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キユーピーパワハラ事件 管理職に残業200時間を強制する“奴隷待遇”の実態

情報提供
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画像1 原氏のパワハラに関係するキユーピー歴代社長。左下が大山轟介(99年2月~02年2月)。右上が鈴木豊(02年2月~11年2月)。右下が三宅峰三郎(11年2月~)
 マヨネーズで有名なキユーピー社内で、悪質なパワハラに遭い、奴隷のようにこき使われ、うつ病に陥って人生を台無しにされたとして、東京地裁に提訴している社員がいることが分かった。その社員は、上司から毎日のように「お前なんかいらないから、辞めろ!」と罵声を浴びせられ、その上、過労死ラインの三倍を優に上回る残業時間を強いられていた。その結果、うつ病になり、5年以上も入退院と休職を繰り返し、労災認定。ついには精神障害者三級の手帳を交付されるまでに悪化した。その間、キユーピー本社は、なんとそのパワハラ上司とうつ病社員の2人だけの部署を作るという信じがたい対応をとっていた。
Digest
  • 「課長は残業がつかないから、いくらでも働け」
  • 「オレは全部休むから年末年始たのむわ」工場長
  • 労基署から改善命令が出ても不正を指示
  • 出勤途中の電車内で左胸に激痛が走りダウン
  • パワハラ工場長との「2人部署」を創設するキユーピー本社
  • 「会社に非を認めさて、あなたが納得できればうつ病は治る」
  • 「和解して守秘義務があるので答えられない」キユーピー本社

「課長は残業がつかないから、いくらでも働け」

筆者がこの事件を知ったとき、すでに裁判は和解交渉に入っていた。念のため、原告の代理人「銀座通り法律事務所」田中省二氏に取材を申し込んでみたが、「和解の最中なので非公開で取材に応じることはできません」という。

そうした事情から、事件の実態を知るため、裁判記録に基づき、調べることにした。キユーピーパワハラ事件は、次のようなものだった。

パワハラを受けたと訴えたのは、50代前半の男性、原智雄氏(仮名)。原氏は静岡県に校舎を置く私大を卒業後、1980年代半ばにキユーピーに入社した。配属先は、佐賀県鳥栖(とす)市にある鳥栖工場の製造課ベビーフードフィラー(充填)係だった。その頃は充実した日々だったようだ。当時について、原氏は次のようにつづっている。

「結婚前までは1カ月150~200時間の残業を体力と気力で乗り切る。良い上司、諸先輩の指導を受け、技術、技能、知識を習得でき、仕事が面白かった。残業は多かったが、苦にならなかった」

入社から3年後、原氏は結婚した。部下もでき、残業は半分の100時間に激減したという。その後、90年代前半には、愛知県豊田市にある挙母(ころも)工場に転勤。それから数年後、係長に昇進。90年代後半には課長になった。昇進にともない残業手当は一切つかなくなった。当時の残業は1か月50~80時間だったという。

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画像2 上が京王線中河原駅。駅から徒歩3分に工場がある。下がキユーピー中河原工場。〒183-0034 東京都府中市住吉町5-13-1

そして2000年10月、東京都府中市にある中河原工場の業務用マヨネーズ部門を担当する製造4課に転勤した。

実はその4カ月前、同工場内で、問題が発生した。要冷凍のマヨネーズを常温で保管するというミスが発生し、細菌性の高くなった製品を出荷して、ユーザーからクレームがきたのである。こうした問題が起きた工場の立て直しを期待されて、原氏は東京にやってきたという。新天地での部下の人数は、パート数名を含めて約30名。残業は1ヶ月50時間だったという。

ここまでは順風満帆といえよう。人生の歯車が狂ったのは2002年からだった。

2002年10月、工場内の製造4課(マヨネーズ部門)と製造5課(ドレッシング+ゆで卵部門)が統合され、製造3課となり、原氏はそこの課長に就任した。部下はパート200人弱を含め、計300人という巨大な課だった。

新たに工場長になったのは、鎌池(仮名)という人物だった。鎌池氏の風貌について、原氏は、こんなエピソードを記している。

「ある日、パートタイマーから『さっきから、あそこで目つきの悪い人が腕組みして、こっちをじっと睨んでいるけど気持ち悪い』と言われたことがある。『あれは工場長だよ』と教えると、『こっちは安い賃金で必死に汗を流して働いているのに、一言も声をかけてくれない。前任の工場長とは全然違うわ!』と嘆いていた」

