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サントリー 「アホ!ボケ!」「バカか!」「降格だ!」…上司に罵倒された現役社員がパワハラ被害で提訴、一審で全面勝訴「297万円払え」

情報提供
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上司からパワーハラスメントを受けたとして会社と上司を相手取り訴訟を起こし、一審判決で全面勝訴した大森栄氏(仮名、現40代前半)
 サントリーホールディングス正社員の大森栄氏(仮名、現40代前半)は07年1月、上司に会議室に呼び出され、泣くまで叱責された。その後も同じ上司に、社員たちの前で「どうしてそんなことがわからないんだ!」「アホ!ボケ!」「お前、バカか!」などと罵声を浴びせられた。大森氏は、重度のうつ病で3か月休職すべきとの診断を受けた。しかし上司は、診断書を棚上げし、相変わらず大森氏を罵倒し続けた。07年7月、部署異動を機に、大森氏は「私傷病」の扱いで1年間休職。その後、休職に追い込んだ上司をコンプライアンス室に告発した上、12年4月に労災申請し、同年6月に上司と会社を相手取り、会社に在籍しながら、慰謝料などを求め東京地裁に提訴。13年2月、労災認定され、そして今年の7月の一審判決は、会社と上司の双方の違法性を認定し、297万円の支払いを命じた。密室で起こりやすいパワハラは、どう立証されたのか。社員勝訴の決め手は、医師によるカルテの内容だった。(判決文はPDFダウンロード可)
Digest
  • 会議室に呼び出し、泣き出すまで叱責
  • 社員の面前で「アホ!ボケ!」「お前、バカか!!」と連日罵倒
  • 「お前本当に使えねーよ。新入社員以下だ。降格だ!!」
  • 社内不正の揉み消し装置「コンプライアンス室」
  • 一審で上司の違法行為を認定、原告の全面勝訴
  • 原告代理人の見解

会議室に呼び出し、泣き出すまで叱責

原告への取材や一審判決文、訴状などの裁判資料によると、訴えは次のようなものだった。原告の大森栄氏(仮名、現40代前半)は大学卒業後、97年4月にサントリー(現サントリーホールディングス)に入社し、製品の生産需給を管理する部署に配属された。01年4月からはサントリーフーズに出向して、製品の需要予測を担当する部署へ異動。

そして06年4月、大森氏は再びサントリーに復帰し、調達開発部企画グループに配属された。企画グループ長は、のちにパワハラの被告人となる中居俊彦氏(仮名、現在推定50代前半)だった。当時、大森氏は30代前半、中居氏は推定40歳前後だ。

調達開発部とは、実質「本部」相当の大きな組織で、同部内には「原料部」(コーヒー豆、茶葉などの原料調達担当)、「包材開発部」(缶、ペットボトル、キャップ、樹脂ラベル、段ボールなどの包装材の調達担当)や「企画グループ」「ペット戦略プロジェクトチーム」がある。

大森氏の所属する「企画グループ」は、調達開発部全体のIT化推進などを担当する部署。大森氏は、かつて、サントリー工場の生産計画やシステムを担当していたため、そのキャリアを買われて異動したのだった。

企画グループは、中居氏の下に、大森氏、小野氏(仮名、男性)、山友氏(仮名、女性)の計4人から成る組織だった。

大森氏は、中居氏のパーソナリティについて、「思い通りに行っている時はご機嫌で優しいが、思い通りにいかないことがあると極めて不機嫌になるタイプ。仕事熱心な半面、部下に厳しく指示したり、激しい暴言を用いて命令を下す性向があり、部下に対し、業務外では面倒見のよい対応をするときもあれば、同僚を口汚く罵ることもある『極めて個性的で我の強い人』でした」という。

一言でいうと、わがままなタイプといえよう。当初、大森氏は、中居氏のことを「仕事に意欲を持ち続ける頼もしい上司」「指導を仰ぐ存在」と思い、中居氏の指示に従順に忠実に従うよう、努めていたという。

大森氏に当初与えられた任務は、営業物品改革プロジェクトのメンバーとなることだった。同プロジェクトは、「営業物品」のコスト削減のための組織。「営業物品」とは、商品のおまけや景品、テーブルテナント(レストランや居酒屋のテーブルの上に置く製品告知のプラスチックケース)、グラス、試飲会や社内で使う紙コップ、工場のユニフォームなどの、製品の原材料以外の物品をいう。営業物品の購買額は05年度で約170億円だった。

こうして仕事をしたが、異動から9か月後の06年12月上旬、突然、異変が起きた。

06年12月13日、大森氏は、年末年始の休みに加えて、有給休暇の取得を申請し、12月25日から1月4日まで休むよう、申請した。しかし、中居氏は「冬休みは、公休日以外に有給は取らないように」と言った。だが、大森氏は夏の時点で、「冬休みは必ず多めに休ませてほしい」と伝えており、中居氏から同意を得ていた。だから、繰り返し、是非、有給を取得させてほしい、と求めた。

