「トヨタは公害患者に謝罪を」と要求して座り込む人びと。高齢者が非常に多い(文京区にあるトヨタ自動車東京本社前、2月5日)。
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東京大気汚染訴訟の原告らが「トヨタが動けば前進する」と、1兆円企業・世界のトヨタに謝罪と補償を求め、2月1日から文京区の東京本社前で座り込みを行なった。12年目を迎える裁判中、排ガスが原因とみられる呼吸器系疾患、肺がんなどで108人の原告が亡くなっている。座り込みをする初山彰一さん(58歳)は慢性気管支炎で働けなくなり、経営していた会社をたたみ、治療費で蓄えは消えた。現在は生活保護を受けながら入退院を繰り返している。
【Digest】
◇原告108名が死亡した東京大気汚染訴訟
◇「トヨタが動けば解決に向けて大きく前進するはず」
◇慢性気管支炎、酸素吸入器が目立つ都営住宅の部屋
◇仕事中も自宅も排気ガスまみれ
◇治療費で生活破綻、離婚へ
◇謝罪と賠償金支払いを自動車メーカーは拒否
◇酸素吸入装置だけで年間120万円
◇世界のトヨタは謝罪と補償をすべき
◇アスベスト企業クボタの対応は礼賛した奥田トヨタ前会長
◇生活保護を受ける環境を想像できない国交省の役人
◇原告108名が死亡した東京大気汚染訴訟
自動車排ガス汚染が原因でぜんそくや呼吸器関連の病気になったとして、1996年5月、99人の患者が、国・東京都・旧首都高速道路公団(現首都高速道路株式会社)・自動車メーカー7社(トヨタ自動車・日産自動車・三菱自動車・いすゞ自動車・日野自動車・日産ディーゼル工業・マツダ)を相手取って、総額約22億3800万円の損害賠償や汚染物質の差し止めなどを求めた。この裁判を
「東京大気汚染訴訟」と呼ぶ。
2002年10月の東京地裁判決では、道路端から約50mまでに居住するなどにより気管支ぜんそくを発症、悪化した7名について、被告の国・都・公団に損害賠償責任を認め、計7,920万円の支払いを命じた。
しかし自動車メーカーの責任、汚染物質の差止めについては認めなかった。
これまでに第6次の訴訟があり、原告は600人以上。11年間の裁判中に原告の患者108人が死亡している。
昨年9月には東京高裁による解決勧告も出され、現在は原告と被告の間で協議が続けられている。
◇「トヨタが動けば解決に向けて大きく前進するはず」
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原告のうち、すでに108名が死亡。そのほとんどは呼吸器系疾患によるものである。トヨタ自動車本社社屋に向けて飾られた遺影の一部。 |
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原告側は、2月1日~6日まで(土日は除く)、トヨタ自動車などメーカーに謝罪と損害賠償の支払いを求めて、座り込みを行なった。
とくにトヨタ自動車への行動を重視するのは、「トヨタが動けば、解決にむけて大きく前進するはず」(繁野義雄団長代行)だからだ。
2月5日、現場に駆けつけてみると、60人近い関係者が座り込んでいた。裁判の結果を見ることなく亡くなった原告の遺影が本社前に向けられて並べられている。
座り込んでいる人は、ほとんどが高齢者。鼻に透明のチューブを差込み、携帯用酸素吸入器の助けを受けながら座り込んでいたのが初山彰一さん(58歳)だった。疲労の様子が見えたので、日を改めて初山さん宅を訪ねた。
◇慢性気管支炎、酸素吸入器が目立つ都営住宅の部屋
6畳と4畳半の都営アパートには、大きな酸素吸入装置が置いてあった。部屋の片隅には携帯用の機器がある。
「さすがに、座り込みはつかれました」と疲労の色は隠せないが、これまでの経過を初山さんが話してくれた。
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「自動車メーカーには、謝罪と補償を求めたい。トヨタが決断をすれば、解決に向けて大きく前進するはず」と語る初山彰一さん(58歳)。 |
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私は、38歳頃(約20年前)、ひどい喘息になり、いまは慢性気管支炎と診断されて入退院を繰り返しています。医者からは「回復の見込みはない」と言われ、酸素吸入装置をつけて外出する生活です。
体を悪くした頃、父から受け継いだ会社の経営をしていました。オイルライターのメーカーで、従業員30人と小さいながらもこの分野ではトップメーカーだったのです。
私は営業をやりながら配達もしており、東京・江東区の白髭橋近くにあった会社から浜松町の得意先まで、よく車で配達していたものでした。
◇仕事中も自宅も排気ガスまみれ
その道のりは、ものすごい車の数で排気ガスはひどかった。とくに昭和通りの汚染がすごかったのを覚えています。夏場はクーラーの効きが悪く窓をあけていました。
