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味の素、“大木”に寄り添う社員たち 課もないのに課長だらけ、年齢給は50歳まで上昇

情報提供
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Ba 普通の企業
  【大木しがみつき型】
(仕事3.5、生活4.0、対価3.0)
 「会社が潰れないだろうと思って入社する人が多い。就活生の訪問を受けると、あまりに多くて頭にくることも。中途採用で来る人も『お金じゃ買えないものがあるから』とよく言う。前職でバリバリ働いたので、ウチではのんびりヒトとしての幸せに走るという。そんな人ばかりになったら会社が滅びるんじゃないか。人間らしさを保ちつつもっと稼げばいいのに…」(中堅社員)。食品業界は不況に強く、なかでも調味料・食品添加物の業界トップ企業である味の素には、安定した大企業の甘い蜜を吸わんとする人材が次々と吸い寄せられてくるのだ。
Digest
  • 年7.1ヶ月も出るボーナス
  • 橘・フクシマ・咲江氏が社外取締役に
  • 本社社員の半数以上が課長以上
  • 8年目イーグル、9年目バーディー、10年目パー
  • 入社20年後までほとんど差がつかない
  • 年10万円超の組合費
  • 1:1で10人と面接
  • 5~6年目までに異動
  • 技術が流出するリスク
  • 出身はインテグレート藤田氏くらい
  • 辞めて5年以内なら復帰の制度
  • 「人がいい」タイプばかり

年7.1ヶ月も出るボーナス

「寄り添える大きな木は欲しい。その中でなるべく自由にさせてほしい、という人向きですかね」。若手社員もそう言う。味の素は、確かに“大木”である。同社推定によれば、家庭用の「うま味調味料」という市場でシェア86%など、軒並み圧倒的なシェアを持つ。主要製品で1位でないのは、キューピーが圧倒的に強いマヨネーズ(2位)だけ。大企業志向が強まるなか、その代名詞的な存在として見られるのも仕方がない。

特定市場における独占的な地位は、成り立ちは全く異なれど結果だけ見ると、いわば原発事故前の東電のような状態(競合は畑が微妙に異なる東京ガスくらい)で、生ぬるい環境。「原材料表示に『調味料(アミノ酸等)』とあったら、ほぼウチの製品だと考えていい」(若手社員)というほどで、最大手の食品添加物企業でもある。2011年3月に亡くなった元社長の稲森俊介氏をはじめ、日本食品添加物協会の会長は代々、味の素出身者(鈴木武、佐々木晨二…)が務める。

それだけに、同社にとっての原発は、製品の中核的な原材料にあたるアミノ酸やその化合物に発がん性など安全面での疑いが出てくることくらいであるが、現状では、同社が製品に使用している種類のアミノ酸および化合物からは、その兆候は見えていない。(アミノ酸には多くの種類があり、もともと毒があって食べられないものもある)

砂糖の200倍の甘さを持つ同社開発の人口甘味料「アスパルテーム」(商品名「パルスイート」など)も、かつては安全性に懸念をもたれていたが、特定の遺伝病を持つ人を除けば問題なしとして、生協も9年前に取り扱い制限を解除。今や世界中で認可され、使用されている。アミノ酸技術を核に独自の市場とブランドを創出してきた様は、コカコーラにも似ている。しかも、まだ世界展開が進んでいないだけに、伸びしろは大きい。

こうした環境のもと業績は安定し、かつ社長がサラリーマンの上がりポストである味の素のような日本型企業では、自然と労使協調になる。社員が「御用労組」と口を揃えるように、今年は震災を理由に春闘すらやらなかったが、2011年度のボーナスは年7.1ヶ月と高水準を維持。8ヶ月を超えていた時期もあったが、業績連動方式でもないためリーマンショックで凹むこともなく、ここ数年は7ヶ月程度で安定している。平均年収の913万円(3,310人、平均40.2歳、2011年3月期)も、食品業界ではキリンビールと並んでトップクラスである。

橘・フクシマ・咲江氏が社外取締役に

このように強い競合が見当たらず環境がユルいと、冒険する必然性がない。なんとしてもグローバル企業になる、といった志の高さでもない限り、楽天やソフトバンクのようなオーナー企業でもない味の素が、あえてリスクをとって積極的に海外に出て行く必要もないわけである。

伊藤雅俊社長はグローバル化について、特に社員を鼓舞することもなく、公式発表資料以上のことは社内にも発信していないという。それはつまり、現状31%(2010年度)にとどまる海外売上高比率を、2013年度に35%、2016年度に40%が目標だとしており、2011年2月発表の中期経営計画では、2016年度以降に時期を定めず「グローバル食品メーカートップ10へ」という曖昧な“願望”を掲げるに留め、コミットメントを避けている。

グローバル人事担当として、2011年6月には、G&Sグローバルアドバイザーズ社長の橘・フクシマ・咲江氏を社外取締役として招聘した。咲江氏は、2000年より10年にわたって世界最大のヘッドハンティング会社コーン・フェリー・インターナショナルの日本代表を務めた人物で、海外展開のためのトップ人材を採用したい意向の表れと考えられる。だが足元の新卒採用はというと、要となるグローバル人材育成について、中期経営計画のなかで「例:国内新卒採用の10%を多国籍に」と記述。例示している目標数字まで低く、保守的だ。

サムソンなど韓国勢との熾烈な生き残り競争から逃れられないパナソニックや、「ZARA」「GAP」「H&M」といった海外のSPA(製造型小売業)・ファストファッション勢と戦うユニクロが、既に新卒採用の半数以上を外国人にしてまで社内に危機感を植えつけているのに比べると、グローバル化戦略はいかにもやる気がなく、周回遅れに見える。日本人をグローバル化するのではなく、従来どおり現地の子会社で現地の人を採用し地道に現地化を進めるのが基本線だ。

本社社員の半数以上が課長以上

こうした、サバイバルや悲愴感のかけらも感じさせないノンビリした動きに危うさはなく、逆に手堅さがうかがえ、終身雇用・大企業安定志向の学生からの人気に拍車をかける一因ともいえる。

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味の素のキャリアパスと報酬水準

典型的な古い日本型大企業である味の素では、年功序列・終身雇用が当り前。希望退職の募集を含むリストラも、一度もしたことがない。現状では、全員が歳を重ねれば、課長(ランク「K2」)に昇進でき、降格もなし。それでは一体どれだけたくさんの課があるのかというと、課は存在しないという。

つまり、日本語としてはおかしいが、課の長ではない課長職、課長クラス、担当課長のことを、社内用語として「課長」と呼び、対外的に名乗らせている。「京橋の本社では、課長以上の人が確実に社員の半数を超えています」(中堅社員)

どうしてそうなるのかは、同社の硬直的な昇格制度による。Lコース(全国転勤アリの総合職)の新入社員は、「L2」からスタート。抜擢人事はなく、ここに最低でも7年間はとどまる

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50歳まで年を食うだけで上がっていく味の素の年齢給と実力給の推移

現場組織(営業)

味の素の36協定。これが残業代の上限ということにもなる。

評価詳細&根拠

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  2016/05/05 23:32
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