4.所属業界の規制が少ない #【年齢に関係なく仕事を任される】
❐やりがい―仕事軸『いい会社はどこにある?』
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4つめは、規制が少ない業界であることだ。規制が少ないほど、新しいことに挑戦するチャンスは多くなり、仕事内容はエキサイティングなものとなりやすく、心も体も若い人に向いている。逆に、中高年は急激な変化や激しい競争についていけなくなり、キツい思いをしやすいから、規制業種のほうが心穏やかに過ごせるかもしれない。
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- 問題も答えも分かっているが解決に向かわない
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問題も答えも分かっているが解決に向かわない
日本は少子高齢化が進み、既に世界一の老人国家※であるため、いわゆるシルバーデモクラシーによって、数が多い老人たちの政治力が強く、規制緩和が進まない構造になっている。なんと、投票する人の約半数が、60歳以上なのだ※。当選するためには、年金生活者を最優先に優遇する公約を出さなければいけない構造になっている。
※2018年の高齢者人口(65歳以上)の総人口に占める割合を比較すると、日本(28.1%)が頭抜けて最も高く、次いでイタリア(23.3%)、ポルトガル(21.9%)、ドイツ(21.7%)、フィンランド(21.6%)となっている。日本以上に少子化が進む韓国の高齢化は深刻で、いずれ日本を追い抜く勢いだが、日本のトップが2050年くらいまで続くのは確実視されている。
※2019年参院選実績をもとに計算すると、全5153万人が投票、うち2569万人(49.9%)が60歳以上だった。一番多いのは、70-74歳の529万人だった。これは、高齢者ほど、絶対数が多いうえに、投票率も高いからである。筆者は、たとえば未成年3人を育てる1人親には、計4票を与えるべきだと考えている。年代ごとのバランスが悪すぎるからだ。または、20代、30代、40代…と年代ごとに等しい影響力になるよう、調整を入れるべきだろう。
たとえば世界中を席巻した「白タクのマッチングビジネス」Uberや、「民泊の宿泊予約代行ビジネス」Airbnbは、ともに日本では厳しい参入規制がかけられたまま、既存事業者(つまり昔からのタクシー業界・ホテル業界)が手厚く守られ続け、普及していない。
同様に、医師会、農協、郵便局、新聞テレビといった、いわゆる岩盤規制の改革は一向に進まないどころか、逆に、新聞への軽減税率適用※のように、保護が強まっているほどだ。米国のように新聞社が潰れれば、そこにいた人たちが新メディアを立ち上げたり、新しいテクノロジーと融合した新規事業の参入が起こり、新しい組織では年齢に関係なく実力主義で、若手が活躍しやすくなる。これが起きず、規制ガチガチのまま停滞しているのが、岩盤規制業界である。
※日刊紙の消費税は8%で、本書を含む他の出版物の10%に比べ、2%の税制優遇を受けている。2019年10月に8%→10%に引き上げられる際に、食料品以外では新聞だけが特別扱いされ、軽減税率が適用された。また、民主主義国においては言論・報道の多様性を確保するために新聞とテレビを同一資本下においてはならないとする「マスメディア集中排除原則」も、日本のマスコミ企業は適用を逃れている。日本経済新聞社は子会社にテレビ東京を持ち、その社長は代々、日経からの天下りポストで、物言う株主(香港の投資会社リム・アドバイザーズ)から「天下り禁止」「顧問制度の撤廃」「株主利益に沿った社外取締役の就任」を求められている。
官邸も問題意識はあるが、抵抗が強いため、改革できないまま、問題の《周辺》をうろうろしている。2013年度から“世界で一番ビジネスをしやすい環境”を作ることを目的に「国家戦略特区」を設け、特定地域を突破口として岩盤規制を打ち破ろうとしているが、成果らしきものはなく“やってる感”だけ。政治が、何も仕事をしていないに等しい。
