講演する原告の二本松進氏。激高した女性警官が「暴行を受けています」と虚偽の通報をしたため、彼は数十人以上の目撃者がいる前で不当逮捕された。
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07年10月の朝、東京・新宿区で寿司店を営む二本松進氏(67歳)が、築地市場で仕入れをした後、妻が運転席で待つ車に戻ったところ、女性警官から「法定禁止エリアだ」と言われて口論となり(実際には違反なし)、警官が「暴行を受けています」と虚偽通報。二本松氏は公務執行妨害の現行犯で逮捕され、19日間も拘束の末、起訴猶予処分となった。泣き寝入りするわけにもいかず、二本松夫妻は、東京都(警視庁)と国(検察・裁判所)を相手取り、09年10月に国家賠償請求訴訟を提起せざるを得なくなった。現場は朝8時の築地市場前で、数十人から百人程度の目撃者がおり、二本松氏が警官に暴行など全くしていないことが明らかとなっている。ところが裁判長は、そのなかから名乗り出た、双方に利害関係のない4名の目撃証人尋問申請を却下し、事件直後の目撃証言を含む現場検証記録や二本松夫妻の検事調べ調書など警察・検察の重要書類を片っ端から隠蔽させた状態で、3月18日に判決を言い渡す。事件の実態と“絶望の裁判所”をリポートする。(末尾で4名の目撃者陳述書、最終準備書面をPDFダウンロード可)
【Digest】
◇尋常ではない興奮状態
◇第2の高知白バイ事件~目撃者多数
◇実際は現場で何が起きていたか
◇疑問続出の女性警官証言&供述
◇「暴行は一切なかった」と4人の目撃者
◇裁かれるのは誰か? 何か?
◇尋常ではない興奮状態
裁判を起こした原告2人と第三者の目撃者4人、計6人の話を総合すると、この築地事件は、きわめて単純な出来事であることがわかった。
2007年10月11日、二本松進氏(当時59歳)が、築地市場で仕入れをした後、車に戻り、帰ろうとした。
糖尿病の関係で視力の悪い二本松氏は、その時点からさかのぼり5年前から運転を止めており、妻が運転し、運転席に座って夫を待っていた。
右前方辺りに巡回中の築地署交通課の高槗真知子巡査が立っていたので、「すみません、そこを退いてくれませんか」と依頼すると、彼女は「法廷禁止エリアだ」と車が一時停止している場所を指摘した。
その言葉を聞いた二本松氏は駐停車違反の取り締まりかと誤解し「運転手がいるのにだめなの?」「放置車を放任しておかしいよ」などというような趣旨を何度も伝えた。
現場は築地市場前だから、仕入れや集配などの車が多数路上停車してあり、ドライバーは買い出し等で車内にいない。二本松氏としては、周囲の数10台の放置車を放任しながら、なぜこの警官は運転手が座ってエンジンをかけて出発しようとする車をとがめるのか、おかしく思ったと言う。
二本松氏と警官は言い争いになってしまったが、両者でやりとりされたキーワードの趣旨を変えずにシンプルに整理すると次のようになる。
「仕入ならいい」「トランクと後部座席見てください、うちも仕入です」「乗用車はダメ」「仕入なのになぜダメなのか」「法廷禁止エリアだ」「免許証出せ!」「運転者でもない私がなぜ免許証出さなきゃならないのか」……。
ここまで読んだ読者は、おそらく駐停車を取り締まろうとする警官とドライバーが言い争いをして捕まった、と思ってしまうかもしれない。だが、二本松夫妻は全く道交法に違反しておらず、肝心の警官も当初「法廷禁止エリア」と場所を示すのみで、まったく取締りもしなかった。
何も起きていないのに、正論を述べる相手にカッとなった警官が通報してしまったにすぎないのだ。
もめごとが起きる前、最中、二本松氏が逮捕された後まで、すべてを至近距離で目撃していたA氏は言う。
「もちろん、お互いに興奮しているから大きな声になるのはわかるんですが、婦警さん、すごかったんですよ。後で検事さんにも言ったのですが、もう○○○○沙汰ですよ、って。
こういう言い方をすると問題になるかもしれないですけど尋常じゃないんですよ。トチ狂ったとしか言えないような興奮ぶりでした。もし録音して普通の人に聞かせたらびっくりすると思いますよ」
目撃者4人の話を総合すれば、築地市場前の路上で言い争いになった警官が、多数の見物人の前で二本松氏に正論を言われて激高し、警官に暴行したと虚偽通報し、駆けつけた警官に逮捕させてしまった。まさにデッチ上げ逮捕である。
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事件現場の見取り図。朝8時頃の築地市場前なので放置自動車が多く、出入りする人も多い。感情を爆発させた警官のことを多くの目撃者が至近距離で見ていた。 |
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◇第2の高知白バイ事件~目撃者多数
その裁判の一審判決が、事件発生から丸8年が過ぎた2016年3月18日に出される。この裁判のプロセスを見ていると、「高知白バイ事件」を思い起こす
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(上)警察が作成した再現実施結果報告書にある写真。A高槗巡査長、B渡邉巡査部長、C原告の二本松進氏、D原告の二本松氏の妻(以下の画像の写真も同じ)。この写真では、Dの妻が車の外に立っていて警官2名と遭遇したことになっている。
ところが(下)の目撃証人A氏2回目の陳述書や筆者の取材に答えて、奥さんは運転席に座っていたと断言。運転者が乗車しエンジンをかけていつでもでられる車を取り締まれるはずはないから、警察としては奥さんが路上に立っていてくれなければ困る。
目撃証人A氏も他の証人も全員が原告と面識のない中立で客観的な立場。そのA氏は「(警察が作成した写真は)嘘に満ち溢れているもの」と怒りを隠さない。 |
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(上)警察が作成した再現実施結果報告書にある写真。A高槗巡査長、B渡邉巡査部長、C原告の二本松進氏、D原告の二本松氏の妻(記事末尾ダウンロードの最終書面では原告Bと表記)。(下)は目撃証人E氏の2回目の陳述書。「運転をしていない二本松氏に免許証提出を求めるのはおかしいと思って見ていた」と言う。また、警官がヒステリックに二本松氏に迫っていたことも目撃している。 |
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A高槗巡査長、B渡邉巡査部長、C原告の二本松進氏、D原告の二本松氏の妻。拳を胸の前に合わせて左右交互にひじ打ちを食らわせたというストーリーを描いている。それに対して(下)の目撃証人D氏は、こんな場面は100%なかったと言い切る。目撃者4人全員が、二本松氏が暴行をふるったなどというのは完全に嘘であると述べている。 |
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A高槗巡査長、B渡邉巡査部長、C原告の二本松進氏。運転をしない二本松氏が車に乗り込んで2mほど逃走したと警察は主張し、それに沿って撮影したのがこれらの写真だ。(下)は目撃者C氏の2回目の陳述書。C氏は、二本松氏が車に乗って動いたなどということは100%ない、と言っている。他の目撃者も同じで、警察撮影の写真は偽造と断言。警察がつくりあげたものだ、とC氏は怒っている。 |
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