EYストラテジー・アンド・コンサルティング「ドラゴン化計画」 3年で人員倍増、売上2.6倍めざす近藤社長の野望
EYコンサル事業の成長計画「プロジェクト・ドラゴン」 |
- Digest
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- 3年後にコンサル部門だけで3千人体制に
- ドラゴン化計画までの経緯
- 世界では2位、日本では63位の「魅力的な就職先」
- アウトバウンド比5割を維持したまま、Ch2売上を伸ばす
- チャネルセレクション――監査・非監査のバランス
- 最低限の市場シェアすらないコンサル業務
- 毎月100人ペースの中途採用は可能なのか
- 英語はシニマネクラス以上は必須
- 新型コロナで止まった増床計画、変わるワークスタイル
- 移住先から週一出社「EYフレックス&リモート」トライアル
- 東京レインボープライドに協賛、エグゼクティブも参加
- コアタイムなしフレックス導入、120時間残業も
- 「優しさと緩さ」「ゆっくりしている」カルチャー
- 2021年10月パフォーマンスボーナス支給開始
- 今年は計183人が内部昇格、パートナー103人体制に
- 基準時間「1日7時間」、残業代がまともに出る
3年後にコンサル部門だけで3千人体制に
コンサル数、売上高の年次成長計画とマイルストーン。コンサル3千人体制は実現するのか。 |
その近藤を中心に、半年の準備期間をへて2019年6月にスタートしたのが、4年後の2023年6月期に、コンサルティング部門だけ(M&A支援つまり『Strategy and Transactions』部門は除く)で売上744億円、コンサル3224人体制を目指すという『Project Dragon』だ(左記参照)。実現に向け、今期からは「パフォーマンスボーナス」制度の創設など人事制度にも手を入れた。
2020年10月、社長に就任した“ドラゴン”近藤(公式サイトより) |
終わったばかりの1年目(2020年6月期=FY20)は、予想を23億円上回る売上287億円(コンサル1663人)を達成し、コロナ禍の影響も受けず、計画は順調に進行中だ。全社で共有される報告資料では、その成果が語られている。
「FY20では新規採用したパートナーによる売上を10億円と見込んでいましたが、獲得プロジェクトの売上は4月時点で17億円に達しています」。情報をオープンにし、目標を共有して一致団結を促すのが近藤社長の経営である。プロジェクト・ドラゴンの開始から1年弱で、コンサルティング部門だけで約40人、他の3部門と併せて計50人強のパートナーを新規採用し、進捗が順調であることがアピールされている。
1年でパートナー50人規模の採用に踏み切った。なおグローバル4部門のうち、ConsultingとS&T(Strategy & Transactions)は、日本では2020年10月に1つの法人となった。 |
顧客と部下を持っているパートナークラスの人材を、他社からごっそり、部下の人間ごと引き抜く。コンサル業界ではよく見る風景である。
ただ、1年で50人規模の大移動は珍しく、その剛腕&ロケットスタートぶりがうかがえる。
会社支給のiPhoneと社内ツイッターのyammer |
近藤社長はコロナ禍の5月に入ってもなお、強気だった。“企業内完結型のツイッター”として社内で使われているマイクロソフト社の「Yammer」(ヤマー)では、繰り返しプロジェクトドラゴンについて発信を続けている。
「DRAGONの開始から、採用マーケットでのEYのプレゼンスが高くなってきています。一方、ここに来てマーケット全体には一定の低迷傾向が見えてきているので、我々がペースを維持すれば競合をキャッチアップする絶好のチャンスとなるでしょう」
競合とは、EYがブランドのベンチマークとして公式にKPI(達成基準)に設定してウォッチしている「BIG4+マッキンゼー+アクセンチュア」を主に指している。
ドラゴン化計画までの経緯
プロジェクトドラゴンは、ただのパワープレイによる闇雲な日本法人の売上拡大ではなく、EYグローバル戦略の一環に組み入れられた、正式なものである。EYグローバルとEYジャパンは、資本による上下関係はないものの、お互いを利用し合って成長を目指す方向へと、一気に舵を切った。それは、この3~4年の経緯を見るとよくわかる。
■組織改編を繰り返しやっと落ち着いた日本のEY
日本におけるEYは、自らの組織改編を短期で繰り返し、法人を次々と設立しては統合、改名を行うため外部から実にわかりにくく、認知度とブランド力を下げる原因を自ら創り出している。社名がコロコロ変わる会社の信用度は上がらない。
2017年1月、EY新日本有限責任監査法人の傘下にあったコンサル会社2つ(EYアドバイザリー株式会社、EYフィナンシャルサービスアドバイザリー株式会社)を統合し、新日本監査自身が持つアドバイザリー部門も移管して、「EYアドバイザリー&コンサルティング株式会社」として、独立させた(社長は新日本の公認会計士・塚原正彦、会長はアンディーエムブリー)。これで、グローバルEYと同様、「監査」「税務」「M&A」「コンサル」の4つのサービスラインが整った。
この4法人が出資する形で「EY Japan合同会社」が発足(2017年1月)。つまり、グローバルEYの日本におけるメンバーファームではあるが、海外EYの子会社というわけではなく(つまり外資系ではなく)、純然たる日本企業、ということになる。ただし資本構成は開示されておらず、非上場なのでカネの流れは不透明だ。顧客を監査する割に、自らについては、ごく基本的な情報を隠している。