主要国の高齢者人口推移(総務省統計局資料) |
問題も答えも分かってはいるが、解決に向かわないのが日本の規制改革の実態である。岩盤規制は、「国民の支持率が高い首相」のリーダーシップでしか打ち破れない(例:小泉首相の郵政民営化)が、できそうな政治家が見当たらない。そもそも、事の本質と深刻さを理解できていないようにみえる。
年寄りは、古今東西、自分が長年築き上げてきたものを守るべく、時代が変わっても法制度の現状維持を望むものだ。そして、法制度は政治力で決まるため、実はフェアな議論ができない。政治は数、数は力。数でいうと、我が国の人口動態は、下記のとおり、2040年に「イモムシ形」になることが決まっていて、多数決で決めると、答えは「既得権維持」なのである。外国人労働者が増えたとしても選挙権はないため、これはもう、《決められた未来》《明らかな運命》といってよい。2040年、18歳~30代までの有権者数は、40代以上の有権者数の3分の1程度しかおらず、決定権を握るのは60代の「団塊ジュニア」世代になっている(私もその1人だ)。
数の暴力で超「老人既得権社会」となる2040年の人口ピラミッド |
今のような40代のコブはなくなり、世界史上でも例がない、活力ゼロな完全“老人天国社会”が実現しているのが、20年後の日本である。実は、老人たちは、票だけでなく、カネも握っている。現在、既に個人金融資産2023兆円(2021年12月末)の6割超を60代以上の高齢者が保有しているが、90歳前後の親から60歳前後の子へと相続され、高齢者の間でグルグル回るだけなので、資金需要が高い現役世代には回っていかない。資産に課税するか国債を増発して若者世代に再配分するのが正しい政策であるが、既得権者である高齢者たちが、政治力を行使して阻止してくることは容易に想像できる。
規制がないIT、クールジャパン
図にまとめたものが、労働者視点から見た場合の、業界の経済的規制度合いを5段階に分けたもので、右側ほど規制が緩く、参入障壁が低い(※筆者現場取材に基づく分類)。規制には社会的規制と経済的規制があり、たとえば公害を発生させないための環境規制や、食中毒を発生させないための衛生規制、過労死を生まないための労働規制などは、必要不可欠な「社会的規制」の代表だ。社会的規制は別問題なので、ここでは対象外である。
働く現場視点で見た経済的規制度合い |
経済的規制とは、自由競争を阻害する参入障壁を設けているものをいう。たとえばOECD諸国で電波オークション※を実施していない国は日本だけだが、これによって、既に放送局免許を持つTV局は、外部から有能な企業が新規参入する可能性を断つことができ(可能性ゼロ!である)、ぬくぬくと2兆円弱のCM収入を在京5社グループで分け合うという“楽勝経営”が維持されてきた。
※電波オークション=電波の利用権を競りにかける制度。経済協力開発機構(OECD)に加盟する35カ国の中で、日本以外の34カ国が導入済みであり、日本だけが未導入である点について、内閣府の規制改革推進会議が疑問視してきた。TVは自らが既得権者であるため、この問題を報道することはない。総務省の裁量行政で電波が割り当てられるため、たとえば4K衛星放送事業者としての認定がほしい東北新社が菅首相の息子を社員として雇って総務省の役人を繰り返し接待したり、携帯電話の電波を使うNTTが高市総務大臣を接待する、という構造的な問題が発生している。政官業癒着による、実に不透明で陰湿な決まり方で、日本の恥部である。
本来ならば、国民の共有財産である「電波」の利用料は、国家財政に寄与して社会福祉などの財源にできるため、国民は一部の民間企業に富を奪われているに等しい。合理的な理由は存在せず、裁量行政で権限を持ち続けたい総務省と、競争から守られたいマスコミ企業との、醜悪な癒着である(合理的な理由があるならば他の先進国でも同様に規制されている)。いわゆる岩盤規制の、代表的な1つだ。
逆に規制がもっとも緩いのが、一番右側の「IT、クールジャパン」業界群。
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