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「AIが生み出す雇用」3つの条件――ChatGPTに駆逐される仕事 生き残る仕事

情報提供
表紙掲載用
週プレ2023年6月5日号No.23

最近、CHAT-GPTブームで「AI失業」ネタが再燃し、取材を受けることが増えたので、AIが生み出す仕事や雇用についてまとめておく。この構図を理解できれば、AIを恐れる必要がないことがわかるとともに、どの分野でAIが活用できて、雇用が増えるのかが分かるので、職業選択や事業戦略にも生かせるだろう。(本稿は、『週刊プレイボーイ』(2023年6月5日号)の企画「ChatGPTに駆逐される仕事 生き残る仕事」で、取材時に話したことのなかから、「AIが雇用を生み出す分野」について、改めて詳しく解説したものだ。記事は全文公開されている)

Digest
  • 1:1で置き換わる業務はレア
  • AIが需要を掘り起こす
  • 3つの条件
  • ジャスティス領域:弁護士
  • フェアネス領域:審判
  • 交通安全領域:自動運転
  • 防犯領域:ホームセキュリティー
  • 教育領域:トップ講師とカウンセラーに分離
  • チャットAIが分かるまで教える

1:1で置き換わる業務はレア

単行本『10年後に食える仕事 食えない仕事 AI、ロボット化で変わる職のカタチ』では、現状ベースで分析し、国勢調査をもとに全体の34%が消滅する分析を行い、編集者が本の帯に「3人に1人は失業する」とつけた。これは現状の仕事のやり方そのままなら、その業務はテクノロジーにリプレイスされる――それが人間の頭数ベースで概算34%ある、ということである。

記事の1ページ目
「ChatGPTに駆逐される仕事 生き残る仕事」(50~53頁)

その業務は、AI・IT・ロボットを活用した新しい業務プロセスに置き換わる。そして、多くの場合、人間よりも高性能な仕事をする。

以前に水道の検針員やガスの検針経験者を取材して、実は表面化しないミスが多いことを知った。間違えた検針票はポストに手を突っ込んで回収するという。人間のアナログ目視はミスが一定確率で発生するが、デジタル機器はミスらない。東京電力の検針業務は、スマートメーターに内蔵された通信機器に置き換わり、既に人間の仕事ではなくなっている。

単行本食える仕事
10年後に食える仕事 食えない仕事 AI、ロボット化で変わる職のカタチ」(東洋経済新報社)

鉄道の運転士が増えることは、もうない。通常の電車は、運転士と車掌の2人体制であるが、最初から全駅ホームドア完備で運転も自動化したTX(つくばエクスプレス)は、運転士と車掌を兼務した役割の乗務員が先頭に1人乗っているだけ。やることがないので、走行中は眠気との戦いなのだという。駅ごとに「ドア開け・ドア閉め・出発」のボタンを3つ押すだけだ。(→眠気との戦いも眠気防止ガムすら禁止

JR各社も、まだ駅のホームドア整備を進めている段階だが、自動運転を目指しているので、今後は、車掌 兼 運転士によるワンマン運航がデフォになり、その次のステップが、完全自動運転(ポートライナーやゆりかもめ方式)となる。人間は眠くなるがAIは正確に24時間働ける。人間の運転士の出番は、緊急時対応だけになる。

AIで消える仕事マップ
「AI化で消える仕事、残る仕事」マップ

これらが、わかりやすいAI失業論である。だが、このように「1つの業務=仕事」で、それが1:1で置き換わるケースは、一部のブルーカラー職種のみ(左記の左下エリアである)で、全体からみたらレアだ。「大半の仕事=業務の束」であり、AIは、束になった業務のなかの、特定の1業務しか代替できない。

AIが需要を掘り起こす

ホワイトカラー職種におけるAI導入効果は、トータルで人間の仕事量を増やす可能性が高い(図の右上=デジタルケンタウロス領域)。その典型として紹介したのが、放射線科医の読影診断業務である。

「かつてMRIが普及したことで『精度の高い検査ができるのなら、とりあえず撮っておくか』となり、検査件数が増えました。だから、AIで正確に発見できるとなったら、人間の仕事を奪うどころか、むしろ全体の検査数が増え、2次読影以降の人間にしかできない仕事が増えるでしょう」(40代放射線科医)

放射線科医の未来
放射線科医とAIが協働し人間の仕事も増える未来(10年後に食える仕事食えない仕事より)