その鎌池工場長は、驚くべきことに、新体制発足直後の10月10日の定例会議(週2回、課長以上が出席)で、こう言ってのけたという。

「これから権限はすべてオレが持つ。課長は言われたことだけをやれ。オレに逆らうな」

「できない課長は年度中でも異動させる」

さらに、就任したばかりの原氏に対し、こう言い放ったという。

「こんなに歩留まりが悪いならば、お前なんか辞めろ」

ちなみに「歩留まり」とは、「生産する製品のうち、不良品でない製品の割合」を指す。通常、製品の多くはすべて出荷できるわけではなく、一定の割合で不良品が含まれる。歩留まりが低いと、原材料費や製造コストの無駄が大きくなるため、企業の収益を圧迫する要因とされている。(IT用語辞典 e-Wordsより)

歩留まりの低い主因は、ゆで卵部門だった。そもそも中河原工場の製造するゆで卵は、コンビニのおでんや、中華の冷たいめんに入れるもので、キユーピーの関東地区のゆで卵生産を一手に引き受けていた。そのため、生産は365日体制で毎日深夜まで稼働していた。

後述するように、原氏は、ゆで卵部門の歩留まりが低いことを理由に、散々いびられることになる。だが、そもそも歩留まりの低かったワケは、原氏によると、「卵購入担当者が、夏場に、品質の悪い黄身の偏った卵を大量に500トン近くも仕入れたため、不可避的に歩留まりが悪くなった」というもの。要するに、原氏のせいではない。

ゆで卵部門には、もう一つ問題があった。受注が増える一方で、受注数量はすでに生産能力を大幅に超えていたのである。そのため、原氏は、人員を増やす必要があると鎌池工場長に相談した。すると、こう怒鳴られた。

「人の採用はすべてオレが決める。当分、採用しない。いる人間でやれ!」

さらに、こう言った。

「人が足りないならば、課長がラインに入ればいい。残業代がかからないからな」

「課長以上は、残業はつかない。いくら仕事してもいいぞ。ラインが終わるまでは帰るな」

こうして新体制直後から、原氏の生活サイクルは一変した。

午前5時起床。6時出社。7時には、ゆで卵の製造ラインに、自ら一工員として参加。9時~17時までは、3部門を管理、監督。17時以降は、ゆで卵の製造ラインに再び自ら一工員として参加。23時~0時頃、ようやく終業し、午前1時ごろ帰宅。入浴、夕食を済ませ2時ごろ就寝。こんな生活が何カ月も続いた。

そんな激務の中、工場長の鎌池は、耳にタコができるほど、こう言い続けた。

「なんだこの数字は!」

「お前なんかいらないから、辞めろ!」

さらに目標とする歩留まりと、実際の数字との差益を、毎月、責めた。

「10月の1,200万円の数差損をどうする気だ。9月までの利益がすべてなくなった。お前のせいだ」

「なんで11月の数差が1,300万円も損になるのか! ラインを見ているのか! どうするんだ。この累計2,400万円もの損! 責任取れ!」

さらに、鎌池には、こんな聞き捨てならない発言もしていたという。

「工場長の賞与のパイの大きさは決まっている。一番成績のいい工場長から順に、好きなだけ取れるんだぞ。だから、オレはお前たちを目いっぱい働かせているんだ」

「オレは全部休むから年末年始たのむわ」工場長

そして、年が押し迫った12月28日、鎌池はこう言った。

「オレは12月29日~1月5日の間、全部休むから、工場長代行たのむわ。毎日、製造状況をメールしてくれ

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画像3京王線中河原駅は鈍行の駅。特急はそのまま通過する。原氏は、うつ病の症状が改善しない苦しさのあまり、この駅の特急に飛び込み自殺することを考え、駅のホームの端に立ちすくんだことも何度もあった。そのたびに家族のことが頭をよぎり、何とか自殺を思いとどまった、と記している

画像4キユーピー本社。屋上にはキユーピーのような絵が描いてある。本社前にはキユーピーの看板もかかっている。〒東京都渋谷区渋谷1-4-13

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karoshi-net-sendai2012/01/19 11:59

『「課長は残業がつかないから、いくらでも働け」』

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tolkine9999h2012/01/16 06:06

悪質だと思うけど、表に出てこないケースって他にも沢山あるのかなぁ。

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