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トヨタ系アイシン機工 障害→解雇の社員が地位保全と損害賠償求め提訴、作業可能強度の6.3倍で手首手術

情報提供
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地位保全と損害賠償を求める裁判を起こした吉田祐二氏。アイシン機工前で。
 トヨタ系部品メーカー「アイシン機工」に解雇された吉田祐二氏(41歳)が地位保全と約1445万円の損害賠償を求め今年5月に会社を訴えた裁判が進行中だ。1日11時間労働で3375回~3712回ものボルト締め作業を行い、両手首を傷め3回も手術して休職。交渉で2度期限延長したが、最終的には解雇された。主治医の実験によると、ボルト締め作業は最大筋力の8%使用で数時間の作業継続が可能だが、吉田氏が行っていた作業はその6.3倍にあたる同50・2%使用の強度な作業だったことがわかった。疲労で風呂にも入れず就寝、年末年始も出勤、妻との会話もなくなり離婚。過重労働で社員を使い捨てるトヨタ系企業の実態を聞いた。
Digest
  • 年末年始の労働と派遣社員脱走事件
  • 1日3000回超えるネジ締め作業
  • 作業中に転落して手首を突く
  • 「保険金詐欺」と罵倒される
  • 継続作業可能な負荷の6・3倍の負担
  • 深夜の無言電話—精神的な負担も
※記事末尾で訴状ダウンロード可

年末年始の労働と派遣社員脱走事件

アイシン機工はトヨタのグループ企業アイシングループの一員で、オートマティック・トランスミッションなどの製造を手掛ける。

手術や治療のために休職し、その復職をめぐって、吉田氏が所属するATU(全トヨタ労働組合)と会社が団交を重ねてきたが、昨年11月5日に解雇通告を受け、今年5月24日、名古屋地裁に地位保全と損害賠償(安全配慮義務違反、治療費、休業損害、慰謝料など)を求めて提訴。10月30日には第3回目の期日を迎える、というのが現在の状況だ。

解雇された吉田氏の両手首には、10センチ以上の深い切り傷が残る。ボルト締めや部品の検品作業で障害を受けて手術した傷跡で、数年たっても生々しい。

まずは、社内の実態がどうであったのか。吉田氏本人が語った印象的なエピソードから振り返りたい。

「年末年始の休みのときのことです。表向きは工場が休業しているので電源が切られ、ディーゼルエンジンを利用して発電していました。仕事をするために会社に入ろうとしたら、守衛の人が駆けつけてきて、不法侵入者と間違われて捕まってしまったことがあります」

本来なら家族と一緒に年末年始を過ごすところ、出勤して不審者と間違われるなど、笑えない冗談だ。さらに吉田氏によれば、こんなこともあったという。

「私が32歳頃(04年ごろ)に二直三班制という、少しでも休みがとれる勤務体制に変わったのですが、そのころから会社は派遣労働者を大量に入れ始め、求人をみて集まった人を名古屋駅で拾い、ハイエース(トヨタのワンボックスカー)に乗せて山の上の吉良工場に運びました。

その派遣労働者の脱走事件もありました。その人は『ちょっとタバコを買いに』というと、『タバコなら工場内に販売機があるじゃないか』と言われましたが、『でも違う銘柄を吸いたいので』と言って正門を乗り越えてそのまま走って逃げて行ったんです。ああ~また一人逃げたな、と」

吉田氏が話した数多いエピソードのなかでも、同社の労働実態をうかがえる印象的な話である。

1日3000回超えるネジ締め作業

吉田氏は、高校卒業後の1990年に前身のアイシン豊容に入社。その後合併再編でアイシン機工となった同社の吉良工場や刈谷工場勤務など何度かの異動を経てきた。

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吉田氏は、エンジンカバーの加工と検査作業をしていた。写真に写っているカバーは、手首への負担を調べる実験のため、アイシン機工で製造されていた現物を取り寄せた。(主治医による実験報告書)

身体に異変が現れ始めたのは、2000年に吉良工場に戻り、自動車のエンジンのフタ(エンジンカバー)の加工と品質検査に従事するようになってからである。

2人一組で、相手方が加工したエンジンカバーを左手に持ち右手でエアーをかけて水分と油と切子(屑)を吹き飛ばす。そして両手で回転させながら19カ所の点検項目を検査する作業だ。

点検したエンジンカバーを作業台に乗せて、スタットボルト(自動車のホイルなどを固定したりするときに使う頭部のないボルト)を2カ所に3回転させて仮締め、その後本締めする。さらにもう一度検査・・という内容で、以後7年間続いた。一連の作業のなかの「ボルト締め」が手首に負担をかけていることが、後の実験でわかった。

