「次は、小原健弁護士を訴えないとダメ」“世界のヒーロー”寺澤有に聞く、ナガセSLAPP対策とネット報道の自由
寺澤有(てらさわ・ゆう)=1967年、東京生れ。警察や検察、裁判所、記者クラブ、大企業など聖域となりがちな組織の腐敗を追及。平沢勝栄と武富士から名誉毀損で提訴され、いずれも勝利。国際NGO『国境なき記者団』(本部・パリ)が2014年、「世界のヒーロー100人」に日本人として唯一、選出。 |
- Digest
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- スラップは弁護士の役割が大きい
- 次にスラップをかけられたら弁護士を訴えます
- 武富士事件で300万円以上かかった
- 版元に筆者と同じレベルの責任を求める裁判所
- ナガセはフランチャイズのビジネスモデルを否定している
- 裁判所はネットに偏見を持っている
- 訴えてきたのはMyNewsJapanに影響力がある証拠
- 米国系ネット企業の低い「報道の自由」意識
- ユーチューブ・ツイッターとニフティ―の違い
スラップは弁護士の役割が大きい
――日弁連への申し入れは、どういう経緯だったんでしょうか?
スラップを3件やられた被害者としても、何とかしなきゃいけない、という問題意識は前からあったわけですが、「押し紙」問題で新聞販売店の代理人を務めている青木歳男弁護士(八女法律事務所)から、「ジャーナリスト側として、何か、早めに公のアクションを起こしてほしい」という申し入れを受けたんです。
中本和洋・日本弁護士会連合会会長宛の「スラップ問題対策チーム」設置に関する申入書 |
それで、三宅勝久さん、林克明さん、そして黒藪哲哉さんと僕の4人の連名で、申し入れることにしました。原文は黒藪さんが書いています。
――どうして日弁連に申し入れたのか。政治家に立法を促すロビー活動は考えないのか?
スラップは、弁護士の役割が大きいんです。そもそも、そういう案件を引き受ける奴が悪い。日本の場合、弁護士会は強制加入で、自ら「弁護士自治」を認めてくれ、と弁護士の独立性を主張しています。
だから、まずは弁護士会が責任をもって、スラップを引き受けた弁護士を、業務停止など何らかの形で処分するような「自治」を行うことで、スラップが起こらないようにせよ、ということです。
(※大渕愛子弁護士は、法テラスのルールを守らずに本来徴収してはいけない着手金を受け取ったとして2016年8月2日、東京弁護士会より、業務停止1ヵ月の懲戒処分となった。これは弁護士自治の一環である)
「訴えましょう、と経営者に言ってくる弁護士が悪いんです」(寺澤) |
――そもそも弁護士が政治家や経営者を焚き付けてスラップを起こすケースが多いそうですね。
それは、確実にあります。僕は3回訴えられていずれも勝っていますが(平沢勝栄事件、武富士事件、福田君事件)、武富士のときは、当時の代表取締役社長から直接、そういう話を聞きました。弁護士が「訴えましょう」と言ってくる、というんです。
――反スラップ法のような立法措置は必要ないでしょうか。そもそも裁判所がスラップ案件を受理しなければよいし、公共性の高い問題については報道の自由を強く認める立法措置を行うことで、訴えても勝てない(割に合わない)ように法改正したほうがよいと思うのですが。
米国では政治家が名誉棄損で裁判を起こすなんて、ほとんど聞かないでしょう。大統領選でもネガティブキャンペーンはすごくやりますが、裁判にはならない。政治家のような、公共性の高い権力者への報道の自由が強く保証されているから、訴えても勝てないんです。
日本も形式的には報道の自由があるけど、裁判所の運用がおかしい。積み重ねてきた判例で、「真実性・真実相当性」は、報道した側(メディアや記者)が立証しなければならない、となってしまった。
だから、裁判所の訴訟指揮が変わらなければいけない。具体的には、最高裁が訴訟指揮の方針を転換して、「真実性の立証責任は、訴えられた側にある」という判例を出すことによって、変えるしかないんです。
渡邉正裕・MyNewsJapan代表取締役(聞き手) |
――「報道した側に立証責任がある」という法の条文が存在するわけではなくて、判例でそうなっているだけだったのか。そうなると、新たな立法措置が行われない限り、最高裁が運用を自ら変えることは、ますます、なさそうですが。
