『福田君を殺して何になる』出版差し止めで勝訴した寺澤有氏に聞く 「裁判は弁護過誤隠しが目的だった」
インタビューに答える寺澤有氏 |
- Digest
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- いきなり「ゲラを見せろ」
- 死刑を回避できる可能性はあった
- 福田君は今枝弁護士を慕っていた
- 本書の出版を望んでいた福田君
- 強姦目的と殺意の否認に全力
- 「不謹慎な手紙」の舞台裏は?
- スラップは認定されなかったが
- 虚像と実像
- 広島高裁で逆転した要因は?
- SLAPPに対抗する方法
1999年に起きた光市母子殺害事件の福田孝行死刑囚を描いた『福田君を殺して何になる』(インシデンツ刊)の出版差し止めなどを求めた上告審の判決が、去る9月25日、「福田君」の上告を棄却するかたちで確定した。これにより5年に及んだ裁判が終わった。
この裁判の当事者を整理すると次のようになる。
【原告】
福田孝行
安田好弘(代理人弁護士)
本田兆司(代理人弁護士)
足立修一(代理人弁護士)
新川登茂宣(代理人弁護士)
その他
【被告】
寺澤有(版元代表者)
増田美智子(著者)
堀敏明(代理人弁護士)
2009年に安田好弘弁護士らが出版差し止め裁判の対象にした『福田君を殺して何になる』(インシデント) |
周知のように、光市母子殺害事件は、当時18歳だった福田孝行少年が主婦を殺害したうえに強姦し、泣き叫ぶ乳児の命も奪い、財布を盗んで逃走した事件である。被害者の夫・本村洋氏が「加害者を社会に早く出してもらいたい、そうすれば私が殺す」と発言するなど、週刊誌やワイドショーの格好の材料にもなった。
『福田君を殺して何になる』の出版差し止めをめぐる裁判は、「福田君」が同書の中で、実名や写真を公表されたことや、同書について寺澤氏が「福田」の実名で書いた記事などを理由に起こしたものである。
仮処分申立は、インシテンツの勝訴。
本訴では、1審が福田君の勝訴(約1300万円の請求に対して66万円の賠償命令)。
2審ではインシデンツが逆転。
そして最高裁が上告を棄却して判決が確定した。
しかし後述するように、この裁判には、実名表記や写真の公表などの問題とは別の側面があったとみられるのだ。
『福田君を殺して何になる』に掲載された福田死刑囚の写真。凶悪犯のイメージはない。 |
確定した判決そのものは、オーソドックスで真っ当なものだった。著者の増田氏が行った1年に及ぶ取材に福田君が全面協力したうえに、書籍の出版はもとより、実名や写真を公表する合意を得ていたと考え得るので、出版を差し止める理由はない、というものである。
本が出版された時点で、週刊誌や単行本、インターネットなどで、福田君の実名と顔写真は公表されていた。それゆえに寺澤有代表は、自分の社だけが裁判の標的にされたことに理不尽さを感じたという。
いきなり「ゲラを見せろ」
福田君が著者の増田氏と版元の寺澤氏に対して、同書の出版差し止めの仮処分を申し立てたのは、2009年10月だった。両者の係争は思わぬかたちで始まった。
寺澤--『福田君を殺して何になる』が発売される前に、ぼくはマスコミや法曹の知人に単行本が発売されることをメールで知らせました。すると共同通信が本の紹介記事を書いて配信してくれたのです。しかし、それで本の注文が急増することはありませんでした。それほど関心を集めたわけではなかったのです。
ところが記事が出た翌日に、足立修一弁護士(福田君の代理人)から、電話連絡があり、事前にゲラを見せてほしいと要求されたのです。ゲラを見たうえで、実名を出すかどうかを判断したいというわけです。福田君が『原稿を見せてもらう約束をした』とも言ってきました。しかし、そのような約束は、ぼくも増田さんもしたことがありません。
そこでだれがゲラを読みたがっているのかを尋ねたところ、「福田君にも、いちおうゲラを差し入れて、見てもらうつもりでいる」と発言したのです。つまり、本当にゲラを点検したいのは、福田君ではなくて弁護団だということが、この時にはっきりしたのです。
ゲラを見せるのは、事前検閲になりますから、もちろん断りました。
翌日、足立弁護士から、寺澤氏のところへファックスが送られてきた。ゲラの開示を求める内容で、回答期限は、同日の午後9時になっていた。相手の都合を考えない一方的な要求だ。
寺澤氏は電話で足立弁護士と連絡を取り、10月4日に広島で話し合いを持つことで合意した。こうして当日、寺澤氏と増田氏は、広島市へ向かった
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上告棄却を伝えた2012年2月21日付け朝日新聞。
フリージャーナリストに対するスラップが大きな問題になった武富士の看板。
福田君が『福田君を殺して何になる』の著者に宛てた手紙。女性のような丸い文字に特徴がある。
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あの裁判、そう決着したのか???
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読者コメント
当時既に週刊誌やネットで福田孝行容疑者(後に大月純子と養子縁組をして大月孝行と改名)の実名がはっきりしていたにも関わらずくだらない裁判をはじめるくらい弁護団は生産性や効率性が無い連中だったと改めて実感。こんな弁護団じゃ裁判で負けるのも当然。まあ光市母子殺害事件は許しがたいのでどんな優秀な弁護団だったとしても死刑判決じゃなきゃ嫌だが・・・
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