃、社内で派閥争いに巻き込まれました。本部長クラスのグループ同士の争いです。競合他社と重要な案件を争っている最中に、社内で我々と対立していた別のグループが、我々を陥れるために競合他社に対し、裏で提案内容をリークしていたのです。
事前に手の内を知られていては勝ち目はありません。競合他社は、リークされた我々の提案内容に更にプラスαを加えた我々を上回る内容で提案し、その結果、我々は契約を締結することができませんでした。
責任をとらされる形で当時の上司らは地方に左遷され、我々の組織は解散に追い込まれる事になりました。会社の利益よりも派閥の利益が優先され、それが表面上に現れずに事が進み、結果何も残らない形で処理されるという一連の隠蔽体質にほとほと嫌気が差したことを覚えています。
提案書は「無形創造物」として立派な知的財産物なのですが、現場では無知ゆえにその扱いがあまりに杜撰です。その「事件」を経験した私は、知的財産の重要性を再認識し、 自分のキャリアとしても取り込むべく、社内公募に応募し2001年に法務・知的財産部門に異動しました。
営業から法務部門への異動は会社が始まって以来の出来事で、社内では有名になりました。しかし、いったん営業部門から異動したら、同じ部門に戻る事は難しい社風でもありましたので、近い将来の他社への転職も視野に入れた上での異動でした。
翌2002年、営業へキャリア復帰を果たそうと活動しますが、やはり営業部門へ戻る事は適わず、富士通での営業への復帰の道は閉ざされます。その一方で、メーカー単一では顧客に提供できる価値に限界があると感じ、最初の転職活動を開始する事になりました。20社以上の面接を受け、合計4社から内定をもらい、結果、新日鉄ソリューションズに入社を決めました。
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富士通時代の源泉徴収票。新卒7年目のリアルな年収。
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新日鉄ソリューションズを選んだ理由は、当時の自分のなかに大手志向が残っていた点と、より専門性の高い、特化したビジネスを経験できると感じられた点です。
富士通時代、給料は、営業では残業代がそのまま全て支払われていたので額面で600万円を超えていましたが、法務に異動してからは550万程度に下がっていました(右記参照)。この新日鉄ソリューションズへの転職では、給料は574万円に、若干ですが上がりました。
「鉄より硬いプライド!」新日鉄カルチャー
入社を決めた新日鉄ソリューションズは、新日鉄の情報システム部門(通称、EI)と、新日鉄情報通信システム(通称、ENICOM)が前身で、社員2000人超の東証一部上場企業。親会社(新日鉄)向けの仕事が全体の3割弱を占めています。製鉄所運営で培ったIT技術を、金融・流通などの外部の顧客向けに提供していました。
採用されたポジションは、インフラに特化した営業部門のアカウントリーダーです。上層部は新日鉄出身者が占めており、カルチャーもほぼ同じで、親会社の内部用語がそのまま飛び交う様な環境です。「鉄よりも硬いプライドを持っている」といわれる所以は、高学歴信仰が強く、保守的なカルチャーである所です。良く言えば実直かつ真面目、悪く言えば懐が狭く柔軟性に欠けている感がありました。
内定までに面接を5回も受けました。入社後、人事部から聞いた所によると、私を採用する前に、面接で何十人も落としていたそうです。そんな実感も乏しく入社したのですが、その後、プロパー重視の人事処遇であることを知り、後悔することになります。実際に現場で働いている人と会わずに入社を決めてしまったこともあり、入社時にはその様な文化であることを知ることはありませんでした。
まるで「プロ野球の外人選手」のような扱い
せっかくコストをかけてスキルの高い中途採用者を採用しても、内情はプロパー出身者を重視しているので、中途採用者は同じ様なスキルを有していても、待遇や昇進でプロパー出身者より冷遇されます。
あえて言うのであれば、「人件費に見合った分能力を発揮して収益に貢献さえしてくれれば良い、コーチや監督にはしない」というプロ野球の外人選手みたいな扱いです。
当時、中途採用者の占める人数の割合は、約20人の組織で5~6人と、それなりにいました。最近では離職率の上昇もあって人材の流動化が進み、20人中7~8人位まで中途組が増えている様です。
現在ではだいぶ状況が変わり、事業部長や執行役員クラスも外部から採用している様ですが、当時は、上級管理職になる中途採用者のキャリアパスが存在しておらず、昇進が頭打ちになっていました。
新日鉄Sの特異な組織体
新日鉄ソリューションズに入ってみてカルチャーショックを感じた事は、親会社同様に組織が縦割りで、同じ顧客企業に、インフラとアプリでそれぞれ営業担当者がいて、別々に営業をかけている事でした。富士通時代は1人の営業がインフラもアプリもまとめて「システム」として提供するのが当然でした。同じ会社のメンバーにもかかわらず、同じ顧客に2つの窓口を持って違うやり方で接する組織体に、強い疑問と違和感を持ちました。
