「起業の聖地」やめたリクルート〝給料安いユルめなユニクロ〟にフルモデルチェンジ
社員に報いる会社→投資家&経営者のための米国式企業に
右:リクルートは江副会長の引責辞任を「創業の地」でしっかり掲示中。逆に日経は、同日の森田社長引責辞任を「なかったこと」にすべく、社内から痕跡を消すという「臭いものに蓋」。両社は対極のカルチャーにあり、リクルートはリベラル&ボトムアップ。日経は父権主義&軍隊。 |
「ここがリクルートの創業の地。屋上の違法建築の中の4畳半スペース。ここから頭脳と行動力で5兆円企業に成長したと思うと人間って凄い」。サイバーエージェント藤田社長も訪れ「パワースポット」と記した、西新橋第二森ビル(Facebookより)。それから64年が経ち、国内の売上はすっかり頭打ちとなって成長は止まった。独立・起業人材が集まり「30代のうちにまとまった退職金をもらって独立する会社」というフェーズは終わり、制度ごと廃止された。いまや売上の過半は海外で、20社あまりを傘下に収め、HR(ヒューマンリソース)分野の総合商社となりつつあるが、そうかといって国内の「リボンモデル」を輸出するわけでもない。ではどのような人材なら、今のリクルートとマッチしてハッピーな関係を築けるのか。
- Digest
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- 「人材輩出企業」の終わり
- 筆頭株主「社員持ち株会」で上場
- 伝統の「フロンティア制度」を廃止
- 「営業・起業人材→DX人材」変わる人材像
- ユニクロに劣る地域職の待遇
- 専制君主国家モデル
- 社員全体の平均年収は600万円程度
- 女性管理職候補を採用しまくるぞ宣言
- 「女性が昇進しやすい」採用ブランディング
- サークル同好会カルチャー
- New-Ringとキャリアウェブは健在
- 輸出できない「リボンモデル」——ユニクロ・キーエンスとの違い
- 「DX人材じゃないと昇進できる気がしない」
- ベンチャーを期待してはいけない
「人材輩出企業」の終わり
多くの人が、昔の「社員黄金期」のイメージを持ったまま、リクルートを語る。以下が典型である。
リクルートは、日本企業なのにJTCとは対極の珍しいポジションにいる会社で(年功序列⇔成果主義)、外資ともまた違うカルチャー(トップダウン⇔ボトムアップ)で知られてきた。皆が知っているメディア(リクナビ、ホットペッパー、ゼクシィ、スーモ…)を、若い社員たちのアイデア主導でボトムアップによって次々に実現させ、積極的に社員に自社株を持たせ、若い年齢の割には高給で報いてきたメガベンチャーである。
「リクルート事件」で名を汚し、ブランド価値を下げ、バブル崩壊で1兆円の借金を作ってしまい、カネがない以上は、ヒトで勝負するしかなかった、という追い込まれた背景もある。
だが、同社が守備範囲とする分野(求人&販促のマッチングビジネス)は国内市場が完全に成熟し、人口減で縮小も予想される。海外売上比率は57.2%(2023年3月期)と過半を占めるようになり、求められる人材像もガラリと変わった。「企画・営業人材」→「DX&グローバル人材」へのシフトである。
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ガンガン新メディアや新事業を企画して世に送り出しているエネルギッシュな若者は、要らなくなった。「立ち上げ屋みたいな人がいて、次々に新事業を立ち上げては次に行って居なくなっちゃうので、後任者が苦労するんです」(中堅社員)といった類のイケイケなエピソードを、10年前まではよく聞いたものだ。2010年前後くらいまでの、まだ国内のみで、空いている市場を埋めていた時代の話である。
黄金期のリクルート |
新事業を立ち上げて全国展開していくには、若いパワーがいる。40代のおっさん・おばさんには無理だ。古今東西、ベンチャー事業は若い人が生み出してきた。だから、若手人材を引き寄せては、老害になる前に独立を促し、まとまったカネをインセンティブとして与え40歳前後までに「卒業」させて、次の威勢の良い若者に入れ替えてチャンスを与え…という、女性アイドルグループにも似た人材戦略がうまく回っていた。「キープヤング」が社内でうたわれた2010年代前半までの話である。
「自ら機会を創り出し、機会によって自らを変えよ」という、創業者・江副浩正氏が32歳の時に掲げたリクルートの社訓は、この会社の本質を、ワンフレーズで完璧に表現していた(「リクルート事件」を機に差し替えられてしまった)。
