オファーレターからわかるコンサル年収バブル&就職・転職ブーム
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各社の内定通知書(オファーレター) |
コンサル会社の記事がよく読まれている。なかでも、採用と年収に関する記事はニーズが高い。今や私学の就職先人数のランキング上位はコンサル会社で埋め尽くされ、実質的に仕事内容が被るSIer(SE→プロマネのキャリアとなる)と合わせると、ゆうに過半を占めるに至った。バブル期の銀行状態である。
下記のとおり、早稲田はSIer(青色)が多く、慶応はコンサル(黄色)が多い。これは私が把握する限り90年代からの傾向で、採用活動を通じてカラーが引き継がれている。
気合と根性で理不尽な泥臭い仕事も命令どおりこなすイメージの早稲田はマスコミ(バブル期の日経36人は驚くばかり…)やSI(システム・インテグレーション)に向いており、ロジカルでスマートな合理主義イメージの慶応は金融・コンサルが強い。コンサルは、全体の採用数が増えた結果、上智・理科大・MARCH出身者も、かつてに比べ激増している。
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DX人材(コンサル+SI)は、その社会的ニーズの高さから人気ナンバーワンの職種となった。この両者に続く3番手が、バブル期に隆盛を極め上位を独占していた金融(銀行・証券・保険)。
ソニー・パナ・トヨタといった日本企業の代名詞的なグローバルメーカーは、完全に圏外へと消え去った。理系人材が多い国公立大では、ちらほら上位に入っているものの、私大の上位は国際競争のない(つまり外国人との競争がない)国内向けの営業&サービス業ばかりになってしまった。
なかでも、金融庁〝護送船団〟の金融会社(銀行・保険・証券)ばかりがランクインしており、これは国の弱体化を表す。競争政策の失敗で、外資の存在感がない。本質的なグローバル競争のない「ぬるま湯」市場で、主に情弱相手の手数料ビジネスによって高賃金を謳歌している醜悪な構図になっており、世界で勝てる人材が育つはずもない。付加価値を生み出す人材が育つループに欠ける日本経済は、緩やかに安楽死へと向かっている。
世界の成長市場から稼ぐ総合商社が早慶から数百人ずつ採って、どんどん人材を外部に輩出する流動性の高い労働市場が形成されてはじめて、日本経済は好転に向かうだろう。
マスコミでは「初任給30万円超え」が話題だが、コンサル会社は初任給で年収600万円台の争いとなっており、PWCは665万円だ。たとえば600万円のベイカレントはほとんどボーナスも固定でブレないため、月収換算で50万円である。30万円で騒いでいるマスコミがいかにズレているかわかるだろう。
3分の2だった給与水準
私は1999年10月~2004年9月までPWCコンサルティング(名前は4回変わり、最後2年はIBMにグローバルで買収されたが現場は同じ)に在籍していたので、それから20年を経て、待遇面の違いには驚くばかりである。
初任給・社員数でBIG4トップのPwCコンサル、Hot Skill Bonus剥奪で7~8%減俸へhttps://t.co/mJD3bUxKzv
— MyNewsJapan (@MyNewsJapan) January 16, 2025
ベイカレント〝コンサルバブル〟で年収相場も上げ潮、シニコンで1100、マネージャー1400万円に https://t.co/NhYqXg3C3C
— MyNewsJapan (@MyNewsJapan) September 9, 2024
90年代は終身雇用が当り前で、コンサル会社は「外国かぶれの帰国子女」や「ちょっと尖った変わり者」が行くところだった。当時、会計事務所系の総合コンサル会社は、アンダーセン(現アクセンチュア)とプライスウォーターハウスが既に100人規模の新卒採用を行っており、私の同期にあたる人たち(96年新卒)は、やはり今と変わらず慶応が多く、留学組や海外大卒(アイビーリーグとかじゃない)もそこそこいた。トーマツコンサルティングはまだ小規模でSIに手を出しておらず、EYとKPMGは存在感ゼロだった。
