“昭和の化石企業”ニコン① 8か月で未払い残業代765時間!元社員が語るワークライフバランスの嘘と〝労働犯罪〟の現場
「データの乖離は、全てDMM英会話の自己研鑽時間にさせられました」
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| 予算10億円カットのため、平均11時間(20人で計210時間)未満に残業が規制され、月50時間分ものカットになった者が続出した |
「入社して、『騙された!』と思いました。ホワイト寄りの会社だと聞いていたからです。実際は、開示している『平均残業23時間/月』どころか、僕の場合で月平均149時間残業というブラックな職場で、1年あまりでメンタルを病んで短期離職に追い込まれました」――そう話すのは、2023年にソニーからニコンに転職して、2019年に犯罪化されたばかりの労基法基準をゆうに超える殺人的な長時間労働を課され続けた元社員Aさん(40代・男性)だ。背景には、パワハラ恐怖支配で部下を潰して自らの手柄にしていく〝クラッシャー上司〟を部長・本部長に出世させてしまうニコンのガバナンス崩壊、頭ごなしに業務量だけ部下に押し付ける〝昭和の根性論に基づくカルチャー〟があったという。
- Digest
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- ロシアンルーレット企業「就活サイトの文言を信じて入社を決めたのですが」
- 10日前まで元気だった40代半ば社員の突然死を隠ぺい
- 開発費を10億円下げろ、残業代を切れ
- 半年~1年の開発を「3ヶ月でやれ」
Aさんの実体験を、証拠をもとにじっくり聞いた。
ニコンは世間的にはホワイトっぽい顔をしているが、部署によるバラツキが大きく、会社として労働環境を標準化する機能は存在しない。本部という大きな組織で労働犯罪が野放しとなり、1年超にわたって違法な職場環境が放置され続けた。いわば『ガバナンスが機能していない状態』で、経営陣による安全配慮義務違反は深刻だ。
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| ニコン営業損益推移 |
これが3期連続の減益で過去最悪の赤字(2026年3月期)に転落する背景の1つにもなっている。ニコンの次世代の事業を担うべき部門で人材流出が激しく、Aさんが氏名を把握するだけでも、この数年で14人が離職したという。企業の礎となる「人垣」がガタガタと崩れた状態で、新事業が育つはずもない。つまり、次世代はもっと悪化してしまうリスクが高まっている。
【労基法の強化】
ブラック企業が蔓延するなか、2019年施行の働き方改革関連法改正により、それまで無制限に可能だった残業時間に歯止めがかかり、刑事罰付きの「犯罪化」が行われた(6か月以下の懲役または30万円以下の罰金)。悪質な事例では逮捕できる。以下が「明確な線引き」である。長時間労働は、36協定で特別条項を結んでも、以下の絶対時間を超えたら労基法違反の犯罪となる。
《年:720時間、月:100時間未満(休日労働含む)、2〜6か月平均:80時間以内(休日労働含む)、月45時間超:年6回まで》
Aさんは異常な仕事の振られ方に気づき、入社半年後から業務用PCの起動~終了データや労務データをダウンロードして記録するようになった。以下が、Aさんが体調を崩して辞める直前8か月間の、残業時間内訳だ。未払い分だけで、実に765時間にのぼる。この職場環境は、Aさんだけが狙い撃ちされたわけではなく、本部全体に蔓延していたという。
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ロシアンルーレット企業「就活サイトの文言を信じて入社を決めたのですが、、、」
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Aさんが在籍していたことを証明する源泉徴収票(2023年分=在籍11か月分)![]() |
「私が在籍していた『次世代プロジェクト本部』(次プロ)は、斜陽のカメラや半導体露光装置に代わる、新たなニコンの新事業を作るために先行投資する部署でしたから、既存の事業部に比べ、パワハラやブラックな労働環境が特に蔓延しやすかった、と思います」(Aさん、以下同)
いわば“地雷部門”だったわけだが、入社前に労働犯罪に遭う部署か否かを知る術はなく、特に新入社員はロシアンルーレット的に、確実に一定数が配属され、被害に遭ってしまう。
以下は、新卒入社して次世代プロジェクト本部に配属となり、当時まだ入社2年目だった総合職エンジニアBさん(女性)の『業務週報』(2022年6月24日)内に記された『ひとこと』コメントだ。Aさんと同じプロジェクトに、Aさんが入社する前から配属されていた人物である。
次プロでは、10ページ程度の業務週報をパワーポイントで作成し、毎週、共有フォルダにファイルをアップして関係者間で共有することで、進捗管理していた。その一部のコーナーである。
