小・中学生に将来なりたい職業を聞くと、女子で常にトップを争うのが「幼稚園・保育園の先生」。小学1年生〜高校3年生の親子約2万1千組に大規模調査したベネッセ「子どもの生活と学びに関する親子調査 2015」では、小学校高学年で2位、中学生では1位となり、看護師(2位)や学校の先生(3位)を上回る人気ぶりだ。
第一生命保険の調査(2017年1月発表)でも小学生以下の女子で2位(1位は食べ物屋さん)となっている。現実には、子供から見えているほど甘くはなく、教育方針をめぐる親や園との葛藤や、父親の育児参加にともなう新たな問題、そして一歩間違えれば「やりがい搾取」にはまるリスクも。「幼稚園教諭二種免許」と「保育士」の両方の資格を持ち、公立と私立の双方で勤務経験のあるベテラン幼稚園教諭(昭和40年代生まれ・女性)に、現場の実情を聞いた。
【Digest】
◇小学生からの「なりたい職業」だった
◇公立と私立の違い
◇共働きなら十分生活できるが…
◇私立幼稚園の売上はやりかた次第
◇パパの参加で起きる様々なこと
◇IT化で先生を補助、センサーで健康と安全確保
◇リアルタイム監視カメラ「やってられない」心理
◇人間にしかできない幼児教育…嘘、喧嘩、叱り方
◇反応が正直、心が通じたときの喜び
インタビュイープロフィール:短大で「幼稚園教諭二級普通免許」と「保母」(1999年以前の資格名)の資格をダブル取得後、新卒で公立幼稚園に就職(フルタイムの正規雇用)。その後、民間企業での事務職や子育てでいったん幼稚園勤務を離れ、趣味や子育てと両立するため、2010年代に入って首都圏の私立幼稚園にパートタイムで復帰、ワークライフバランスを保ちながら、現在も勤務中。
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◇小学生からの「なりたい職業」だった
幼稚園教諭:2016年賃金構造基本統計調査によると、全国に7万4,580人(企業規模10人以上)おり、平均年齢33.0歳、平均年収339万3千円(平均月収22万9千円、ボーナス64万5千円)となっている。保育士が厚労省管轄なのに対し、幼稚園教諭は文部科学省管轄で、3~5歳児に対する教育者(教師)である。勤務先は、公立幼稚園と私立幼稚園に分かれ、なかには「認定こども園」に移行して0歳からの保育も同時に行う園もある。
比較的若い(全国平均33歳)人も多い幼稚園教諭のなかでは自分はベテランで、「担任」もやってほしいと言われていますが、子育てもあるので、自由度の高い働き方を優先して、現在はフルタイム勤務者の半分程度の時間、私立幼稚園で働いています。
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幼稚園教諭二級普通免許状(インタビュイー提供)。一級が大卒相当だが、現場での扱いや仕事内容は、ほとんどの幼稚園で違いはない。採用や給与の面でも、一級か二級かは、ほぼ無関係。 |
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もともと自分が幼少期に、周囲に子供がたくさんいる環境で、小さい子たちが「遊ぼう」と言って寄ってきてくれることが多かったんです。そういう子たちの面倒を見るのが楽しかった。そのころから、将来は幼稚園の先生をやりたい、と思っていました。それで、幼稚園教諭の資格をとれる短大に進学しました。
新卒で、公立の幼稚園に就職。身分は公務員となって雇用は安定しますが、公立は数も少なく、採用の倍率は高いです。
運営主体である市区町村が、筆記と実技で採用試験を行って選考します。実技試験では、ピアノの弾き語り(初めて見る楽譜をわたされて歌う)や、絵本の読み聞かせなどがありました。私が就活した当時は、約500人中、250人ほどが筆記の一次選考を通り、実技と面接を経て、最終的に、その自治体で、自分を含め2人だけが受かりました。
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同時に取得した保母資格証明書(インタビュイー提供) |
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◇公立と私立の違い
今は私立で働いていますが、双方を比べると、公立のほうが、割り切って働けると思います。
公的な補助額が多いために親が負担する料金はせいぜい月1万円程度と安いので、期待値も高くないですし、先生も、雇用の安定を求めて働いている人が多めです。
私立のほうは、たいていの場合、特色ある園の方針があるので、その方針に沿うようなスキルを求められます。先生としても、中途半端な姿勢では勤まりません。フルタイム勤務で、自分の子育てと両立しようと思ったら、よほど実家のサポートがない限りは無理、と思ったほうがよいです。私はパートタイムなので何とか両立できています。
仕事はハードで拘束時間が長いため、若い女性は、幼稚園を辞めて結婚したり、アパレル系や事務の仕事に転職してしまうケースが多いです。おおまかな1日の流れは、以下の通り.....この続きの文章、および全ての拡大画像は、会員のみに提供されております。
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他の4職種との平均賃金の違い:保育士、幼稚園教諭、看護師、福祉施設介護員、ホームヘルパー(厚労省資料より)。パートタイマーの時給は約1千円が平均。 |
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