さらに驚いたのは、社内の派閥のパワーバランスの影響から、圧倒的にアプリ部門の立場が強く、インフラ部門はアプリ部門に対して「社内営業」をかけ、自社のインフラを採用してもらうよう働きかけるという、「同じ社内の営業部隊を担当する営業専門」の人までいたことです。
その理由として、安価で高品質であれば、アプリ部門として社外から独自にインフラ製品を調達する事が許されていたからです。同じ社内で個々の部門の個別最適を追う姿に、強い縛りとしがらみを感じました。
インフラの営業部門には、「顧客向けの直接営業(直販営業)」、「社内アプリ部門向け営業(社内営業)」、「パートナー営業(間販営業)」の3種類の営業組織がありました。私が配属されたのはパートナー営業で、パートナーSI企業向けに新日鉄Sのインフラを採用し運用してもらうように仕向ける営業になります。私は、大手SIerを担当していました。
そのSIerは大変特徴のある会社でした。新日鉄とは別の意味で高いプライド、非常に多くの案件を掛け持ちすることから来る社員の殺人的な忙しさ、組織を超えた属人的な仕事の進め方には、日々接していて驚かされることが多かった事を覚えています。
入社前の想像と入社後の現実とのギャップ
富士通では、メーカーであるがゆえに、その多様な自社製品を組み合わせてシステム・ソリューションとして提供することが使命でした。
新日鉄ソリューションズでは、その逆で、単一メーカーにこだわらず、あくまで顧客志向で最適なものを選んで提供できるはずと思い込んでいたのですが、入社してみて分かった事は、結局、ハードとソフト含めたシステムの組み合わせパターンは、自ずと決まってくるものであり、選択肢は限られるということでした。
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上:新日鉄ソリューションズの源泉徴収票(社会人8年目)。 下:新日鉄ソリューションズの給与明細(社会人9年目)。年齢で決まる「定額給」のほか、住宅手当、都市手当など福利厚生が充実。 ![]() |
複雑な情報システムをリスクを抑えて稼動させるには、実績ある組み合わせが無難なのです。この点においては、最適なシステム・ソリューションを提供するという当初の「顧客志向」の目的は達成することができませんでした。
収入面では、新日鉄Sに転職することで、年収が
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必見!実際に利用した人材紹介会社・ヘッドハンティング会社31社を採点した一覧表。もっとも優れたA判定は「クライス&カンパニー」と「サイトフライト」の2社。逆にE判定が6社。
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読者コメント
業界では大手だが、新日鉄の子会社であるため、プロパーが出世するのは難しいのだろうか。
成果重視は、組織の競争を過剰にし、従来の日本的協調主義の社風を大きく損ないました。アメリカ型経営は、労働者をこき使い、中間層を下流に突き落とすものです。
例えれば、頻繁に球を廻してよく走り、見栄えは良いが(選手は疲弊)点が入らない日本サッカー。個と全体の調和と思考を保ち、ゴールまで最小タッチで得点するドイツサッカー。
残業の有無と、経営成果を見るだけで、概ね会社の労働体質が判ると思います。
アメリカ型企業より、ドイツ企業の労働環境を学ぶべきでしょう。日本企業に非常に向いています。
残業がほぼ無い(遅くとも6時には帰宅している)にも関わらず、成果が上がっています。
一つ覚えの【成果重視】こそ素晴らしいと言う意見は間違っています。成果ではなく、【効率重視】の為に組織的な工夫が必要なのです。
年功序列重視は、日本人・日本文化に適し、合理的でストレスが少ないです。
成果重視は、元来がアングロサクソン体質に沿ったシステムで、日本企業に適応しても、問題の上塗り経営になりやすく、労働者や会社にとって、実は非合理的です。
年功序列の「定額給」は、昨年ある程度の割合が、成果重視の「職能給」に振り返られました。着実に、いい方向に変わっていこうとしている会社だと思います。
顧客思考で最適?なものばかり選んで、ちゃんと動かなかったら悲惨でしょう。
「殺人的な忙しさ」という点も、人によりけりです。個人の仕事の仕方次第だと思います。10時以降基本残業禁止(部署によって差有り)なので、社内ルールとしては整備されている方でしょう。
中途採用の人でも、活躍&出世してる人は周りにいますよ。
インフラ部門も、独自にアプリ調達できますし、お互い様だと思いますけどね。
新日鉄ソリューションズになってから入ってきた人の割合が半数以上いるので、「鉄のプライド」「学歴・プロパー重視」なんて古い考え、今後生き残るはずがないと思います。
新日鉄Sの求人条件には、「旧帝大卒、もしくはMBA」と書いてありました。外資系コンサルティングファーム出身の僕はがっかりしたのを覚えています。
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