法律自体を変えるのは難しいでしょうし、弁護士の立場として、たとえば「スラップを引き受けたら、いきなり検察が出てきて逮捕する」みたいな法律ができたら、それはそれで問題だというのも分かるので、まずは穏便に、弁護士会の自治として、内部でスラップ問題を解決できるのが一番よいだろう、ということです。
――弁護士会は、まじめに対応するでしょうか。
「SLAPPと知りながら着手金目当てで受任する弁護士の責任が重いんです」 |
今のところ、何も反応はありません。記者会見でも、NHKや朝日の記者は来ていましたが、報道されませんでした。大マスコミは、法務部が対応するから、切実感がないのでしょう。
報道されなかったので、マスコミや世間からのプレッシャーもかかりませんから、弁護士会は、まじめに検討しないかもしれません。
弁護士会が何もしなかったら、次は、弁護士個人を「SLAPPと知りながら着手金目当てで受任した」と、民事の損害賠償で訴えます。実際、損害が発生するんですから。
次にスラップをかけられたら弁護士を訴えます
――この申し入れは、弁護士個人を訴える伏線だということですね。
そうです。今度、僕がスラップをかけられたら、弁護士会への懲戒請求もしますが、併せて、その弁護士を直接、訴える。弁護士会が何もしないんだから、仕方がない。
都合が悪いことを書かれたら、書かれた側は、反論を載せてもらったほうが、本来は利益になるんです。広告と違って、記事中に載せられるわけですから説得力がある。
でも、今回のナガセもそうでしたが、反論の取材申し込みを受けつけず、反論の記事スペースを提供すると言っているのに、反論を出さずに、いきなり裁判になってしまう。
これはどうしてかというと、名誉棄損で訴えれば、弁護士が着手金を得られるからです。本来の弁護士は依頼人の利益を第一に考えるものですが
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「ユーチューブに警察の違法行為をアップしたら、削除予告の英語メールがきたので、『削除した瞬間にユーチューブを訴えます』と返信したらまだ閲覧可能となっています」
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“「スラップを引き受けたら、いきなり検察が出てきて逮捕する」みたいな法律ができたら、それはそれで問題だというのも分かるので、まずは穏便に弁護士会の自治として内部でスラップ問題を解決できるのが一番よい”
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読者コメント
>>(※大渕愛子弁護士は、法テラスのルールを守らずに本来徴収してはいけない着手金を受け取ったとして2016年8月2日、東京弁護士会より、業務停止1ヵ月の懲戒処分となった。これは弁護士自治の一環である
この件の損害賠償は、原告棄却。判事より弁護士会の方がまともな判断であった。
インタビューの写真にビールが写っており、インタビュイーも酔っているような赤い顔をしていますが、飲酒中の発言ですか?
日弁連の反応は何やこれはって感じ。メール拝受しましただけみたいな。まあ、無視している訳ではないという意味では前身か。一歩ずつ。日弁連は死刑制度廃止を訴えるとかセンスの無さが目立つので期待できないが・・
日弁連の答えはこちら
http://www.mynewsjapan.com/static/extrapictures/nichibenren0926.pdf
例えば、記者クラブで行われる『特落ち(資料配布における優越的立場を利用した報復行為)を利用したメディア・コントロール』を解消するには、メディア間で『特落ち互助協定』のようなものが必要なのではないでしょうか?そうすれば特落ちで資料が貰えないことがあったとしても、他のメディアから無償で提供してもらえるだろう。そして、特落ちを恐れずに報道できる環境になれば報道の自由度ランキングも改善されることでしょう。
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