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NHK『所さん!事件ですよ』、携帯基地局にまつわる事件をボツに プロデューサーは「電磁波問題はタブーではない」と弁解

情報提供
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「所さん!大変ですよ」の番組概要を示した書面。出演者は所ジョージ、木村佳乃ら、放送局はNHKとなっている。筆者のもとにメールで送付されてきた。
 NHK総合が放送する「所さん!事件ですよ」を制作する(株)テレビマンユニオンが、携帯基地局からの電磁波による健康被害を考える番組を中止したことがわかった。当初、担当ディレクターは、被害者を紹介するよう依頼し、筆者は4人の被害者を紹介したが、4人が取材を受けることすらなかった。ディレクターに事情を尋ねたところ、基地局の仲介業者からストップがかかったことを明かした。一方、プロデューサーは、「もともと電磁波による健康被害が取材目的だったのではなく、基地局設置工事の騒音被害を取材することが目的だった」などと、不自然な説明を繰り返した。筆者が、業界タブーがあるのではないかと尋ねると、「それは絶対にない」と強く否定。タブーという趣旨でこの問題の顛末を記事化することは不本意とも述べた。
Digest
  • 電磁波問題を報じる欧米のメディア
  • 電磁波問題は巨大ビジネスの障害
  • 基地局に関する6本の記事
  • 「番組の概要を添付します」
  • 私が紹介した4件のトラブル
  • 「NHKは関係がなく、ぼくらの取材が進まなかった」
  • NHKに対する問い合わせ
  • 「原稿を入稿する前に読ませてほしい」
  • マスコミが報じない問題こそ報道価値が高い

「報道の自由度 日本 世界71位 “大企業の影響力 自己検閲促す”」と題して、NHK自身が、パリに拠点を置く国際ジャーナリスト団体「国境なき記者団」による報告書(2022年5月3日)の内容を報じている。世界180カ国・地域を対象とした調査結果である。

日本は韓国やオーストラリアと同様に「強まっている大企業の影響力がメディアに自己検閲を促している」として去年から順位を4つ下げて71位に後退しました。(2022年5月4日

時事日経も報じている。本件は、この「自己検閲」についての実態を示す「報道」である。

なお、協力を依頼してきた取材を担当するプロデューサーが、入稿前に「原稿を読ませてほしい」と言ってくるなど、ジャーナリズムの倫理が恐ろしく欠落したテレビ関係者の実態も明らかになった。私の視点からすれば、そもそもジャーナリズムではない。

2022年4月11日、私は(株)テレビマンユニオンのディレクターから1本の電話を受けた。自社が制作している「所さん!大変ですよ」(NHK総合)(4月から改題、「所さん!事件ですよ」)で、携帯電話の基地局設置をめぐるトラブルを取り上げる予定なので、取材対象者を紹介してほしいという。NHKがこの問題を取り上げれば、その影響力は計り知れない。断る理由はなかった。

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(上)民家の直近に設置された基地局。(中)城山公園に設置されたKDDIの基地局。(下)見おとしがちな基地局。(いずれも埼玉県朝霞市岡で筆者が撮影)

基地局設置に伴う電磁波問題は、水面下で深刻になっているが、トラブルの発生源である携帯電話会社がマスコミの大口広告主という事情もあって、この話題を積極的に取り上げようというマスコミは皆無といっても過言ではない。

電磁波問題を扱った書籍は若干出版されているが、ベストセラーにでもならない限り、電磁波が新世代公害として広く認知させることはない。その意味で、NHKと連動した(株)テレビマンユニオンの試みは画期的だと思った。

電磁波とは何かについては、次の記事を参考にしてほしい。

東京中野区でKDDIの携帯基地局設置をめぐるトラブル、発ガンなど懸念されるマイクロ波による人体影響 

電磁波問題を報じる欧米のメディア

欧米メディアは、ごく普通に電磁波問題を報じる。たとえばベルギー最大の英字紙(電子)、『ブリュッセル・タイムス』(2019年4月1日)は、ブリュッセルで予定されていた5Gの試験的運用を、フレモール環境相が先送りにしたことを報じた。「ブリュッセル市民はモルモットではない」という大臣のコメントも掲載している。