今と違うのは給与水準である。新卒アナリスト420万→コンサルタント540万→シニアコンサルタント730万→マネージャー900万→シニアマネージャー1200万、パートナー2千万~。当時のPWCは外資100%だったからアップオアアウトな厳しさもあり、福利厚生はゼロだから、雇用が不安定な割に賃金が異様に安かった。
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当時のIBM「BAND8」(マネージャー相当)契約書![]() |
私は新聞記者職からのキャリアチェンジとあって、27歳540万で中途入社し(実質300万円下げた)、31歳でマネージャー900万、32歳時にプロフェッショナル・コントラクトという名の非正規契約社員(981万円)で辞めたから、一度も1千万円を超えず、落ちこぼれコンサルのまま独立している。
副業としてこのサイト(MyNewsJapan)を始め、初年度およそ500万円の売上が建ち(だから辞めることができた)、創業2年目は約1千万円、3年目は約2千万円、4年目は約4千万円(そこでリーマンショックがきて打ち止め)と倍々ゲームだった(→『やりがいある仕事を、市場原理のなかで実現する!』参照)。
創業の初期段階では、並行して半年間、失業手当も受け取り、8年間も支払った雇用保険料分はゆうに回収した。失業手当には、独立初期の生活資金という機能が、現実としてはある。
やっと今年からリモート化が始まったが、当時は月1でハローワークに出頭させられ「(独立起業も視野に入れつつ)失業中で就活してます感」を出さなければならず、実にばかばかしかった。保険料をきっちり納めてきたんだから、いざ雇用を失った時には、おとなしく出すものを出せ、起業振興こそ国策だろう――という話だ。私は、この手の建前でしかないお役所仕事(失業認定)が大嫌いである。
なお、当時からマッキンゼーやBCGといった戦略系コンサルは100~200人規模の少数精鋭組織として存在しており、新卒採用は年3~5人だけ、平均の学歴が東大院卒(東大学部卒だとやや劣る)、大企業の社費留学で有名大MBA取得者が帰国して転職するところ――という別世界があり、年俸も2~3倍だった。今では規模も拡大し、ずいぶん入社のハードルが下がった。
各社が年1千人規模の採用
その後の20年間で、コンサル会社の年収水準は1.5倍になった。PwCコンサルティングの新卒採用の初年度年俸は2025年現在、665万円(院卒は685万円)で、毎年100~200人のマス採用を続けている。中途採用のボリュームゾーンである20代後半~30代半ばのシニコン採用では、大台(1千万円)を提示できるか、という競争になった。
ベイカレント・デロイト・PwCは既に5千人規模で、離職率は年10~20%と高めなので、年500人しか採用できないと、現状の規模を維持するのが精いっぱいとなり、縮小もありうる。売上を拡大するためには年1千人規模の採用が必要だ。
当然、オファーレター(内定通知書)は飛び交い、軒並み、候補者から蹴られている。特に下位のコンサル会社は、採用数の何倍ものオファーレターを連発する必要がある。コンサルに向いている経歴の人(典型例が、SIerでSE歴5年など)は、受ければ各社ぜんぶ受かるから、あとは条件交渉になる。最大限の条件を引き出してからの、候補者から企業への〝逆お祈りメール〟も普通に発生している。
働き手としては、積極的に情報を共有し、コンサルへの就職・転職活動に臨む必要がある。労働条件をめぐる情報が分断されていると、労働者側にとって不利となることは明らかだ。労働組合法の理念(労働者が情報を持ち寄って団結し使用者側と対等に交渉する権利は保障されている)に沿って、相場は知っておかねばならない。
中途採用市場では、マネージャー層をコンサル未経験でいきなり採用するケースは稀だ。圧倒的多数が、その前段階にあたるシニアコンサルタント(20代後半~30代中盤)か、さらにその手前のコンサルタント(新卒で1社3年経験くらい)のランクでオファーを出す。
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PwCコンサルティング(アソシエイト2)の内定通知書![]() |
