医師の業務はどう変わるのか――AI時代に食える仕事食えない仕事
内視鏡手術支援ロボット「ダヴィンチ」。もともと戦場に近い病院にいる負傷した兵士を遠隔地から手術するという発想で開発が始まった。次世代高速通信「5G」で、さらに遠隔からの操作も技術的に可能となる見通し。 |
- Digest
-
- 外科医の10年後
- 外科医は「上澄み」しか生き残れなくなる
- 内科の診断作業はいずれ自動化
- AIはバカ正直な判断しかできない
- 放射線科医が一番早い
- 予防医療で活用されていくAI
- 「未病」を対象とする市場が拡大していく
デジタル化の影響は、医師の専門領域によって異なる。放射線科医や病理医は、既にAIが人間の眼を超えた「映像・画像診断」が主要業務であるため、影響が大きい。一方で、人間の心を扱う精神科医、そして、患部の立体的な認識が不可欠となる外科医・麻酔科医は、しばらく影響を受けそうにない。
外科医の10年後
飛行機や電車がオートパイロットで半自動化しているように、手術も、技術の進化で自動化する時代はやってくるのか。既に、患部を縫い合わせる手縫いに関しては、「自動縫合器」の登場によって、外科医の腕の差は、吻合・縫合についてはなくなったという。
最先端の手術機械『ダヴィンチ』を使った心臓血管手術を専門とする外科医・渡邊剛氏(ニューハート・ワタナベ国際病院院長)は、「手縫いのほうがいいんだ、と4歳上の先輩医師が言っていたのを思い出しますが、5~10年で手縫いはなくなりました」と言う。
渡邊剛・ニューハート・ワタナベ国際病院院長(公式サイトより)。ダビンチを用いた心臓内視鏡手術の第一人者。同病院は2014年の開院以降の5年間でロボット手術実績620件と開示している。 |
縫合だけでなく、病巣の切除業務自体も、自動化される可能性はあるのか。「リンパ節の郭清(切除)は、今でも、医師のウデ、手先の技術が必要です。AIは、まだリンパ管と血管はおろか、動脈と静脈の区別もできません。自動手術については、まだほとんど研究が進んでいないのが実態です」(同)
ダ・ヴィンチはじめ、人間の手の延長となるツールの進化は目覚ましいが、神経・脂肪・血管といった3次元構造を自動認識し、メスや針が自動で切り進み…という段階に至る道筋は、まだ全く見えていない。現在見えていない以上、10年後もその領域までの進化はないとみてよい。
つまり、手術のコアとなる本質的な判断や手作業は人間の領域として残る。ダ・ヴィンチは“手術ロボット”ではなく、厚労省によると「遠隔操作型内視鏡下手術装置」であり、これが実態に近い。遠隔操作で、内視鏡を使って手術を行う装置だ。つまり、従来から行われていた低侵襲の内視鏡手術を、離れた場所から行うもので、その操作はあくまで人間が行う。ロボットではない。
外科医は「上澄み」しか生き残れなくなる
外科医のキャリアはどうなるのか。一見、手術機器が進歩すれば、誰でもラクに手術ができるようになるとも思えるが、現実は真逆だ。使いこなすためには熟練を要し、経験に比例して生産性が上がっていく。製造業における「経験曲線」と同じ理屈である。
「ラーニングカーブが大きい。ダヴィンチによる心臓血管外科手術について言えば、最初は8時間かかったものが、150件~200件経験すると、最後は2時間でできるようになります
この先は会員限定です。
会員の方は下記よりログインいただくとお読みいただけます。
ログインすると画像が拡大可能です。
- ・本文文字数:残り4,609字/全文5,846字
本稿は『週刊東洋経済』2019年4月8日発売号に掲載された『AI時代に食える仕事食えない仕事』P25(医師)の原文です
「むしろ検査数が増えるのでは」と予測する放射線科医(40代)
Twitterコメント
はてなブックマークコメント
facebookコメント
読者コメント
※. コメントは会員ユーザのみ受け付けております。記者からの追加情報
会員登録をご希望の方はここでご登録下さい
新着のお知らせをメールで受けたい方はここでご登録下さい(無料)
企画「ココで働け! “企業ミシュラン”」トップページへ
本企画趣旨に賛同いただき、取材協力いただけるかたは、info@mynewsjapan.comまでご連絡下さい(会員ID進呈)