1.社員の平均年齢が若い #【年齢に関係なく仕事を任される】
❐やりがい―仕事軸『いい会社はどこにある?』
(本稿は単行本『いい会社はどこにある?』の元原稿 完全版で、もとは《会社を選ぶ技術》として書き進めたものです) |
外から見たら全く同じ1つの仕事に、「やりがい」を感じる人もいれば、感じない人もいる。それが人間の内面である。これは、人それぞれが持つ性格によって、「動機」が異なるからだ。コロナ禍を例にいえば、とにかく眼の前の1人を助けて感謝されることにやりがいを感じる臨床医もいれば(感謝動機が強い)、ワクチン開発によってより多くの人を根こそぎ感染から救うことにやりがいを感じる製薬メーカーの研究者(支配・影響動機が強い)もいる。
仕事軸は、「やりがい」と「キャリア」に分類できる。サブ項目ごとに望ましい状態と、望ましくない状態を示しており、ぞれぞれを読んでいただければわかる。
「仕事」軸の評価基準 →「生活」軸へ |
KeyQuestionsは以下のとおり。これらに対する答えを深堀しくことで評価の根拠を得られることが、私の長年にわたる取材でわかっている。
・新卒何年目、何歳くらいから、どんな裁量権を持って仕事を任されるのか?
・自分でやりたい仕事に就けている人は初期配属、中堅社員以降で、それぞれどのくらい?
・総合職一括採用ではなく「職種別採用」をどのくらい細かく行っている?
・学歴、学閥、性別、国籍の多様性、およびリクルーター制など入社ルートの特徴は?
・ノルマや目標達成へのプレッシャー、未達時の詰められ方は?
・異動の年数とパターン、希望の通りやすさは?
・社内公募制度や新事業提案制度など自主性を重んじる仕組みの運用実態は?
・身につくスキルはどのようなもので、その市場価値は高い?スキルを活かしての独立は?
・海外赴任の可能性や語学力の必要性、国籍の多様性は?
・社内の中途/新卒比率と、中途採用者の元職の傾向は?
・離職率と、転職先の傾向、有名な出身者や人材輩出状況は?
- Digest
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- 「やりがい」の土台は動機である
- 若手にも権限・責任がある↔年功序列の大企業
- 年齢に関係なく仕事を任される組織、5つのポイント
- 平均年齢からわかること
- 「役職定年」「希望退職」は老化と停滞の証
- 余剰を生み出すサラリーマン組織
- 平均年齢が若い会社
- サラリーマン組織と、専門職組織
- プロフェッショナル組織とは
- 「開業」「転職」で中年以上が外に出ていく医局組織
❐やりがい
「やりがい」の土台は動機である
動機には、こうした人間の心のなかにひそむ感謝欲や影響欲に基づく「内発的動機」と、誰が見ても外からわかる「外発的動機」がある。外発的な動機は、たとえば「〇〇銀行支店長」といった組織内の「肩書き」、年収1千万円といった「年収」、ブランド物や高級車を保有して見せびらかす「物欲」、紫綬褒章やミシュランの星獲得といった「賞賛」などがある。
土台としての「動機」の種類。科学的な検証が難しい内容であるが、実感としては合っている |
金持ちになって豪邸に住みたいとか、有名企業の支店長の名刺を持つことこそが、自分の仕事上のやりがいだと思い込んでいる人がいるのは確かだが、こうした外発的動機は、どこまで達成しても満たされることがないため、本質的なやりがいを感じることはできない。1千万稼げたら、2千万ほしくなるだけ。上には上がいるため、他者と比較できる外発的動機で働くと、いつまでも本当の幸せは訪れない。人間の欲は、際限がないからだ。
よって、より重要なのは内発的な動機となるわけだが、人間は個体によって、この動機がすべて異なる。内発的動機を満たす仕事とは、時間を忘れて没頭できるような“ハマれる仕事”である。各自の動機は、働いてみてはじめて実感できるもので(だから勉強するよりも、まずは社会に出て一回は働くことが決定的に重要だ)、人によって全く違う。
私が実感したのは1年目に新聞記者をやっていたとき、飛行機事故が起きて※、周りの社会部系の先輩記者たちがお祭り騒ぎのように高揚し、実にやりがいを感じて楽しそうだったときだ。大事故は社会部記者にとってめったに訪れないチャンスで、「現場に行けるオマエは役得だな!」と言われた。私は事故現場に野次馬的な興味もなく、「これから忙しくなって嫌だな」と陰鬱だった。案の定、それから1か月以上休みがなく、ツラいだけだった。もともと経済・企業の取材をしたくて日経新聞を志望したので、事故取材には動機がないことに気づいた。
