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「何度でも逮捕する」「お前はサイコパス」無実の若手警官を冤罪に追い込む奈良県警《暴言の嵐》

銃弾”紛失”事件の不可解な結末とは

情報提供
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不可解な拳銃弾”紛失”事件が起きた奈良県警奈良西警察署(奈良市学園南3丁目)。安倍前首相暗殺事件も同署管内で発生した。

安倍晋三前首相暗殺事件(2022年7月8日発生)で要人警備のずさんさが露呈した奈良県警だが、同時期に問題になっていた拳銃弾“紛失”事件でも、近代警察とはいいがたい乱暴で粗雑な「捜査」が行われ、男性巡査長が、窃盗の冤罪に苦しめられていたことがわかった。男性が起こした国家賠償請求訴訟によれば、「おまえはサイコパスだ」「何度でも逮捕する」――と連日10時間以上にわたる脅迫まがいの自白強要が行われ、男性は鬱病になるまで追いつめられていた。弁護士の介入でたちまち捜査は終了となり、暗殺事件の1週間後、唐突に「紛失ではなく銃弾配布の際のミスだった」とにわかに信じがたい“真相”を発表して収拾がはかられた。警察組織の堕落ぶりは、就職先として警察官をめざす人にとっても重要な情報である。

Digest
  • 「実弾紛失」と奈良県警発表
  • 金庫の拳銃と銃弾管理
  • 2022年1月7日未明
  • 「おまえが盗ったんだろう」
  • 自白強要という拷問
  • 深夜の家宅捜索で証拠出ず
  • 陰湿な人格攻撃で虚偽自白ねらう
  • 「おまえしかおらん。嘘つくな」
  • 「敏腕」刑事の素顔
  • 「銃弾配布ミス」は本当か

「実弾紛失」と奈良県警発表

奈良県警による「銃弾窃盗」の冤罪被害に遭ったのは同県警巡査長のTさん(20歳代)だ。

なお、本稿執筆現在(2023年1月30日)で本人や弁護士への取材が実現していないため、以下、主に訴訟記録を頼りに事件を報告したい。

Tさんはノンキャリア(奈良県職員=特別地方公務員)枠で県警に採用され、奈良西署刑事課を経て2021年10月に同署地域課員となった。

奈良県警の採用は、一般的に高校か大学を卒業後、「警察官A」(受験資格:大卒相当)か「警察官B」(同:高卒相当)を受験し、合格すると警察学校で数か月間の教育訓練を受けてから警察官として現場に配属される。これとは別に、国家公務員総合職の試験に合格して国家公務員の幹部として採用される「キャリア」枠がある。

事件は、Tさんが奈良西署地域課に異動してからほどない2022年1月に「発生」した。同月8日の新聞朝刊各紙は、前日(1月7日)に県警本部が発表した「不祥事」を報じた。

奈良県警は7日、奈良西署で管理するけん銃の実弾5発が紛失していたと発表した。施設装備課によると、けん銃の手入れのために同署のけん銃庫に入った警務課の署員がけん銃の数と実弾の数が合っていないことに気づき、調べたところ実弾5発がなくなっているのが分かったという。(2022年1月8日付朝日新聞)


奈良県警は7日、奈良西署で管理していた実弾5発を紛失したと発表した。県警は持ち出しの可能性を含め、詳しい経緯を調べている。
発表では、同署の拳銃庫で7日午前、拳銃の手入れをしていた署員が気づき、紛失が判明。実弾が記録上の総数よりも5発足りなかったという。拳銃庫は施錠されており、鍵は責任者が管理。庫内に入る際は立会人が必要で、1人では立ち入ることができない仕組みにしているという。
実弾の数が全て確認できたのは、昨年2月18日の点検時が最後で、県警は出入りのあった関係者を対象として、聞き取り調査を進めている。現時点で被害は確認されていないという。(2023年1月9日 読売新聞WEB配信)


