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オープンハウス設計職の新卒女性はなぜ入社半年で自死したのか

労災不認定取消訴訟から浮かび上がる「安全軽視」の企業風土

情報提供
オープンハウスD 設計事業部
Aさんが生前働いていたオープンハウス・ディベロップメント建設事業部(東京都渋谷区)。新築住宅の設計を担当していた。

オープンハウス・ディベロップメント社の設計部門に大学新卒で配属された女性社員が、入社からわずか半年あまりの2020年10月、自死によりこの世を去った。遺族は、女性が生前交際していた先輩男性社員の証言から「長時間の持ち帰り残業」による過労死を疑い、労災を申請。しかし労基署は認定せず、これを不服として見直しを求める訴訟が続いている。訴訟に補助参加したオープン社は、先輩男性社員との人間関係の悩みが自死の原因で会社に責任はないと主張、「長時間労働説」を真っ向から否定する。いったい何があったのか。

Digest
  • 女性寮で発見された
  • 交際していた男性の証言「持ち帰り残業」
  • 労災申請するも・・・
  • 労災不認定
  • 会社側「女癖悪い男性社員との交際の悩み」
  • 亡くなる直前に何があったのか
  • 慌てた元社員、危機感ゼロの会社
  • 部屋の鍵が開いていたわけ
  • 「社員が死亡しても会社は知らせない」

同社では前年の2019年に、新卒で入社して2年余りの男性社員が自宅で突然死したばかり。(※なお本事件の2年後、2022年夏にも同じく新卒社員が入社半年後に自死している)

自死に至る経緯からわかったのは、同社がもう少し人命を尊重する会社であれば、女性は命を落とさずにすんだだろう、という事実だった。社員の命に対する意識が希薄な「安全軽視」の姿勢が改めて浮かびあがった。

女性寮で発見された

駅
2020年10月30日午前9時20分ごろ、Aさんは直属の課長との電話で「電車乗れます。渋谷に向かいます」と話し、それを最後に連絡を断った(Aさんが住んでいた社員寮の最寄り駅、筆者撮影)。

関東地方の公立大学を卒業した女性Aさん(享年23)がオープンハウス・ディべロップメント社(OHD、オープン社と略す)に就職したのは2020年4月1日。大学の専攻は建築設計で、会社では新築戸建て住宅の設計を担当することになった。専門を活かした希望どおりの職種だった。職場は渋谷区にあるOHD建設事業部だ。営業部門(オープンハウス社=OH)が顧客に販売した宅地に戸建て住宅を建築するのがこの部署の役割で、Aさんの仕事は、あらかじめ用意された設計の雛形を顧客に紹介し、オプション(追加・変更)部分について打合せを重ね、設計図をつくり、建物の完成を見届けるといった内容だった。

以下は会社の説明だ。

2020年10月30日朝、Aさんは新築現場での立会いの仕事に独身寮(川崎市内)から直行する予定だった。だが約束の8時半になっても出てこない。直属の上司である女性の課長が電話やメッセージで連絡をしたが応答はない。入社して半年間、Aさんが無断欠勤するのははじめてだ。9時過ぎ、何回かかけてようやくつながり、課長はAさんと24分間会話をする。Aさんは「電車乗れます。渋谷(の職場)に向かいます」と答えた。寮から職場までは約30分かかる。しかしAさんは出勤してこなかった。課長はAさんの携帯電話をなんども鳴らし、メッセージを送る。応答はなかった。

ここまでの事実はLINEの記録からほぼ裏付けられている。ただし電話の会話の内容については課長の証言しかない。

次に述べる内容も会社の説明だ。

30日の夕方になって課長は寮に行く。ほかの部署の課長も同行した。寮の部屋の前に来た課長らは、ドアをノックし呼び鈴を鳴らした。反応はない。留守だと判断して引き揚げる。一夜明けた10月31日午前7時すぎ、同じ寮に住む同僚社員の女性がAさんの部屋を訪ねると、入口の戸の鍵が開いていることに気がついた。戸を開けて中に入ったところ、トイレで首を吊り口から泡をふいて動かなくなっているAさんを発見、警察や会社に通報する。

この説明の裏付けとされるのは、課長らの証言、そして寮に住む女性社員の証言だ。戸の鍵がなぜ開いていたのか、課長らが訪ねた際に施錠の有無を確かめたのかどうかはわからない。

Aさんが発見された直後の状況については会社以外の者の目撃者がいる。

同僚の女性が警察や会社関係者に通報し、到着を待っている間、警察よりも早く、Aさんと親しい関係にあった元社員B氏とAさんの親族が駆けつけてきた。Aさんは亡くなっていた。遺書は見つかっていないが、検視の結果、死因は自殺であり、死亡時刻は前日30日の午前と推定された。

死亡推定時刻が正確だとすると、30日の朝9時過ぎに課長がAさんと電話で24分間話した数時間後だ。つまり、この日夕方に課長らが寮を訪ねたとき、Aさんはすでに部屋のなかで亡くなっていたことになる。

B氏や親族が寮に駆けつけた経緯については後述したい。

前年の2019年6月に、入社2年あまりの新卒男性社員(OHDマンション開発営業部)が自宅で突然死する出来事があった。それに続く新人大卒社員の急死だった。

交際していた男性の証言「持ち帰り残業」

遺族は「過労死」を疑う。それには根拠がある。Aさんは生前、家族に「辞めたい」と仕事の辛さを漏らしていた。加えて、元社員の男性B氏が職場の様子を教えてくれた。B氏は同じ職場の先輩社員で、Aさんの交際相手だった。

なお、B氏はAさんが帰らぬ姿で発見された10月31日付で会社を辞めている。

Aさんは独身寮に住みながら頻繁にB氏の自宅に泊まっていた。したがってB氏は、Aさんの生活を間近で見て知っている。そのB氏によれば、Aさんは直属の課長から過重な仕事を命じられ、「毎日持ち帰り残業をやらされていた」というのだ。

B氏が遺族に行った説明は次のようなものだ。

会社は20時に退勤することを義務付けていたので、Aさんは20時には退勤しました。会社を退勤後、私(B)の自宅に20時40分ごろ到着(帰宅)しましたが、21時半から午前1時ごろまで毎日仕事をしていました。また出社前も、午前5時から7時まで仕事をしていました。合わせて毎日5時間30分の持ち帰り残業をしていました。(趣旨)

また、Aさんは直属上司の女性課長から厳しく当たられていた、ともB氏は遺族に説明している。

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渋谷労働基準監督署

Aさんの死亡をめぐり労災不認定取り消しを求める訴訟が東京地裁で続いている。

Aさんのスマートフォンに残された直属の課長からの電話やメッセージの記録。10月30日9時過ぎに電話がつながり、「電車乗れます。渋谷に向かいます」と答えた(会社の説明)のが最後だった。

人出でにぎわう休日のオープンハウス・ディベロップメント建設事業部付近の街路(渋谷区)。Aさんは土曜日曜は通常出勤だった。

Aさんが住んでいた社員寮付近の夕方の光景。

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