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朝日新聞販社の労組委員長、解雇撤回を求め提訴へ

情報提供
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兵庫県西宮市に本部がある、朝日新聞西宮販売(株)。同市には、は、1987年に襲撃事件で記者が死亡した朝日新聞・阪神支局がある。「言論の自由」の象徴的存在である同支局の足下で、不当解雇事件が起きた。
 朝日新聞社の販売会社・朝日新聞西宮販売で、この3月、労組の委員長が解雇される事件が発生した。「労組がないのが当り前」だった販売現場で労働組合を結成し、未払い賃金の支払いやパートの就業規則作成といった働く側にとって最低限の権利を主張してきた鎌田俊二さん(52歳)に対し、現場を事実上の無権利状態にしておきたい朝日側が潰しにかかったのである。鎌田さんは、解雇撤回を求める訴訟を起す方針を固めた。
Digest
  • 合理化で労組の委員長を標的に
  • 朝日の社員が役員に
  • 組合を結成する
  • 販売会社の恐るべき成果主義
  • 「わかった、もう終わり!」で懲戒解雇
  • 折込チラシは新聞紙に包んで捨てる
  • 未払い賃金で労基署が是正勧告
  • 休日が取れない
  • 待遇の格差が人権の格差に
  • 西宮販売・役員の見解

合理化で労組の委員長を標的に

阪神電車の西宮駅・改札口で、解雇された労組の委員長と待ち合わせた。黒の野球帽にリュックサック。電話で説明を受けたとおりの外貌だった。近くの喫茶店で話を聞くことになり、小雨の街へ出た。

 5月の中旬に、わたしは知人から1本の電話を受けた。
「朝日新聞西宮販売で、労働組合の委員長が解雇される事件が発生しています。当事者にあってみませんか」

すぐに鎌田委員長とコンタクトを取った。事情を聞いて、資料を送ってもらった。それから1カ月後、6月3日にわたしは鎌田さんにあった。

解雇事件そのものは単純な構図だった。無理難題を押し付けたり、理不尽な業務命令を出しておいて、それに従わなかったことを理由に解雇を宣告する手口である。マニュアルに従ったような首切りの手法だ。

解雇の背景には、急激に進む新聞ばなれの中で、業務の合理化と販売店の整理・統合が新聞社の緊急課題として浮上してきた事情があるようだ。組合の存在が合理化の邪魔になり、まず委員長の首を切ったというのが、わたしの推測だった。

しかし、わたしがこの解雇事件を取材することにしたのは、単に新聞販売業界における合理化問題に疑問を感じていたからだけではない。新聞社が直接経営に関与している販売会社の実態を知りたいと思ったからである。

街のあちこちに「ASA」や「YC」などの看板を出した新聞販売店がある。一般的にはあまり知られていないが、これらの中には、新聞社の直営店や、新聞社が経営陣を送り込んでいる販売店がある。いわゆる販売会社と呼ばれるもので、複数の販売店(店舗)を保有していることが多い。

朝日新聞西宮販売(以下、西宮販売)もそんな会社である。後述するように、朝日新聞本体が直接、経営陣3人を送り込み、西宮市常磐町に本社を構え、兵庫県の西宮市や芦屋市などを中心とする地区において、12の新聞販売店(ASA)を経営している。日本でも有数の大規模な販売会社である。

したがって鎌田さんの解雇事件をはじめ、この会社の経営実態には、朝日新聞社の方針が直接反映していると言っても過言ではない。

 周知のように、販売店で殺人などの不祥事が発生したとき、新聞社は必ず「弊社の取引先である新聞販売店で・・・・」というパターンの言い訳をする。

これは新聞社と販売店は別組織なので新聞社には、不祥事の責任がないという意思表示にほかならない。ところが新聞社の販売会社で不祥事が起きた場合、このような言い訳は通用しない。新聞社が経営方針に関与しているからだ。

鎌田委員長の解雇事件も例外ではない。

朝日の社員が役員に

西宮販売の経営実態に焦点を当てる前に、本当にこの会社の経営陣に、朝日新聞本社の関係者の名前があるのかを調査することにした。そこでわたしは、6月4日、西宮市の法務局へ足を運び、西宮販売の会社登記を入手した。

会社登記に明記された名前を、朝日新聞社の内部事情に詳しい複数の関係者に照合してもらった。その結果、西宮販売の役員として朝日新聞・販売局の社員の名前があがった。

さらに後日、関係者の証言などをもとにして、7月2日の時点で朝日新聞社の社員を兼ねる同社の役員を割り出した。

  A氏(朝日新聞大阪本社販売第2部・阪神主任担当)
  B氏(朝日新聞大阪本社流通開発部・法人担当次長)
  C氏(朝日新聞大阪本社販売第2部次長)

