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トヨタ系のファインシンター、最低賃金以下で障害者を違法雇用

情報提供
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休日に自宅でくつろぐ山崎哲男さん(20歳=仮名)。会社は、労基署の許可なく最低賃金を下回る給料で彼を働かせていた。
 自動車部品などを製造するトヨタ系列の㈱ファインシンターが、労働基準監督署の許可を得ないまま、最低賃金以下の給料で、違法に知的障害者を働かせていたことが発覚した。同僚や労働組合の働きかけによって労基署が動き、不足分賃金の支払いを命じられたものの、昨年7月の最低賃金法改正にともない「減額特例」が適用され、今度は合法的に最賃以下に。特例で必要となる、給料を下げるための能力テストなどの問題点も浮かび上がってきた。会社はこの違法行為について、当事者と保護者に対し謝罪をしていないという。
Digest
  • 両親と弟妹を支える20歳の大黒柱
  • 夏は室温40℃以上・湿度70% 最低賃金以下で働く障害者
  • 最低賃金の適用除外制度と減額制度とは
  • 給料を下げるための作業能力のデータ採取
  • 月に20万円で5人が暮らす障害者家族の実態
  • 違法を指摘され未払い賃金支払い

両親と弟妹を支える20歳の大黒柱

11月の晴れた日曜日、愛知県春日井市内のアパートに住む山崎哲男さん(仮名=20歳)を訪ねた。彼の両親と18歳の弟、15歳の妹の5人が、2部屋で暮らしている。

山崎哲男さんは、自動車の粉末冶金部品などを手掛けるトヨタ系列の㈱ファインシンターで、客先から返却される製品を入れる箱を洗浄する仕事をしている。知的障害を抱えながらも、20歳にして一家で唯一の働き手だ。

父の哲正さん(55歳)は、鹿児島県出身だが17か18歳のときに愛知県に移り住み、トヨタ関連の企業に10年以上勤めたこともある。ところが糖尿病と心臓病を患い、また脚も悪く、ちょっとした傷でも壊疽(えそ)を起こしてしまう可能性があり、治療の毎日で働くことはできなくなってしまった。そのために弱冠二十歳の哲男さんが唯一の働き手なのである。

実は、哲男さんは知的障害のBと認定される障害者だ。IQ75以上が健常者とされ、名古屋市以外の愛知県では判定BはIQ36~50のレベルだという。実際に会ってみても、穏やかできちんと応対し、12~13歳の少年がそのまま20歳になったような印象を受ける。周囲の理解があれば複雑でない仕事ならできる。

18歳の弟も知的障害B、15歳の妹は知的障害Aであり重度だ。夫が病気で3人の子供に障害があるため、母親(43歳)は、とても外には働きに出られない。

 父親の哲正(仮名)さんが、これまでのことを話してくれた。
 「小学生の頃、哲男に障害があるとは気付かなかったんです。普通のクラスで過ごしていました。それがだんだん、勉強についていけなくなり、小学校6年のときに先生から 、中学は養護学校に行ったほうがいいのではないかと勧められたのです」

養護学校と職業安定所を通して、いまの職場に応募しました。養護学校時代に研修のような形で今の会社に少し通ったこともあります」

夏は室温40℃以上・湿度70% 最低賃金以下で働く障害者

(株)ファインシンター
創立    1950年12月14日
資本金   22億300万円
社員数   1037人
主要株主  トヨタ自動車株式会社(20.8%)
株式会社デンソー(5.0%)
KYB株式会社(5.0%)
主要製品   自動車用部品 (86.1%)
※同社ホームページより

㈱ファインシンターは、主にトヨタ自動車や鉄道関係の冶金が中心の業務である。水野豊社長は、北米のトヨタ モーター マニュファクチャリング・ウエストバージニア(株)社長を経て同社代表取締役に就任した。山崎さんが働くのは、愛知県春日井工場だ。工場内で部品や製品を入れる箱を洗う仕事である。