すると中居氏は、自身が12月17日~22日まで上海出張して、23、24日が週末休みで、大森氏が有給を使うと週明け25日は、入れ替わりで大森氏が休みに入るので、大森氏に対し、12月15日までに「タスクリスト」を作成、提出するよう求め、「2週間以上、顔を出さないんだから、出せ」と命令口調で言った。

「タスクリスト」とは、「進行中の業務内容が一覧できる書類」をいう。しかし、大森氏は、年末で担当の取引先が稼働していないところが多く、なおかつ、当時の大森氏の業務は中居氏に決裁が必要なものばかりで、すでに中居氏に報告済みで、年末年始の追い込みで慌ただしかったこともあり、タスクリストの作成時間もないことから、「タスクリストの作成、提出には、あまり意味や必要性はないと思います」と意見し、タスクリストの代替案として、「もし、年末年始の自分の休暇中に、私が担当する仕事の進捗状況について不明な点が出てくれば、私は、休暇中であっても、携帯電話に出るようにするので、連絡して下さい」と言った。

中居氏は、不満そうにしていたが、それ以上、タスクリストについて言及しなかったという。

こうして中居氏は出張し、大森氏は25日から休みに入り、年明け07年1月5日、大森氏が出勤すると、突然、中居氏から呼び出しを受け、会議室で二人きりになった。

そこで中居氏は、タスクリストを出さなかったことを厳しく叱責した。中居氏はひたすら非難するばかりで、タスクリストを出すべき合理的理由や、それを出さなかったことによる業務上の支障や損害といった、大森氏が納得できる説明は一切なかった。

さらに大森氏が、「携帯にかけて頂ければ…」といったところ、中居氏は「何でオレが、こんな時期に、お前に直接電話しなきゃいけないんだよ!」と激高した。叱責は30分以上、一方的に続き、大森氏が、泣き出すまで止まなかった。

この時以来、大森氏は、中居氏に対し、消し難い恐怖を抱き、プライベートでバイクに乗ったときも、この叱責の場面がフラッシュバックして、大事故になりそうになったこともあったという。

社員の面前で「アホ!ボケ!」「お前、バカか!!」と連日罵倒

会議室での叱責から約2週間後の07年1月下旬、調達開発部では、購買予算・実績管理システムの開発プロジェクトが稼働した。

サントリーでは従前より、予算を管理するシステム(以下、「予算システム」という)があるが、それは部材ごとの演算と製品別の演算が組み合わされたシステムではなく、各データが部署をまたいで存在しており、バラバラで体系だてて整理されていなかった。そこで、各部署にヒアリングしたり、演算やデータを手作業で入力したり、演算やカテゴライズのシミュレーションをして、エクセル計算で演算を行うための、膨大な作業が必要となった。新たな予算システムの完成の期日は、同年6月末まで、となっていた。

同年2月6日、調達開発部全体のミーティングがあり、予算システムの担当は、大森氏と、同僚の小野氏に決まった。すると、このミーティングから数日後、中居氏は突然、「予算システムの完成期限を4月にする」と宣言し、期限を守るよう、強く要求してきた。

大森氏は、もともと6月末の期限ですら心もとないと思っていたので、強い心理的プレッシャーを感じた。

その後、大森氏らは、システム作成の作業を続けたが、その負担は予想をはるかに超える過酷さだったという。

それに加え、中居氏は、ことあるごとに厳しい叱責を繰り返した。

例えば、予算システムの開発業務は、性質上、ソフトを試行させ、発生した不具合を調整して完成させていくものなのに、中居氏は、生じるべくして生じた不具合に対し、叱責を繰り返した。大森氏が事情を説明しようとすると、「口答え」といって怒鳴りつけた。

叱責の仕方は、以下のようなものだったという。

まず、中居氏は、約2mしか離れていない大森氏の席で座っている大森氏に対し、大声で「おい、大森!!」と呼びつけ、中居氏の席の傍らに立たせる。

そして、いきなり、

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サントリーホールディングスの東京オフィス(東京都港区台場2-3-3)

サントリーホールディングスのの佐治信忠社長(同社HPより)

サントリーは表向きはパワーハラスメント禁止を謳っている。(同社HPより)。だが、実態は社員がパワハラに遭ったと告発すると、コンプライアンス室が不正を揉み消す役割を果たしていた

一審判決文。原告が全面勝訴した(全文は記事末尾からPDFダウンロード可)

原告代理人。右が宮本寛之弁護士(宮本日本橋法律事務所)。左が泉昭博弁護士(東京ハルム法律事務所)

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TOKOROTEN2014/09/29 21:48

デバッグが仕事なのに、バグを見つけると叱責される環境・・・そりゃ鬱になるわ。

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読者コメント

通行人2014/09/27 13:36
  2014/09/23 22:43
  2014/09/23 22:40
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