・・・昨年2月18日の点検では異常がなかったという。同課(施設装備課)の松本幸三次席は「多大なご心配をかけて申し訳ない。事実関係について徹底した調査を行う」としている。(2022年1月8日付産経新聞)

この事件の続報を奈良県警が発表したのは、発生から半年が過ぎた2022年7月15日のことだ。発表の趣旨は次のとおりであった。

従来「紛失」と説明してきた銃弾5発は、じつは紛失ではなかった。西署の実弾を新しいものに交換する際、県警本部の担当者が誤って5発少なく配分したのが原因だった。

安倍晋三前首相暗殺事件が奈良西署管内で起きたのが7月8日、その1週間後の発表だった。

本稿の主題は、「担当者が誤って5発少なく配分した」という結論に奈良県警がいたった、その経緯についてである。Tさんの訴訟を取材すると、「事実関係について徹底した調査」結果などではないことがよくわかる。証拠もないままに「T巡査長が盗んだ」と決めつけ、連日長時間にわたって拘束し、執拗かつ卑劣な方法で自白を強要する。そして、弁護士が介入して捜査の違法性を指摘したとたん、急に態度を変えて捜査を終了、「配分ミスだった」と釈明した。

これのどこが「徹底した調査」なのか。あるべき能力を欠いた日本警察の現状に強い疑問と不安を抱かざるを得ない。

金庫の拳銃と銃弾管理

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日本の警察で使用されている回転式拳銃「SAKURA M360J」。38口径(弾丸の直径約9ミリ)の実包(実弾)5発をすべて装填した状態で金庫に保管、または職務中の警察官が携帯している。写真は海上保安庁のHPより。

事件は奈良西署(奈良市学園南3丁目。以下「西署」と表記)の拳銃庫を舞台に起きた。

同署には4畳くらいの広さの拳銃庫があり、中に金庫が3つ設置されている。それぞれの金庫に約140丁、総数でおよそ400丁の拳銃が保管されている。実弾(実包)はすべて拳銃に装填された状態で管理されており、実弾だけの保管はない。装填数は1丁あたり5発だ。

拳銃は警察官1人に1丁があてがわれており、勤務のたびに金庫の外に持ち出す。その方法は次のとおりである。

・拳銃庫に保管中の拳銃には1丁に1個のメダルが添えられている。

・拳銃を持ち出す時はメダルを拳銃から取り外し拳銃庫の壁のフックにかける。

壁のメダルを数えれば現在何丁の拳銃が持ち出されているかが一目瞭然にわかる仕組みだ。

当然のことながら、拳銃庫は常に点検されていなければならない。県警本部による大がかりな点検が年に数回、月1回の礼式点検、そして毎日の宿直員による朝夕の点検がある。T巡査長が冤罪事件に巻き込まれたのがこの「宿直員点検」だった。

T巡査長が西署刑事課から同署地域課に異動したのは2021年10月18日。新しく受け持った仕事して、宿直時の拳銃弾の点検があった。その方法を先輩から教わったのは翌19日のことだった。手ほどきをした先輩警察官とは警務課留置管理係のO巡査部長である。

O巡査部長が教授した「宿直員点検」の手順はこうだ。

1 宿直担当は毎日夕方と早朝に拳銃庫内の実弾数をチェックし、「簿冊記入表」に記入する。

2 実弾数の数え方は以下の要領で行う。
① 奈良西署が管理する拳銃の総数に5(1丁あたりの装填済み実弾数)をかけた数を算出する(A)
② 持ち出された拳銃の数を壁のメダル数から出し、それに5をかけた数を算出する(B)
③ AからBを引き算して拳銃庫内の実弾数を出す。

これでは拳銃の数を数えているだけなので、厳密に実弾数を確かめたことにはならない。しかしこれが西署のやり方であって問題はない、ほかの宿直者もそうしている――とO巡査部長の説明からT巡査長は理解した。

