ANA 総合職社員が教える「企業イメージと違うところ」――若手の給料が上がらない新人事制度、“昭和な社風にどっぷり染まれる人”向きのカルチャー…
15年間で総合職を4割も削減する人員計画(社内資料より) |
- Digest
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- 管理職の数を絞りたい経営側
- 分社したグループ会社に出向ばかり
- 抜擢人事が可能に
- 労組の役職に就くと出世する――人事のアメで御用組合化
- 管理職試験に通らないと1千万いかず頭打ち
- 社内だけでベタベタする「昭和」カルチャー
- 「飛行機乗り放題」が辞める障害になる
- 「体育会の主将」タイプは多い――採用基準
- 若いうちに1年海外研修へ
- 実働年1900時間未満を目指す
- 汐留の昼休み――高くて混雑なランチ事情
- 現場は圧倒的に女性過多な環境
2015年度の新制度運用から1年半。人事評価のサイクルも一回りしたところで、中堅総合職社員に、その実情と、外部からはうかがい知れないイメージと現場のギャップについて語ってもらった。
管理職の数を絞りたい経営側
ANAは、広報・広告宣伝は成功していると思います。企業イメージは爽やかで、ブランド力も強い。もともと旅行・航空業界全体の就職人気が高いのですが、そのなかでも特に高いです。
学情が2016年4月に発表した「2017年卒就職人気企業ランキング」では1位。調査対象は2017年3月卒業・修了予定の大学生・大学院生1万710名と大規模だ。(→『2017年卒就職人気企業ランキング、2位「JAL」- 1位は?』より) |
でも内実は、かなりドロドロした昭和的な体質で、社員が働く環境としては全く別だと感じていますので、ウチのカルチャーに合わない人はやめたほうがいいです。
私自身、合わないと思いつつ、ずるずると長期にわたって在籍してきた1人なので、その立場で、これから入社しようと思っている人に、事前に知っておくべきことを、お伝えしたいと思います。
まず、重要な待遇面について。人事処遇制度が大幅に変更され、2015年度から運用開始、2016年7月に新制度下で、はじめての人事評価(2016年3月までの1年間が対象)が下されました。評価は年1回で、マネージャーとの面談のなかで一方的なフィードバックは行われますが、反論したところで評価が変わることはありません。
新制度は一言でいうと、「昇格しにくくした」ということ。既に年功序列で昇格している年配の人たちは移行措置もあって給料が減りませんから、主に影響を受けるのは若い人です。20代から昇格しにくくすることで、総人件費をコントロールしたい、削減したいのです。なかでも、管理職の数を絞りたいんだろうな、と思いました。これまでは、ほとんど誰でも、選別なく管理職になっていましたから。
総合職の人数自体も、頭数の多いバブル期入社組(現在アラフィフ)以上が今後、定年退職しても不補充とすることで、自然減させる計画です。2029年までの15年間で約4割(2000人)も減らす、ということです。
分社したグループ会社に出向ばかり
パイロットの次に給料が高いのが総合職なので、そこをスリム化し、業務は人件費の安いグループ会社(2015年にANA Cargoを分社化、2016年10月に「ANA X」を設立しマーケティング事業を分社化、など)に移していくことで、グループ全体のコストは確かに削減されます。現状だと、ルーティンワークの単純作業まで総合職がやっていて無駄が多いと、私自身も感じています。
ANAが進める「エアライン人材開発プログラム」の全体スケジュール |
分社、分社、分社で、グループ会社にどんどん業務を移管し、オペレーションは分社で採用した人件費が安い人にやらせる。そこに、管理者として全日本空輸から社員を出向させる。従来は本体がやっていた仕事を分社に担わせ、総合職はマネジメント的な業務に特化していく。15年後に4割減らせるのはそのためです。
従って、全日空で採用されても、いわゆる本体で働くチャンスは、かなり少なくて、出向ばかりだと思ってください。全日空の総合職は、出向先のグループ会社においてリーダー的役割を求められます。人材の質が本体とは異なるため、やりにくいと感じることは多いです。
情報システムなら「ANAシステムズ」、エアチケットや旅行商品販売なら「ANAセールス」、空港のオペレーションなら「ANAエアポートサービス」…といった、ANAホールディングス傘下の子会社に出向となります。
オフィスの効率化も進めていて、汐留シティセンターにある本社オフィスは、以前は33階~40階までをANAグループが占めていたのですが、コスト削減で2014年4月にANAセールスを日本橋の新築ビル(フロントプレイス日本橋1~6階)に移して、37階~40階までとなりました。
抜擢人事が可能に
昇格しにくくする上に人数も減らすとなるとモチベーションが下がるので、会社の説明によると、「メリハリをつける」。つまり、早期の抜擢も行うことによって、一部の人は従来よりも早い時期に昇格させる、と言っています。
つまり、制度上は、飛び級が解禁された、ということです。旧制度では、年功序列で「最速でも入社13年目からしか管理職になれない」といったように、各ランクでの最低経験年数が決まっていました。この管理職登用を短縮可能とし、11~12年目の30代前半で管理職になれるようにしました。
実際にどのように運用されるのかは、まだわかりません。人事部出身者を第一号の飛び級管理職にしようとして内定はしていたものの結局、実現には至らなかった、という話は聞きましたが、それ以外で、飛び級管理職はまだ出ていないと思います。マーケなど対顧客部門ではなく、人事部が出世コースで、人事出身者が抜擢されるのも、ウチらしいところです。
労組の役職に就くと出世する――人事のアメで御用組合化
全体として、バブル期以前の入社組に「勝ち逃げ」を許し、若手社員ほど少人数化で1人あたりの責任は重くなって同年代での格差が広がり多くの人の生涯賃金は下がる、という変更となりました。大半の若手社員にとっては昇格しにくくなるので、損な制度変更ですが、どうして簡単に決まってしまうのかというと、労組が御用組合だからです。
総合職は、若い段階から、労組活動に組み込まれます。これは強制的なものです。「支部委員会」の会議に、30才前後までの若手だと、週に1回は参加しなければいけません。たとえば、木曜19時から、本部の活動報告を聞きます。一応意見の集約はされるのですが、ここで会社の意向に沿わない主張を行うことは一切許されず、会社の提案を全て承認することが求められます。
組合活動で、会社の意向に沿ったことを頑張ると、希望通りに海外研修に行けるなど、ご褒美があります。また、組合の専従職員になると
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読者コメント
昭和の社風が良いとは限らないけど、平成の社風が良いとも限りませんね。気付いたら労働者が貧しくなっていただけとか
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