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「皆さんが口をそろえて言うのが、次プロはブラック。ニコンは日本屈指のホワイト企業という就活サイトの文言を信じて入社を決めたのですが、、、」
そして、心の声を示す画像まで添えられていた。若手社員による、精一杯のアラートだろう。
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この新卒女性社員Bさんは、変わらぬブラック体質に見切りをつけて昨年、会社を去ったという。
Aさんが、ニコンの異常な労働環境に疑問を持ち、同じ本部所属の社員たちの業務週報をチェックすると、このBさん以外にも、近況や所感等を記載するコメント欄に、ニコンによる労働犯罪の疑いが次々と見つかった。本部長や部長をはじめ社内で共有されるため、公益通報の一種であり、記載するには勇気がいる。本音を表している、と言ってよい。2022年2月18日のCさん(30代・男性開発者)の業務週報には、悲鳴にも似た、以下の記載があった。
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「これ以上睡眠時間削ると、またどこかで倒れそうで、、、 勘弁してください、、 昨年の10月あたりから土日も作業し続けているのでもう無理です、、」
あえてアラートの意味を込めて白抜きの赤色背景にしている点、そして睡眠時間が少なすぎるためか、誤植まで発生している点が、実にリアルだ。
「誤植も含め、Cさんご本人に直接、経緯を確認しました。Cさんは土日を含めた連日作業を強いられた結果、過重労働により体調不良が発生。産業医と面談した際には、『自分は限界であるため退職するが、残されたメンバーも同様に心身を損なう可能性があるためケアをお願いしたい』とメールで伝え、退職しました。上司である佐藤真路課長(2024年1月に部長に昇格)に異常な労働実態を報告し、相談すると、『辞めたいなら辞めていいよ』という趣旨の発言があったそうです」
Cさんは、2021年入社の中途採用組だったが、犯罪的な労働環境のもと1年で限界となり、体調不良のすえ、使い捨てられるように会社を去った。そして、使い捨てた側、すなわち犯罪容疑者側を、ニコンは出世させた。これがニコンのコンプライアンス実態である。
その翌年入社したAさんは同本部の同プロジェクトに配属となり、同様の被害に遭ってメンタルを病み、同じく1年余りで退職した。マネジメントが最低限の労務管理責任を放棄した組織では、負の連鎖が続いていく。
これら真っ当な声を挙げた者たちは、ことごとく無視されるどころか、逆に呼び出しをくらって、「お前のやっていることは体制批判」「邪魔やねん」と粛清されていった(→詳細は『②パワハラ編』参照)。
これからニコンに入社する者は、この新卒20代女性開発者Bさんや30代男性開発者Cさん、そして40代のAさんのように、新卒の若手から中途の中堅まで、あらゆる層で、常に地雷を踏まされる『死の行軍』に配属となるリスクを負う。ニコンは未だAさん1人に対してすら、違法な長時間労働の実態を認めず、反省も謝罪もしていないからだ。
10日前まで元気だった40代半ば社員の突然死を隠ぺい
上記Cさんが辞めた前年には、同じ職場のプロジェクトメンバー(Dさん=40代開発者、ニコン正社員)が突然、消えるように亡くなった。
いったいどの程度の人たちが、ブラック職場に耐えきれず、職場から消えていったのか。
「次プロは2023年当時、おおむね200人程度の体制で、正社員は120〜150人程度。そのうち氏名まで把握できていて直近までに退職した正社員は、私を含め14人にのぼり、中途入社組が1~2年で辞めるパターンが特に目立ちます。それ以外にも直接、存じ上げないかたも多く、退職挨拶メールなどから数えると、計20~30人が直近の数年で退職していると思います」
辞めた人は、Aさんを含め、年齢やキャリアの市場価値として「転職できる人」が多い。病んだ状態で在籍している者は、労働環境がホワイトなら活躍できるはずが、飼い殺しにされている。
「50代で転職先がないなどの理由から、辞められない事情がある人は、降格を申し出て給料を下げて負担を減らしたり、メンタルを病んで休職する者もいました。私が入社する2年前に40代社員が不自然に突然、亡くなった、という事件も聞きました」
およそ3年で2割に及ぶ離職率は、このクラスの大手製造業にしてはかなり高い。それも、前向きなステップアップではなく、クラッシャー上司による“死の行軍”に耐えかね、疲弊し、逃げるように辞めていくケースがほとんどだという。
命を落としたDさん(40代)については、なんと同じプロジェクトのメンバーにすら死因が明かされず、緘口令が敷かれるという異常事態で、裏があると考えざるをえない。2001年東工大院卒でニコンに新卒入社した、男性開発者だった。
