「ハローワークの求人票に騙された」――新入社員が初任給前日に“過労運転”事故死 夜勤明け、バイクで帰宅中に グリーンディスプレイ
グリーンディスプレイの昨年の新入社員、渡辺航太さん(遺族提供)。 |
「ハローワークにある仕事なら安心だと思っていました」
ケアマネジャーをしている渡辺淳子さんは、新宿駅近くの喫茶店で、息子の航太さん(死亡時24歳)の就職先について、そう話した。
「会社からは『求人票を信じる方がおかしい』ということを言われました」
「求人票に真実が記載されていれば、息子は入社しなかった」
航太さんが昨年3月に入社したのは、東京都世田谷区に本社のある空間デザイン会社、株式会社グリーンディスプレイ。名称のとおり、植物を使った空間演出を手がけ、東京の日本橋三越や六本木ヒルズをはじめ、有名ホテルや百貨店などの植栽を受け持っている。
デザイン関係の仕事を希望した航太さんにとって、非常にやりがいのある仕事だった。2020年の東京オリンピックにも、仕事を通して関わる見込みがあった。
航太さんは楽しそうに仕事のことを話していたと、淳子さんは言う。
「テレビで銀座の飾りつけを見ては『あれはうちがやったんだよ』とか、六本木が映れば『あそこはうちがやったんだよ』と、目がキラキラしているわけです」
「良い仕事だと思うんです。息子にとても向いていると思います。いつ書いたのかわかりませんが『自分のやりたい仕事ができる』というメモが手帳に残っていて、いまも宝物として持っています」
しかし、入社翌月の昨年4月24日、夜勤明けの帰宅中に原付バイクで単独事故を起こし、死亡した。
事故があったのは神奈川県川崎市内の見通しのよい直線道路で、制限速度で走行中に車道左端から歩道にはみだし、そのまま電柱などに衝突したという。
会社のタイムカードによると、航太さんは事故前日(23日)の午前11時ごろ出社。約22時間後の24日午前8時50分ごろに退社するまで、記録上の労働時間は約17時間にのぼる。
また、事故前5日間の労働時間は平均12時間におよび、残業時間は事故前1か月間で86時間45分に達していた。
事故の原因は、ブレーキをかけた痕跡がないことなどから、航太さんの居眠り運転とみられるという。
淳子さんによると、グリーンディスプレイが求人票で示した勤務条件には夜勤の記載がなく、マイカー通勤も「不可」と明記されていた。これは、航太さんの会社選びの方針に明確に反しており、会社に騙された場合を除けば、絶対に入社しない会社だった。
話は事故の前年、航太さんが就職活動をしていた2013年秋にさかのぼる。
◇「事故防止」重視して会社選び 家族と相談し方針明確に
13年春に都内の大学を卒業した航太さんは、同年9月、東京西部のハローワークで求人票を見ていた。在学中に就職活動が終わらず、卒業後もアルバイトをしながら続けていた。
希望するのはデザイン関係の正社員だが、家族と相談して、会社を選ぶにあたって譲れない方針を2つ決めていた。
1つは夜勤がないこと、もう1つは自動車通勤が禁止されていること。
これは、介護業界で働く淳子さんが、夜勤での自動車運転がどれほど注意していても危ないことをよく知っていたからだ。淳子さん自身、「夜勤とマイカー通勤が常識で事故が多発している」とする介護施設を避け、居宅介護支援事業所を勤務先に選んでいる。
そんな希望と方針にちょうど合致したのがグリーンディスプレイだった。
航太さんがハローワークで入手したグリーンディスプレイの求人票。 |
航太さんがハローワークで取得した同社の求人票によれば、勤務時間帯は午前8時50分から午後5時50分とのみ記載され、「マイカー通勤不可」と明記されていたのだ。
淳子さんも同社にいい印象をもち、航太さんに向いている仕事だと思ったという。
このころの様子や2人の会話ついて、淳子さんは次のように話す。
「卒業して半年たってもなかなか決まらなくて、ハローワークにも行っていました。本人は焦っているのでしょうけれど、ここがいいかな、そこがいいかな、ここを回ってきたんだよと、食事をしながら話していました
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航太さんが勤務していた横浜市内の拠点(横浜ベース)外観。
航太さんの勤務時間グラフ。休憩時間の扱いは遺族と会社のあいだで争いがある。
訴状の一部。航太さんの労働時間は過労死認定レベルの過酷な労働だったと主張する部分。
航太さんの給与明細書の一部。正社員登用後(3枚目)の基本給は6万円を下回っており、残業時間は空欄になっていた。
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また可視化された社会をナメきってる事案ですか。
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会社が遺族に謝罪し、約7600万円を支払う内容。遺族側代理人の川岸卓哉弁護士によると、帰宅中の事故死で企業に安全配慮義務があると裁判所が認めた例は極めて珍しいという。
「過労事故死」で遺族と会社和解 裁判長が異例の言及 牧内昇平2018年2月8日21時31分 朝日新聞 深夜勤務後の帰宅中にバイク事故で死亡した会社員の男性(当時24)の遺族が会社に損害賠償を求めた訴訟の和解が8日、横浜地裁川崎支部で成立した。
H27/10/8 木
●14:00 第三回期日開催(横浜地方裁判所川崎支部第一号法廷) ●14:20 報告会(川崎教育文化会館 第5学習室)
●18:30 ブラック企業対策プロジェクト主催シンポジウム(北沢タウンホール・らぷらす 11F)世田谷区北沢2-8-18
※原告より:もう二度と若者の過労死を繰り返さないためにも社会に訴え、裁判を勝ち抜きたいと思っております。
是非、傍聴ご参加をお願い申しあげます。
ハローワークにある求人にはこういった求人内容と異なるといった問題やそもそもカラ求人など多くの問題を抱えている。公的機関だからといって安易に信じ過ぎない方が良い。
一部の理想的な職場をショーウィンドーの如く演出し、実際は法令をも無視した過酷な職場であるというのが、大半の企業の実態である。この記事も、その一例に過ぎない。ハローワークは知っていて知らないふりをしているのである。
大企業でも神格化された創業者の本などを読ませて、子会社を隠れ蓑にして偽装請負が行なわれていただろう。求人票の内容は後になって事務的な記載ミスだったと会社側が主張することが多いらしい。そうした時に労働行政は何をするのか、どうしているのかが本当の問題なのではないだろうか。
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