一般市民の感覚に照らせば、ずさんきわまりないものだが、それが奈良県警の当時の常識感覚らしい。

2022年1月7日未明

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交通取り締まりを終えて奈良西署に戻る奈良県警の車両。銃弾「紛失」事件があった翌日から3日間、T巡査長は休暇をとって家族と旅行に行く計画だった。

2022年1月6日はT巡査長の宿直勤務の日だった。同様にO巡査部長も宿直で、二人で署に泊まり込んだ。夜が明けて7日の午前5時40分ごろ、Tさんは拳銃弾の点検をするため拳銃庫に向かった。O巡査部長に教わったとおり、壁のメダルの数から現存する拳銃の数を出し、実弾数を算出した。そしてその結果を簿冊記入表に書き込んだ。

普段より慎重に行ったのは、O巡査部長から「前回の実弾チェックの仕方が違ったぞ」と簿冊の記載ミスを注意されていたからだ。といっても、1丁ごとに実弾の装填状況を確認していないことを責められたわけではない。

Tさんが点検を終えて1時間ほどたったときのことだった。

「ダブルチェックや」

O巡査部長はそう言うと、Tさんが記入した簿冊記入表をもって拳銃庫に入っていった。

(まちがいがあったらどうしよう)

慣れていないこともあってTさんは少し心配になった。はたして、しばらくして戻ってきたO巡査部長は何も言わなかった。簿冊記入表の訂正もなかった。

「まちがいがなかったんだ」とTさんは安堵した。

制度の上では宿直明けの勤務は午前8時半までだ。だがTさんは、たいてい昼まで仮眠室などで待機することにしている。この日もいつものように仮眠室に向かった。部屋の一角に、拳銃の点検で使う布やオイルが置いているが目に入った。

「今日は拳銃の点検があるのかな」

そう思ったが特段気に留めず、正午ごろに勤務を終えて帰宅した。

奈良西署での「異変」をTさんが知ったのは午後7時すぎのことだ。別の署に勤務する同期入庁の同僚が「ライン」のメッセージを送ってきた。

(同期)あけおめ! チャカ誰のやつなん?

(T) あけおめ! チャカって何?

(同期)実包紛失してる件

(T)え、奈良西?

(同期)うん、今日休みやったん?

奈良西署で拳銃弾が紛失したと知ってTさんは驚いた。重大事件である。電話をかけて直接事情を聞くと、なんでも夕方5時ごろ、各署一斉に広報がまわったということだった。

「最終点検したの俺や。俺なにか言われへんかな」

不安になってTさんは同僚に言った。「やばいやん。それ。そんなん重なる?」と同僚も心配そうに答えた。

電話を終えたTさんは、宿直の相方であるO巡査部長に連絡をすることにした。

「(自分が)疑われてないか不安ですわ」「怖いですわ」

ショートメールでTさんはそう打ち明けた。

「大丈夫やろ。最後に確認したの俺やし」

O巡査部長の返答からは、さほど気にしている様子は伺えなかった。

「おまえが盗ったんだろう」

1月8日から10日まで3日間、Tさんは休暇をとっていた。妻ら家族と京都旅行をする予定で、以前から計画していた休みだ。

朝10時ごろ車で家を出たTさんは、やはり「銃弾紛失」が気がかりだった。休暇が中止になるのではないかと心配したのだ。そこで、マスコミが駆けつけるような騒ぎになっていないか確認するために、西署の前を通ってみることにした。

西署の周辺に特に変わった様子はなかった。ひとまず安心し、あらためて車を京都に向けて走らせた。

京都に一泊した翌日、1月9日午前10時ごろのことだった。家族といっしょにホテルにいたところ、直属の上司である地域課の小畑課長から電話があり、こう言った。

「いまからこれるか?」

やはり、心配は的中した。

「出先なので、今からだと1時間くらいかかります」

Tさんが答えると、小畑課長は言った。

「じゃあ明日朝9時30分くらいにしようか」

翌1月10日は3連休の最終日だったが、上司の指示なら仕方がない。翌日は職場に行くことにして、家族と京都観光を続け、夜になって自宅に向かった。

自宅マンションに着いたのは1月9日の夜9時ごろだった。駐車場に差し掛かると、見覚えのあるワゴン車が見えた。銀色の日産セレナ(ワゴン車)、奈良西署の車だ。セレナは、Tさんの車の後をつけるように駐車場に入ってきた。

