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児童扶養手当の不正受給、“偽装シングルマザー”50人発覚も放置

市役所職員が語る「返金を求めると仕事増えるからやらない」実態

情報提供
1枚目サムネ
「行政に情熱を持っている人に自治体職員は向いていない」と話すインタビュイー。前例踏襲主義で、業務プロセスを改善する気がないため、機械のほうが得意な業務も、人間がやっている。改善提案すると上司から「これまで通りでいい」と却下され、メンタルを病み適応障害と診断された。

「市役所の業務は、大半が定型的な作業ですが、自動化が進んでおらず、人間が目視で作業するためミスも発生します。たとえば児童手当は『扶養している人数』と『世帯収入』を変数として所得制限があるのですが、窓口で対応するときは、まず職員が氏名と生年月日を聞いて、住民基本台帳を『目視』でチェックし、該当者かどうかと支給金額を確認。それから審査時に、申請書を見て、情報システムに手入力し、支給の有無と金額を再確認して、支給リストに入れます。郵送で対応する場合は、紙の申請書を目視で見て、情報システムに手入力で転記して支給区分を確認し…(以下同じ)。要は、ぜんぶ申請された紙を見て、人間の目視と手入力で作業を進めるんです。本来、ITで自動的に認定&支給できる業務ですが、現場はアナログです」――。首都圏の市役所に約15年勤務する職員(40歳前後)に、IT化の遅れや不正受給放置の実情など、市役所業務の現場実態を語って貰った。

Digest
  • 「申請主義」「バラバラ」でいまだ目視&手作業が多い
  • 認定作業
  • シングルマザーの二世帯住宅問題
  • 養育費「貰っていない」は「悪魔の証明」
  • 同棲「偽装シングル」の不正受給40~50人発覚
  • 「一般行政職・事務」枠とは
  • 庁内公募制ナシ
  • 現場はトップダウンで「やらされ感」
  • 「市長>議員>公務員」の構図

※インタビュイーが児童福祉の部署に在籍していたのは5年ほど前まで。

「申請主義」「バラバラ」でいまだ目視&手作業が多い

「児童手当」(旧子ども手当)は国の制度で全国共通。その給付実務を「法定受託事務」として市役所などの自治体が担っています。外国人の住民も増え、言葉の壁を感じます(※住民基本台帳に登録され3ヶ月を超える在留資格を持つ外国人は児童手当の対象となる)。

文書の書き方がわからない、どういう手当があるかもわからない——そういうイレギュラーなケースでは対面で対応する必要がありますが、通常のレギュラー業務でIT化がまだまだ進んでいないのが問題です(やっと電子申請が始まったところ)。

児童手当の支給要件(東京都福祉局)

児童手当は、市民からの申請を受けて審査して決める「申請主義」(⇔プッシュ主義行政・プッシュ型支援)なので、市民に余計な書類と作業が発生し、職員もアナログで不要な作業を行い、公務員人件費という税金を無駄遣いしています。本来、住民の申請を受けなくても自動的に支給できます(マイナンバーに給付口座を初回1回登録するだけでOK、扶養人数も所得も行政はすべて把握済み、支給辞退者だけ申請を受け付ければよい)。

子ども医療費助成制度に至っては、ウチの場合、まず紙の受給券を事前に発行する複雑な仕組みになっており、市民(親)は、この受給券を貰うために、さらに紙の申請書を書いて出さねばならないという、二重のアナログ作業が必要になります。

ここでも、職員が情報システムに手入力して審査を行います。受給券は紙なので郵送作業も発生します。すべてがアナログです。この受給券と健康保険証を県内の医療機関に出すと、市民は、ほとんど無料(数百円以下)になり、医療費は、医療機関と市役所の間で清算されます。

ただし、県外の医療機関を受診したり、紙の受給券を出し忘れたら、医療機関から紙のレシートや領収証を貰って、それを申請書とともに役所に出す必要があり、職員がその書類を見て、審査作業をして、医療費の償還払いを行います。

この子ども医療費助成も、申請した人だけに助成する申請主義(しかも紙だけ)にしていることで、職員の目視や転記作業をともなう審査作業が発生し、煩雑なアナログ業務になっています。自治体DX(デジタル・トランスフォーメーション)はぜんぜん進んでいません。申請主義をやめればよいのです。

子ども医療費助成=各自治体で制度や支援額が異なり、バラバラに対応している。国が子育て支援に後ろ向きで、未だ全国で無償化されていない。マイナ保険証が浸透すれば自動化可能で、裏で勝手に集計されて、給付口座に返金される仕組みとなり、全国でアナログ作業に無駄な公務員の作業(税金)を費やす必要がなくなる。申請主義にすることで、「申請しない人=辞退者」と勝手にみなして支給額を減らしたい、という行政側の思惑がある。納税は全員の義務、支給のほうは申請者のみ(かつ嫌がらせのような煩雑なアナログ申請作業と紙の持ち運びを何重にも課す)、という行政の怠慢なご都合主義である。

認定作業

どうしても人間にしかできない「認定」という作業も、確かにあります。たとえば、シングルマザー向けの「児童扶養手当」(旧母子手当=子ども1人の場合、満額で月4万4140円支給)。これも全国共通の国の制度で、その実務を各自治体が担っています(法定受託事務)。

日本では離婚後に養育費が支払われないことが多く、シングルマザー母子の貧困が問題となっている。国は、養育費について支払いが滞った場合は、優先的に財産の差し押さえができるほか、事前の取り決めをせずに離婚した場合に一定額を請求できる「法定養育費制度」を設ける方向で立法化の見通し。(離婚後の養育 「共同親権」導入へ 民法など改正案を閣議決定

