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「東進」ナガセは、ワタミ・ゼンショー・ドンキを上回るブラックな対応でした――就活生への「若者雇用促進法」に基づく情報開示で、離職率等を隠匿

情報提供
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5社の対応と開示の有無一覧。新卒3年以内離職率を開示したドンキ、ワタミ、ゼンショーの3社と、努力義務を果たさなかったナガセ、ファストリで、「対応格差」は歴然としていた。
 いわゆるブラック企業の疑いが強い5社に対して、就活生が「若者雇用促進法」にもとづき職場情報の開示請求をしたところ、ドンキはいち早くメールで、ワタミは電話で、ゼンショーも対面で、いずれも全開示と、意外にもホワイトぶりを見せた。この3社は、ブラック批判を受け改善に努めている様子が伝わり、好印象を持った。一方、ユニクロを展開するファーストリテイリングは、不自然なほど社内確認に時間をかけ、結局こちらの質問項目には答えず隠ぺい体質を見せた。最悪な対応だったのがナガセで、情報開示制度が3月1日付で施行されているにも関わらず、3月半ばを過ぎても「準備中」と答えるなど法令順守の意志すら見せず。結局、求めた情報は全く出さず、ブラックな対応に終始した。この2社は、法令が定める努力義務に対して全く「努力」を見せず、新たな情報は何一つ開示しなかった。離職率などを隠したまま若者を騙して入社させ、過酷な労働で使い捨てていくつもりだろうか?ナガセとユニクロのコンプライアンス意識の欠落ぶり、そして若者雇用促進法の問題点について報告する。
Digest
  • ブラック企業対策に役立つはずの「若者雇用促進法」
  • 最大限の誠意見せたドンキ、ワタミ、ゼンショー
  • 「準備中」の一点張り、情報開示せず…呆れたナガセのコンプラ意識
  • ナガセよりはマシなファストリ…社内確認に長時間、出てきたモノは雀の涙
  • 本社で1時間以上の熱血説明…偉いぞ!ゼンショーの全面開示
  • 電話で人事担当者が真摯に対応…偉いぞ!ワタミの全面開示
  • 問い合わせ当日に迅速な回答…偉いぞ!ドンキの全面開示
  • 就活生の質問に答えなくてもOK…悪質企業に逃げ道を残している厚労省
  • 厚かましきダンマリ企業、正直企業がバカを見る仕組み

ブラック企業対策に役立つはずの「若者雇用促進法」

就職活動中の学生が企業の職場環境を正確に知るのは容易ではない。説明会やOB訪問で語られるのは、耳ざわりの良い言葉ばかりだ。入社後に初めて実態を知り、キャリアチェンジに四苦八苦したり、いわゆるブラック企業であることがわかって数年持たずに病に倒れ離職を余儀なくされた、という話は枚挙に暇がない。

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開示請求の手順と、開示請求できる情報の項目一覧(厚労省HPより)。三類系について、それぞれ一つ以上の任意の情報を開示すれば義務を果たしたことになるなど、企業に逃げ道を残した。どの情報を開示するかは、何と企業側に決定権がある。就活生の知る権利は無視されており、これでは意味がない。

こうしたミスマッチを解消する一助とするため、2016年3月1日からスタートしたのが「若者雇用促進法」に基づく情報開示請求制度である(詳細は記事後半参照)。就活生がこの制度を利用すれば、離職率や月平均の残業時間など、企業がこれまで開示していなかった情報を知ることができる。ただ、開示義務は「努力義務」で、罰則規定もないため、企業側がどこまで情報提供に応じるかは不透明。

逆に言えば、あくまで努力義務とはいえ、監督官庁から“幅広い情報提供”が呼び掛けられている以上、法の趣旨に則って、就活生からの情報開示請求に最大限応じるよう努力すべきであることは言うまでもない。若者雇用促進法に基づく情報開示請求にどう応じるかは、企業のコンプライアンス(法令順守)意識を図る、一つの指標になるのではないか。

法令の趣旨に反して「努力」せず、情報開示に積極的に応じないのならば、それ自体がコンプラ意識の低さを示すものであるし、何より「職場情報を開示すると採用活動で不利になるほどに実態の数字が悪い」と強く推測できる。すなわち、その企業の対応状況によって、ブラック企業であるか否かが如実に判定できる、ということだ。