おまけに、その頃住んでいた自宅は、水戸街道と明治通りの交差点近く、水戸街道に面したマンションでした。妻と2人の子どもが喘息にならずにすんだのが唯一の救いです。
たばこを吸ったこともないし、最初は風邪だと思っていたのですが、どうしても症状がよくなりません。最初は開業医に診てもらったけれど、どうしても改善されず、いろいろと病院を替え、大きな大学病院も含めて10カ所くらい転々としました。
しかし、回復するどころか症状は重くなり、息切れがひどく荷物も運べないような状態になってしまいました。働くこともできなくなり、そのうえ当時はオイルライターから100円ライターに切り替わる時期でもあり、会社を閉じることにしたのです。
この体調で業績も悪化してどうしようもなくなる前に、従業員に退職金を支払えるうちに廃業する決断をしました。
体調を悪くして1年以上が過ぎた、40歳になる直前のことでした。
◇治療費で生活破綻、離婚へ
会社を閉鎖後に療養して新しい道に進むつもりでしたが、蓄えはすべて治療費に消え、生活もままならない状況に追い込まれてしまいました。
こうしたことも原因になり、私が24歳のときに結婚した妻とは協議離婚になってしまいました。娘が15歳で息子が13歳のときでした。
離婚した後、妹の嫁ぎ先で働き始めました。義理の弟は、いろいろと事業をしていたのです。3年ほどその義弟を頼りにがんばったのですが、入退院が激しくなり、とうとうここでも働けなくなりました。病院にいるか、アパートにいるかどちらかになってしまったんです。
病院にいれば酸素を吸入し点滴もしてもらえるので、なんとか持ち直します。当時は、自宅に酸素吸入装置がありませんでしたから、帰宅して苦しくなりまた病院に駆け込むというようなことも何度もありました。
外に出ていて「もうダメだ」となったとき、妹の家に電話をしてきてもらったこともあります。
一銭もなくなり、現在も通っている病院に入院したと同時に、生活保護を申請し、現在に至っています。生活保護が認められると、治療費は無料で入院費も無料。入院中の食費と寝巻き代だけは自分で払います。
東京大気汚染訴訟の原告のなかには、私のように生活保護を受けている人もいます。しかし政府は、生活保護の母子加算と高齢者加算を廃止します。これは大変なことです(政府案では、母子加算は2007年4月から段階的に削減・廃止。また、資産価値500万円以上の持ち家に住む65歳以上の世帯を対象に、自宅を担保に生活資金を貸し付ける「リバースモーゲージ」を実施し、その間の生活保護費支給を停止)。
◇謝罪と賠償金支払いを自動車メーカーは拒否
東京大気汚染訴訟が始まり、勉強会などにも顔をのぞかせて、私の喘息も大気汚染のせいだと気づきました。私は1997年の第2次訴訟の原告になったのです。
患者が多いことに、本当に驚きました。
被告は、国・東京都・首都高速公団(現首都高速会社)・自動車メーカー7社です。
昨年9月に解決勧告が出ましたが、国は「お金を支払わない」と言っています。東京都は、患者救済の制度の導入を提唱していますが、私たちは東京都に対して「患者の医療費を負担する条例をつくれ」と要求しています。都は、気管支せんぞくの患者のみを対象にするとしていますので、慢性気管支炎と診断されている私のような患者は対象になりません。
自動車メーカーは、(東京都が提案している)医療費救済助成制度には前向きの姿勢を示していますが、われわれの言っている賠償金とはレベルが違うと思います。
その原資は、3分の1が国、3分の1が東京都、メーカーが6分の1、公団が6分の1、というのが東京都の案ですが、国は金を出さないと言っているわけですし…。
自動車メーカーに対しては、われわれに健康被害をもたらしたことへの謝罪と賠償金の支払いを求めています。私たち患者は、医療費で丸裸にされているんです。
本当は、病気を治してもらい健康をとりもどしたい。それが一番ですが、結局医療費に相当するお金を支払ってもらうしかありません。
◇酸素吸入装置だけで年間120万円
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初山さんの自宅にある酸素吸入装置。これ以外に携帯用もある。料金は月9万9000円。年間にざっと120万円もかかる。もちろん、治療費関係は別である。
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私は生活保護を受けて医療費が無料です。ただ、一定程度収入のある患者は大変です。たとえば、酸素を吸入する機械があります。自宅に設置してあるものと、外出するときの携帯用がありますが、あるときそのレセプト(レシートのようなもの)を見て驚きました。
酸素の機械だけで月に9万9000円ですよ。年間にして約120万円。これには薬代も治療費も入院費も交通費も入っていません。ある程度働けて収入のある人は、治療代だけで消えてしまいますよ。
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