毎日奨学生の研修テキスト。奨学生は新聞業界を底辺で支える重要な労働力だが、「便利屋」的な側面が強く必ずしも人権が守られているとは限らない。「押し紙」や広告詐欺の問題と並んで、タブー視されてきた。
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新聞奨学生が「便利屋」のように使われていることは以前から問題視されていたが、昨年まで毎日新聞を配達していた奨学生の内部告発により、相変わらず改善されぬ労働実態が明らかになった。やらないはずの集金業務を強制され、月約3万円ずつの給料未払い、深夜割増手当や休日手当の勝手な減額、そして食費のピンハネ疑惑まである。毎日育英会は未だこれらの返金に応じない。告発者は交通事故の多発など、新聞配達業務の危険な一面も明かした。
【Digest】
◇6畳ひと間を2人で共有
◇ほとんど無報酬で集金業務
◇手当の支払いにも不正
◇弁当代までをピンハネ
◇毎日奨学会からのコメントはなし
◇新聞配達は危険な仕事
◇派出所には無料で3紙配達
◇読売・上村過労死事件から間もなく20年
4月の新学期からひと月が過ぎた。新聞奨学生にとっては、仕事に慣れてくると同時に、じわじわと疲れが蓄積してくるころである。トラブルも増える。 当初、提示された雇用条件と実際の待遇がかけ離れていたとか、給料明細をもらえないとか、セクハラを受けたとかいった問題が表面化してくる時期である。
インターネットなどを通じて新聞奨学生の相談に応じてきた元奨学生の村澤潤平さんによると、新学期になってから、すでに何人かの学生から相談を受けたという。
「4月は新聞配達の仕事を始める奨学生が多いこともあって、新聞配達の順路を覚えるまでは、休みをもらえなかったという相談がよくあります。休みの日数が決められていても、必ずしもそれが守られているとは限りません」
新聞奨学生は、新聞社と販売店にとっては極めて貴重で、しかも「便利屋」のような存在である。このあたりの事情について、関西のある販売店主が言う。
「自分で働いて学校を卒業しようという意欲がある若者たちですから、怠け者が配属されるというようなことはまずありえません。人件費も安い。これに対して、仕事がなくて仕方なく配達員になったひとの多くは長くは続きません。すぐに辞めていきます。なかには集金を持ち逃げするなどのトラブルを起こす者も少なくありません。その点、奨学生は最も安心なんです」
産経新聞・東浅草店の元店主である近藤忠志さんも奨学生を使ったことがあり、彼らの働きぶりを高く評価している。
「わたしが販売店を経営していたときは、モンゴルからの留学生を使っていました。本当によく働く人達でした。日本に来て一旗あげようという若者たちですから、意欲が違います。奨学生制度は、このような若者を利用することで成り立っているようです」
◇6畳ひと間を2人で共有
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『毎日奨学生研修テキスト』に明記されている「奨学生の待遇」。

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このほど、雇用条件の著しい不履行を訴えるべくマイニュースジャパンへの内部告発に踏み切ったのは、元新聞奨学生の池田米夫(仮名)さんだ。
池田さんのケースは、新聞奨学生の弱い立場を、新聞社、奨学会、それに販売店が悪用した典型といえるだろう。
2006年3月に高校を卒業した池田さんは、予備校で大学受験の準備をするために奈良県から単身上京した。高校時代には浪人生活をすることをまったく想定していなかったので、両親に経済的な負担をかけずに勉強する方法を考えなければならなかった。そこで選んだのが、毎日育英会が運営している奨学生制度だった。
他社の奨学生制度についても問い合わせたが、毎日育英会の対応が最も懇切丁寧だったので、毎日新聞販売店で奨学生として働くことにしたのである。池田さんが言う。
「たまたま先輩に新聞奨学生を体験したひとがいたんです。この人の話によると、新聞配達の仕事はかなりの重労働だが、人生を切り開くステップにはなるとのことでした。ですから仕事が厳しいことは承知していました。しかし、雇用条件まで約束と異なっているとは思いませんでした」
池田さんが配属されたのは、東京都内の毎日新聞販売店だった。あてがわれた住居は、6畳一間、共同トイレのアパートだった。畳はぼろぼろ。ゴキブリが這っているのを見て唖然となったという。
しかも、最初の1月は、1部屋を奨学生2人で使った。その後、焼鳥屋の2階にある清潔な部屋へ引っ越したが、最初に入れられたアパートは、まさに「たこ部屋」の印象があったという。
池田さんの1日は、2時30分の出勤に始まる。新聞に折込チラシを入れたあと、原付のバイクで配達にでる。配達部数は約250部。
午前6時30分ごろには配達を終了する。それから朝食。と、言っても販売店の台所で調理された料理ではない。朝食と夕食は、近くの仕出し屋から届けられる弁当である。
7時には高田馬場にある予備校・毎日セミナーへ向かう。授業は9時から1時まで。池田さんは一旦帰宅して、3時ごろに再び販売店へ足を運び、夕刊配達の業務に就く。配達が終わるのは夕方だ。その後は集金作業や拡販業務があった。
しかし、池田さんは、集金業務を強いられることになるとは予想だにしなかった。
◇ほとんど無報酬で集金業務
毎日育英会が運営する奨学生プログラムは、集金業務が含まれるAコースと、含まれないBコースがある。基本給は次の通りである。
コース |
基本給 |
Aコース |
12万4100円 |
Bコース |
9万700円 |
池田さんはBコースに登録した。当然、集金業務はしないという前提に立っていた。ところが初めて販売店に出勤した日、池田さんは店長から有無を言わさぬ口調で、こんなふうに言われたという。
「集金を担当しますか、それとも折込チラシのセッティングを担当しますか?奨学生には、どちらかを担当していただくことになっています」
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池田さんが受け取った2006年8月の給与支払明細。Bコースは集金業務がないはずなのに、池田さんは集金をさせられていた。しかも、手当は5000円のみ。
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池田さんは、やむなく集金を担当することにした。と、なればBコースからAコースへ変更しなければ損だと考え、毎日育英会にその旨を申し入れた。しかし、あいまいに誤魔化されてしまったという。もちろん変更は認められなかった。
こうして池田さんは、BコースのままAコースの業務を強いられることになったのだ。もちろん基本給はBコースのままだった。AコースとBコースの差額は、月額で3万3400円。学生にとってはかなり大きな額である。
集金業務に対して支払われた唯一の代償は、5000円の手当が支給されただけである。Bコースの池田さんにAコースの仕事をさせることに対して、販売店もさすがに良心が咎めたのか、別途で5000円を支払ったのである。
◇手当の支払いにも不正
さらに手当についても不明瞭な扱いを受けた。新聞奨学生を対象とした手当には、深夜割増手当と休日手当がある。支給額は次のとおりである。
コース |
深夜割増手当 |
休日出勤手当 |
Aコース |
8000円 |
7460円 |
Bコース |
7000円 |
5090円 |
2006年8月の給与明細書によると、8月の深夜割増手当は7000円である。つまりAコースの仕事を強制されていながら、ここでもBコースで適応される金額しか支払われていないのだ。
さらに休日手当もBコースの基準しか採用されていない。具体的には.....この続きの文章、および全ての拡大画像は、会員のみに提供されております。
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仕出し屋の請求書。上が夕食分、下は朝食分。
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