現在は、人間の眼でダブルチェックするのが通常プロセスとなっている。人間は機械と違って疲れるし、見落としも避けられないので、これは当然である。AIは総合的にみて人間よりもミスがなく正確だが、ただのツールに責任はとれない。命にかかわる診療に対し最終責任をとれるのは人間の医師だけ。これは未来永劫、変わらない。だから、最終診断は、常に人間が行うことに変わりはない。

AIは人間の医師に比べコストが安く、24時間稼働できるから、格段に多い量をさばける。2人に1人が、がんで亡くなる時代だ。肺がんは男性死亡数の第一位である。無症状での早期発見が、命を救う。安価で正確に検査ができるとなったら、検査数は増え、放射線科医の診断確定業務が増えて忙しくなることは、かなり確定的に思える。AIが、潜在的な需要を掘り起こすからだ。

この場合、需要を100%満たす状態は、「年1回程度の検査を受けて早期発見、早期治療を行えること」だ。通常は、誰しもが健康で生きたいと考えるわけだが、それに対する現状の充足率は、もちろんデータなどないわけだが、人間ドックの受診率からせいぜい5割程度である(肺がん健診の受診率は男性53%、女性45%、2019年、40~69歳=国民生活基礎調査)。

この通常の肺がん健診は、見逃しが多いエックス線読影が中心で、進行したものは発見できるが、ステージ1Aなどの数センチ程度の早期発見は、期待できない。心臓や肋骨などと重なり、裏に隠れて見逃すことも多い。だから、「理想の健診」からは、ほど遠い。

よって、「CT画像+AI一次診断」の組合せが最終形となる。日本はCTとMRIが世界一普及した国なので、この分野をリードできる可能性がある。安価に、手軽に、ほぼ確実に見逃しなく、死因1位の肺がんを早期発見できる――となったら、CT健診の受診率が2倍以上に上がってもおかしくないし、最終診断を下す医師は超多忙になるだろう。

同様に、脳のMRI画像から初期の認知症を発見する、眼の眼底写真から初期の緑内障や白内障を発見するなど、画像診断はAIの得意分野であり、脳神経内科や眼科の医師の仕事を増やす。

こうした、「AIが空白の潜在需要を掘り起こして埋める→件数が増える→必然的に付随する人間にしかできない仕事が増える」というパターンは、冒頭の検針員や運転士のケースでは起きない。

この差は何かというと、検針も鉄道も、既に需要が100%満たされているからだ。鉄道事故が不安だから乗らない、という人は、まずいない。既に十分に安全だと思われている。同様に、人間による検針では不正確だから電気やガスを使わない、という人もいない。需要は一定で、既にほぼ満たされている。

3つの条件

整理すると、以下3つの条件が、人間の仕事が増えるパターンといえる。

①100%の需要レベルと現状とのギャップが大きいこと
②AI技術がそのギャップを埋められること
③件数を増やせること
AI雇用創出分野イメージ
AIはどこで雇用を創出するのか?

①は、どのような業務が該当するだろうか?人間社会に共通する真理として、「医療・健康」「交通安全・防犯」「ジャスティス・フェアネス」「教育・スキルアップ」は、永遠に100%を追い求め、飽くなき追究を行うのが人類で、《永遠なる100%》とも言えるほど、その水準は高く、遠い。

その100%水準と現状とのギャップをAI技術が埋められるとき、仕事の件数が増え、そこに付随する「人間にしかできない仕事」が増え、雇用が増える。人間にしかできない仕事とは、信用・感情・創造を要するもので、職種によって強弱はある。だが、人間がかかわらずAIだけが自動で働くことはないので、人間の雇用は何らかの形で増えると考えてよい。

以下、具体的な職種で見ていこう。

ジャスティス領域:弁護士

ジャスティスの領域でいうと、対話型AI「CHAT-GPT」の登場によって、弁護士業界の有望性が高まった。この場合、100%とは、「泣き寝入りする者がいない、法と証拠に基づき正当な権利が守られ、救済される法治国家」だ。誰も異論はないだろう。現状は、はるかに低い水準と言わざるを得ない。そこは合意ができているため、司法試験改革では、弁護士を「フランス並みの法曹人口(5万人)まで増やす」と決まった(2002年閣議決定時=約1万9千人)。約2.5倍である。

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