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京王バス自殺事件 アルコール反応の運転手を家宅捜索、グラス押収、反省文漬け…パワハラ「下車勤務」の闇

情報提供
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今年5月に原告側が配っていたビラ。京王バスのアルコールチェック、下車勤務などについて書いてある
 京王バス桜ヶ丘営業所のバス運転士だった藤井桂司氏(自殺当時50代前半、仮名)は08年6月28日、出勤時のアルコールチェックにひっかかった。同社ではアルコール反応が出ると「下車勤務」という名の執拗な取調べ、家宅捜索、反省文漬けなどの吊し上げに遭う。その日以来、藤井氏は食事も喉を通らなくなり、10日後、自宅に遺書4通を残し、会社近くの高層マンションから飛び降りて亡くなった。遺族は下車勤務による精神障害が原因として八王子労基署に労災申請したが10年1月8日、棄却。その後、審査請求、再審査請求も棄却され13年1月31日に東京地裁に提訴し係争中だ。ボールペンの芯が二本なくなるまで反省文を延々と書かされる、所長が自宅に押しかけコップやグラスを押収、部屋や冷蔵庫内の写真を撮られ社内に貼り出される――裁判で浮き彫りとなったのは、安全輸送にかこつけた「下車勤務」の実態が、旧国鉄の日勤教育にも似た非人道的パワハラの類であることだった。労基署はなぜ労災認定しないのか。京王バスの闇を詳報する。
Digest
  • アルコールチェックにひっかかる
  • 住居侵入、警察沙汰、パワハラ、退職強要の温床…「下車勤務」
  • 「もうだめかもしれない。クビだと思う。死んだら楽になる」
  • 遺族が八王子労基署に労災申請
  • 労基署の棄却理由
  • 「コメントしかねます」京王バス

アルコールチェックにひっかかる

今年5月下旬頃の朝9時前、筆者は所用があって東京高裁に行こうとしたところ、入口前でビラを配っている中年男性がいた。そのビラを受け取り見てみると、ピンクと緑の太字でこう書いてあった。

「京王電鉄バス 自殺労災認定事件 これはいじめだ!こんな職場を許すな!!」

ビラは表裏にびっしり細かい字が書き込まれていて、「自殺は異常な労働者支配が原因」「下車勤務の次は過酷な事情聴取」「04年には運転手の過労死が発生」といった小見出しもあった。

一体どういう事件なのか? その時は別件のため後日、詳しい話を当事者に聞くべく、ビラの連絡先「京王電鉄バス運転手自殺労災認定を勝ち取る会」という団体に取材を申し込んでみた。

なにしろビラを配って訴えているくらいなので、取材に応じるものと期待していた。だが、意外にも、数週間経っても返事がないので、「先日依頼した取材の件はどうでしょうか?」と電話で聞いてみたところ、「取材に応じるか検討中です」というのみで、結局、数か月経っても一向に返事はなかった。そこで、裁判資料に基づき、事件を調べてみた。事件の全容は以下の通りだった。

まず、原告側の主張によると、自殺した藤井桂司氏(自殺当時50代前半、仮名)は、95年2月に京王電鉄のバス運転士として入社し、02年8月から在職のまま京王電鉄バス(以下「京王バス」)に出向して、桜ヶ丘営業所(東京都日野市内)のバス運転士として業務に従事していた。

長年、バスを運転してきたが、08年6月28日(土)、藤井氏の人生が一変する事件が起きた。

藤井氏はこの日、19時から出勤した。その際の「アルコールチェック」で0.050mg/リットル~0.070mg/リットル未満の数値が検出されたのだ。

そもそも藤井氏は自宅で飲酒するときは、飲む量を決めており、飲酒から15時間以上経ってから出勤するようにしていた。しかも家を出る時には、会社から支給されたアルコールチェッカーで、アルコール反応がないことを確認して出かけていた。その日もそうしていた。だから、会社の検査にひっかかったことに驚いた。

なお、「アルコールチェック」とは、バスやタクシー、トラックなどの運送事業者に対して11年5月から国が義務付けている制度

この制度により、各事業者の運転手は、出勤時と終業時に、チェックを受けることになっている。検知器のメーカー名などは問わないが、検知での数値が、呼気1リットル中のアルコール濃度0.000ミリグラムよりわずかでも上回っていれば、違反となる。(実際は、0.050mg/リットル以上で反応する機器も多い)

