微物鑑定はシロ、目撃ナシでも「お前は痴漢犯」 新人中学教師をイジメ抜く東京地検立川支部
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2012年7月20日、三鷹市内で開かれた津山正義さんの支援集会(紺色背広の男性が津山さん)。微物鑑定の結果や目撃者がいないこと、携帯電話の通信記録と「犯行」時間が重なるなど、津山さんを「痴漢犯」だとすることには多くの矛盾がある。 |
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- 「私は痴漢をしていない。無実です」
- 終業式と「納め会」の夜の悪夢
- 吉祥寺発仙川駅行きの「運命のバス」
- 携帯電話を操作した直後ににらまれる
- 「痴漢しましたね」「知らん」
- 「目撃者いる」「映っている」警察のウソ
- 保釈決定に抗告した検察の異常
- 同僚の先生や子どもたちに支えられて
「私は痴漢をしていない。無実です」
「痴漢をしたというのは身に覚えのないこと、僕は無罪です」
三鷹市立中学校の数学教師・津山正義さん(28)は訴える。2011年12月22日の夜、学校に忘れ物を取りに戻ろうとバスに乗っていたところ、痴漢の疑いで三鷹署に逮捕された。女子高校生の臀部を触ったというのだ。津山さんは否認した。だが、今年1月12日、東京地検立川支部は東京都迷惑防止条例違反の罪で東京地裁立川支部に起訴する。学校は自動的に休職扱いとなった。公判でも津山さんは一貫して無罪を主張、検察との真っ向対決が続いている。
「そもそもこんな内容で起訴すること自体がおかしい」と検察を批判するのは、弁護人の池末彰郎弁護士だ。
物証はない。手に付着した繊維片などを採取する「微物鑑定」の結果はシロだった。津山さんの手から、女子高校生が着けていた衣類の繊維はいっさい見つかっていない。目撃証言もなければ本人の自白もない。津山さんが痴漢をやったという根拠は、被害者の証言だけだ。
上のような事実を前にして、弁護人の池末彰郎弁護士は断言する。
「津山さんに犯人性はない。無実です」
物証がなくても津山さんのように逮捕され、裁判で罪に問われるのであれば、誰の身にも、いつ何時同様の災難が降りかかってもおかしくない。そして冤罪であっても、有罪判決が出れば仕事を失い、社会から葬り去られる。恐ろしい世の中だ、と筆者はつくづく思う。
津山さんも、偶然が重なって事件に巻き込まれた。
問題のバスに乗ったきっかけは、「財布」だった。この日、津山さんは財布を職場の学校に忘れてしまった。それを取りにもどろうとバスに乗り、「痴漢」の被告人になった。財布を忘れなければ、こんな目に遭うこともなかっただろう。
以下、津山さんの話をもとに顛末をたどりたい。
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津山さんが痴漢容疑で逮捕されたのは、財布を学校に忘れたことがきっかけだった。吉祥寺のバス停から仙川行きのバスに乗り、同乗した女子高校生から「痴漢した」と言われる。カバンが触れたのを誤認した可能性が高いと弁護側は言う。吉祥寺のバス停(上)と車内の様子(下=事件のバスとは車種が異なる)![]() |
終業式と「納め会」の夜の悪夢
津山さんが中学校教師に採用されたのは2010年春。数学の先生になるのが子どものころからの夢だった。なかなか合格せず、3度目の挑戦でようやく採用が決まった。
赴任先は現在のA中学校。1年間の試用期間を無事に終え、担任を持たされた。自信がつき、慣れてきたころだった。
事件のあった2011年12月22日は、終業式だった。給食がないので、午前中で生徒を帰すと、先生たちだけで外食に出かけた。津山さんは財布を持って食事に行き、戻ってくると、机の引き出しに入れた。そして、そのまま忘れてしまった。
津山さんはサッカー部の顧問をしている。昼からは、しばらく子どもたちと練習をした。サッカーは中学時代にかじっただけで、指導できるほどの技量はない。それでも、子どもとボールを蹴るのは楽しかった。
サッカーを切り上げて学校を出たのは午後5時すぎ。普段は京王仙川駅までバスで行き、JRで自宅のある赤羽まで帰る。しかしこの日は仙川駅とは逆方向にあたる吉祥寺駅行きのバスに乗った。先輩や同僚の先生たちと「納め会」という食事会を吉祥寺で予定していたからだ。
翌23日から冬休みに入る。内申書や試験の書類整理で忙しい時期だ。その前に懇親会をやって気分を盛り上げようという趣向だった。
