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カネボウ・コスプレ強要事件 ノルマ未達で美容部員に罰ゲーム、ウサギ耳・メイド服・ミニスカ…会社側一部敗訴後、和解

情報提供
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写真は証拠写真に基づくコスプレイメージ。左上はうさぎ耳のカチューシャ(amazon.com、販売元タローズダイレクトより)、右上はメイド服(yahoo!オークション、BUuABより)、右下はちょんまげ(うえのやHPより)、左下はドレス(yahoo!ショッピング、グレース企画より)
 カネボウ化粧品販売のビューティーカウンセラー(美容部員)として勤務する金子房代氏(仮名)は、50代後半だった09年10月27日、突然、ノルマ未達の罰ゲームとして、研修会の場でコスプレに着替えるよう強要され、屈辱感にさいなまれた。20代の女性は黒白のメイド服にミニスカ、ちょんまげ、40代の女性は80年代のアイドルが着そうな薄手のワンピース、そして金子氏はウサギ耳の怪しい光沢の易者姿だった。さらに翌月の研修会では、コスプレ写真をスライドで流され二重に苦しんだ。金子氏は心身を壊し、休職。翌10年4月、大分県労働委員会の斡旋で、会社に職場改善を要望したが決裂し、11年3月、会社と上司4人を相手取り、330万円の損害賠償を求め大分地裁に提訴した。13年2月の一審判決は一部勝訴で被告に22万円の支払いを命じた。その後、原告は控訴し、13年7月2日、和解となった。前代未聞のコスプレ強要事件の全貌を詳しくお伝えしよう。
Digest
  • 「箱の中の衣装に着替えてください」
  • ピンクのウサギ耳、メイド服膝上25cm…コスプレでさらし者に
  • 罰ゲームで芸人イモトの太眉毛に…
  • 損害賠償330万円の支払いを求め提訴
  • 「罰ゲームはレクレーション、遊び心、茶目っ気」被告
  • 「軽い気持ち、余興で強要したのは不適切だった」カネボウ本社

「箱の中の衣装に着替えてください」

訴状や判決文などの裁判資料によれば、金子房代氏は、あしかけ15年間にわたってカネボウで働くベテラン販売員である。そのキャリアは次の通り。

まず、93年8月にカネボウ化粧品九州販売(株)に入社し、98年2月にいったん退職。00年5月に再入社し、02年4月末に退社。03年1月に、三たび入社し、04年5月に(株)カネボウ化粧品に転籍。そこからカネボウ化粧品販売(株)に出向し、期間一年の契約更新を続けてきた。

金子氏は、百貨店で店頭販売するビューティーカウンセラー(美容部員)で、成績はわるくなかった。例えば98年に一旦会社を辞めて、00年に再入社した際は、わざわざ支店長が金子氏に会いに来て、「今、美容部員が足りないから、戻ってきてくれないだろうか?」と請うた。それでも年齢を理由に断ったが、支店長は「今日はよい返事をもらうまでは帰れない」と粘ったため、復帰を決意した経緯がある。

07年度には、表彰もされている。その表彰状には「ビューティーカウンセラーとして業績拡大に多大なる功績を果たしました。ここにその功績を称え、ご努力に対し深甚な敬意と感謝の意を表します。(株)カネボウ化粧品 代表取締役 知識賢治」とあった。

そんな金子氏は、事件の起きた09年、大分県内にある大分支社ストア課に所属し、県内のダイエーで勤務していた。

カネボウ化粧品販売では、各美容部員に対し、毎月、特定商品の販売数を目標設定する。同年7月、8月は、「ホワイトラスター」の拡販月間だった。「ホワイトラスター」とは、7月に新発売した、コットンでふき取るタイプの美容液である。

金子氏は、7、8月と、予期せぬトラブルも重なり、ホワイトラスターの販売は目標の7、8割の達成率にとどまった。社内では、ノルマを達成しない美容部員は、「未達」と呼ばれる。

そして10月27日、事件は起きた。この日は、月1回の研修会の日に当たる。これは美容部員が販売達成するための、新商品の勉強会。主催は大分支社。場所は大分支社の研修室(1階ホール)で行う。

