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トヨタ系部品メーカー、偽装請負を内部告発した期間工を更新日3日前の雇い止めで“報復”

情報提供
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雇い止めの無効を訴えて提訴した埼玉地裁熊谷支部前でアピールする安田美貴さん(中央)と労組組合員、弁護士。
 トヨタ系自動車部品メーカー「ジェコー」で7年間夜勤を続けて「うつ病」にかかった期間従業員の女性が10月22日、欠勤が多いことを理由に契約更新3日前に会社から「雇い止め」を通告された。この女性は昨年、ジェコーの偽装請負を告発、会社は派遣社員のほぼ全員を期間工として直接雇用した。雇い止めは内部告発の報復措置なのか。女性らは11月4日、埼玉地方裁判所熊谷支部に、雇い止めの無効を求めジェコーを提訴。原告に雇い止めの実態を聞いた。

◇昼勤務の約束のはずが夜勤専属で7年間 
 安田美貴さん(仮名・29歳)が埼玉県行田市にあるジェコー(田淵武重社長)の本社工場で働き始めたのは2001年5月。大手請負業者日研総業と雇用契約を結び、請負の形で派遣された。

 ジェコーは従業員約500名の自動車部品メーカーで、自動車関連の時計、インジケーター、センサー類などを製造している。

 親会社であるデンソー(トヨタグループの自動車関連電機・電子部品メーカー)が34%、トヨタが15%の株を保有し、社長はデンソーから継続的に派遣されている、典型的なトヨタ系部品メーカーだ。

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安田さんが2007年6月に埼玉労働局に偽装請負を告発した申告書(1ページ目)と、7月に埼玉労働局が安田さんから聞き取りをした際の事情聴取書(抜粋)。その下は、安田さんを雇い止めしたジェコーが、その理由を質した弁護士に対して送った回答書。一番下は、安田さんたち3名の組合員が埼玉地裁に提出した訴状。
 安田さんのジェコーでの勤務は昼勤の約束だったが、派遣されて3日後くらいに、生産が増えたので夜勤に変わってほしい、と正社員から言い渡された。

 「他に働く場所がないし、しばらくの我慢、という気持ちで受けました」(安田さん)

 しかし、その後も昼間勤務に戻れないまま、7年間にわたり夜勤を続けることになった。

 当初はイプサム、エスティマ、カムリなどのエアコンの組み立て作業を行い、現在は、燃費を向上させるための部品である電流センサーの組み立て業務についている。

 ICレコーダくらいの大きさの部品をある程度まで組み立て、次の工程に渡していく。目と神経を使う仕事で、作業は全て立ち仕事だ。

 夜勤の製造ラインでは、男性は4、5人いるが、女性は安田さん一人。夜勤専属は長くても3年くらいで辞めていき、7年間というのは安田さんだけだという。

◇昼夜逆転の勤務と劣悪な住環境が体を蝕む
 勤務は月曜から金曜までで、勤務時間は午後6時25分から午前3時25分までの9時間拘束。その間に45分の「昼休憩」と2回の10分休憩が入り、繁忙期には残業も発生する。休憩やトイレも自由ではなく、できる限り10分休憩か昼休憩時に行くことになっている。

 仕事のやり方はトヨタのかんばん方式そのもので、職場に標語もあるという。トヨタ社員からジェコーのリーダーや課長に改善要求が出され、受け渡しの時間を短縮するためにラインの幅を狭くしろ、などの注文があるという。

 毎週水曜日には、45分の休憩時間内に15分間のQCサークルが今も行われている。当然サービス残業だ。

 安田さんは仕事がある日は夕方5時頃に起きて、夜勤時に食べるおにぎりを作ったり食事をしてから、自転車に乗り約10分、午後6時くらいに工場に着き、着替えてから職場に入る。

 夜勤の後は寮に戻る。日研総業が借り上げた寮で、3DKの2人相部屋だ。

 ふすまで仕切られただけの部屋は、石油ストーブも使用禁止で、暖房器具は小型のエアコンのみ。電気容量が30アンペアしかないため、他の熱源も使えず、冬の冷え込みは耐え難い。

 食事を自炊して、風呂、せんたくなどを済ませてから午前8時頃に寝る。

 睡眠時間は8時間ほどあるが、周りには学校などがあり、昼間の物音がするために熟睡はできず、起きた時にも疲労感が残る。そのため、土曜日はほとんど寝ていることが多かったという。

 「だんだん体がきつくなり、25歳になった頃には疲れがとれなくなりました。

 夜勤の生活に慣れるというのは錯覚です。自分では慣れたな、と思っても、長くやっていくと疲れがとれないし、遊びにいっても楽しさが出てこなくなりました」

 当時の安田さんの基本給は、1日8時間勤務で6500円。夜勤手当1400円と残業代がつくが、劣悪な住環境にもかかわらず、水道光熱費とは別に寮費として2万7000円が給与天引きされる。

 手取りは10万から12万、少ない月は8万円以下だった。

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上は日研総業から派遣されていた2007年8月の給与明細、下はジェコーの期間工として直接雇用された2008年1月の給与明細。出勤数は同じ16日。2008年には安田さんは寮を出ていたが、2万7000円の寮費分を差し引いても、直接雇用になって手取り額が増えたことは明らかだ。
 貯金はできず、車の免許を取ったものの、ローンが組めないために車も買えない。CDや洋服を買う余裕もなく、外食ではお金が持たないので、食事は全て自炊だったという。

 「それでも、他に帰る場所もないし、就職活動をするにもできない状態なので、働くとしたらこの場所しかないかな、と考えていました」

◇偽装請負を告発して直接雇用を勝ち取る
 自分が偽装請負で働かされていると安田さんが知ったのは、2005年11月に JAM神奈川ジェコー労働組合 に加入した時だ

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日研総業からジェコーに派遣された際の安田さんの雇用契約書には、第1条に「請負業務に従事する」とある。典型的な偽装請負だ。偽装請負の内部告発をした後の契約書では、請負業務ではなく派遣業務に変わっている。その後、直接雇用の期間工となったが、更新の際の雇用契約書では、5.特記事項に、本契約をもって「期間工」の契約は終了とする、とあり、4月からは6ヶ月間の期間従業員となった。7年間の夜勤勤務で体調を崩した安田さんは、不眠症や胃炎と診断され、診断書や傷病手当金請求書には、夜間勤務によるストレスが原因と明記された。その後、うつ病と診断され、精神科に通うが回復が思わしくなく現在に至る。労組がまとめた「分会長(安田さんのこと)労働時間」表を見ても、今年4月以降はほとんど出勤できない状態が続いている。

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労働者の声2014/01/31 08:55
2014/01/24 14:45
労組様2008/12/03 11:38
元デンソー社員2008/11/26 17:19
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