ちなみに、警察の酒気帯びの罰則対象は0.15mg以上なので、バス運転手などの事業者ははるかに厳格な基準だ。

ただ、国の規則では、アルコール検査の違反事業者への罰則は、1回目が100日車、再違反が300日車(運輸規則第21条第4項より)。

100日車とは、1日1車換算で100日分、車を停止させる、という意味だ。例えば、50台のバスを2日間止めたり、4台のバスを25日停めることを指す。運転手への罰則は、各社の対応に任せる形で、国は義務付けていない。(以上は、所管する国交省自動車交通局の安全政策課への取材に基づく)

このお触れに基づき、京王バスでは、出勤時、中休みの点呼時、終業点呼時にアルコールチェックをしている。検査機器は、出勤時が東海電子製のアルコールチェッカー「ALC-PROⅡ」、ほか2回はアミューズ製の「AMZ AC-002」だった。この東海電子製の機器が問題を引き起こすことになる。

京王バスの違反時の罰則は、「初回の違反」の場合、以下の通りだ。

0.050mg/リットル以上~0.070mg/リットル未満 厳重注意。

0.070mg/リットル以上~0.150mg/リットル未満 停職3日。

0.150mg/リットル以上~0.250mg/リットル未満 停職5日。

 0.250mg/リットル以上 過去の処分や個別の事由等を勘案し判断。

「2回目の違反」の場合は、以下の通り。

初回検出量が0.050mg/リットル以上~0.070mg/リットル未満の場合は、処罰基準を一等引き上げる。(厳重注意→停職3日など)。

 その他(初回検出量0.070mg/リットル以上)は、初回から3年以内(3年後の同月日含む)に発生したら解雇。

「3回目の違反」は、以下の通り。

 初回検出量が0.050mg/リットル以上~0.070mg/リットルで、2回目から3年以内なら解雇。

京王バスでは、このような規則にて、運用されていた。

住居侵入、警察沙汰、パワハラ、退職強要の温床…「下車勤務」

藤井氏は、以前にも一度、アルコールチェックでひっかかっていた。この時の違反については、会社側は不問に付した、といっているが、藤井氏は、違反と認識していた。そのため、今回で2回目の違反となってしまい、もう次はない――そう危機感を募らせていた。

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東海電子製のアルコールチェッカー「ALC-PROⅡ」。藤井氏の自殺から数日後、京王バスはこの機器を使用しなくなった

京王バスでは、アルコールチェックにひっかかると、うがいを十分に行い、再度チェックをする。

それでもひっかかる場合は、労働開始時刻の直前に、最終判断のため、チェックを行う。それでも0.050mg/リットル以上の場合は、乗務禁止となる。

アルコールチェックにひっかかると、翌日から「下車勤務」が始まる。「下車勤務」とは、運転手を乗務勤務から外して日勤に振り替えることを指す。

その期間は、数か月にわたることが一般的だが、運転手には、いつまでの予定かは、一切伝えない。

下車勤務の間、運転手は、会社が求める反省文や原因究明、再発防止、行動計画書、顛末書、始末書といった書類を提出しなければならない。これらの文書は、一回で受理されることはなく、繰り返し、書き直しを命じられる。

また、下車勤務中の運転手は、所長の眼の前で着席を命じられ、ほぼ一日中、そこに着席していなければならない。ほかの運転手にも見える位置であることも多く、さらし者にされている心地がするという。

ほかに、運転とは無関係の、掃除、交通法規、就業規則の読み取りなどもさせられる。

それだけにとどまらない。運転手の自宅まで所長など上司が訪問し、自宅に上がり込んで冷蔵庫を開けて調べ、飲酒時に使用していたコップを調査して押収したり、部屋の写真を撮って、翌日、営業所に違反事例として社内に貼り出し

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バス(京王バスHPより)

所長、副所長に対する遺書の概要(※筆者が裁判資料をメモして作成したもの=コピーや撮影はできないため)

御用労組幹部と遺族への遺書の概要

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ken36yoz2013/11/04 19:02

労災とか違法とかさておき、この生産性ゼロの懲罰に何の意味があるんだろう? 上司だって苦痛じゃないのか?

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読者コメント

でも2013/10/25 09:22
組合2013/10/24 13:16
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