研修会は、病気や、近親者の冠婚葬祭など止むを得ない事情がない限り、出席しなければならない。制服で出席することになっており、事実上の出勤日だった。

09年10月の研修会は、ストア課の全美容部員約20人を約10人ずつに分けて、26、27日の2日間にわたって行われ、金子氏は27日に参加した。

研修は、まず、朝礼のあと、係長の葛城江美氏(仮名)が、いきなり、こう切り出した。

「今から名前を呼ばれる方は、前に出てきて下さい」

そして、金子氏ほか計4人が呼ばれた。4人は前に出るなり、じゃんけんをするよう命じられた。テーブルの上には、箱が4つ置いてあり、「じゃんけんに勝った順から好きな箱をどうぞ」と言われた。金子氏は、一番最後に箱を持った。

すると葛城係長は、こう言った。

「その箱をもって、更衣室で、箱の中の衣装に着替えて下さい」

ピンクのウサギ耳、メイド服膝上25cm…コスプレでさらし者に

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上は、「ホワイトラスター」、下はビューティカウンセラーの制服(カネボウHPより)

金子氏は、「何で? 何が入っているんだろう?」と思いながら、研修室の隣の更衣室に入った。箱を開けると、高さ30cmほどのピンク色のウサギ耳のカチューシャと、易者風の着物(光沢のラメの入った青地を基調として、前面の真ん中に黄色のラメの縦ラインの入った上着)と、黄色の光沢のある袴が入っていた。

他の3人の箱にも衣装が入っていて、一斉に「超恥ずかしい!!」「本当に着替えるの?」「なんで?」「わあ~」と声が上がった。

金子氏は、「この年齢で、なんでこういうのに着替えなければならないのか」とためらったが、葛城係長が、「時間がないから、早くして!」と催促するので、やむをえず着替えた。

着替えた後の4人の写真は、証拠書類として保存されている。そこには、20代の女性が、黒と白のメイド服を着て、膝上25cmほどのミニスカートという装い。

もう一人は、40代後半の女性で、ピンク色の薄手で露出の多いワンピース。80年代のアイドルが着そうな服である。

もう一人が、20代の女性で、浴衣に、高さ約50センチもの細長いちょんまげのかつらをつけている。

そして、ウサギ耳の怪しい光沢の易者が、金子氏である。

4人は着替えて、研修会場に戻った。すると、ドッと、笑いに包まれた。

その後、葛城係長より、「未達だから、こういう格好になった」、と罰ゲームである旨の説明があった。金子氏は屈辱的で、つらかった。

しかも、この日はちょうど、金子氏は皆の前に出て商品説明をする当番で、コスプレのまま、前に出て5~10分話した。

昼休みや休憩時間などに、「着替えてもいいですか?」と聞いても、「ダメです。終礼が済むまでです」と葛城係長に言われた。終礼は17時半~18時までかかる。

結局、その間、ずっとコスプレでさらしものにされた。金子氏は途中、事務室に行く用もあり、事務の社員たちにびっくりされた。トイレに行くときも、社員たちの視線を感じて嫌だった。「なんて格好しているの?」と驚く社員もいた。

20代のメイド服の女性は、トイレに行くと「似合うやん」と冷やかされたり、「下着が見えている。身体を曲げない方がいいよ」と助言されたりしたという。

おもしろがって研修室をのぞき見する他部署の社員もいた。

金子氏は、情けなくて、つらくて、苦しい思いをして研修会を終えた。そして、その日、帰宅してから金子氏は、大泣きしながら、友人の本田伸二氏(仮名)に19時30分頃に電話し、「研修でコスプレさせられた」と言った。

本田氏は、あまりにも金子氏の様子がおかしいので、近くの駅の駐輪場で金子氏と会うことにした。すると金子氏は「なんで私がこんなことさせられなきゃいけないの」とおえつして泣いていたという。

この日、金子氏は一晩中眠れず、食欲不振、頭痛に陥った。

罰ゲームで芸人イモトの太眉毛に…

さらに、11月中旬の研修会では、こんなことがあった

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若い社員が、未達に対する罰ゲームで、芸人のイモトの太眉毛を提案。課長は「盛り上げ策でお楽しみですから、太眉にします」と決定。画像はイモトアヤコ(オフィシャルブログより)

大分マリーンパレス水族館「うみたまご」(じゃらんより)。当初は、大分支社から往復約15kmのこの水族館へサイクリングで行く「内田サバイバル」といった罰ゲームも計画されていた

福岡高裁(福岡県福岡市中央区城内1番1号)

和解交渉案の概要(※筆者が裁判資料をメモして作成したもの=コピーや撮影はできないため)

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