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産経新聞が傘下のサンケイアイぐるみで折込広告チラシの水増し詐欺――新聞463部の店に折込チラシ1020枚ずつ割り当て

情報提供
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東京・大手町にある産経新聞東京本社。玄関には、電光掲示板が設置されている。
 新聞の契約が463部しかない販売店に、卸部数を1020部に設定して買い取らせ、折込広告の割り当て枚数も1020枚ずつに設定して広告主を騙していた事実が、産経新聞を被告とする「押し紙」裁判の中で判明した。同規模の水増しは約2年間に渡って行われた。広告代理店は産経新聞社の元常務が会長を務めるサンケイアイ。折込広告枚数が減少傾向のなか、販売店側は部数を偽装しないほうが利益が増えるため押し紙を受け入れる動機はなく、産経グループによる組織的な詐欺の疑いが強い。過去4年分のデータでは、販売店が「押し紙(配達されず廃棄される部数)」で被った損害が約2017万円である一方、折込広告の水増しで得た広告料は1900万円。部数偽装で広告主を騙し、販売店経由でその水増し収入を丸ごと卸代金として吸い上げる――そんな産経の犯罪的なビジネスモデルが輪郭を現した。(訴状はダウンロード可)
Digest
  • 裁判の訴因と争点
  • 折込広告の発注から配布まで
  • 「和解よりも判決がほしい」
  • 新聞産業の繁栄から衰退へ
  • 「押し紙」と「積み紙」の違い
  • 新聞社のビジネスモデルのからくり
  • 補助金
  • 折込定数の極端な嵩上げ
  • 折込広告の収入はすべて新聞社へ
  • ABC部数が激減している理由
  • 折込広告激減の数字的な根拠
  • 誰が折込定数を決めているのか?
  • 新聞社の危機とは
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産経新聞に対する訴状。全文は末尾よりPDFダウンロード可

東京地裁で開かれている産経新聞を被告とした「押し紙」裁判(平成30年〈ワ〉第23925号)は、折込広告の水増しという新聞社の暗部を暴露した。

この裁判では、原告の元店主が、折込広告の水増し行為を認めたうえで、それが新聞社のビジネスモデルになっている、という趣旨の主張をした。しかも、それを産経側が出してきたデータが裏付けた。原告が請求している額は、約2600万円だ。

押し紙とは、「購読者がいないのに販売店に無理やり買い取らせる、ノルマのような新聞」を指す。463部しか購読者がいない店に1千部を買い取らせる。売れなければ在庫処分となる。いきなり購読者が2倍になることはないから、そのまま500部超が毎月、捨てられるわけだ。

裁判の訴因と争点

3月10日。この日、東京地裁の尋問法廷に立ったのは、千葉県で新聞販売店を経営していた原告の元店主・青木さんと、被告・産経新聞の販売局員2人、それに広告代理店「サンケイアイ」の社員だった。

サンケイアイは、その名の通り産経グループの折込広告代理店で、産経新聞社の常務取締役だった山岡忠彦氏が会長を務める。

販売店に搬入される新聞の部数は、販売店が決めていたのか、それとも新聞社が決めていたのか、などをめぐり、午前10時半から昼休みを含め午後3時半まで、原告と被告の攻防が繰り広げられた。

新聞社は、「押し紙」が増えれば増えるほど新聞の販売収入を増やすことができる。これに対して販売店は、「押し紙」が増えれば増えるほど新聞の卸代金の負担が増えるが、その一方で、一定の条件の下では、チラシ収入が増えて相殺され、かえって高い利益を得ることもある。

一定の条件とは、折込広告の需要が多い場合だ。たとえば新聞1部の原価が70円として、新聞1部から得られる折込広告収入が90円ならば、「押し紙」1部からさえも、販売店は20円の利益を得られる。従って、「押し紙」があったほうが収入が増える。こうしたケースでは、新聞社から「押し紙」の負担を要請されると引き受けることが多い。販売店にとってもメリットがあるからだ(※ただし部数を偽装しているため折込広告詐欺という罪に問われる)。

こうして、「販売店は折込広告だけで経営する」とまで言われてきた。いわば新聞という「運び媒体」を新聞社から有料で借り、その「運び媒体」に折込広告を入れて、自店の利益をあげるビジネスモデルになっているのだ。

だが当然、折込広告の収入が減れば、赤字になって「運び媒体」である新聞の仕入れ料金を払えなくなることもある。

折込定数(販売店に割り当てられる折込広告の枚数)は、販売店への搬入部数に一致させる基本原則がある。それゆえに販売店が折込広告の水増しを意図した場合は、最初のステップとして新聞の注文部数を増やすことで、折込定数を上げる必要がある。言葉を替えると、自ら「押し紙」を仕入れる必要があるのだ。これは新聞社にとっても歓迎すべきことである。自社の新聞販売収入が増えるからだ。

