写真真ん中はトルコ航空CEOのテメル・コティル氏。右は解雇当時の同日本支社長トゥーバ・トプタン・ヤブズ氏 。左は客室乗務員派遣元TEI創業者で現会長の三橋滋子氏
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トルコ航空で働く20~30代の日本人派遣CA(客室乗務員)13人は、有休、産休、社会保険、時間外手当はおろか、ロッカールームもない劣悪待遇で月収10万円台~20万円台前半で勤務。待遇改善を求め労組を結成した直後、CAから通訳に職種変更され、仕事量も半減、挙句に全員解雇された。13人はトルコ航空と派遣元の「TEI」社を相手取り、トルコ航空による直接雇用と、トルコ人CAと同等になる2倍超の報酬を求め、09年1月、東京地裁に提訴。12年12月5日の判決では、原告側が全面敗訴だった。そもそも事故の際に乗客の安全を守るべきCAに、直接雇用でない派遣の形態が馴染むのだろうか?女性の花形キャリアとされるCA職で起きた“奴隷待遇”の実態、そして“ブラック就労”の温床である派遣法の闇を詳報する。
【Digest】
◇機長は絶対権力者「スルタン」(トルコ語で王様)
◇緊急事態で出現した酸素マスクの管は黄ばんでいた
◇有休、産休、社会保険もなし
◇ユニオン結成直後に大量クビ斬り
◇日本語ができないトルコ人CAが跋扈
◇原告全面敗訴
◇派遣の哀しみ
<トルコ航空のCM。12年のトルコ航空ブランド大使のサッカーのメッシと、11年同大使就任のバスケットNBAレイカーズのコービー・ブライアントが共演している。トルコ航空は、イギリスの空港ランキング会社スカイトラックスの、世界エアライン賞で、11年、12年と2年続けて「欧州最優秀賞」を取得。業績は右肩上がりだが、日本人CAを劣悪な労働環境に置いて解雇した>
◇機長は絶対権力者「スルタン」(トルコ語で王様)
本件、原告取材拒否につき、陳述書など裁判資料にもとづいて報道する。原告の一人、A氏(30代後半、女性)は、06年夏にトルコ航空の日本人客室乗務員(以下、CA)となった。
それ以前のA氏の経歴は、90年代後半からノースウエスト航空(現デルタ航空)で関空拠点の日本~アメリカ便のCAとして勤務。同社の最高責任者CEOより名誉従業員として表彰されたり、同社の広告モデルとしても活動するなど、華々しい経歴だったという。しかし、01年の同時多発テロにより、関空路線が大幅に減り、若い人から解雇となって会社都合による退職を余儀なくされた。その後、南米の航空会社のCAを経て、トルコ航空へ行った。
きっかけはTEIのHPの採用情報だった。
TEIとは、CAや添乗員などの派遣会社で、本社は羽田空港と直結するモノレールの始発駅浜松町駅から徒歩5分圏内にあり、国内8か所に支店を持つ。07年1月時点の従業員数は1,970人。(うち72人は専従)。創業者はJALのCAだった三橋滋子という人物。1973年に日本初の添乗サービス会社(現TEI)を設立し、社団法人日本添乗サービス協会の専務理事にも就任している。
A氏によれば、TEIの応募資格にはこう書いてあった。
日本人で国際線フライトアテンダントとして一年以上の経験者。
英検準一級もしくはTOEIC700点以上の能力を有し、美しい日本語を話せる方。
平成18年7月より新東京国際空港または関西国際空港より乗務可能な30歳くらいまでの方。
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募集要項にはこう書いてあった。
業務内容は、客室乗務員。
給与:当社規定による。
勤務地:航空会社機内。
勤務時間:土日祝祭日・年末年始を問わず。早朝・深夜勤務が可能な方。
期間:一年契約(更新あり)。
交通費:当社規定による。一律支給。
雇用関係はTEI本社営業所に属し、トルコ航空にて成田または関西-イスタンブール間を勤務して頂きます。
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A氏は、募集が関西を基地としていた点に注目した。「昨今は海外や成田を基地とする募集が主で、トルコ航空の募集は大変珍しく、自宅から通えるという点で魅力的でした」とつづっている。
こうしてA氏は募集し、大阪ベースの選考試験を受けた。内容は筆記試験、集団面接、個人面接、採用試験だった。その際、月収目安27万円程度(交通費、現地滞在費込み)と説明を受けたという。合否は、指定日にTEIに電話するよう言われ、電話すると「合格しました」と言われた。
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TEI本社。(東京都港区芝) |
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その後、関空でオリエンテーションがあり、TEIの契約書などの書類を渡された。A氏が気になったのは、付属契約書のAIU旅行保険だった。
「旅行保険については、これまでの2社で加入させられなかったので、疑問でした。保険金の受取りがTEIになっているのをみて、万が一、乗務中に死亡した場合、保険金3000万円がTEIに入るのかと思うとゾッとしました。契約2年目からは、AIUではなく、経費削減のため、TEI名義のUCクレジットカードに加入させられ、カード付帯の旅行保険になりました。私は2度、機内で事故に遭いましたが、旅行保険ではなく、日本の労災保険が適用になりました」とつづっている。
その後、イスタンブールで5日間、訓練を受けたが、その間、無給だったという。
訓練は、グルーミング(身だしなみ)、緊急時の対応、機内食など。
トルコ航空独自の文化も教えられた。そもそもトルコ航空の乗務員は、国家公務員の身分で、待遇がトルコ社会のなかでは破格で、.....この続きの文章、および全ての拡大画像は、会員のみに提供されております。
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07年3月3日、トルコ航空47便(大阪-イスタンブール)22時40分関空発、エアバス340機で事件は起きた |
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トルコ航空日本支社。(東京都港区浜松町) |
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イスタンブール~成田・関空便では日本人CAが不在のままで、トルコ人CAは片言の日本語のため、緊急時にはハイリスクという |
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トルコ航空CM |
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