食事会の開始は午後7時、バスで吉祥寺駅についたときは少し時間があった。そこでヨドバシカメラに立ち寄ることにした。お世話になっている先輩のKさんという先生がいる。その先生にプレゼントを買おうと思ったのだ。そろそろ転勤かもしれないという噂があった。
何を贈るのがいいか物色した結果、クリームの泡立て器に決めた。値段は2000円弱。コーヒーのクリームを泡立てるのにちょうどいい、職員室に置いておけば皆が使える。喜ばれるだろうと考えた。
精算場に行ってお金を払おうとリュックを開け、財布がないことに気がついた。職場の引き出しの中に入れたままだ。
お金がないので泡立て器は買えずじまいとなった。午後7時が迫っていた。仕方なく、財布を持たずに会場の居酒屋に向かう。食事会の費用はあらかじめ払ってある。心配はない。
「納め会」の参加者はちょうど10人。全員3年生の担当だった。「これからも頑張っていきましょう」
和やかに会は進み、ちょうど2時間がたった午後9時にお開きとなった。飲んだのはビールをコップで2~3杯、カクテル2~3杯ほど。酒は強い方ではないが、酔った感じはなかった。
吉祥寺発仙川駅行きの「運命のバス」
食事会に参加した10人の中に、B江さんという女性講師がいた。当時、ほかの先輩・同僚の知らないことだったが、津山さんとB江さんは交際していた。そして食事会の後、新宿で再会しようと2人は約束する。
〈吉祥寺発のバスで学校まで戻って財布をとってくる。新宿で会おう〉
B江さんにそう伝えてから吉祥寺駅のバス乗り場に向かった。学校に戻るのは仙川駅行きだ。小田急バスの「7番」と表示された乗り場だった。
「バス停に行くと何十人もバスを待っていて、混んでるな、と思いました。後ろについて僕も並びました。ちょうど女子高校生の後ろでした」
バスを待ちながら津山さんはB江さんに携帯電話をかけた。
〈これから学校に戻る--〉
そう伝えるつもりだったが応答がない。そこでメールを送ろうと携帯電話を操作しかけた。そこへバスが来た。操作を中断して、携帯電話をコートの右ポケットにしまった。そして前の女子高校生に続いて車内に乗り込んだ。始発だったが座席はすでに埋まっていて座れない。奥へ歩いていって、後部の床が一段高くなっているところを登り、つり革を握って立った。リュックを腹側に負っていた。女子高校生は斜め前方のあたりに立っていた。
後に判明したところでは、吉祥寺から乗り込んだ客は48人。津山さんは29番目だった。
やがてバスは出発した。師走で賑わう繁華街を抜けて住宅街を快走する。まもなくこの女子高校生から「痴漢被害」を訴えられ、逮捕されることになろうとは、津山さんは夢にも思わなかった。
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津山さんがバスを降ろされ、取り押さえられた新川バス停付近(三鷹市)。「痴漢したでしょ」「知らん」というやり取りで、いったんは別れた。だが後続のバスに駆け込んで訴えたため、運転手や乗客の男性に拘束された。![]() |
携帯電話を操作した直後ににらまれる
発車してから10分足らず後、「下連雀6丁目」の停留所に差し掛かったあたりで、コートの右ポケットに入れていた携帯電話が振動した。津山さんは右手で電話を取り出した。メールはB江さんからだった。津山さんからの着信をみて返信してきたらしい。
〈学校に戻っている?〉
メールにはそうあった。新宿に直行しているのか、それとも学校に財布を取りに戻っているのか、確認するための連絡だった。津山さんは返信しようと携帯電話を操作した。
左手でつり革をつかみ、右手で携帯電話のボタンを押してメールを作った。何度か操作をやり直して、ようやく次のメールを送った。
〈戻ってるよ。新宿までは1時間くらいかな〉。
吉祥寺から乗り合わせてきた女子高校生は、終始、津山さんのほうに背中を向けて乗車していた。その女子高校生が突然振り返ったのは、メールを送り終えてすぐのときだった。険しい表情でにらんでいる。津山さんはたじろいだ。
「そのときはちょうど僕の正面くらいの位置に、後ろを向いて立っていたんです。突然、振り返ってにらんできました。なんだろうとびっくりしました。絡まれるのかな、と怖くなって、いったん視線をはずしました。それでもまだじっとこっちを見ているんです。嫌だなと思いながらもう一度目を合わせました。そうすると何か言ってきました。でもよく聞き取れません。よくわからなったんですが、絡まれるのが嫌だったので、ゴメンゴメンと言ってやりすごそうとしたんです」(津山さん)