右記はPwCのコンサルタント(ようは新人ランクから1つだけ上がったランク)であるが、評価によって年収がどう変わるかと、その分布まで示しており、誠意はみせている。
上位の評価者は全体の35%~40%を占めていること。Tier2だと88万円プラス、Tier1だと152万円プラスであること。ただし、一時的に上積みしているHot Skill Bonus月5万円分は、次年度の状況次第で剥奪するかもしれないこと。これならば、納得性は確保されており、トラブルにならない。いろいろ、芸が細かい。
いろいろ見劣りするアビーム
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アビームコンサルティング(シニアコンサルタント)の内定通知書![]() |
オファーレターからは、各社の特徴がよくわかる。多くのコンサル会社が、時間外労働については定額制(固定残業手当)とし、残業時間に関係なく、残業ゼロであっても支払う契約になっている。だが、アビームだけは実残業時間制になっており、リスクが高い。JTCの雄・NECの子会社らしさが出ている。
アビームは、業績が悪化したり、アベイラブル期間が長くなると、プロジェクトに入っていない間は、まるまる残業代をゼロにしてコストカットしたいようだ。「理論年収試算表」(右記参照)では、月30時間×12ヶ月をカウントしているが、これは営業活動が不調でプロジェクトがとれなかったら、絵にかいた餅になって貰えないわけである。
シニコンに営業責任はないのだから、理不尽でしかない。定額残業代制度(または定額の裁量労働手当)になっていないコンサル会社は、成果主義ではなく、〝IT土方〟のような労働環境が想定されている。コンサルのアウトプットは、労働時間で測れるものではない。典型的なホワイトカラー業務といえるコンサル職に、残業という概念は合わない。
アビームはコストカットばかり考えていて、他社に比べ、給料を払う気がないことがよくわかる。貰えるか不明な残業代に加え、入社準備金50万円、サインオンボーナス100万円を積むことで、初年度の年収をかさ上げしている。つまり、2年目には年間300万円超が下がるかもしれない、ということだ。
規模と年収で三つどもえの争いを続けるビッグ3(ベイカレ、PWC、デロイト)と張り合うための苦肉の策が、かえって苦しさを演出してしまっている。
シニコン1000~1100万円の攻防
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EYストラテジー&コンサルティングの労働条件通知書 兼 雇用契約書![]() |
EYストラテジー&コンサルティングは、シニアコンサルの採用(右記参照)で、入社一時金50万円をつけて、初年度ギリギリ1千万円(標準評価の場合)に載せている。パフォーマンスボーナスが最高評価の場合はプラス160万円だと記すが、評価など上司ガチャとプロジェクトガチャでどうなるかわからない。
まだその会社で働いたことがない応募者にとって必要なのは安心感であり、それはすなわち、最低保証される金額、ベース給の部分である。PWCが2022年度からボーナス比率を下げてベース給を上げたのは、採用における優位性を考えた合理的な結果であろう。
結果的に同じ額が支払われるにせよ、ボラティリティが高すぎると、二の足を踏んでしまう人がでてくる。なぜなら、まだ働いたことのない会社には、雇用主としての信用が何もないからだ。
現在のところ、20代後半シニコン採用なら「標準評価で1000万円」、30代シニコン採用なら「標準評価で1100万円」を基準相場として要求してよい。シニコン1200万は聞いたことがないが、ベイカレなら交渉次第で可能かもしれない。
潔く安定度も高いベイカレント
ベイカレントコンサルティングは、実に潔い。すっきり、きっちり、歯切れよく半端なしで、細かいことに無駄な労力を使わない。想定年収のほうを100万円単位で揃え、そこから逆算して、固定残業代込みの月給と年間賞与2か月分に分配している。
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ベイカレントコンサルティング(シニアコンサルタント)の内定通知書![]() |
