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“盲目のピアニスト”辻井伸行を輩出した上野学園大学が募集停止 石橋一族が私物化で学園に10億円超の損害与える

情報提供
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背任で告発(後に取下げ)された、前理事長の石橋慶晴氏(左)と妻で現理事長の石橋香苗氏。石橋一族はファミリー会社(学内の管理会社)を設立してその役員を一族で占め、自らが理事長を務める学園側から業務を過大な金額で発注することで、学園とファミリー企業双方からのダブルインカムで多額の報酬を得ていた。現在はこの会社と契約解除。石橋前理事長は交渉の場にも出てこない。(写真は上野学園発行の広報誌より)
 “盲目のピアニスト”辻井伸行氏を輩出し、その恩師で世界的ピアニスト横山幸雄氏も教授を務めた上野学園大学が2020年7月22日、募集停止を発表した。少子化で応募者が減り人件費が経営圧迫――などと説明されたが、その実態は、石橋一族による学園の私物化だった。理事長を務める石橋慶晴氏が、自らが社長を兼務し一族で役員5人を占める管理会社に、相場より8億円超も高い業務委託費を学園から支出し、学園とその会社の双方から石橋一族がダブルインカムを続けていた。原資には少なくとも4億2千万円の私学助成金が含まれる。その間、学園の赤字は続いたが、勤務実態のない理事長の母にも計約8300万円の給与が支払われた。一族は総額10億円超の損失を学校法人に与えたが、上野学園は昨年6月、「旧経営陣の責任は問わない」と結論。このままでは、大幅な給与カットで低賃金で働く教職員、母校を失う学生が報われない。
Digest
  • 事情を知らず驚く教職員・学生・親たち
  • バッハ直筆楽譜を3億4千万で販売し赤字補填
  • 勤務実態ない学園長に給与年2000万円以上
  • 理事の高額報酬により補助金1億1538万円減額
  • ファミリー企業に高額委託で8億円の損失
  • 上野学園理事会は「旧経営陣の責任は問わない」
  • 個別指導の音楽教育が崩壊する
  • きちんと運営すれば十分に存立できる大学
※末尾で「第三者委員会調査報告書」をPDFダウンロード可

事情を知らず驚く教職員・学生・親たち

本来は”美の世界”をめざすのが芸術系大学の学生や教師陣、それを支援する親たちのはず。しかし、経営にまで注意しないと大変なことになると教えてくれるのが、今回の上野学園大学廃学問題ではないだろうか。

原因は報道されたような「少子化の影響」ではなく、石橋一族による学園私物化(テレ東より)

新規学生募集停止とは、事実上の廃学を意味する。

正式発表される直前から、内外の学園関係者は、東京管理職ユニオン東京教職員ユニオン支部を結成し(今年5月)、大学の廃学に反対してきた。

東京管理職ユニオンの鈴木剛執行委員長が言う。

「赤字だから募集停止するというのですから、根拠となる財務状況を開示してほしいと団体交渉や書面でも繰り返し要求しています。ところが、中学・高校・短大・大学をまとめたデータが開示されるだけで、大学部門の詳細な実情がわからないのです。

また、団体交渉への理事の出席を求めているが、一度も出席していません。現理事長の石橋香苗氏、前理事長の石橋慶晴氏の出席も求めていますが実現していません。その場で決定できる人物が交渉の場に出てこないのです。

組合としては、現経営陣の退陣と新たなる経営陣を迎え入れることによる大学の存続をあくまで要求します」

(上)8月6日、東京教職員ユニオン関係者が上野学園大学を訪れ要望書を柵越しに手渡した。
(下)10月7日、上野学園大学関係者が厚労省内の記者クラブで会見し、大学廃学に反対を表明。左は東京管理職ユニオン鈴木剛執行委員長

学生、保護者、教職員の話を聞いても、実情や詳細なデータを把握していない。つまり、大学廃学で直接影響を受ける人たちが、詳しい状況を把握できずに戸惑っているのだ。

このまま行くと、詳しい内容が分からないまま学生は転学を迫られ、多くの教職員は解雇される危機にある。

なお、募集停止するのは大学であり、短大、高校、中学はこれまでどおり存続する。

バッハ直筆楽譜を3億4千万で販売し赤字補填

学校法人上野学園の前身は、1904(明治37)年に創立された上野女学校。1910(明治43)年、上野高等女学校として認可され、アナキストの大杉栄とともに憲兵隊に虐殺された伊藤野枝が在学し、のちに夫となる辻潤が英語の教師として働いていた。

第二次大戦後は学制改革などもあり、中学、高校、短期大学が創立され、1958年には4年生音楽大学である上野学園大学が開学した。以降、音楽教育の世界で一定以上の貢献をしてきた。

盲目のピアニストとして知られる辻井伸行氏を輩出。彼の恩師はピアニストの横山幸雄教授だった。横山氏は最年少でショパン国際ピアノコンクール第3位入賞歴を持つ国際的ピアニストだ。

そして、教え子の辻井伸行氏もヴァン・クライバーン国際ピアノコンクールで日本人初の優勝を遂げるなど、すぐれた演奏家を輩出してきたのが上野学園大学である。

経営をめぐる経営者石橋一族と教職員の対立が表ざたになったのは2016年初頭。学校法人の収支が連続でマイナスを記録するなか、理事たちが毎年2000万円以上の報酬を受け取り続け、教職員の給与減額、解雇、授業数カットなどをしてきたことが背景にある。

直近の話だが、ある教員によれば、専任教授の年収は、高額の人で年収400万円台。国立大学の教授の平均が約1000万円だから半額以下になる。

それでは中学・高校の教員はどうか

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教職員らが立ち上げた「新しい上野学園を作る会」ホームページ。理事らの高額報酬や学園所有のバッハの直筆譜などを売却したことなども問題にしてきたが、現在は解散しており、ツイッターやFacebookも更新していない。

(上)石橋慶晴前理事長の報酬。(下)石橋裕理事の給与。ともに第三者委員会報告書より。学校法人の経営状況が思わしくないなか、両名の高額報酬などが理由で補助金が1億円以上削減された。

収支のマイナスが続くなか、関係者から理事長や理事の高額報酬・給与が問題とされ、第三者委員会により調査が行われた。報告書P16では収支状況を示している。

(上)第三者委員会報告書を受けて上野学園が報告書を出したことを知らせるホームページ。(中)上野学園が出した報告書4頁では、「責任の所在について」言及している。(下)第三者委員会の報告書が出されて3年半後の2019年6月5日付のお知らせで、上野学園は「旧経営陣の責任は問わない」との結論に達した。

文科省から上野学園に出された通知書。理事への報酬に加え、教職員共済制度についても問題が発生している。教職員へきちんとした説明、また日本私立学校振興・共済事業団への相談・報告を要請した内容で、厳しい文言になっている。

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  2020/11/24 23:08
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×8億44359万9493円(08年~16年合計)も高かった 〇8億4359万9493円(08年~16年合計)も高かった
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