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「1日14時間労働、1か月間休みナシの校舎が今もあります」――今年も新人3人が倒れた東進ハイスクール、“人材破壊企業”ナガセに潰される若手社員たち

情報提供
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社員1人あたり生徒数の校舎別ランキング(上位と下位20校ずつ)。全93校分については記事末尾に掲載。
「オマエらは、乞食だ!赤字なのに、給料だけ貰ってるじゃないか!」――。2018年7月4日(水)の『全社研修会』で、檀上の永瀬昭幸社長は、いつになくヒートアップしていた。社員が社長のマネをするときは「丁寧な口調で激しく話す」のがコツだというが、熱量が上がると本性を現し、定期的にガラの悪い言葉を次々と吐く。この日は、90校あまりの東進ハイスクール全校舎の個別損益状況を示した一覧表を見せながら、赤字校の校舎長だけ数十名ほどの氏名を、名指しで読み上げ、全社員の前で吊るし上げた。だが、現場は不可能なほどの少人数体制で疲弊している。校舎勤務の若手社員は「人財育成どころか、人材を破壊する会社なのではないか」と語る。
Digest
  • 赤字校舎長の氏名を読み上げ、つるし上げ
  • 河合塾『アドバイスタイム』を丸パクり
  • 異常な長時間勤務
  • ①教育サービスの実施(教務)
  • ②営業活動(募集)
  • ③本部への報告、報告、報告…
  • 全方位的に気を遣う調整業務
  • 「休日出勤分は打刻するな」と命令される
  • 新入が早くも3人倒れた――人格否定のパワハラ、鬱で療養…
  • 45時間超が見込まれる場合の、事前の労使協議のやり方
  • 労働時間

赤字校舎長の氏名を読み上げ、つるし上げ

東進グループの『全社研修会』は、毎月上旬、新宿・京王プラザホテル5階『エミネンスホール』で開催される。四谷大塚、早稲田塾の社員らも含め、約500人が参加するナガセの重要イベントだ。

ある月の席順表。募集成績(新年度入学)が高い順に前から並べている。

席順まで事前に詳細に決められ、ブロック(第1~第15)の成績がよい順に前方から配置するなど、信賞必罰が露骨である。

『東進』は営業偏重のグループで、永瀬社長は、様々な指標で社員や校舎をランキングし発表するのが大好きだ。「在籍状況」「入金POS予算達成状況」「向上得点マラソン」「招待講習動員・入学状況」…。

この日の永瀬は、赤字校舎から黒字校舎まで、校舎を業績のよい順に並べた一覧表を『パワーポイント』で見せながら、赤字校だけについて「〇〇校の校舎長・××××」というように1人1人の名前を読み上げ、「経営計画を作って、黒字化しろ。夏期募集を頑張れよ」などと檄を飛ばした。

「成績不振の校舎長向けの研修が1泊2日の徹夜コースであって、自分の悪かったところを大声で言わせたり、もしています。対象は、下から10校舎くらい。継続契約獲得の時期(11月)と年度末締め(3月)のあとに招集されます」(若手社員)。詰めるカルチャーで有名な野村証券出身の永瀬らしい追い込みかたである。

ワタミ渡邉美樹やユニクロ柳井正がそうであるように、ナガセ永瀬昭幸も、個別店舗の店長(校舎長)に対し、「経営者」たることを、口グセのように求める。だがその実は、ガチガチに管理が厳しく、本来の経営者らしい裁量権は与えられない。ひたすら本部へ報告、報告、報告、そして数字が達成できなければ指導、指導、指導の日々で、足りない分はサービス残業で補うほかなくなる。この二面性は、ブラック企業の特徴の1つである。

新校舎長は、全社研修会で全社員の前で任命される

「全社研修会では、新任の校舎長が皆の前で任命されます。その発表を受けて、決まりきったフレーズで新校舎長が応えることになっているのですが、『社長の代理人として頑張ります!』と宣言させられるんです。

社員個人は、社長からみて1つの駒に過ぎず、人間として大事にされてないんだな、と思いました」(若手社員)

社長の分身、いわば拡張機能の1つになり切ることが求められるわけだ。人間らしい個性や人権を制限し、金太郎飴のように、永瀬社長の「代理人」になりきらなければならない。