また、フランス・リヨンに本部がある放送局『ユーロニュース』(2020年12月9日)は、スイスで起きている5Gによる健康被害の実態を紹介している。ヨーロッパではスイスが5G導入の先端を走っていたが、電磁波に対する懸念からブレーキがかかった。こうした状況の下で、不眠症や動悸に苦しむ住民を取材。自宅が5G基地局から200メートしか離れていない被害者の実態を報じている。また、「診断は一筋縄ではいかない」「効果的な治療法もない」「5Gの安全な運用には独立した研究と時間が必要」といった専門家のコメントも紹介している。

こうした報道に連動するかのように、欧州評議会は、従来からマイクロ波(スマホで使われる電磁波)の電磁波密度を厳しく規制。日本の総務省の電波防護指針が1000 μW/c㎡ (マイクロワット・パー・ 平方センチメートル)であるのに対して、欧州評議会は0.1μW/c㎡を勧告。日本に比べ、1万倍も厳しい。

さらに「新聞・テレビ」ではないが、米国には、MICRO WAVE NEWSというマイクロ波に警鐘を鳴らしている専門サイトもある。たとえば2018年11月1日付の記事は、アメリカの国立環境衛生科学研究所が発表したマイクロ波と癌の関係を示す動物実験の最終報告を紹介。それによると、2年にわたる動物実験(マイクロ波をラットに照射する)の結果、オスのラットの心臓に悪性腫瘍ができたことを示す「明確な証拠」が得られたという。「脳腫瘍や副腎腫瘍もより高い率で現れたが、両者の相互関係は弱い」と結論づけた。

欧米では、マスメディアが電磁波問題を報じているが、日本では全くといってよいほど報道されていない。

電磁波問題は巨大ビジネスの障害

「所さん!大変ですよ」を放送するNHKは、年間予算の国会での承認が必要とされる特殊法人で、政府広報的な性質が強くなる構造を持った放送局だ。私は、大企業の影響を受けないNHKであっても、放送免許の許認可を持つ総務省自身が5Gをはじめ無線通信網の拡大を国策として打ち出している状況下で、NHKが電磁波問題を報じるのは難しいのではないか、と考えてきた。そんなこともあって、ディレクターからの打診は意外だった。

ちなみに数年前、私はあるテレビ局(交信メールを消してしまったので匿名)から電磁波問題の取材について相談を受けたことがある。報道番組の特集コーナーで、当時、山口県と秋田県で防衛省が起こしていたイージス・アショアの問題を特集するので、電磁波問題の専門家を紹介してほしい、とのことだった。

私は快諾し、電磁波問題の専門家でイージス・アショアによる電磁波被曝にも警鐘を鳴らしていた荻野晃也・元京都大学講師(故人)にコンタクトを取った。ところが翌日、テレビ局から、今回の特集では電磁波問題には触れないことにしたので、専門家の紹介は不要になった、と連絡があった。

その時、私は改めて日本のテレビ局・新聞社にとって電磁波問題がいかに扱いにくいテーマであるか、を実感した。電磁波の人体影響を報じると、電話会社はいうまでもなく、製造にかかわる電気メーカーや、5Gでハイテク化が進む自動車メーカーも打撃を受けかねない。CM主や広告主に配慮したとき、報道のハードルは高くなる。逆説的に言えば、それほど電磁波問題の報道は巨大ビジネスの障害になるのである。

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楽天モバイルが、大阪市浪速区湊町1-2-17にある39階建ての高層マンションの住民に示した基地局からの電磁波照射イメージ。非常時用のもので、普段は停波すると明記しているが、不安を訴える住民もいる。

基地局に関する6本の記事

(株)テレビマンユニオンのディレクターによると、今回の番組のテーマは「屋上」だという。近年、「屋上」をめぐるトラブルが増えている。そのうちのひとつが、ビルの上に電話会社が設置する基地局をめぐるトラブルである。

 ディレクターは、「メディア黒書」に私が掲載していたKDDI基地局をめぐるトラブルについての記事を読んで、アドバイスを求めてきた。本件はMyNewsJapanでも報告済みである。

2020年の春、私は川崎市宮前区犬蔵の小高い丘の頂上にあるマンション住人から相談を受けた。相談してきたのは、7階建てマンションの最上階に住む夫妻である。概要は、次の通りである

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基地局は天井裏に設置されることもある。資料は、「画像3」と同じ高層マンションの住民に楽天モバイルが開示したもの。5Gの基地局である。

沖縄県・読谷村で基地局設置に抗議する人々。楽天モバイルは、住民の反対を押し切って賃貸マンションの屋上に自社の基地局を設置した。

マンションの「屋上」に設置された基地局。林立の状態になっている。(埼玉県朝霞市岡で、筆者が撮影)

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