いろいろ細かい芸を繰り広げてごまかそうとしている上記3社と比べ、圧倒的にざっくりしていて、かつ骨太で、水準も高く、気持ちがよい。
もとより社内の人事処遇制度がそうなっていて、わかりやすいのだ。成果をあげて昇格すると、本当に100万円単位で年俸が毎年、上がっていく。JTCの人事部が大好きな、自己満足の細かい評価制度や、複雑怪奇な給与テーブルなどない。
しかも、ボーナスは、基準が夏冬1か月ずつの計2か月で、シニマネ以下なら、上下5%しかぶれない、という。つまり、ボーナスのほうも、ほとんど固定されているようなものだ。
きっちり仕事をして、がっつり稼ぐ。金払いはよい。すっきり爽やか筋肉質の体育会系なところが、ベイカレントのよいところだろう。採用試験の話は、以下に詳しい。
年1千人超採用&見た目重視のベイカレント「採りのポイント」はL・C・M・S――面接官が語る人物評価の実際 https://t.co/hvGFzDwaz5
— MyNewsJapan (@MyNewsJapan) September 20, 2024
いつまで続くのか
ここ5年ほどは加熱ぎみで、実力以上の賃金が支払われているバブル状態にもみえる。以下の5重奏によるシナジーが、コンサルバブルを生み出している社会情勢である。
①社会のデジタル化にともなう旺盛なDX投資需要と②厳しい解雇規制(自社では抱えられない)を背景として、③アベノミクス(2013年)以降の金融緩和で投資資金はじゃぶじゃぶとなり(一方で投資先はなく内部留保が過去最高を更新し続け)、④発注権限者のサラリーマン化で〝コンサルのカジュアル利用〟が進み、⑤コロナ禍以降のリモートワーク常態化でコンサルがプロジェクトを掛け持ちしやすくなった(クライアントを騙しやすくなった)――。
以下で詳しく解説している。
PwC「現場は〝やさしい、コンサル。〟でもないです」――社員が語る『採用』『儲け方』『働き方』の実情 https://t.co/DtzNXEl4rU
— MyNewsJapan (@MyNewsJapan) January 20, 2025
元BCGプロマネが語る〝日本企業の空洞化〟でコンサルぼろ儲けの構造――解雇規制、働き方改革、リモートワーク…「ゴールドラッシュです」 https://t.co/NMwD7x6aNa
— MyNewsJapan (@MyNewsJapan) October 1, 2024
いまのところ、上記のような事業環境は、容易に変わりそうにない。
リーマンショックのようなグローバル経済危機が起きると支出が即ストップされる定番が、4K(公告宣伝費・交際費・交通費・顧問料=コンサルフィー)であった。不要不急で、エッセンシャルでもなく、先延ばししても支障はないからだ。
だが、この10年のコンサルカジュアル化によって、「市場調査が面倒臭いからコンサルにやらせよう」といった単純な外注先としての利用法も根付き、必要不可欠なサービスになってきた面もある。AI化やDXは、継続的に進める必要があり、クライアントの社内にそのノウハウを持つ人材は乏しい。以前に比べれば、産業としてかなり定着しつつある。
相変わらず労働時間は長いが、私がコンサル会社にいた20年前は完全なる無法地帯で9時5時勤務(朝5時まで働かないと終わらない業務量)&残業代という概念ナシ(定額残業代も裁量労働手当も一切ナシ)だった。コンプラという概念が出現した今の若手は、ディーセントワーク(人間らしい労働)&高賃金で、日本の労働史上、過去一ともいえる恵まれた環境に感謝すべきだろう。
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コンサルがクライアントを騙しやすくなったってさ。クライアント側が賢くならないとなあ。
id:shinobue679fbea あくまでシニコンの相場だからでは。年齢じゃ無くて役職で給料決まる世界ですよね。
個人的にタイムリーな記事だ。しかし30代標準で1100、1200は聞いたことがない、か。案外低いね/エージェントに相談したら、35歳以上で1100でコンサル行くとキャリア詰むぞって言われたw
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