EY Japanは、2019年7月から始まる「FY20」(=2020年6月期)に、APAC(=EYのアジアパシフィック組織)の一員となった。グローバルEY組織との協業関係を深め、APACからの資金支援を得て、「プロジェクトドラゴン」をローンチ。EYグローバルとしては、EYジャパンの成長で日本企業のアウトバウンド(海外進出)支援が拡大すれば、海外でも売上増につながるメリットを享受できる。だからカネを出して成長を支援し、そのプロセスを監視することになった。
2020年10月、日本においては、形式的に「M&A」「コンサル」の2つのサービスラインを同一企業で提供することになり、「EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社」を誕生させた。資本としては、パートナー共同出資で設立された「EYSCホールディングス合同会社」が100%の株を保有するという複雑な組織形態だ。EY Japan合同会社は、別途、存在し続けている。
この3年の動きをまとめると、ようは、監査法人内で「アドバイザリー」とずっと呼んできた複数の事業会社を、「コンサル」部門としてまとめて独立させ、別途独立して持っていたM&A支援の部門(EYトランザクション・アドバイザリー・サービス株式会社)とくっつけて、戦略から情報システム構築まで、フルスペックなサービスラインを持つ総合コンサルティング会社に仕立て上げ、グローバルEYとの協業も強化しつつ、急成長を目指せる組織基盤がやっと整ったのが、2020年10月時点の日本のEY、ということである。
世界では2位、日本では63位の「魅力的な就職先」
このように、クライアントにフォーカスせず、内向きの組織改編にパワーを注ぎ続けた日本のEYブランドは、低迷が続いている。
そもそも日本でEYブランドを冠するEY新日本有限責任監査法人は、そのユルすぎる“手抜き仕事”によって、オリンパスや東芝の粉飾決算を見抜けず、歴史ある日本企業を解体させる結果となり、国益に反する存在となった負の遺産を持つ。
※東芝の白物家電事業は中国企業「美的集団」に売却、PC事業ダイナブックは台湾企業「鴻海(シャープ)」に売却、医療事業はキヤノンに売却、メモリー事業は米Bain Capital等が組むファンドに売却。
東芝事件では2015年、新日本監査が金融庁から約21億円の課徴金を課され、業務停止命令を受け、英公一理事長は引責辞任した。信頼を失った新日本は、2017年までに70社超の顧客企業から監査の契約を解除された。日本におけるEY新日本のブランドは、地に堕ちた。現在、どん底からの復活に挑戦しているフェーズである。
国内では63位に沈む「EY JAPAN」。 |
その、日本で一番評判が悪い監査法人の内部から生まれ落ちたコンサル会社が、EYストラテジー・アンド・コンサルティング、ということになる(前述のとおり、新日本のアドバイザリー子会社2社がその出自)。「東芝ショック」(2015年)から5年。再スタートを切るにはちょうどよい頃ともいえる。
キーポイントとなる人材採用でも、こうした不祥事を反映してか、ビジネス系学部に通う大学生に対するユニバ-サム社の調査(2020年)では、「最も魅力的な雇用主」ランキングで、国内63位に低迷。
ユニバ-サム社による「世界で最も魅力的な雇用主」ランキング(2019年、ビジネス系学部の学生が対象) |
一方のグローバルでは、EYは言わずと知れたグローバルBIG4の一角で、圧倒的な認知度を誇る。ユニバーサム社の調査では、ビジネス系学部の学生に対する「世界で最も魅力的な雇用主」(2019年)で、世界2位だった。1位はグーグル、3位はPwCである。「国内と国外での評価に最もギャップが大きい会社」といってよい。
FY21の重点施策では、年次目標の達成に向けて、10のKPI(重要指標)が設定された。そのうちの1つが、「働きたい会社」になるというもので
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コンサルティング事業の組織図(2020年10月1日)
上:会社支給のPC『DELL』。「機能は十分だが持ち運ぶには少々重い」。下:会社支給のドコモのルーター
EYストラテジー&コンサルティングのキャリアパスと報酬水準
平均的な月の給与明細(残業50時間強、シニアコンサル)。残業100時間超で支給総額が90万円台になったことも。
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読者コメント
DTCが、複数の従業員に違法な引き抜き工作をしたとして、EYに移籍した元幹部に計約1億2千万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、東京地裁は2022年2月16日、「社会的相当性を逸脱した背信的な引き抜き行為」とし約5千万円の支払いを命じた。デロイト社の業務執行社員だった元幹部は2018年にEYストラテジー・アンド・コンサルティングに移籍。部下ら複数の従業員もその後EY社に移った。
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