人間をモノ扱いするかのような発想が、ブラック企業らしい。永瀬を神のように崇められればよいのだろうが、社員を乞食よばわりして公開パワハラを繰り返すリーダーに心酔できるマゾ人間もそういないだろう。

河合塾『アドバイスタイム』を丸パクり

この「全社研修会」はナガセ社員が参加する会議であるが、別途、FC企業が経営する衛星予備校の社員が参加する会議がある。FCは全国1,025校もあり、直営校(96校)の10倍規模とあって、そのロイヤリティー収入は重要な収益の源泉となっている(いずれも2018年3月期)。

『第23回東進衛星予備校全国大会』の様子

FC社員は、年7回(県別研修×4、エリアごとの特別研修×2、全国大会×1)の会議への参加が求められ、永瀬社長が『特別研修』と『全国大会』に参加する。

今年(2018年)5月に開かれた『東進衛星予備校全国大会』では、直営校の社員にも影響が大きい方針が、突然、打ち出された。

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河合塾マナビスの『アドバイスタイム』

「河合塾マナビスの『アドバイスタイム』にあやかり、東進でも、トップダウンで導入することになったんです。

名称をそのまま使うのもビジネスマン・教育者としていかがなものかと思いますが、これは本当に現場無視の施策です。毎日、生徒1人あたり5分ほど時間を取って、全員にアドバイスせよ、というのですから…。

実施状況の本部への報告も求められています」(若手社員)

別の若手社員によると、東進と同じ映像授業を展開する他社に対しては、『代ゼミサテライン』は既に競合として見ていないため対象外だが、『河合塾マナビス』への潜入調査は定期的に実施されており、バイトがダミーで入って、どのような売り文句で説明を受け、どのような授業内容なのか等が、本部にレポートされているという。おそらく『アドバイスタイム』の評判がよかったため、競合の強みを打ち消したいのだろう。

さっそく、公式ブログでもアナウンスされている(渋谷駅西口校「アドバイスタイムが始まります!」7月2日、吉祥寺校「アドバイスタイム、知ってますか?」6月9日)。

よいサービスをマネするのは理解できることではあるが、なにが「現場無視」なのかというと、ただでさえ人員不足で回っていない校舎の業務量が、一方的に追加され、さらに回らなくなってしまうからだ。

■社員1人あたり生徒数=平均65人

東進ハイスクールは、全体の8割の校舎を、1人または2人の社員だけで回している。2017年受験のシーズンでは、高3生に対して社員が校舎長1人だけ、という校舎が32校。2人体制が43校。浪人向けコースとの掛け持ち含め3人以上の社員がいるのは、大宮、池袋、藤沢など18校舎だけ。

全体平均では、1校舎あたり、平均で社員が1.8人しかいない(※校舎別詳細は末尾ファイル参照。0.5人単位となっているのは、「本科」と呼ぶ浪人生を対象とするコースを持つ校舎が10校ほどあり、そちらと掛け持ちの人がいるため)。

高校3年生11,171人に対し、社員170.5人。冒頭画像のとおり、社員1人あたり100人超になる校舎から、40人未満の校舎まであり、社員1人あたり生徒数は、平均で65.5人。つまり1人校舎では、概ね65人が在籍し、東進は「毎日登校、毎日受講」を奨励しているから、それだけの生徒を毎日、管理しなければならない。

■社員1人あたり売上=5210万円で、本当に赤字なのか

冒頭の「赤字校舎」云々も、データをもとに検証してみよう(右下画像参照=学年別・校舎別の年間売上高一覧)。高3生は、年度末に9,691人となり、高3生の売上高は2017年3月期、88億8,333万円で着地している(昨対99.6%とほぼ前年並みで、現在もそう大差ないはずだ)。高3の生徒1人あたり売上高は、91万6千円にもなる(途中で抜けた生徒の数が分母に含まれていないため、実際の1人あたり支払額はもう少し低い)。

社員170.5人で割ると、5,2g10万円/1人。1人校舎で試算すると、売上5千万に対し、ナガセ全体の経常利益率は10.2%なので、総コストを4千5百万以内に抑えれば十分に優秀だ(FCのほうで、もっと儲かる)。