いわば条件が整えば、新聞社も販売店も不正な手段で収益規模を拡大することができる。実態のない偽装部数(廃棄される新聞)で、販売収入や折込広告収入が、バブルのように膨らむのだ。その上に立脚して、ジャーナリズム活動が展開されてきたのである。何も知らないのは、広告主と読者だ。

こうしたビジネスモデルがあるので、「押し紙」裁判になると、だれが新聞の搬入部数(書面上では注文部数)を決定していたのか、が争点になる。新聞社が「押し紙」で新聞販売収入を増やすことを意図して搬入部数を増やしたのか、それとも販売店が折込広告の水増しで利益をあげることを意図して自主的に「押し紙」を注文したのか、が争われるのだ。

折込広告の発注から配布まで

折込広告の発注から、配布までの流れを簡単に説明しておこう。販売店の地元にある学習塾などの個人事業主が、直接、新聞販売店へ折込広告の配布を依頼する場合は別として、大半の広告主は、折込広告の代理店を通じて折込広告を発注する。折込定数は、代理店が決め、それを広告主へ提示する。

広告代理店の同業組合も、独自に折込定数表を定期的に作成している。広告代理店が決める折込定数と同業組合が決めるものは、基本的には同じだ。というのも、両方とも裏付けとなるデータが「ABC部数」(公称の刷り部数)であるからだ。

各新聞社は、系列の代理店を持っていて、人事交流なども当り前のように行っている。一体化している、と言っても過言ではない。産経新聞なら、サンケイアイというグループ会社がそれにあたる。

折込定数を決める基礎資料は、新聞社から代理店へ送られてくる。その結果、折込定数は新聞販売店への新聞の搬入部数(ABC部数)に準じたものとなる。販売店に、折込定数を決める権限はない。

新聞販売店が自店の折込定数を上げるためには、原則として、実配部数を増やすか、「押し紙」を買い取って搬入部数を増やす以外にはない。最近はABC部数を根拠とした折込定数を上回った折込定数が設置されることも少なくない。これは、新聞社による販売店の救済策であると推測される。販売店の経営が悪化しているので、こうした救済策を取らざるを得なくなっている。

折込定数が搬入部数を上回る問題については、具体例を示して後述する。

「和解よりも判決がほしい」

さて、今回の訴訟である。法廷には、約30名の傍聴人が駆けつけた。その中には、新聞社の関係者らがいた。産経新聞が折込広告の水増し行為の主導者であると認定する判決が下った場合、その影響は計り知れない。広告主の信用もなくし、新聞社の経営難に拍車がかかる。それが気がかりなのか、多くの新聞人が傍聴に駆けつけた。

尋問が終了した後、裁判長は和解勧告を出した。最近の「押し紙」裁判は、尋問後に裁判所が和解を勧告し、販売店の和解勝利になるケースが増えている。今年の1月にも、佐賀新聞を被告とする「押し紙」裁判で和解が成立した。和解金の額は公表されていないが、販売店側の和解勝訴だった。

しかし、今回の産経裁判についていえば、和解になる可能性は極めて低い。閉廷後に、青木さんが筆者に言った。

「お金が問題ではありません。これまで産経新聞がわたしたち販売店にやってきたことに対して、審判を下してほしいのです。『折込詐欺』の責任が産経本社にあることを、きちっと認定した判決がほしいのです。違法行為を断罪してほしいです」

青木さんを怒らせたのは、「押し紙」が原因で新聞の卸代金を納金できなくなった際に、産経新聞が青木さんの保証人だった叔父の土地を仮差押えしたことにあった。金額は、327万円。2016年5月のことだった。この強硬策が、産経新聞に対する不信に拍車をかけ、青木さんは廃業した後、「押し紙」裁判を起こした

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産経新聞本紙とサンケイスポーツの「押し紙」と実配部数の月別リスト。2012年7月から2016年7月までの期間。

問題の内部資料。新聞の商取引に関する収支一覧表。4年分のシミュレーション。本文参照。

新聞販売店の店舗に積み上げられた江戸川区の広報紙。本来は新聞に折り込まれるが、「押し紙」に相当する部数は廃棄されている。

折込定数表の一例。新聞社の系統別の各新聞販売店の折込定数が記されている。原則として、ABC部数に一致する。

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 2020/03/28 10:27
 2020/03/28 10:24
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