各自の動機をどのように発見していくかという話は、別の壮大な重要テーマ(終章参照)※なので、本書では深入りしない。動機は重要だが、皆が、すでに漠然と認識しているもの(人によっては、わかり切っているもの)でもあり、その漠然と認識した動機をもとに、職業選択→会社選択、という道をたどるのが普通だ。つまり、とりあえずいったん置いておいても、それほど大枠からずれることはない。
※ガルーダインドネシア航空離陸失敗炎上事故。1996年6月13日に福岡県福岡市にある福岡空港で発生。乗客3名が死亡、乗員2名・乗客16名の計18名が重傷、91名が軽傷を負った。
※『35歳までに読むキャリアの教科書』(ちくま新書)で詳述しているので参照されたい。ウェブ版は『ポスト戦後のキャリア論』参照
動機に合致しない仕事を選んでしまうと、やりがいを感じにくいのは当然であるが、大半の人は、ある程度、興味のある職業や仕事内容(たとえば記者だったり、広告マンだったり、モノづくりの開発者だったり、システムエンジニアだったり…)には目星がついている。
それを土台として、どのように個別の会社を見抜き、自分が働く会社を絞っていくか、が本書の扱う「やりがい」の範囲である。以上をふまえ(つまり動機との合致を別にした場合に)、やりがいにつながる共通の評価基準は何なのか、を示したものが表の6つの詳細基準であり、#【年齢に関係なく仕事を任される】#【自律的に仕事内容を選択できる】という2つの「条件」に集約される。
#【年齢に関係なく仕事を任される】
若手にも権限・責任がある↔年功序列の大企業
筆頭で「若い段階から、能力と意欲に応じて権限・責任が与えられる」(❐やりがい-1)というように、「若い段階から」と表記したのは、日本企業の特徴である「年功序列」との違いをわかりやすくするためで、ようは「年齢に関係なく」、やる気(意欲)と実力があれば重要な仕事を任されますよ、ということだ。
自分に裁量権がなく、言われたことをこなすだけだと、やりがいを感じにくいのは理屈として分かるだろう。最初の2年くらいは、適切な指導を受けつつ緩やかな管理下に置かれるのは当然としても、3年目、4年目でも裁量権がなく、何をするにも許可が必要となったら、仕事の面白みは感じにくい。
究極の実例が、「1円稟議」で有名な日本電産※である。「これは本当の話で、私も経験があります。金額の多寡にかかわらず、永守会長本人が紙の稟議書に赤字で、コメント欄をはみだしてハンコの欄にまで、ぐちゃぐちゃと指示や疑問点が書き込んであって、差し戻されます。自分が関与しないと納得しない人なので、権限が永守さん1人に集中していて、ぜんぜん権限委譲されないんです」(40代部長クラス)。
※小型モーターで高い世界シェアを誇り、自動車用パワーステアリングモーター等で世界シェアトップ。日本国内の企業では、時価総額トップ10の常連である。創業者・永守重信氏の強力なリーダーシップで成長を続ける完全独裁型で、統括部長以上は土曜の午後に会議が設定され、永守氏からの返信メールには即日返答が求められるため、日曜も休めない。権限委譲せず、事細かに現場に介入する「マイクロ・マネージメント」手法に特徴がある。
会社のお金を1円使うのにも、創業者が自ら目を通し、指図してくる。サラリーマンは会社の資産(設備、経費、名刺)を使えるからこそ組織に所属する意味があるわけだが、これでは創業者の拡張装置、まさに「手先」でしかないので、仕事のやりがいは感じにくい。
三菱商事は、
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電通のポストオフ年齢※2015年7月導入「マネジメント職新人事制度説明資料」より。現在は変わっている可能性がある。
窓際族と45歳以上の希望退職者が不可欠となる「ピラミッド組織の法則」
都内私立大学病院小児科医のキャリアパスと報酬水準(医局)
この10年で、アクセンチュア・PwC・デロイトなどコンサル会社が常連として上位に入るようになった。(2020年3月卒業生対象、『東京大学新聞』まとめより集計、東大に残って研究職に就く者は除く)
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