 7名の取締役のうち3名が朝日新聞社の社員である。
 鎌田さんが言う。

「昔から阪神地区の主任担当が、販売会社の役員を兼ねてきたようです」

新聞社の社員のほかには、有力な販売店主が役員のポストにいる。このような役員構成から見て、西宮販売では、個人の販売店を販売会社に組み込める体制が整っていると言えよう。

改めて言うまでもなく、新聞社が販売店の販売会社化を進めるのは、特殊指定が撤廃されたとき、販売店相互を統括しておかなければ、自由競争が始まり、「勝者」となった販売店が規模を拡大して台頭してくる恐れがあるからだ。販売店との力関係が対等になったり、逆転すれば、新聞社は販売店に頭を下げて新聞の配達を「お願い」する事態にもなりかねない。

このような状況の下で、新聞各社が販売会社化を前提とした合理化を進めている。その中で労務や人事などの問題が次々と吹き出している。西宮販売の鎌田委員長・解雇事件は、露骨なかたちでそれが表面化したひとつの例といえよう。

組合を結成する

鎌田さんが西宮販売に就職したのは、1999年、45歳の時だった。それまでは自分で塾を経営していた。以前から営業関係の仕事を希望していたこともあり、西宮販売に就職してからは、営業の仕事に就いた。いわゆる新聞拡販である。

西宮販売の労働組合は2004年の8月に、鎌田さんを委員長として7名で結成された。労組の正式名称は、西販自立・自由・連帯労働組合。鎌田さんは立命館大学の時代に学生運動をやっていたこともあり、労働問題には詳しかった。

販売労働者がほとんど組織されていない新聞業界の中で、販売関係者の組合の立ち上げは異例だった。

組合結成の直接の引き金は、西宮販売の経営陣が営業部員をひとつの店舗だけに配属する方針を打ち出したことである。

西宮販売は12軒の店舗をもっている。その店舗の販売エリアを回って、読者獲得のための営業活動するのが、営業部員たちの仕事である。しかし、この方法を廃止して営業部員を1店舗だけに張りつける方針を打ち出したのである。鎌田さんが新しい方針に反対した理由について話す。

「新聞の普及率が高い地域の店舗に張り付けになった営業部員は、拡販が非常に難しくなり不利益をこうむります。」

鎌田さんらは、組合を結成して団体交渉を重ねて、それを撤回させた。個人の販売店で結成された従業員の組合であれば、販売店もろとも強制改廃することもできるが、販売会社となればそんなわけにはいかない。

前例が少ない販売関係者の組合なので、経営陣は、組合を恐れたのかも知れない。

 最初は委員長を解雇するような露骨な組合攻撃を仕掛ける代わりに、ささいな挑発行為にでた。組合を結成して最初の団体交渉を行った1週間後、西宮販売の幹部は、鎌田さんに対して、わけの分からない訓戒処分を通知してきたのだ。それは次のような文面だった。
 貴殿は当社の定めるところの就業時間内における業務について、不適切であると思われるところが見受けられます。
 今後は就業時間内における業務については、適切な判断と行動で業務に邁進するよう心掛けてください。

 鎌田さんが言う。

「そこでわたしは、『いつ、どこで、なにをしたのか』を何度も質問しました。しかし、帖佐清信社長は半年の間、なにも答えませんでした。その後もしつこく追及すると、答えが二転三転しました。わたしに対する恫喝だったんですね」

 この時は、組合をつぶすことはできなかった。

その後、鎌田さんらは、次々に西宮販売における経営や労務の問題点を明らかにしていく。

販売会社の恐るべき成果主義

2007年1月16日、西宮販売の経営陣は鎌田さんに対して、営業サポートの名目の下で、夕刊を配達するように業務命令を下した。しかも、それに対する報酬は支払わないという。これが解雇へ通じる最初のステップだった。

この業務命令がなぜ無理難題なのかを理解するためには、拡販業務の特徴と西宮販売における営業要員の給与体系を知る必要がある。鎌田さんらは、成果主義の下に置かれているのだ。西宮販売の給与体系は、新聞拡販の成績が直接、給与額に跳ね返るようにできている。

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営業社員の給与体系を示す書類。基本給は1~10のランクがある。「カード料」とは、拡販の成功報酬である。1ヶ月契約で500円、3ヶ月契約で2000円・・・。「止起」とは購読の継続の意味。「上段プレ」とは、長期の購読契約を取り付けた時の賞金である。枚数奨励は、一定の枚数を獲得したときに支給される手当。

社会的な信用がある株式会社ということもあり、さすがに基本給だけは設定されているが、それも営業成績によって、なんと3ヶ月ごとに見直しが行われる。基本給のランクは1から10まで。最低のランク1は7万9000円の基本給。最高のランク10は、

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ASA西宮北口の店舗裏にビニールで包装されたままの新聞束が多量に積み上げられていた。「押し紙」の疑惑がある。

残業代金の未払い問題で労基署から西宮販売に指導があり、それに基づいて労組と会社の話し合いが行われ、両者は同意書に調印した。

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