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ブラック企業・スウォッチジャパンの“残業強要”解雇訴訟 退職勧奨→左遷→ロックアウト解雇の全容

情報提供
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スウォッチグループジャパン 代表取締役社長アーレット・エルザ・エムシュ氏。残業代をゼロにしろ、と指示した人物とされる。裁判資料によれば、「2週間前までに残業の事前申請を上げる必要があるが、現実に承認されるということはあり得ない」(人事総務課長)
 スイスの時計メーカーの日本法人、スウォッチグループジャパンは、世界最大規模の時計製造グループ「THE SWATCH GROUP LTD」の100%子会社として日本市場を担当している。その総務部に在籍していた社員・周防千賀子氏(仮名、現40代前半)は、09年から違法なサービス残業を強要されたとして会社に是正を求めた。すると、5日間で3回の退職勧奨に遭い、左遷された挙句、11年1月、上司3人に囲まれて退職を迫られ、拒否したところ、会社から締め出され、解雇された。周防氏は11年9月、「違法・不当に解雇された」として同社に対し、地位確認と未払いの報酬など計939万円超(提訴時の額)を求める訴えを東京地裁に起こし、現在一審で争っている。訴状や答弁書などの裁判資料に基づき、大手の外資時計メーカーで強行された残業代ゼロ施策の実態を詳報する。
Digest
  • 「空白の30分」
  • サービス残業強要「グレーであって違法ではない」
  • 5日間で3度の退職勧奨「辞めないと相当パワハラされる」
  • 残業代を請求されて支払ったスウォッチ
  • 左遷、ロックアウト、解雇
  • 地位保全と損害賠償を求め東京地裁に提訴
  • 「一切の回答を控える」スウォッチ

「空白の30分」

訴状によると、原告の周防氏(仮名、現40代前半)の訴えは以下の通り。周防氏は07年秋、スイスに本拠地を置く時計メーカー・スウォッチグループの日本法人スウォッチグループジャパン(東京都中央区銀座、以下スウォッチ)に、派遣社員として勤務を始めた。業務内容は、社員たちの給与や社会保険業務にかかわる仕事だった。翌08年春、周防氏は会社と直接雇用の契約社員となり、同年8月からは、人事総務部に所属する正社員として、採用された。

順調にステップアップしていた周防氏だったが、晴れて正社員になって4か月後の12月頃、突然、異変が起きた。

それは総務部のミーティングの席でのこと。この日のミーティングで、09年1月分から、労働時間が8時間を超過した場合のみ残業代がつくように変更することになる、と話が出たのである。

そもそもスウォッチの勤務時間は、午前9時30分から午後6時までで、休憩1時間を除いた所定労働時間は7時間30分。これは労働基準法で定められた法定労働時間の1日8時間より、30分短い。スウォッチではこれまで、午後6時から午後6時30分までの30分間は、残業代として通常賃金が支払われ、午後6時30分以降は、基準賃金の1.25倍の時間外労働の割増賃金が支払われていた。

それが、今後は労働時間が8時間を超過した場合のみ残業代がつくようにするという。もしそうなると、定時の午後6時から午後6時30分が「空白の30分間」となり、「通常賃金の未払いが発生」してしまう。そのため、周防氏は、人事課長の長谷氏(仮名)に対し、こう言った。

「労働時間8時間以降から残業がつくように変更するのであれば、就業規則の就労時間を8時間に変更した方がいいのではないか」

すると長谷課長はこう述べたという。

「それだと、みんなが不利益変更だと騒ぎ出すからダメだ。1月だから勤務表を新しくした、と言えば、気づかない」

さらに人事課長の王氏(仮名)からも、こう指示が出た。

「(未払い分の30分間について)指摘があった場合には、休憩時間と回答しておけばよい」

これを聞いた周防氏は、内心、「実際は30分の休憩時間があるわけではないのに、そうするのは、本来、違法であって、問題がある」と思ったが、上司の指示なので、逆らうことができなかった。

こうして1月からは、実際に空白の30分間は賃金が支払われなくなってしまった、という。

サービス残業強要「グレーであって違法ではない」

さらに、09年1月20日には、課長の王氏に呼び出され、人事総務課長の井上氏(仮名)と3人でミーティングを行った。この時、「残業代を減らすように」と指示が出た。

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スウォッチグループジャパン本社のあるニコラス・G・ハイエック センター。都内銀座にある

井上課長はこう言った。

「私は、残業してもつけないという手もあると思います。会社でスムーズに仕事をしていくためには、サービス残業も必要だと思います。朝、早く来たり、残っても残業をつけないというのも、一つの手だと思います。サービス残業は、労働基準法で禁止されているだけで、会社が法律を全部守っていたら回っていきません」

これを聞いた周防氏は、会社はサービス残業を強要している、と感じるとともに、本来、法令を率先して遵守すべき人事総務部の責任ある立場の者が上記のような発言をしていることを残念に思った、という。

さらに2日後の1月22日、人事総務部のミーティングがあった。そこで、会社の売上、利益、経営状態が悪化している、との説明があり、残業代を実質ゼロ円にする、という趣旨の話があった。

この席で人事総務部長の岡山氏(仮名)は、「会社が危ない状況で雇用を守るという意味でも、サービス残業は必要で、先を考えると皆さんのためにもなるのです。私も昔の会社では決まった時間(定時)にタイムカードを押すなどしていました。残業したことを申請しないことは、どこの会社でもやっていることであり、早く帰れるようにするのはもちろんですが、仕事の質、サービスは絶対に落とさない、残業しても、勤務表に書かないなど、皆さんの努力も必要です」と語った。

さらに、このミーティングの終了後、岡山部長、王課長、周防氏の3人だけでミーティングをした。この時、岡山部長は、どうしても残業が必要な場合は、上長に事前承認をして残業してもよいが、その場合でも、実際の残業時間より1時間は少なく記入するよう、指示した。

これに対し周防氏は、「その少なく記入する1時間というのは、未払いが発生する空白の30分を含めて1時間と計算するのか、それとは別に1時間サービス残業するということなのか」という趣旨のことを聞いた。

すると岡山部長は、「その30分は違法じゃないってことになったじゃない

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周防氏が09年11月5日付で会社に内容証明郵便で送付した通知書の内容概要。(※筆者が裁判資料をメモして作成したもの=コピーや撮影はできないため)

周防氏が送付した2度目の通知書の内容概要

会社の回答書のうち残業について記載した箇所の内容概要

解雇直前に周防氏側が送付した連絡書の内容概要。ロックアウトの生々しい様子も記載されている

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