不正受給を防ぐため、「偽装シングルではないのか?」「十分な収入がある親と同居していたり、男性(別れたはずの人物、または別の人物)と同居しているのでは?」「本当に十分な養育費を受け取れていないのか?」など、職員が申請された情報をもとに、アナログで判定します。

性善説に基づいて自己申告してもらった情報の、真贋を見極める裏付け作業です。実際には、嘘をついていることもあるからです。これが認定作業です。

所得制限
シングルマザーで子1人の場合、所得が87万円以上(収入160万円)になると月44,140円全額を受け取れなくなる。かつ、「同一世帯」に所得274万円以上の家族(シングルマザーの親など)がいても、受け取れない。そこで「二世帯住宅か否か」の認定作業が紛糾する。(表は東京都福祉局「児童扶養手当」より)

シングルマザーの二世帯住宅問題

親と子1人の母子家庭の場合で、その母子家庭世帯の「所得」が87万円未満(収入で160万円未満)なら、毎月4万4千円がもらえる、というのが児童扶養手当です。現在、年6回支給で、そのたびに申請期限があり、窓口の職員は、締め切り前が忙しくなります。

グレーゾーンがたくさんあって、まず、①住んでいる家が「二世帯住宅」かどうか。二世帯なら、別々だからOK、という法律になっていますが、これが微妙なのです。たとえば「親と同一世帯」とみなされると、「最も所得の高い親」の所得が多ければ(扶養人数が1人なら274万円以上)、手当を受け取れなくなります。だから、実際には同一世帯であっても、二世帯住宅なのだ、と主張するシングルマザーは多いです。

間取り図や光熱費明細を出してもらって、シングルマザーの親にも一筆書いて貰いますが、明確な線引きはなく、国の方針は「実態を鑑みて柔軟にやりなさい」という、実に曖昧なもの。ですから、他の市から引っ越してきて、「向こうではOKだったのに、なんでこっちではダメなの?」と言われることもあります。運用が、各自治体によってバラバラだからです。

中国人に多いのですが、子どもと2人暮しなのに、扶養人数がやたら多い場合があります。「中国にいる両親」「中国にいる家族」などを扶養人数にいれているのです。たくさん扶養していれば所得制限の額も跳ね上がりますから、児童扶養手当をたくさん貰いやすくなります。

ここでいう扶養は税法上の話なので、国の法律で認められている場合は、ダメとはいえません。これは生活保護制度でも同じですが、「外国人に対して甘いなぁ」と、何とも言えない気分になるのでした。

養育費「貰っていない」は「悪魔の証明」

2つめが、②養育費の有無。87万円未満という所得制限についても、養育費を貰っていたら8掛けで所得に換算するルールになっているのですが、「貰っていない証明」は“悪魔の証明”ですから、できません。通帳を見せて貰いますが、現金手渡しならわかりませんし、すべての口座を名寄せして把握する権限も我々にはありません。(※国にもないので、マイナンバーを任意で提出させて一気通貫で把握したい、というのが税務当局の考え)

手当をたくさんもらうために、所得は低く見せたいですから、「養育費隠し」は、実態としては横行していると感じますが、発覚しないのです。

その証拠に、市役所の担当部署あてに、「(児童扶養手当をもらっていながら)いい車乗っています」といった、匿名の告発ハガキが来ることがよくあります。我々は、ハガキが来たら、いちおう現地まで見に行くことはしますが、その先の、自宅への立入調査までは、踏み込みません。

まず同意を得るのが大変ですし、追究して、トラブルになって、自分たちの仕事を増やしたくない、というのが本音です。だから何をするのかというと、受給者に「養育費をもらっている事実はありません」という一筆を書かせるだけ。実効性も何もないものです。結局、実態はわからないことが多いです。

こうしたアリバイ作り(一筆書かせたことで仕事をした証拠とする)にも似た、行政の「事なかれ主義」はよく言われる話であるが、逆にきっちり仕事をしようとすると、プライバシー保護とのバランスが難しいのも事実である。国会でも、共産党を中心に、問題視されているほか、厚労省も見解を示している。「必ず丁寧に調査の趣旨を説明し、受給資格者の同意を得た上で、調査される側の状況や立場を考慮し調査担当者や調査日時を設定するなどプライバシーに十分配慮し、対応する必要がある」(令和元年9月30日・事務連絡)。だったら、あえて波風立てるような余計なことはしたくない――となるのも、むべなるかな、である。

児童扶養手当を不正受給するもう1つの手口としては、③引っ越し。シングルマザーで、実際には海外に引っ越したけれど、まだ日本にいるという体で手当を受け取り続けるパターンです。住民票を残したまま海外へ渡っているので、書類上は区別がつきません。

実態が優先されるため、物理的に海外にいれば受給資格を喪失します。このケースは毎年、数件が発覚していました。

同棲「偽装シングル」の不正受給40~50人発覚

一番多いのは、④実際にはシングルマザーではないのに、シングルマザーを装って児童扶養手当を受け取っているケースで、これは5~6年の間に40~50人も発覚しました。

刑罰は「3年以下の懲役あるいは30万円以下の罰金」(児童扶養手当法第35条)で、故意に返金しないなど最悪のケースでは、詐欺罪にも問われます。

ですが、実際の運用としては、不正利用が発覚してもなお、返金を求めて裁判まですると担当職員の業務が増えますから、やらないのが実態です。返金されなくても、職員の給料は変わりませんから。

では、どうやって発覚するのか

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