NHKが3.11で海外避難のフランス人を契約解除、地位確認求め訴訟に 原告に聞く“理不尽な解雇”
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福島第一原発事故によるフランス大使館の緊急避難勧告に従い、日本を離れたことで、NHKから契約解除された原告のエマニュエル・ボダン氏(実名、55歳)=本人提供 |
- Digest
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- 20年以上前に念願の日本に住み始めた
- フランス大使館が連日、緊急避難勧告
- 「二度と来ないで下さい」
- NHKの不可解な言い分
- 地位確認と1130万円超の損害賠償求め提訴
- 「質問については、答えを差し控えたい」NHK
訴状では、原告の業務委託契約は「従事する業務の曜日、時間帯等は全て被告が決定し、業務上の指示も全て被告従業員である原告の上司から受けていたこと等に照らせば、本契約は、労働契約であった」。すなわち、司法で全敗中の「すき家」のゼンショーのケースと同様、この業務委託契約は、実質的な労働契約だった、としている。
労働契約については、“5年ルール”、つまり、5年を超えて働く有期雇用者(アルバイトや契約社員)は、本人の希望により無期雇用に切り替えねばならない、とする改正労働契約法が、今月から施行された。一方、正規雇用者の解雇ルールを明確化する議論も、安倍政権下で目下、進行中だ。
非正規―正規の、解雇ルールをめぐる状況は、両者の理不尽なまでの格差が広く認識され、その雇用安定性の格差を埋める方向で進んでいる。すなわち、「異常に簡単にクビを斬られる非正規社員」と「世界一解雇が困難な正規社員」の異常な格差を、常識的なレベルに少しでも近づけよう、というものだ。
ところが、その法改正の理念を踏みにじるようなことを平気でやったのが、本事件でのNHKである。
20年以上前に念願の日本に住み始めた
原告のエマニュエル・ボダン(Emmanuelle Bodin)氏(実名、55歳、フランス人)は、もともとフランスで教育関係の公務員をしていたが、日本に観光で来たことをきっかけに、日本を気に入り、日本に住もうと決めた人物である。
その後、公務員を辞め、フランスの大学で日本語を習得した上で、今から約20数年前に、日本の青山学院大と慶応義塾大でフランス語の教員の契約を結び、念願の日本に住み始めた。ほどなくして、NHKの翻訳の仕事も始めた。
NHKの仕事とは、具体的には、「ラジオジャパン」という海外向け老舗番組の中の、フランス語のセクションだった。
そこでは、各国のニュース等の原稿を、業者を通して英語に翻訳した文が送られてくる。それをボダン氏らが、さらにフランス語に翻訳して、マイクに向かって話す、という仕事に従事していた。
番組は、生放送のときもあれば、録音する場合もあった。担当する番組本数は年によってばらつきはあったが、大体週3~4回程度だった。
NHKと結んだ業務委託契約書によると、翻訳料は「放送1分」につき1,800円。
ニュース対応のため待機する場合は、30分~1時間待機で1800円、1~2時間待機で2,700円、2~3時間待機で3,600円、3~4時間4500円。待機時間が22時以降の場合は、上記に10%を上乗せ。
アナウンス業務は、放送時間5分~30分以内のニュース番組は番組1回ごとに6,000円。
インターネットにニュース番組の原稿をアップする場合は、1番組につき1,700円といった具合に細かく定められている。
「この仕事は、ニュースをよく知っていて、上手に翻訳文が書けて、上手に話す能力が必要です。さらに、チームワークなどの色々な要素の力が求められるので、誰でもできる仕事ではありません。そのためスタッフの入れ替えは少なく、長く仕事を続けるケースが多いです。フランス語のセクションのスタッフ約10人のうち、一番長く続けている人で30年超、その次に長いのが20数年の私でした」(ボダン氏)
通常、一つの番組は10~15分。その翻訳を、ボダン氏ほか計3人のスタッフが、5分ずつ担当していた。3人で翻訳していたので、融通はきいた。番組収録の直前で、翻訳スタッフの1人が、子どもが病気になったり、電車が止まったりして、「ごめんなさい。今日は行けません」と連絡が入り、残り2人でやることもあった。時には1人で翻訳しなければならない時もあったが、問題なくこなしていた。