2人の署員が降りて、話しかけてきた。

「ちょっときてくれる?」

西署刑事課の川畑(慎也氏と思われる=筆者注)課長だった。もう一人は、部下の刑事課員だ。

「なんですか?」

とまどうTさんに、川畑課長はぞんざいな口調で続けた。

「おまえのロッカーと机を見せてほしいねん」

職場の机とロッカーを、あらためたいので、鍵を貸してほしい。それが2人の要求だった。Tさんはマンションの部屋に戻り、鍵を持ってきた。だが、鍵を渡すだけでは済まなかった。Tさんはそのままセレナに乗せられ、奈良西署へ向けて走りだした。

「おまえがやったことやから。やってんならわかるだろ」

車中で、川畑刑事課長が言った。実弾を盗んだ犯人だと疑われている――自分の身に何が起きているのか、Tさんはこのとき、はっきりと悟った。

自白強要という拷問

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被疑者の護送業務で奈良地検に向かったT巡査長を奈良西署の署員が呼び戻しにきた。任意捜査という名の精神的拷問のはじまりだった(奈良地検)。

署長、副署長、警務課長。夜の西署に着くと署の最高幹部が勢ぞろいして、待っていた。彼らの面前で、ロッカーと机を調べられた。期待した銃弾は、出てこない。身に覚えのないことなのだから、当然だ。

次に、携帯電話を「任意提出」させられた。そして、わけがわからないまま取調室に入れられた。深夜の取り調べが始まる。

「おまえがやったんだろ」

川畑課長が、きめつけるように言う。

「なにもやってません」

否定するTさんに、課長は「やったんだろう」と繰り返す。まるで聞く耳を持たない。

「早く言わな、本部の捜査一課に上げるぞ」「捜査一課に行ったらこっちの手は離れるぞ」「後から、やりましたと言われへんぞ」

そんな言葉を一方的に投げつけた。不毛な応酬の末、深夜23時にようやく解放された。

「じゃあ、おまえはそういう態度で通すねんな」

川畑課長は、そう言い捨てた。精神的拷問のほんのはじまりだった。

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T巡査長の自宅前には県警本部の捜査員が張り込み、24時間の監視状態におかれた。毎日、朝から晩まで執拗な自白強要を受けた(県警本部のある奈良県庁付近)。

自白強要、供述の誘導、長時間の取り調べ――T巡査長に対して違法性の高い捜査が行われた奈良県警本部。

長時間の自白強要を連日受けてT巡査長は鬱病を罹患した。弁護士が介入し、県議会や公安委員会に報告したとたん奈良県警は取り調べを中止する。4ヶ月後、「紛失ではなく配布ミスだった」と発表するが、その「結論」には疑問が多々残る。

Tさんが奈良県を相手どって起こした国賠訴訟の審理が続く奈良地裁。違法捜査による賠償を請求する訴えに対して、被告県側は、認否をしないまま和解での早期解決をした旨主張している。

T巡査長に対する違法捜査の問題は奈良県議会でも取り上げられた。

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記者からの追加情報

奈良地裁の寺本佳子裁判長は、8月31日、捜査の違法性を訴えた原告の主張を全面的に認め、慰謝料と弁護士費用など365万円(言い渡し後に訂正した金額)の賠償を被告奈良県に命じる原告勝訴判決を言い渡した。判決理由で寺本裁判長は「原告を心理的に追い詰めて、捜査側の薄弱な証拠を埋め合わせるように執拗に自供を迫っている。社会通念上相当と認められる方法ないし態様及び限度を超えた違法な取り調べであり、担当した警察官らは職務上の法的義務に違反した…」と述べ、奈良県警の行為を厳しく批判した。(2023年10月2日、三宅勝久)

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