工場内敷地内にはいくつもの建物が並び、緑色の大きなテントの建物が山崎さんの働く場所だった。この中に洗浄する機械がある。山崎さんのほかに障害者が1人、健常者の社員が1人。この3人が洗浄作業を担当していた。

箱が山のように積まれ、目で見てゴミがあれば手で取り除くなどし、洗浄装置に入れてスイッチを押す。そのほか箱を拭く作業もある。昼休み時間意外はとくに休憩時間もなく、次から次へと単純作業をこなさなければならない。

テント式のためか、夏場は室温が40℃以上、湿度が70%以上のこともあるという。山崎さんの同僚が、愛知県産業保健推進センターで借りたBWGT(熱中症測定器)で測ったところ、夏場で天気の良い日は発症危険域であることがわかった。

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 (上)入社前にファインシンターが示した労働条件。最低賃金を下回っていた。(下)山崎さんの保護者あてに会社が出した文書。最低賃金の適用除外を申請するための書類を出すようにということだが、結局この「適用除外」の許可を得ないまま、給料を削っていた。

山崎さんが労働条件を示されたのは2007年の10月5日。半年ごとの契約更新であり、日給月給は11万3900円。時給に換算すると700円で、山崎さん入社の08年4月当時の愛知県自動車関連産業最低賃金(輸送用機械器具製造業最低賃金)820円より下回っているばかりか、愛知県最低賃金(全産業)の714円も下回っており、障害者を法律に反して最低賃金以下で働かせていたのだ。

実は、最低賃金法では、障害者を最低賃金以下で働かせることが可能になっている。小泉政権下で障害者自立支援法が成立し2006年10月1日に本格施行された。「自立」とは名ばかりで障害者と家族に経済的負担を強いる法だとして、大きな反対運動がいまだに続いている。同法の本格施行にともなって進められたのが、「最低賃金の適用除外制度」なのである。

もちろん厳しい条件を満たす場合に限り、障害者を最低賃金から除外するもの。障害者の就職は難しいから、最低賃金「適用除外」制度があれば企業は雇いやすくなり障害者の就労を促進する、というのが表向きの理由だった。

障害者の雇用促進が一部では見られたかもしれないが、経済的に苦しい障害者が、さらに低賃金で働かなければならない事態が起きているのも事実だ。今回問題が発覚した㈱ファインシンターの山崎哲男さんもその一人である。

入社当時、当人も家族も、最低賃金法の適用除外が労基署に正式に受理されていないまま最低賃金以下で働かされていたことなど気付いていなかった。むしろ、半年ごとの契約であれ、就職口があるだけでも喜んでいたという。

最低賃金の適用除外制度と減額制度とは

こうして2008年4月から山崎哲男さんは「けっこう仕事大変」と言いながらも頑張って仕事をつづけていた。しかし、どう考えてもおかしな事態が明るみになり始めたのは、就職して翌年の09年4月ごろのことである。

前述のように、箱を洗浄する部署には山崎さんの他にひとり障害者がおり、健常者の黒崎真人さん(37歳=仮名)も箱洗浄部署で働いていた。この黒崎さんが、おかしさに気付いたのだ。

「障害をもつ彼らと働くようになって給料のことを聞いたときに、ずいぶん時給が少ないな、と感じたのが最初のきっかけですかね

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ATU(全トヨタ労働組合)や両親が労基署に是正を求めた結果、許可なしに最低賃金を下回っていた分を支払う、と会社が表明した文書。

山崎さんの給与明細書。左下に表示されている「その他手当」に未払い分の賃金が表示されている。労基署の指示にしたがって会社はこの金額を振り込んだ。

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I112009/12/20 00:21

労基署が動いたら合法的に最賃以下にさせられたというのがさらにひどい。株式会社ファインシンターhttp://www.fine-sinter.com/

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読者コメント

名無し2010/01/05 11:36
2010/01/03 21:15
トヨタ系社員2009/12/26 08:35
違う話ですまない2009/12/25 13:06
プリン2009/12/20 07:40
@@2009/12/18 23:01
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