よくわからないが、「ゴメンゴメン」といっておこう。そうすればやり過ごせる――この判断は、結果的に裏目に出てしまう。痴漢を認めた発言ではないのかと、後に追及されることになったからだ。
ゴメンゴメンと言ったものの、事態はさらに悪化する。その瞬間、女子高校生の手が津山さんの腕をつかんだ。そして言った。
「降りましょう」
ほかの乗客はまったく気が付いていない様子だった
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バスには車内を映すカメラがついていた。その記録と津山さんの携帯電話の記録をもとに再現した車内での行動表(上)。警察や検察が痴漢をしたという時間帯に携帯電話を操作している。下は車内の見取り図。津山さんはリュックを腹側に負っていた。
起訴後も含めて津山さんが28日間拘留された三鷹署。目撃者がいる、カメラに犯行が映っている、などと刑事はウソを言った。また検事は「(痴漢を)認めるなら略式起訴(罰金)にする」ともいったという。下は生徒から寄せられた励ましの手紙。
津山正義さんを支援する輪は次第に広がっている。東京地裁立川支部に対して慎重な審理を求める署名活動もはじまった。連絡先は「三鷹・バス痴漢冤罪事件支援する会」(横浜市南区中里3-8-1ー203斎藤様方)
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http://b.hatena.ne.jp/entry/mainichi.jp/area/tokyo/news/20130509ddlk13040218000c.html これだね
推定有罪
「起訴後も含めて津山さんが28日間拘留された三鷹署。目撃者がいる、カメラに犯行が映っている、などと刑事はウソを言った」これは刑事罰にならないの?
有罪率99%は伊達じゃない。
今頃知った。なんぞこれ
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読者コメント
第三者が勝手な意見(想像・察し)を言うべきではない。
津山先生は 嘘をつく人ではないし、痴漢行為をする人ではありません。 その女子高生と家族は 引くに引けないだけでしょう。 誤りを認めて 警察も一緒に 謝罪すべきです。間違いを認めるのは 警察と 女子高生でしょう。
ちゃんとした証拠もないのに女の子が痴漢したって言ったら痴漢になるのですか?警察の証拠偽装?人の人生なんだとおもってるんだよ。まじでありえない。
検察や警察や裁判所は冤罪なんかなんとも思ってませんよ。自分たちが勾留されるわけではないし
冤罪の場合は検察官や裁判官や警察に重いペナルティを与える擁立を作るべきですね。
どれだけの自信を持って、被害にあったと言っているのか、それが相手にどのようなダメージを負わせるのか、一度啓蒙活動が必要なのでは。
冤罪だった場合で、物的証拠が出なかった場合でも継続するなら、最後、冤罪だった場合、裁判、その他の費用は全て訴えた人が負担するぐらいのことがあっても良いのではないでしょうか。
人質司法で犯行を認めさせる、古典的な犯人ねつ造方法は許せない。
証拠が無いのにどう考えたら無実の人をむりやり前科者させられるんだろうか?
警察官は病んでる。 検察も裁判所も仲間意識で思考が停止している。
この女子高生は初めてじゃ無くて、過去にも和解金をもらっていませんかね?
続報望みます。
検察も警察も分かっていない事は、
有罪率よりも、ちゃんと事実に基づいているかを、
国民は重視していると云う厳然たる事実だ。
間違ったら、「ごめんなさい」で即釈放とかすりゃいいだけなのにね。
自分で自分の首を絞めている、お始末(笑)
記者からの追加情報
発車してから10分足らず後、「下連雀6丁目」の停留所に差し掛かったあたりで、コートの右ポケットに入れていた携帯電話が振動した。津山さんは右手で電話を取り出した。メールは◆E子◆さんからだった。津山さんからの着信をみて返信してきたらしい。
〈学校に戻っている?〉
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◆E子→B江
でした。お詫びして訂正いたします。(2012/8/11)
津山正義さん三鷹バス痴漢冤罪事件の次回期日は9月28日、東京地裁立川支部。整理手続き(傍聴不可)で、弁護側が繊維鑑定などを証拠申請する予定。
津山さんを支えるグループに「三鷹・バス痴漢冤罪事件支援する会」がある。連絡先は横浜市南区中里3-8-1ー203(斎藤様方)
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