この作業を始めてから肩や背中に痛みを感じるようになったものの、最初はマッサージに通ってなんとか過ごすことができたという。

「02年頃から急激に仕事量が増えだしました。二人一組の作業なのですが、長時間の作業のため相手がフラフラになって居眠りしてしまったこともあります。

意識が飛んでる状態で仕事しているので、部品が未加工になったり、ガチャーンと機械が落ちてしまったこともあります。刃物が突き刺さったまま部品がラインを流れてくることもありましたし、セットミスもありました。

こんな状態なので身体に障害を追う社員が何人もいます。たとえば同僚が手首と肘を傷めたのですが、医者に行こうとしません。どうしたのかと問うと、『そんなことしたら会社に目を付けられる』と言っていました」

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ボルト締め作業などで手首を傷め3回も手術した。

このような過重労働を重ねていき、一日の労働時間が11時間だった04年~06年ころ、ノルマの個数を考えて計算すると1日3375回~3713回(実験結果・後述)のボルト締め作業をしていたことになるという。

「ボルト締め作業のほか、1・85キログラムから3キログラムくらいの部品をクルクル回して四方八方から見て確認するのです。このような仕事を11時間やり、工場にいる時間が1日13時間くらいになり疲労がたまっていきました。

朝6時50分に家を出て帰宅は夜の10時半すぎ。服を脱ぐまもなく風呂にも入れず倒れ込むように寝てしまったり、休日も出勤で家の中もめちゃくちゃで、離婚せざるを得なくなりました」

作業中に転落して手首を突く

2004年10月頃、吉田氏は足場から滑り落ちて手首を突いたケガをし、それ以降、ずっと手首の状態が悪くなった。

「ラインは15メートルくらいの長さで、機械が両側に二列に並び、真ん中に細長い網状の鋼板のようなものが置かれ、そこを行き来して私たちは作業していました。コンクリート床からだいたい70センチメートルくらいの高さです。

鋼板を組んである部分のネジが緩んでいるところもあり、直してくれと言っても直してくれなかったのです。ラインですから機械や送られてくる製品をずっと見ていなければならず、足元に注意する余裕がありません。

そこで足をすべらせて転落し、手を強く床についてしまったのです。その後も同じ作業でどんどん両手首がおかしくなってしまいました」

その後、治療や休業、会社との対応など目まぐるしく過ぎて行った。

【時系列】

○1990年4月  アイシン機工の前身アイシン豊容に入社
○2002年6月 何度目かの吉良工場勤務。この頃から手首に異常発生。
○2004年7月 治療開始。
○2007年8月 コーヒーカップ持てず激痛。左ド・ケルバン腱鞘炎と診断。
○2007年10月 第一回手術
○2008年3月 休職に入る
○2008年9月 復職。配慮なく手首に負担がかかる作業に従事。3日で激しい痛み再開、再び休職
○2010月7月 会社は、同年9月で休職期間が満了で退職になると通告。吉田氏は主治医の「デスクワークは可能」との診断書を添えて復職願い提出。
○2010年8月 吉田氏はATU全トヨタ労働組合に加入。会社と交渉を続ける。
○2010年10月 会社は2011年6月30日で休業期間満了との通知。段階的復職の要求を拒否。
(ここまで前回記事『トヨタ系のアイシン機工、“労災社員”の段階的復職を拒否』参照)

○2011年6月10日 地位保全を求めて名古屋地裁に仮処分申立て。
○2011年10月31日 仮処分取り下げ(主治医の診断で、復職後に予定されていた作業を行うと手首を傷める恐れがあったため)
○2011年11月5日  解雇通知。
○2012年5月24日 地位保全と損害賠償を求めて名古屋地裁に提訴
○2012年10月30日 第3回裁判(予定)

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昨年11月5日に出された解雇通知。

「保険金詐欺」と罵倒される

07年8月のお盆のころ、喫茶店でコーヒーカップを持てなくなって驚いた吉田氏は、腱鞘炎を患ったことのある後輩の紹介で受診した。複数の診療機関で診てもらったのち「両側尺骨突き上げ症候群、三角線維軟骨損傷、左ド・ケルバン腱鞘炎」と診断され、同年10月に第1回の手術をした(合計3回の手術)。ところが吉田氏によれば、その治療や手術に対して会社側は信じられない対応をしてきた。

「S課長は『わざとやったろ!? 保険金詐欺だろ!』と言うのです

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労災不支給のハガキ。一番最初の決定。

最大筋力の8パーセント以下なら継続して疲れることなく数時間の作業ができるボルト締め。主治医による実験では、平均50・2パーセントの筋力を使うことがわかった。また、ネジ部分に接着剤が塗布されている方向に閉める作業を行うと手首への負荷が増す。(主治医による実験報告書)

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