その意味においては、就活生の職場選びに資する法律とも考えられる。そう考えた私は、現在進行形の就職活動の一環として、五社を対象に、若者雇用促進法に基づく情報開示請求を実際にしてみた。そこで直面したのは、厳然たる“対応格差”だった。

請求先の企業は以下の通り。既にマスコミ報道で過酷な労働実態が明らかになっている有名ブラック企業や、実際にMyNewsJapanの取材とその後の対応によってブラック企業の疑いが強い5社を選んだ。いずれも、高い説明責任を負う、公共性の高い上場企業ばかりである。

ワタミ=2008年、新卒女子社員の過労死事件が発生。その後、遺族による訴訟で全面的に企業側が責任を認め、賠償金1億3365万円と再発防止策で和解。労働環境改善を約束。

ゼンショー=2013年、サービス残業や深夜のワンオペが問題となり『すき家』の一時閉店が続出。労働環境改善に関する第三者委員会の調査で「時間外労働月100時間以上の社員数」が55.3%と判明。改善を約束。

ドンキ=2016年1月、従業員に違法な長時間労働をさせたとして、東京労働局が、労基法違反容疑で同社と支社長ら8人を東京地検に書類送検。過去に41件の是正勧告を無視。最長415時間45分の時間外労働をさせていた。

ファーストリテイリング=サービス残業や長時間労働など過酷な労働実態を報告した書籍『ユニクロ帝国の光と影』に対し、日韓で出版差し止め訴訟まで起こしたが、全面敗訴。現場から被害者の悲痛な報告が続々

ナガセ東進衛星予備校の新入社員が、ブラック労働を強いられ病に倒れ、公務員として社会復帰するまでを報道したところ、記事の削除を求め、取材拒否のうえで3千万円もの高額な損害賠償を請求して提訴。有名ブラック企業である武富士と手口が酷似しており、裁判制度の歪みを悪用したSLAPPである可能性が高い。

今回、開示を要求した項目は、以下の通り。いずれも「若者雇用促進法」に例示されている内容で、企業は開示する努力を求められている。

・過去3年間の新卒採用者数・離職者数
・新卒3年以内の離職率
・平均勤続年数
・キャリアアップや語学研修の有無と詳細
・前年度の有給休暇の平均取得日数
・前年度の月平均所定外労働時間の実績
・前年度の育児休業取得対象者数・取得者数(男女別)

はたして、各社の対応の仕方と提供情報の格差は、予想以上に大きなものであった。

最大限の誠意見せたドンキ、ワタミ、ゼンショー

これらの質問項目に対して、可能な限り努力し、迅速に即日、ほぼすべてについて回答した会社がドン・キホーテであった。こちらから開示請求メールを送った当日に、メールによる迅速な書面回答を寄せた。即日の広範な情報開示は、法の趣旨に則っており、就活生にとってもっともありがたいものであった(内容は後述)。

ワタミも、人事担当者がすぐに電話をかけ直してきた。全面的な情報提供だけでなく、過労死事件についての反省や、現在抱えている職場環境の問題についても語ってくれ、反省している様子が強く伝わった(内容は後述)。

2013年にアルバイトの過重労働問題が世間を賑わせた「すき屋」を展開する外食大手のゼンショーホールディングスは、本社で、人事担当者2名が1時間以上にわたって説明してくれ、こちらの質問項目に対して、ほぼすべてに回答した(内容は後述)。

上記3社からは、一度は問題を起こして世間を騒がせてしまっただけに、コンプライアンスの立て直しと職場環境の改善に日々取り組み、就活生の不安に真摯に向き合っていこうとする姿勢が、はっきりと伝わってきた。

しかし、こうした常識的な対応をする企業がある一方で、あまりに露骨な隠ぺい体質を見せたのが、ファストリとナガセだった。なかでもナガセの対応は最悪で、労働環境に関するコンプラ意識の低さが際立った。その意味では、就活生からみて「ブラック・オブ・ブラック企業」と言える。以下、ワースト順に対応と開示内容を詳細に報告していく。

「準備中」の一点張り、情報開示せず…呆れたナガセのコンプラ意識

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ナガセの採用HP。「準備中なので、四季報と採用サイト見て」――離職者数や有休取得日数など、こちらが知りたい数字は、何一つ知らせてこなかった。努力義務を果たしているとは到底いえない。

