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《診断書の闇》を医師が内部告発--化学物質過敏症の権威・宮田幹夫教授が「エイヤッ」で交付、障害年金・スラップ訴訟に悪用も

情報提供
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東京都杉並区にある「そよ風クリニック」。赤屋根の箇所。右は隣接するコインランドリー。

化学物質過敏症の権威として知られる宮田幹夫・北里大学名誉教授(87歳)が、大阪府に住む女性患者のために、診断書を交付した。女性は最初、地元のクリニックを受診したが、診察した舩越典子医師は、化学物質過敏症とは診断しなかったため、上京して宮田医師の外来を受診した結果、宮田医師が診断のうえ交付したもの。その後、宮田医師は船越医師に書簡を送付し、女性に精神疾患の疑いがあることを知りつつも「エイヤッ」(書簡より)で化学物質過敏症の診断書を交付したと報告。さらに「何かありましたら、(患者を)お馬鹿な宮田へ回して頂きたいと思います」とも伝えた。化学物質過敏症と精神疾患の間にはグレーゾーンがあり、診断は医師によって異なる。安易な診断書交付は、交付料をとるビジネスになりかねないほか、障害年金不正受給の温床になる。さらには、横浜副流煙裁判のように「SLAPP訴訟」にも悪用される。昔から水面下で行われていた「不正診断書交付」問題を、初めてクローズアップする。

Digest
  • 化学物質過敏症と受動喫煙症の関係
  • 診断書を、「エイヤッと書いております」
  • 横浜副流煙裁判に材を取った映画『窓 Mado』
  • 作田医師が作成した3通の診断書の問題点
  • 宮田医師、「すべて問診だけで決めます」
  • 現在も使われている20年前の診断基準
  • 精神疾患との関係を指摘する環境省の報告書

※日赤病院の調書と宮田医師による書簡はPDFダウンロード可

著名な医師による診断書の不適切な交付をめぐり、Twitter上で「炎上」が広がり始めたのは、ニューソク通信が須田慎一郎氏のインタビュー番組(YouTube)を公開した後だった。

2023-01-31
下記ツィート。現在は削除されている。

140文字の短い投稿。そのツィートの中には、憎悪を露呈して言葉を吐き散らした印象のものもある。たとえばアカウント名「化学物質過敏症患者」は、その典型にほかならない。番組が批判した医師をかばう次の投稿である。

あの鼻くそ動画がでても、Twitterを見る限り、先生の評価は揺るがない。知識のある人はきちんとした評価をできる。藪から棒の黒い鼻くそ達を信じる人はいないが、今後、無知な短絡的思考の人が、あの鼻くそ動画のわかりやすいレトリックを信じる恐れはある。藪からいでし、黒い鼻くそたち。

文面から精神を病んでいる人の印象を受ける。

「藪から棒の黒い鼻くそ」とは出演者のひとりである筆者・黒薮のことだろう。「鼻くそ動画」と罵倒されている番組のタイトルは、「内部告発で医療界に激震!!安易な診断書交付が悲劇を生む!!化学物質過敏症の深い闇!!横浜副流煙裁判との共通点とは…?」である。

Twitterの投稿にある「先生」とは、化学物質過敏症の権威的な存在である宮田幹夫医師のことである。

宮田医師
「シャボン玉石けん」社長との対談では「全国からの診療予約が3カ月先までいっぱいだそうですね」と話を向けられており、その盛況ぶりがわかる。「エイヤッ」で診断書を出してくれるとなると、とにかく障害年金の受給資格がほしい人にとってはありがたい存在に違いない。全国から殺到するのも当然である。

そよ風クリニック(東京都杉並区)の院長であり、北里大学の名誉教授でもある。医学者として高い評価がある。

筆者も宮田医師の著書から学んだ点は多い。しかしその反面、「化学物質過敏症」の病名を付した診断書を軽々しく交付する医師――という批判の声が以前からあった。

なぜ、安易な診断書交付が問題なのかと言えば、「化学物質過敏症」の病名を付した診断書が悪用される場合があるからだ。たとえば、後述するように裁判の提訴に利用されたりする。障害年金の不正受給の温床にもなる。たとえば障害基礎年金2級の認定で、年777,800円(月額64,816 円)を受け取れる。(日本年金機構『化学物質過敏症で療養中の皆様へ』、金額は2022年度)

もちろん本当の化学物質過敏症患者に対しては、診断書を交付して公的に手厚く保護する必要があるが、一定の割合で精神疾患の患者が混じっているとも言われている。精神症患者を化学物質過敏症と診断すれば、その患者は肝心の精神疾患を治療する機会を奪われてしまう。

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筆者を批判したツィート。投稿者は、毎日新聞の元記者である。診断書をめぐる問題はネット上で炎上している。ツィートが言及している「他のMCSの専門家」を取材した記事のタイトルは、「芳香剤や建材等の化学物質過敏症、急増で社会問題化か…日常生活に支障で退職の例も」である。

しかし、化学物質過敏症は、診断基準があいまいなので、医師の主観で病気の確定をせざるを得ない側面があるのも事実だ。

こうした状況の下で須田氏の番組に出演して、宮田幹夫医師を正面から批判したのが、舩越典子医師である。舩越医師は、1989年に京都府立医科大学を卒業した後、勤務医を経て2001年に現在の 典子エンジェルクリニック(大阪府堺市)を開業した。当初は婦人科だけのクリニックだったが、その後、化学物質過敏症の外来を併設した。みずからが化学物質過敏症に罹患した体験が、その動機だった。

ネット上で筆者や舩越医師の誹謗中傷を繰り返している人々の中には、宮田医師が診断書交付をためらうようになると、障害年金などが受け取れなくなる「患者」が含まれている可能性が高い。その怒りと不安がTwitterによる汚い言葉の投稿としなって吐き出された、と考えられる。だが、はからずもそれは、化学物質過敏症が内包している問題を考える機会をもたらした。化学物質過敏症と精神疾患の間にあるグレーゾーンを、議論の場に押し上げたのである。

化学物質過敏症と受動喫煙症の関係

化学物質過敏症とは、特定の化学物質を体内に取り込むことで引き起こされる病的症状の総称である。めまい、吐き気、頭痛、関節痛、耳鳴り、呼吸困難、不整脈など多種多様な症状を引き起こすとされている。精神疾患(発達障害を含む)と区別が付きにくいことも指摘されてきた。

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診断書の一例。作田学医師が筆者の知人に交付したもの。知人は、衣服の繊維に対するアレルギー症状があるが、作田医師は「受動喫煙症」と診断した。化学物質過敏症の診断基準は曖昧だ。

映画『窓Mado』で、原告家族と被告家族(写真が話し合う場面)

化学物質過敏症の代表的な3の診断基準。(上)Cullenによる診断基準、(中)石川哲医師による診断基準、(下)米国のコンセンサス。いずれも20年以上前に作成された。

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nekoluna2023/06/27 21:15

“宮田医師は船越医師に書簡を送付し、女性に精神疾患の疑いがあることを知りつつも「エイヤッ」(書簡より)で化学物質過敏症の診断書を交付したと報告。”

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