東進ハイスクール校舎を運営しているのは若い社員である。社員給与は入社3年目なら年収450万円程度だが、1人校舎長手当が15万×12=年180万円(担任助手との飲み食いに消える)、家賃補助が上限7万×12=年84万。法定福利(年金・保険)や退職金を入れて計800万円といったところだ。担任助手の年収はせいぜい100万円程度で、1人校舎だと少し多めに10人は雇うとして1千万円。人にかかるコストは年2千万円未満に収まる。

テナント賃料は、最大100人が入るような会議室、ブース、個人面談スペースを備えた駅前物件で、都内だと月120万円くらい(大井町校で1.5万×85坪=127万円)。年1500万円。大きな固定費はこれくらいである。

あとは、莫大な広告宣伝費(売上の11%にもなる)や、林修ら講師への莫大な支払いをはじめとするコンテンツ制作費、本部の管理部門経費や上層部の高い給料などを校舎にどう賦課するか次第。永瀬社長がよほど放漫経営をしない限り、そうそう赤字にならないくらいには、校舎の社員たちは十分に頑張って稼いでいる。

そもそも、責任をとれる正社員が校舎長1人だけの体制で「毎日登校 毎日受講」を標語に掲げるため、週休2日など実質不可能であり、ブラック労働環境が確定する。労組もないため、永瀬のやりたい放題だ。なぜ労基署がこの違法な人員体制を許しているのかが不思議である。

 これだけ働かされた揚げ句、赤字だ・乞食だ、と罵るのなら、永瀬社長は、説得力のある内訳を、現場に対して、しっかり開示すべきだろう。

「うちの校舎でいうと、毎日、60人に対して、1人5分ずつなんて、とれるわけないんです。5×60=300分、つまり5時間。毎日5時間の追加業務が、突然、降ってきたんですよ、社長の一言で。数人の担任助手(バイト)と手分けしても、絶対に無理。残業代分の予算が本部から降ってくるわけでもないのに、業務だけは強制的に降ってくるなんておかしい」(若手社員)

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東進ハイスクール本部の2017年3月期売上高(第二エリア内校舎別、学年別)。昨対割れを示す赤字が目立つ。

社員とバイトの平均時給が2,000円として、2,000×5時間=1万円。1万円×30日=30万円。全国で直営90校として、約2千7百万円/月。年およそ3億円。

本部がこの支出を覚悟しない限り、校舎別損益は人件費増加分が短期的に赤字要因となるが、永瀬社長は基本的な小学生レベルの算数ができない。気合で乗り切れ、とにかく黒字化しろ、と、ただの無謀な精神論で追い込むばかりだ。

現場に不可能を押し付け不正を発生させる構図が、東芝の粉飾決算を招いた「チャレンジ」や、商工中金の「不正融資」とそっくりである。

このように、ひたすら業務だけは強制され、本部への報告を求められ、赤字になったら校舎長が吊るし上げにあうのでは、現場はやってられない。

異常な長時間勤務

東進ハイスクールの校舎の営業時間は、定時が11:30~22:00。本科(浪人生部門)設置校は、8:30~22:00と、3時間早く始まる。労働時間は、規定では9時間拘束の休憩1時間で、実働8時間、シフト制。だがこれは、建前に過ぎないという。実際の運用はどうなのか。

「実態としては、始業から終業まで業務をしている社員ばかりです。私が知る限り、8:30~22:00過ぎまで約14時間労働で、さらに、22:00で終わる業務量ではないので、23:30頃にやっと帰宅、という社員も

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校門配布は4205枚で全校1位達成、入学数も1位達成(2016年4月全社研修会より)

全社研修会で示される、メール等の問合せ310件から入学153件までの模範的な流れ(2017年4月全社研修会より)。

今井宏講師の、ある特別公開授業(2017年)をめぐって動員で失敗した件に関する、担当社員の反省文

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2018/08/02 21:45
2018/07/30 12:35
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記者からの追加情報

金融出身者の上層部に関して、現在の肩書について間違いが発見されました。堀口桂介の役職は副部長ではなく「副本部長」でした。お詫びして訂正いたします。(2018年8月2日、本文訂正済み)
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