大学受験予備校「東進ハイスクール」を運営するナガセは「準備中」という言葉を盾に、『就職四季報』(東洋経済新報社)と新卒採用ホームページを見てもらえば十分であり、「それ以外に開示できる情報は現段階ではない」と電話で繰り返し述べるのみだった。

離職率も含め全面開示した上記三社と比べると、あまりに誠意のない対応と言わざるを得ない。

実際の対応を振り返っておこう。こちらからナガセに対しては、3月4日にメールを送ったものの回答がなく無視されたため、3月14日の16時頃に本社へ直接電話をした。

人事の担当者の話によれば、ナガセには採用関係のアドレスがいくつかあり、私はその中でもあまり使っていないものにメールを送ってしまっていたらしい。そのため、メールを読めていなかったのだという。

若者雇用促進法に基づく情報開示については、「確認してできるだけ対応する」との回答を得た。すると早速、1時間後の17時すぎに、同じ担当者から、折り返し電話が来た。

――情報開示の件ですが、どうなりましたか?

管理のほうでも確認しましたが、就職四季報などで弊社が開示している情報以外で、どの情報をお出しするかについては、会社のほうで準備をしている状態で、まだどれを出すかは決まっていません。なので、ちょっといまは準備中ということしかお答えできません。

――そうですか。ちなみに、いつくらいに開示できるというのはわかりますか?

それは、ちょっと、わからないですね。

――なるほど。それでは、(ナガセの職場情報は)どこを見ればよいのでしょうか?

四季報やホームページの情報は、必要に応じて変えていくということになると思いますが、なかなかいついつまでに、ということはわからないですね。

――それでは、2017年度卒は、ナガセに対して情報開示請求が利用できないということですか。

利用できないということではなく、いまオープンしている情報が、則って出している情報なのですが、プラスアルファでこういう情報もっていうのが、多分この前ので、そのあたりも含めて準備をしているところなので。

終始、ソフトな声で喋る人事担当者だったが、要するに若者雇用促進法に基づく情報開示請求で、現時点で新たに情報を出すことはできない、という訳だ。こちらの質問項目に対しても、一つ一つ回答しようとすることはなかった。

情報開示制度が3月1日付で施行されているにも関わらず、3月も半ばを過ぎて「準備中」と答えるナガセのコンプライアンス意識はどうなっているのだろうか?教育事業という公益性の高いビジネスを手掛ける以上、より模範的な対応を目指すべきであることは言うまでもない。

また、新卒採用サイトと四季報を確かめてみると、確かに男女別の新卒採用者数、(中途採用も含めた全社員の)平均勤続年数、研修制度、福利厚生などを公開しており、法令に基づく最低限の義務は果たしてはいる。

しかし、離職者数や有休取得日数の実績といった、就活生が一番知りたい情報についての記述は、全くない。こちらの質問項目にも十分に答えず、会社にとって不利な情報は出そうともしなかった。開示できないということは、後ろ暗い理由があると思われても仕方がない。潔く開示したゼンショーやワタミの数値と同等か、それ以上に悪いものであることが強く推測される。すなわち、新入社員の3年後離職率は、5割超と推定しておけばよいだろう。

この対応では、ナガセは、努力義務としての「幅広い情報提供」を果たしているとは言えない。このような企業に、果たして教育を語る資格があるのだろうか。就活生は要注意だ。

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発信専用アドレスで対応するファストリからのメール。社内確認に異様に時間をかけた。徹底して情報開示に後ろ向き。

ナガセよりはマシなファストリ…社内確認に長時間、出てきたモノは雀の涙

次に悪い対応だったのが、ファストりだった。衣料品大手「ユニクロ」などを展開するファストリに対し、こちらから最初にメールをしたのは3月4日。返信が来たのは、3月9日だったが、文面はあまりにも短いものだった。

現在、ご要望いただきました内容について、弊社内の確認を取っております。

お時間をいただき申し訳ございませんが、今しばらくお待ちください。

その後、社内確認がとれたのか、3月18日になって、再びメールが来た

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企業訪問で手渡されたゼンショーのパンフレット。熱血の開示姿勢は評価できる。

問合せ当日に、迅速な回答を寄せたドン・キホーテからのメール。厚労省ガイドラインに沿った模範的な対応を見せた。すべての企業がこうあれば、若者の雇用促進に寄与するのは間違いない。

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 2016/04/10 23:09
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