マザーズ上場時にCEOが就業経験を持つ企業ランキング1位 |
その結果、辞めた元リク人材が起業し、日本のベンチャー振興に大いに貢献した。「マザーズ上場時にCEOが就業経験を持つ会社」ランキングでは、リクルートグループが1位という納得の結果だった。しかも、2位のアクセンチュア・日本IBMの2倍という突出した成果をあげている(右記参照)。
新卒リクルート(2003年新卒入社)出身でKAIZENプラットフォームを創業した須藤憲司社長が在籍していた頃は、ギラギラした人材の宝庫だった。同時期に、じげん社長の平尾丈氏(2005年新卒入社)、ナナピ元社長の古川健介氏(2006年新卒入社)などを輩出している。
筆頭株主「社員持ち株会」で上場
リクルート社員持ち株会の仕組み |
創業者・江副浩正氏は、社員にオーナーシップを持たせるため、自社株を持つことを推奨した。2014年の上場前まで、社員持ち株会が筆頭株主だった。したがって、古参社員ほど安い株価で入手しており、後に「株長者」が続出した。株価は上がり続けているため、直近でも、コロナ禍前に同社株を購入した社員は、全員が含み益となっている。
「持株会退会時に単元未満株式の譲渡益が生じた場合は、会員個人に納税義務(確定申告)が発生します。」と、社内説明資料(右記参照)において、あえて下線つきで明記しているのは、かつて、未申告で税務署に呼び出された者が続出して問題になったからだ。「順番に呼び出されてるんですよ」——そういう実話を、取材でも聞いた。
現在でも株を買うことは可能だが、上場株なので誰でも買えるものとなり、会社は奨励金として5%分を支給してくれるだけだ。ほとんど、うまみはない。バブル崩壊で作ってしまった1兆円にのぼる借金を返し終え、上場を果たし、国内市場が飽和したいま、もはや株価は上がり切ってしまったようにみえる。今後の上昇幅は、これまでに比べれば全く期待できない。「オールドR社員」の特権である。ベンチャー企業は入社時期がすべて、といってよい。
「リボンモデル」と、ユーザー軽視の構造 |
伝統の「フロンティア制度」を廃止
この上場(2014年)時期には、いわゆる「リボンモデル」において考えうる一通り全ての領域にメディアを出し尽くし、営業体制の全国展開もしばらく前に完全に終え、頭打ちが見えていた。それでは投資家が許してくれないので、2010年代は、より投資対効果が見込める海外市場へと活路を求めた。
そして、海外が「攻め」、国内は「守り」に転じることになった。もちろん対外的にそんなことは言わないが、それは人事制度の変更ではっきりしている。従来どおりでよいのなら、成功してきた「伝統」の制度を変える必要がないわけだが、2021年の変更は、従来の延長では全くなかった。
リクルートの魂を抜くような退職金制度の激変 |
「これから入社する人の待遇は、ずいぶんシブくなるんだな、と思いながら聞いていました。(現社員である)自分たちには影響ないので、特に質疑応答で荒れることもなかったですが…」——。人事制度変更の説明会に出席した社員の感想だ。大幅な不利益変更は労働争議になるので、既得権を持つ現社員の待遇はいじらない(同様に、TBSや日テレも新入社員から待遇を切り下げている)。
これから入社する人は、文句をつけられない。この構図は、まだ生まれていない日本人は選挙権を持たないからシルバーデモクラシーになって少子化が進む理屈と同じで、卑怯なものだ。
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シブくなったカネ払い
ベンチマーク:ユニクロのキャリアパスと報酬
業績はよいが給料は安い。高賃金を求めて入る会社ではない。
リクルート2万人弱の従業員はどこにいるのか
リクルートで「働く」重要データ
「しょくばらぼ」で年間の中途採用者比率を開示(公式サイトでは非開示)
リクルートが埋める管理職の女性比率5割×年収800万円(総合職)
ウェットでボトムアップな社風を持つリクルート
大学サークル的なカルチャーで部活が盛ん
新事業提案は低調に
「よもやま」「TTP」「壁打ち」…頻出社内用語
働くステージ論におけるリクルートの現在地。もはやベンチャーではない。
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