こうして日本で仕事を続けるなかで、ボダン氏は、東京都千代田区内の語学学校「アテネ・フランセ」でも教鞭をとる時期も経て、2011年時点では、慶応大の教員とNHKの仕事を掛け持ちしていた。
収入は、NHKが年間約650万円、大学が約430万円だったという。
NHKとの業務委託契約は1年更新で、年度末の前に担当者から契約書を渡され、後日、サインして手渡すのが常だったという。ボダン氏は、もう20年以上も続けているので、形式的に契約を取り交わす状態で、最後の契約書についても、担当者が「来年もまた宜しくお願いしますね」といって11年2月23日にボダン氏に手渡しており、あとはサインしてハンコを押す作業を残すのみだった。
こうしたなか、3月11日14時46分、東日本大震災が発生した。
フランス大使館が連日、緊急避難勧告
地震発生後、津波により福島第一原発1、2、3号機の非常用電源が使えなくなり、格納容器内の圧力は上昇。その後、次のように立て続けに原発事故が起きたのは記憶に新しい。
12日午後3時36分、1号機の原子炉建屋が爆発。
14日午前6時14分、2号機爆発。
14日午前6時14分ごろ、4号機の原子炉建屋損傷。
14日午前11時1分、3号機の原子炉建屋が爆発。
ボタン氏のメールには、13日以降、フランス大使館から朝、晩、連日、メールが届いた。
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11年3月13日にフランス大使館が発した緊急メッセージ![]() |
例えば、画像のように、13日にフランス大使館は、「緊急メッセージ」というタイトルで、日本語に訳すと、こういうメッセージを発している
「これからの進行状況を考えると、東京に住んでいるフランス人は、なるべく東京地方を離れて、日本の南側か、フランスまで逃げて下さい」
14日には、さらに強い避難勧告が出た。
ボダン氏の部署のスタッフは、13日、14日に計約3人が東京を離れた。その間、ボダン氏のもとには、フランスの家族や友人から「早く逃げて!死んでほしくない!!」といった電話が鳴り響いたという
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NHKが突然送りつけた契約解除通知
NHKが契約解除の理由に挙げたのは赤枠の、契約書第16条3項1号と5号だった
NHKが契約解除の具体的理由を記した文書。通知人とは原告を指す
原告代理人の一人・西岡弘之弁護士
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NHKが3.11で海外避難のフランス人を契約解除、地位確認求め訴訟に 原告に聞く“理不尽な解雇”
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読者コメント
池上彰氏の伝える力2によると同じ時期イギリスは科学技術顧問のアドバイスによって日本避難勧告を出してないんだ。今、振り返ってみてフランスの判断とイギリスの判断のどちらが正しかったかは明白だ。このアナウンサーは最も苦しい時に現場を離れたことがNHK内の村意識に火をつけたのだ。
国際放送以外はスクランブル放送で有料にするべき。国際放送は税金で運営ですかね。日本政府のブロバガンダなんで。
福島第一原子力発電所事故ではフランス以外だとイギリスは政府の首席科学顧問らSAGEの進言によって日本政府の出した避難勧告を妥当とするものだった。(伝える力2 池上彰著より)各国政府の判断で日本と異なる勧告が出され判断しただけなので個人の解雇まで行くのは異常に思える。NHK以外のマスコミがこの問題を報道するかどうか見守ろう。
エマニュエルさんは大使館から緊急避難勧告が出ていて、身の危険を感じ”緊急避難”しただけでしょう。最近のNHKさんは、面白い番組が増えて嬉しいですが人気アナウンサーが(財界出身役員の影響で?)退職したり、中山議員の質疑動画が削除されたりしました。視聴者からすると理解しがたいことが起きているのでとても残念です。非正規雇用という働き方には隠された”人権の格差”もあるということでしょうか。
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