カネボウ・コスプレ強要事件 ノルマ未達で美容部員に罰ゲーム、ウサギ耳・メイド服・ミニスカ…会社側一部敗訴後、和解
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写真は証拠写真に基づくコスプレイメージ。左上はうさぎ耳のカチューシャ(amazon.com、販売元タローズダイレクトより)、右上はメイド服(yahoo!オークション、BUuABより)、右下はちょんまげ(うえのやHPより)、左下はドレス(yahoo!ショッピング、グレース企画より) |
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- 「箱の中の衣装に着替えてください」
- ピンクのウサギ耳、メイド服膝上25cm…コスプレでさらし者に
- 罰ゲームで芸人イモトの太眉毛に…
- 損害賠償330万円の支払いを求め提訴
- 「罰ゲームはレクレーション、遊び心、茶目っ気」被告
- 「軽い気持ち、余興で強要したのは不適切だった」カネボウ本社
「箱の中の衣装に着替えてください」
訴状や判決文などの裁判資料によれば、金子房代氏は、あしかけ15年間にわたってカネボウで働くベテラン販売員である。そのキャリアは次の通り。
まず、93年8月にカネボウ化粧品九州販売(株)に入社し、98年2月にいったん退職。00年5月に再入社し、02年4月末に退社。03年1月に、三たび入社し、04年5月に(株)カネボウ化粧品に転籍。そこからカネボウ化粧品販売(株)に出向し、期間一年の契約更新を続けてきた。
金子氏は、百貨店で店頭販売するビューティーカウンセラー(美容部員)で、成績はわるくなかった。例えば98年に一旦会社を辞めて、00年に再入社した際は、わざわざ支店長が金子氏に会いに来て、「今、美容部員が足りないから、戻ってきてくれないだろうか?」と請うた。それでも年齢を理由に断ったが、支店長は「今日はよい返事をもらうまでは帰れない」と粘ったため、復帰を決意した経緯がある。
07年度には、表彰もされている。その表彰状には「ビューティーカウンセラーとして業績拡大に多大なる功績を果たしました。ここにその功績を称え、ご努力に対し深甚な敬意と感謝の意を表します。(株)カネボウ化粧品 代表取締役 知識賢治」とあった。
そんな金子氏は、事件の起きた09年、大分県内にある大分支社ストア課に所属し、県内のダイエーで勤務していた。
カネボウ化粧品販売では、各美容部員に対し、毎月、特定商品の販売数を目標設定する。同年7月、8月は、「ホワイトラスター」の拡販月間だった。「ホワイトラスター」とは、7月に新発売した、コットンでふき取るタイプの美容液である。
金子氏は、7、8月と、予期せぬトラブルも重なり、ホワイトラスターの販売は目標の7、8割の達成率にとどまった。社内では、ノルマを達成しない美容部員は、「未達」と呼ばれる。
そして10月27日、事件は起きた。この日は、月1回の研修会の日に当たる。これは美容部員が販売達成するための、新商品の勉強会。主催は大分支社。場所は大分支社の研修室(1階ホール)で行う。
研修会は、病気や、近親者の冠婚葬祭など止むを得ない事情がない限り、出席しなければならない。制服で出席することになっており、事実上の出勤日だった。
09年10月の研修会は、ストア課の全美容部員約20人を約10人ずつに分けて、26、27日の2日間にわたって行われ、金子氏は27日に参加した。
研修は、まず、朝礼のあと、係長の葛城江美氏(仮名)が、いきなり、こう切り出した。
「今から名前を呼ばれる方は、前に出てきて下さい」
そして、金子氏ほか計4人が呼ばれた。4人は前に出るなり、じゃんけんをするよう命じられた。テーブルの上には、箱が4つ置いてあり、「じゃんけんに勝った順から好きな箱をどうぞ」と言われた。金子氏は、一番最後に箱を持った。
すると葛城係長は、こう言った。
「その箱をもって、更衣室で、箱の中の衣装に着替えて下さい」
ピンクのウサギ耳、メイド服膝上25cm…コスプレでさらし者に
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上は、「ホワイトラスター」、下はビューティカウンセラーの制服(カネボウHPより)![]() |
金子氏は、「何で? 何が入っているんだろう?」と思いながら、研修室の隣の更衣室に入った。箱を開けると、高さ30cmほどのピンク色のウサギ耳のカチューシャと、易者風の着物(光沢のラメの入った青地を基調として、前面の真ん中に黄色のラメの縦ラインの入った上着)と、黄色の光沢のある袴が入っていた。
他の3人の箱にも衣装が入っていて、一斉に「超恥ずかしい!!」「本当に着替えるの?」「なんで?」「わあ~」と声が上がった。
金子氏は、「この年齢で、なんでこういうのに着替えなければならないのか」とためらったが、葛城係長が、「時間がないから、早くして!」と催促するので、やむをえず着替えた。
着替えた後の4人の写真は、証拠書類として保存されている。そこには、20代の女性が、黒と白のメイド服を着て、膝上25cmほどのミニスカートという装い。
もう一人は、40代後半の女性で、ピンク色の薄手で露出の多いワンピース。80年代のアイドルが着そうな服である。
もう一人が、20代の女性で、浴衣に、高さ約50センチもの細長いちょんまげのかつらをつけている。
そして、ウサギ耳の怪しい光沢の易者が、金子氏である。
4人は着替えて、研修会場に戻った。すると、ドッと、笑いに包まれた。
その後、葛城係長より、「未達だから、こういう格好になった」、と罰ゲームである旨の説明があった。金子氏は屈辱的で、つらかった。
しかも、この日はちょうど、金子氏は皆の前に出て商品説明をする当番で、コスプレのまま、前に出て5~10分話した。
昼休みや休憩時間などに、「着替えてもいいですか?」と聞いても、「ダメです。終礼が済むまでです」と葛城係長に言われた。終礼は17時半~18時までかかる。
結局、その間、ずっとコスプレでさらしものにされた。金子氏は途中、事務室に行く用もあり、事務の社員たちにびっくりされた。トイレに行くときも、社員たちの視線を感じて嫌だった。「なんて格好しているの?」と驚く社員もいた。
20代のメイド服の女性は、トイレに行くと「似合うやん」と冷やかされたり、「下着が見えている。身体を曲げない方がいいよ」と助言されたりしたという。
おもしろがって研修室をのぞき見する他部署の社員もいた。
金子氏は、情けなくて、つらくて、苦しい思いをして研修会を終えた。そして、その日、帰宅してから金子氏は、大泣きしながら、友人の本田伸二氏(仮名)に19時30分頃に電話し、「研修でコスプレさせられた」と言った。
本田氏は、あまりにも金子氏の様子がおかしいので、近くの駅の駐輪場で金子氏と会うことにした。すると金子氏は「なんで私がこんなことさせられなきゃいけないの」とおえつして泣いていたという。
この日、金子氏は一晩中眠れず、食欲不振、頭痛に陥った。
罰ゲームで芸人イモトの太眉毛に…
さらに、11月中旬の研修会では、こんなことがあった
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若い社員が、未達に対する罰ゲームで、芸人のイモトの太眉毛を提案。課長は「盛り上げ策でお楽しみですから、太眉にします」と決定。画像はイモトアヤコ(オフィシャルブログより)
大分マリーンパレス水族館「うみたまご」(じゃらんより)。当初は、大分支社から往復約15kmのこの水族館へサイクリングで行く「内田サバイバル」といった罰ゲームも計画されていた
福岡高裁(福岡県福岡市中央区城内1番1号)
和解交渉案の概要(※筆者が裁判資料をメモして作成したもの=コピーや撮影はできないため)
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