「Dさんが2021年4月に突然、亡くなった件は、同僚から聞きました。Dさんは、次プロの最重要プロジェクトで、後に私も参画することになる『REプロジェクト*』に光学本部から参画していて、レーザー加工装置V2の光学系を担当されていたそうです。亡くなる10日ほど前の定例会にもDさんは参加しており、突然の死に対して、同じ部署のメンバーが佐藤真路課長(当時)に理由を尋ねても、死因など一切知らされることはなく、『この件は定例会とかであまり話題に出さなくていいから』と言われ、緘口令のようなものを感じたそうです。Dさんは当時、タスクが予定より遅れていたため、精神的に追い込んでしまったのでは――と悔やむ声を同僚から聞きました」
*RE(Ruling Engine)プロジェクト=リブレット(溝)加工用レーザー装置の開発を主目的とした開発計画。名称はニコンの至宝である超精密回折格子技術(Ruling Engine)に由来。航空機やプロペラ表面に微細な溝(リブレット)を施し、流体抵抗を低減。燃費向上やCO2削減を実現し、世界的な脱炭素化(グリーン・トランスフォーメーション)への貢献をミッションとした。正社員20人程度+外部10人程度の、総勢30人程度で開発にあたった。第二開発部第二開発課がソフト開発を担当し、第一開発部第二開発課がハード開発を担当(システム設計、メカ設計)。
長年の持病があったという話も聞いておらず、突然の死だったことは、間違いなかったという。交通事故かもしれないが、であるならば同じチームの同僚に隠す必要性が全くないので、不自然きわまりない。ブラック企業でよくみる、典型的な『隠ぺい』パターンだ。長時間労働やパワハラが原因だった可能性が高いが、 “同僚の社員にすら知られたら不都合な事実”を隠ぺいするカルチャーがニコンに染みついていることがわかる。『ザ・昭和のJTC(Japanese Traditional Company)』の闇である。
開発費を10億円下げろ、残業代を切れ
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採用内定通知書(P5グレード)。残業代は「30時間」で計算されている。ソニーから生活面重視で、給料を下げての転職だった。![]() |
こうした疲弊した職場であることを一切、知ることもないまま、Aさんはニコンに入社した。理由は、慣れ親しんだ地元から近い場所にニコン熊谷事業所(埼玉県熊谷市)があり、そこに次世代プロジェクト本部が置かれ、スキルを活かせそうなポジションがあったこと、そして、ワークライフバランスを考えてのことだった。したがってエージェントも使わず、公式サイトからニコンの中途採用に応募し、事業所指定でポジションを探した。
前職のソニーグループに比べれば年収は若干下がるが、通勤時間は大幅に減るため、オファーを受けいれた(左記・内定通知書参照)。残業時間は目安として「月30時間」と記載されていた。
ニコンは、カメラ業界ではキヤノンとソニーに次ぐシェア3位で、年収水準も3位だが、メーカー全般のなかでは高水準だ。カメラは自動車以上に日本が世界市場で存在感を保ち続けている市場で、日本メーカーのシェアは90%を超える。つまり、ニコンは世界3位のカメラメーカーである。
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ニコン『柔軟な働き方』(公式採用サイト)![]() |
3位でも選ばれる会社になるためか、ニコンは『ワークライフバランス』や『柔軟な働き方』を盛んにアピールしている。公式サイトでは「コアタイムのないスーパーフレックスタイム勤務制度」「在宅勤務制度」を紹介。これを見せられたあとで、入社してみたら実際には月平均149時間の残業があり、8か月で765時間もの未払い残業代、つまりタダ働きさせられたのだから、Aさんのギャップの大きさと絶望は、相当なものだった。
「リモートワーク(在宅勤務)が週2日まで可能なのは事実で、
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ニコンのキャリアパスと報酬水準

残業時間の月別内訳

2024年1月の『勤務実績表』。PCの稼働実績と支払われた残業代との乖離時間がわかる。特に休日の労働時間が大きい。

Aさん(P5)の給与明細。2024年1月分の支払われた残業時間がわかる。上記『勤務実績表』と突き合せると、この月は別途「101時間」もタダ働きになっていることがわかる。

P5(課長代理クラス)冬の賞与。むしろ半年分の無賃残業代(約570時間)のほうが多い。

実際のDMM英会話受講記録。1回25分。年間で計61時間の受講記録がある。8か月で割ると7.7時間(より正確には、12ヶ月で割ると月5時間)。






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